Water the Roses(GUMI)/FLAVOR FOLEY
FLAVOR FOLEYは、実力派ボカロPのVaneさん、Jamie Paigeさん、riceさんで構成されており、いわば“英語圏ボカロ界のスーパーグループ”だ。デビュー曲「BUTCHER VANITY」(2024)は、鮮烈なインパクトを放ち大ヒット。あまりにも人間に近い歌声で注目を集めた「Synthesizer V」音源を用いた楽曲として一つの金字塔を打ち立てた(外部リンク)。
そんなFLAVOR FOLEYが放つ「Water the Roses」は、カップルの別れを描いた楽曲。
切ないメロディをスウィング調の軽やかなリズムに乗せて届ける。ハーモニカの温かな音色が郷愁を添え、優しく心に残る仕上がりだ。懐かしさと新しさが同居した、往年のボカロファンにも響くような秀作。
FOCUS(GUMI)/KIRA
「FOCUS」は、ドイツのボカロP・KIRAさんが、HoYoverseのスマホゲーム『崩壊スターレイル』に書き下ろした楽曲。作中に登場するマダムヘルタのキャラクターソングだ。
「モエチャッカファイア」に代表されるように、HoYoverseは近年ボカロ/ネット発の音楽との距離を縮めており、今後要注目だろう。
天才科学者である彼女のキャラクター性を反映した、ボースティング(=自慢)スタイルのリリックが印象的だ。圧倒的知性と自己肯定感の高さを、冷徹なフロウで歌い上げる。
「Synthesizer V AI Megpoid(GUMI)」の抜群の歌唱力は、こうした“強さ”の表現にマッチしているように感じられる。硬質なエレクトロサウンドも出色であり、通常最も盛り上がるサビの入りで逆にハーフビートにし、トーンを落とす構成は、緊張感を引き立てている。
文学的なブーバキキ(flower&重音テト)/安見すや
近年、ボカコレなどを中心に「言葉/文字」をテーマにしたボカロ曲が注目を浴びるようになっている。
フロクロさんやァネイロさん、背面8回宙返りさんといったボカロPが代表格で、複雑な押韻や凝ったキネティックタイポグラフィを駆使した作品が多い。
安見すやさんもそうした「言葉/文字」系ボカロの旗手であり、一貫して言葉遊びを使った楽曲をリリースし続けている。
「文学的なブーバキキ」は音と形の結びつきを扱った「ブーバキキ効果」を題材としており、息もつかせぬほど繰り出される高速な押韻に圧倒される。
文字が画面を飛び交う映像と合わさり、まるで言葉そのものが踊っているかのよう。言葉と音、視覚の三つをフルに使った、知的な遊び心に溢れた作品。
1ピース(初音ミク)/椎乃味醂
人文学に裏打ちされたリリックやソリッドなビート、ほぼ全ての曲の再生時間を3分0秒に揃えるなど、美意識を感じさせる作風の椎乃味醂さん。
「1ピース」は、現代人のポップカルチャーの消費形態に対する風刺を込めた意欲作。
<食べて、食べて、……みんな大きくなっていく>といった反復フレーズは、過剰消費の循環を暗示し、カタログ化された価値観への風刺が感じられる。
MVでは、キャラクターの顔がトッピングとして乗せられたデリバリーピザが登場。それらがピースに切り分けられ、コラージュのように再配置される。「トッピング=萌え属性」「切り分け・再配置=記号への変換・再構成」という比喩で、東浩紀さんの提唱した「データベース消費」を視覚化したようになっているのが見事だ。
バイレ・ファンキの跳ねるビートに乗せて初音ミクがラップ調に畳み掛け、軽快ながら攻撃的なサウンドがテーマを鮮烈に刻む一曲だ。
そゆ感じか(可不&羽累)/キツネリ
キツネリは、ボカロPのグミ山さんとN-Roachさんから成る2人組ユニット。2023年には、フジロック出演も果たした注目のアーティストだ。
「そゆ感じか」は、他人と一定の距離を保ちつつ自分の機嫌を守るといった、“ゆるい自己肯定”がテーマになっているヒップホップ。
<そゆ感じか 好きにすれば>と相手を突き放しながらも<I’ll never kill your vibes>とお互いの感情を尊重し、他者に過度に期待しないスタンスを表明。結果として「肩の力を抜いて、自分のテンポで生きればいい」という前向きなメッセージが浮かび上がる。
遊び心溢れる脱力系のラップと、伸びやかな歌唱も心地よい。現代的な諦観を歌いながらも、むしろ晴れやかな後味を残す名曲。
あなたが選ぶ2025年上半期のボカロ名曲は何?
ショート動画文化との共振もあってか、いわゆる“ネタ曲”やネットミームを取り込んだ楽曲もヒットチャートを席巻。さらに二次創作文化圏の拡大を背景に、MVで、初音ミクや重音テト、足立レイらのキャラクター性をメインに打ち出した楽曲がブームとなった現代。
楽曲そのものの魅力に加え、視覚的なキャラクター表現が、ボカロシーンにおいてヒット曲を生み出す重要なファクターになりつつある。
また、NHKスペシャル「新ジャポニズム 第2集 J-POP“ボカロ”が世界を満たす」でも紹介されたように、海外のファンコミュニティも成熟を見せつつある。
日本発のボカロ曲を海外リスナーが享受するだけでない。これまでも大きな支持を集めていたCircus-PさんやKIRAさんらに続き、FLAVOR FOLEY、SAWTOWNEさんといった新鋭の海外ボカロPも台頭してきている。
もちろん、2025年上半期のボカロシーンは、とてもこの15曲だけで語り尽くせるものではないし、ボカロ楽曲を聴く人はそれぞれに大事にしている楽曲があることだろう。
あなたのオススメ楽曲を、ぜひコメント欄にて紹介してほしい。
プレイリスト「2025年上半期ボカロ名曲まとめ」
※安見すや「文学的なブーバキキ」、椎乃味醂「1ピース」は記事公開時点でSpotifyで未配信
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