水樹奈々×堀江晶太対談 “人間の限界”に挑むアニソン界の歌姫とボカロPが出会う時

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オグマフミヤ

ボカロPが『#コンパス』に感じた余白のある不完全さ

──『#コンパス』は、登場キャラクターのデザインやテーマ曲を、ニコニコ動画で活躍するイラストレーターやボカロPらが担当しているのも特徴的です。ボカロPでもある堀江さんは、どのような印象を持たれていましたか?

堀江晶太 自分の周りのボカロPたちが参加していることもあって、元々存じ上げてはいました。今回アニメの主題歌を制作するにあたって、台本や絵コンテなどの資料をいただいて、それを1から10まで読んで楽曲のイメージを練っていきました。

その中で、ゲームの頃からあった“みなまで言わない”文化というか、プレイヤーが想像する余地/余白のある作品という印象をより強く感じたんです。

『#コンパス2.0』は多くのボカロPが劇伴を担当

堀江晶太 新しいキャラクターが登場するたびに、それをイメージした楽曲もリリースされますが、そこまでコンテンツとして充実していながらもすべてを開示しているわけじゃない。

そこをプレイヤーの方々が愛情を持って補完していく、そして作品の世界が広がっていく──そんな循環が起きているようにも感じたんです。

それって、ゲームのプレイヤーすらもクリエイティブの渦の中に巻き込んでいるということなので、そこに一クリエイターとして加わるからには、愛情を持って向き合わなくてはいけないと思いました。

──ゲームのプレイヤーも含めて、積み上げられてきたこれまでのクリエイティブにリスペクトを持ちつつということですね。

堀江晶太 アニメから知る人がいていいし、元々ゲームを遊んでいてアニメを楽しむ人がいてもいい。今までの積み重ねもあるけど、今回アニメ『#コンパス2.0』として新しいストーリーが描かれていく流れに、新しいものがはじまる恐ろしさとワクワク感を連想しました。

もうすぐ孵化することがわかっているけど、まだ繭の中にいるような状態というか、新しい世界への希望も不安もあるスタートへの思いを曲にできればと思って、詞やメロディをつくっていったんです。

『#コンパス2.0』ではヒーローとプレイヤーのバディの物語が描かれる

水樹奈々 「拍動」の歌詞の中でも表現されていますが、『#コンパス2.0』では特に、劇中の世界におけるヒーローとプレイヤーのバディ感が大事な要素になっているんですよね。

あまり詳しく言うとネタバレになってしまうんですが、それぞれのバディの熱いやりとりが描かれています。

これまでゲームをプレイされていた方には「このキャラクターたちはこんな会話をしてたんだ!」と想像と比べて楽しんでいただけると思いますし、アニメならではの要素も合わさってシリーズの世界観がどんどん広がって、まだまだ先が楽しみになるような作品になっていると思いました。

今の水樹奈々に送りたい言葉を表現した「拍動」

──アニメ『#コンパス2.0』のOP主題歌であることに加え、水樹さんにとって25周年という節目の楽曲でもありました。作詞の面で意識されたことはありますか?

堀江晶太 作詞には結構時間がかかりました。私が最初につくったラフなメロディに、Gigaちゃんが言語にもなってないような言葉で歌った仮歌を入れてくれて、それがリズム的にものすごくハマっていたんです。

この語感の気持ちよさを活かしつつ、OPとしての意味を持たせたい。先ほど水樹さんが言ったような、『#コンパス2.0』で描かれるヒーローとプレイヤーのバディ感の落とし込み方を考えていきました。

2人でいると恐れも半分ずつになる感覚というか、それぞれは目の前の状況に怖気づいてるんだけど、2人なら多少無謀なことにも挑戦できる瞬間ってあると思うんですよね。その不確定で不安定な自信というか、“ワクワクのはじまり”を言葉にしていきました。

『#コンパス2.0』という物語がはじまるワクワク感

──一つずつハードルをクリアにしていったと。

堀江晶太 ただ、さっきも言った通り、「これを水樹さんがどう思うのか?」という点はずっと気になっていて。わりとスッと受け入れてくださったのですが……正直なところ水樹さんはどう思われていたんでしょう?

水樹奈々 「この個性溢れるメロディによくぞこんなにもピッタリな言葉を当てはめてくださった!」と感動しました! 私も作詞をすることがありますが、自分では絶対このハメ方はできないしワードチョイスも素晴らしかったです。

Gigaさんのデモに入っていた仮歌を私も聴いたのですが、言葉にはなっていないのにすごく気持ち良くハマっていて。これをどう日本語にするのか想像がつきませんでした。いざ出来上がったものを当てはめてみたら、仮歌のスピード感や心地よさが見事に活かされていて、もうこれ以外は考えられない! と。

──特にサビの歌詞は、水樹さんらしい力強さと堀江晶太さんらしいワードセンスが組み合わさったフレーズになっていると感じました。

堀江晶太 作詞の時に重んじているルールとして「美しい、眩しいワードを置くときは、必ずその近くに美しくない、暗いワードを置く」というものがあるんです。

自分は元々前向きな人間じゃないので、ポジティブなワードをそのまま置いても嘘になっちゃうんですよね。だから前向きな言葉で光を表現する時は、必ずその傍らにある影にも重きを置くようにしています。歌詞にある「諦め尽くされた世界」というフレーズは、そういったイメージで置いた覚えがあります。

水樹奈々『CONTEMPORARY EMOTION』初回限定盤

水樹奈々 このサビのフレーズはすごく好きです。私も綺麗なだけの詞の世界にはあまりぐっとこなくて。

光と影は対になっているものですし、キラキラした部分しか見せていない人であっても、必ず影はある。私自身、そこを包み隠さず表現することを大事にしているので、すごく共感できました。

堀江晶太 サビに関してはもう一つ、水樹さんが歌うことを考えた時に、きっとこれまでの長い道のりの中でままならない瞬間もたくさんあっただろうし、叶わなかったこともあったんだろうなと思ったんです。

そうやって長い間やってきた人が、改めて新しいスタートを歌うってことをイメージした時に、自分なりに送りたいと思った言葉が「諦め尽くされた世界を 君とふたり占めに転げ廻る」でした。

水樹奈々 みなさんに寄り添いつつ背中を押せるような応援ソングをつくりたいという思いで、いつも楽曲制作しているチーム水樹のテーマともシンクロしていてすごく素敵な歌詞だなと思いました。

未熟さやはじまりを感じさせる「青く青く」というフレーズも、私のチームカラーの「青」を連想したり、そういうリンクもたくさんあって嬉しかったです。

堀江昌太 ありがとうございます。

水樹奈々「拍動」MV

「拍動」への曲名変更のきっかけは“Gigaの呼吸音”

──「拍動」という楽曲名も、詞や曲全体とも非常に合っていると感じました。

水樹奈々 実は最初、元々サビにある「不完全体」という言葉がタイトルだったんです。

──元々は「不完全体」だった楽曲タイトルが、現在の「拍動」に変わった経緯をうかがえますか? 歌詞に出てこないワードを持ってくるのは難しいとも思うのですが……

水樹奈々 そうなんです……! またしても難しいオーダーをしてしまいました。

堀江晶太 いえいえ(笑)。

水樹奈々 「不完全体」もすごく良かったのですが、あえて歌詞に出てこないワードをタイトルにする方がより深みを増すというか、想像を掻き立てられるような気がしたので、別のパターンもご相談したんです。そこで新しく出していただいた候補の中にあったのが「拍動」でした。

この曲、実は息を吸ってはじまって、最後は息を吐いて終わるので、目覚めや覚醒も感じさせる「拍動」という言葉がまさにピッタリだと思ったんです。

堀江晶太 この息とか心臓の鼓動のような音は、Gigaちゃんと曲をやり取りしているうちにいつの間にか入れられていました。

Gigaちゃんなりに詞の内容とかを汲み取った上で加えてくれたんだと思います。その意図を私が受け取って、「拍動」というタイトルに繋がりました。

──堀江さんとGigaさんの関係性があったこそ生まれたと。

堀江晶太 実はボカロPとして活動したての頃に、ボーカロイドの調声(※)を担当してくれていたのがGigaちゃんなんです。

なので「拍動」は、昔からずっと一緒にやってきた仲間と一緒に制作できたというのも嬉しかったんです。ロマンがあればいい曲になるわけじゃないですが、仲間とのロマンがあった方が絶対にいいものが生まれると信じているので、今回ならではの思いが込められて良かったです。

※いわゆる歌声のブラッシュアップ

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作品情報

TVアニメ『#コンパス2.0』

放送情報
2025年4月7日(月)よりテレ東6局ネット、BS日テレ、AT-Xにて放送スタート
原作
#コンパス 戦闘摂理解析システム(NHN PlayArt × dwango)
アニメーション制作
Lay-duce
監督
難波日登志
シリーズ構成
福島直浩
オープニング主題歌
「拍動」
歌唱:水樹奈々
作詞:堀江晶太
作編曲:Giga×堀江晶太(Kemu)
エンディング主題歌
「ハートエイク」
歌唱:内田雄馬
作詞・作編曲:バルーン
劇伴
作曲:八王子P・YASUHIRO(康寛)・ゆうゆ・無力P・雪乃イト・にっけい

【『#コンパス2.0』キャスト】
13(サーティーン):小野大輔
塵:内田雄馬
零夜:斉藤壮馬
森田:土岐隼一
ジャンヌ:雨宮天
アオジル:石上静香
Voidoll/Bugdoll:丹下桜
十文字アタリ:山谷祥生
ジャスティス:間宮康弘
軍曹:小林ゆう
リリカ:青木志貴
双挽乃保:近藤玲奈
桜華忠臣:柿原徹也
マルコス‘55:下野紘
ルチアーノ:小山力也
深川まとい:井上麻里奈
グスタフ:山路和弘
テスラ:村瀬歩
ヴィオレッタ:田中敦子
コクリコ:天野心愛
マリア:嶋村侑
アダム:松岡禎丞
メグメグ:佐倉綾音
イスタカ:神奈延年
輝龍院きらら:喜多村英梨
ポロロッチョ:福山潤
ソーン:天﨑滉平
デルミン:和多田美咲
トマス:銀河万丈
ルルカ:市ノ瀬加那
ピエール77世:杉田智和
狐ヶ咲甘色:花澤香菜
システムボイス: A.I.VOICE 結月ゆかり

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