曲もMVも1人で──それでも共作する理由
──みなさんは曲だけでなくMVまでつくれる方々ですが、他のクリエイターと協力することもありますよね。人と制作する魅力はどんなところにありますか?ピノキオピー やっぱり、自分の引き出しにないものが出てくることですかね。自分1人だと自分が知っているものしか出せないから。「このアイデアいいじゃん」って新しい発見があって、そこから発展していけるのが、誰かとやる良さだなと思いますね。
たとえば動画づくりだったら、僕が絵を描いて動画だけお任せすることもあるし、絵もお願いすることもあります。曲のコンセプトはお伝えしますけど、相手が聴いてみた印象もうかがって、僕が思っていることとすり合わせていくことが多いかな。 ピノキオピー シャノンさんは、はるまきごはんさんのアシスタントとして、一緒に制作してますよね?
シャノン そうですね。僕は「スタジオごはん」ではるまきごはんさんのアシスタントをしていて、「中割り」という、アニメーションにおけるカットとカット(原画同士)のつなぎになる絵を描いています。
動きをよりなめらかにするためのものなんですが、あれって、1人でやってると肉体的にも精神的にも限界来るんですよ。「ここまで頑張ったからもうゴールしていいかな」って。
でもアシスタントはその中割りこそが役目だから、自分だったら手を抜きがちなところを、僕たちアシスタントが100%の力で取り組むことで作品がもっといいものになる。それがアシスタントがいる意義かなと思います。
はるまきごはん ほかにもこむぎこ2000さん、◯gakiさん、yamadaさんがいて。ただ、実は僕の制作は、アシスタント入れてからのほうが大変ではあるんです。
というのもそもそも僕は、楽をするために頼むのではなく、自分がより多くの時間手を動かすために頼んでいるので、結局自分がやる量は昔よりも増えているんです。だけど、1人だと3~4ヶ月かかるクオリティーの作品が、みんなでやると1ヶ月半で生み出せます。 3ヶ月に1本と、1ヶ月半で1本とでは、死ぬまでにつくれる作品の数がかなり変わってくるじゃないですか。その生涯で生まれなかったはずの作品を生み出せるようになるということが、自分にとっての自分だけじゃたどり着けない部分で、だから人とやってるんです。
逆に僕はピノさんが言っていたような、「自分にはない良いアイデア」が人から出てきたとしたら、嬉しいけど、めちゃめちゃ悔しくなっちゃいますね。
ピノキオピー つくりたい世界観が、すでにはるまきさんの頭の中にあるんでしょうね。それを実現するために、みんなに手伝ってもらう。
シャノンさんもそうですけど、お二人のムービーってストーリー上の山場が絶対にあって、「ああ、これをつくり出したかったのかな」っていうモチベーションが垣間見えるのが良いですよね。
「ボカロと人との融合」多様化するボカロPの活動
──ハチさんを筆頭に、ボカロシーンからメジャーへと活躍の幅を広げたり、シンガーソングライターへと活動スタイルを変える人も珍しくなくなりました。ピノキオピー ハチさんについては、ボカロのときからめちゃくちゃカリスマ性があったんですよ。もはやみんなも、ボカロだから見てるんじゃなくて、ハチだから見てる。そのカリスマ性がそのままボカロというコップからあふれて「米津玄師」になった印象です。
その人自身が歌うことで、いいものができるのであれば、そのほうがいいと思ってます。もちろん、ボカロという表現から始まった人だとしても。僕は逆にボカロが向いてるなって自分自身で思っているので、ボカロPを続けています。自分で歌うこともありますけどね。
はるまきごはん 僕はライブで目立ちたいとか、僕自身がかっこいいアーティストになりたいとかはあんまり思ってないです。
ただ自分が「好きだな」って思える作品を、そのとき一番好きと思える形で出したいだけですね。 はるまきごはん 最終的に作品を観てくれる人が自分の世界観を好きになってくれたら僕は満足なので、そのための道として、いろんな表現の方法があっていいと思います。メジャーシーンに出て行く人の音楽も好きですし、みんなやりたいことをその場でやるのが大切なんじゃないでしょうか。
それは全然悲観的なことではないですし、むしろ界隈の空気感を気にしてやりたいことやれてない状態のほうが、一番よくないと思いますよ。
──ピノキオピーさんとはるまきごはんさんについては、ご自身でライブもされています。ボカロPがステージに立って曲をパフォーマンスすることについて、葛藤はありませんでしたか?
ピノキオピー 僕は2014年頃からライブを始めたんですけど、だんだん「ボカロでライブするって、いったい何だろう?」と考えるようになって、自分の中で命題みたいなものが生まれました。
なのに、ボカロのフィールドの人たちはやってなかった。「それなら僕が試してみよう」からスタートして、ライブではボカロ曲に声を入れたり、ボカロとデュエットする方式をとっています。それが今の僕が思う、ボカロと人との融合の形です。
はるまきごはん たぶんそこに明確な答えを出しながらやっている人って多くはないですよね。
僕はライブをやってみたことで、やっと「自分がやりたいのは、自分が前に立って注目を浴びることじゃなくて、自分の作る作品の世界観をみんなに好きになってもらうことなんだ」って気づきました。曲も僕の世界を構成するパーツの1つでしかないし、歌だって、言ってしまえばさらにそのパーツの1つで。
ピノキオピー 今年『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』もリリースされて、ボカロと人間の関係が、また面白い形になりつつあると思います。最初は「え? 人が歌うの?」みたいな空気もありましたけど。
はるまきごはん 実際に始まってみたら、自分も含め、みんな楽しんでますよね。
ボカロと人間の、今だからこその関係を定義づける良いゲームですし、僕自身もライブでそういうことをやり続けてるので。
「音楽の枠にとどまらない」未来のボカロPの選択肢
──シャノンさんは、ライブは考えてますか?シャノン ライブの予定はないですが、ボカロPの選択肢として僕が興味あるのは、最近アニメーションと曲の両方をつくる人が急に増えたと思うんです。前はすごく頑張らないとできないことだったけど、両方やるスタイルが随分大衆化してきて。
はるまきごはん 音楽のMVって、1人もしくは少人数でつくったアニメ作品を出す形態としては、尺の観点から一番現実的なんですよね。でもアニメMVが増えた結果、もうアニメってだけじゃ驚かれなくなってしまった。アニメつくるのって本当に気が狂いそうになる作業なんですけど……。
シャノン 一応、作業コストは下がってるんですけどね。今はiPadもあるし、CLIP STUDIOも使いやすくなったし。ボカロPではないですけど、こむぎこ2000さんとかiPad使って1人でMVつくっちゃうし。
はるまきごはん 今まではメディアミックスって、「漫画はこの漫画家にお願いして、アニメはこのスタジオにお願いして」というように、外部のいろんな人の技術を借りることで達成できていたと思うんですよね。
それが今ならツールが進化したおかげで、自分が中心となって、自分の手の届く範囲内で実現できるんじゃないかと。僕が将来的にやりたいメディアミックスもそういう形です。
ツールが進化すると作品も変わるので、フォーマット化されていたものがどんどん崩れていくと思います。音楽も他の芸術と融合して、さらにカオスなまとまりとして進化していくんじゃないかな。それがこの先のボカロPにとって、1つの選択肢としてあったらいいですよね。
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ピノキオピー
ボカロP
2009年より動画共有サイトにボーカロイドを用いた楽曲の発表し、ピノキオピーとして活動開始。以降も精力的にオリジナル楽曲を発表しつつ、アーティストへの楽曲提供などを行っている。ライヴに於いては、電子と肉体の共演、融合を基軸に、ドラムとターンテーブリストをサポートメンバーとして従えたバンドセットとワンマイク&バックDJスタイルなど柔軟なパフォーマンスを提供している。
http://pinocchiop.com/
https://www.youtube.com/user/pinocchiopchannel
はるまきごはん
ボカロP
作詞作曲編曲、イラスト、映像、アニメーション制作まで、全てのクリエイションを1人で妥協なく手がけ、そのポップな名前とは裏腹に、切なくてエモーショナルな唯一無二の世界観を描き続けている「はるまきごはん」。VOCALOIDと自身歌唱によるふたつの表現の切り口を持ち、オリジナルアニメーションを駆使したライブも評価が高い。数々の人気アーティストへの楽曲提供や、2020年には出身地札幌で開催された“SNOW MIKU 2020”の公式テーマソングも手がけている。
シャノン
ボカロP
2017年からボカロ作品を発表。作詞作曲編曲、イラスト、アニメーションを自身で手掛ける。作りこまれた、ストーリー性の高い作風がリスナーの考察心をかきたてる。「ヨミクダリの灯」「魚類による考古学」などが話題となり、新世代ボカロPの一人として注目を集めている。はるまきごはんが主催するアニメ制作チーム・スタジオごはんの一員としても活動中。
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