各地のイベントが中止や延期を余儀なくされるなか、注目を集めるのがVRの技術、そしてバーチャル空間だ。
仮想現実で様々なイベントの代替開催がなされ、イベントの開催スペースとしての価値に目を向けられる一方、クリエイターたちの創造性が披露される場所としての価値も広まりつつある。
KAI-YOUでは5月にバーチャルYouTuber(VTuber)のミソシタさんが制作したバーチャルワールドを紹介。 ミソシタさんの創造性が存分に披露されたサイケデリックな色彩に満ち溢れたワールドは、訪問者にシュールでポップな印象を与えること間違いなしだ。
一方で、空間設計と音楽との融合を目指す表現においては、これまでにもVTuberたちのVRライブやバーチャルSNS・VRChat上はもちろん、ゲーム制作の現場などでも多くのクリエイターが活動してきた。
今回、そんなミソシタさんと同じくVR空間上でのポエトリーリーディングを中心に活動してきたVTuberのキヌさんとの対談を実施。
キヌさんはVR上での音楽イベント「アルテマ音楽祭」でのパフォーマンスの他、リアルウェアとアバターウェアのコレクションを展開するファッションレーベル「chloma」のバーチャルストアのワールド制作などを手掛けてきた。 バーチャル空間とそこで鳴る音楽を活動の中心に据える二人に、表現としてのバーチャルワールドについて話を聞いた。
ミソシタとキヌが語る、表現の場としてのバーチャル空間
キヌさん
キヌ ねこますさんの存在に衝撃を受け、以降もミソシタさん達先輩方を見て、バーチャルの創作活動に興味を深めました。
特に2018年に「VRアートイベント」でらくとあいすさんという方が演奏しているのを見て、今すぐにでもVRでつくりたいという衝動に駆られ、とにかくテンションが上がりました。
最初は音楽制作を中心にしていましたが、そこからワールドをつくるようになり、どんどんVRの制作に重心が移っていった感じです。
曲をつくるときや聴くときって、頭の中にその音楽の「空間」ができると思うんです。
VRでは、これまで自分の頭の中だけにあった「空間」を、自分で制御してつくることができる。バーチャルライブを観て、感動して、それを自分でもガンガンつくっていこうと思いました。
ミソシタ 僕も音楽つくる時はビジュアル先行というか……。
ミソシタさん
学生のころから2Dの手書きアニメをつくっていたのですが、手書きだとアイデアが浮かんでもそれを思いのままに表現することが難しかったんです。だから、思いついたことを自分の肉声だけで記録するってのをしてて。
それに音楽つけてつくっていたやつが「ポエムコア」っていうものに発展していったという過程がある。
そのころから世界観をつくるのが好きだったので、音楽をつくろうっていうよりも世界観自体をバーチャル空間上につくりたいなっていうのが強かったですね。だから僕にとって、ワールド制作はその音楽からできたものをビジュアルに落とす作業って感じです。
日本的/海外的なバーチャル表現の違い
ミソシタ 今、海外でもVRライブって頻繁にあるじゃないですか。そういうものと比べてキヌさんが制作される作品は、日本人独特の表現が強いというか。
細かく言えば、パーティクルの出し方だったり。CGアニメやVRのゲームとかでも日本と海外の違いってあるじゃないですか。そういう意味では、キヌさんの作品からは特に日本的な表現を感じました。
ミソシタ 色味が感覚として日本っぽいなって。やっぱり、日本のアニメやゲームの影響があるんでしょうか?
キヌ たしかに、ライブの演出に関しては、自分でもゲームの影響が大きいのかなと思っています。
バーチャルライブの演出では「ステージで何をするか」を大切にしています。私はリアルタイムで演奏するわけでもダンスするわけでもないので、自分なりにイメージしてるのがゲームのボス戦の雰囲気なんです。
特に、『東方Project』のスペルカードから影響を受けていて、かなり意識しています。
バーチャルライブってお客さんとレイドバトルしているような感覚がある。そういうところは日本のカルチャーからの影響が表れていると思います。
ミソシタ 確かにキヌさんのパーティクルライブは見てるとやりすぎ感というか弾幕系の爽快感が強いなって感じます。
逆に海外の人って引き算じゃないですけど、少ない要素によってちょっとセンスよく見せようっていう感じがするんですよね。
日本だともう振り切ってるというか、振り切った凄みを感じる。
キヌ ミソシタさんが制作される作品で特徴的だと思うのが、このワールドの風景、自体というか……。
色彩とかもすごく極彩色でサイケデリックなのもそうですけど、このトランプのミソシタさんみたいなNPCがいっぱいいて動き回ってる、デカいNPCも小さいNPCもいるっていうのがすごく印象的で。
そこは絶対に何か美学があるな、と思ってます。
対談はミソシタさん制作のワールド「CRAZY POP」で行われた
ゲームっていっぱいNPCがいるので、VRのワールドへ行くと人がいない無人のワールドは何か寂しいなっていうのがあって。
自分のワールドも人が頻繁に来るわけでもないので、ゲームのNPCとか敵キャラみたいな感じでいっぱい配置したくなっちゃうんです。
キヌ 人や物を持ち上げられるようにしているのもこだわりですか?
ミソシタ そうですね、持ち上げられたほうが面白いなって。よりゲームに近づくというか、ゲームじゃなかったとしてもインタラクティブな仕掛けがあったほうが面白いなと思ってます。
キヌ ものすごく分かります。ワールドが「映像」としてじゃなくて「空間」として存在してほしいなって思った時に、何もこちらから手を加えられないと存在している感じが薄くなっちゃいますもんね。
コロナ禍がもたらした、バーチャル空間の加速的な発展
「Tomorrowland」ってフェスが今年、バーチャルで開催されるじゃないですか。
キヌさんはどう思いますか? これまでサブジャンルだったものが、いきなりメジャーになるということに関して。
キヌ 凄いものがガンガン出てくる状況っていうのは純粋にワクワクする事だと思います。
これまでも同人音楽とメジャーシーンが同時に存在してたように、個人がそれぞれつくりたいのものをつくるっていうのと、企業がめちゃめちゃ大規模なものをつくるっていうのは、どっちも存在するって状況はある。そこは両立するものかなとは思います。
でも、超ハイクオリティなのが提供されるようになるっていうのが単純に楽しみな反面、やっぱり怖いところもある。
急速にコンテンツの制作コストが上がることで、ゲーム業界のAAAタイトルみたいな大作が当たり前になってしまい、それで個人が小規模でつくりにくくなるみたいな。
けれど、今ではVTuberにもプロやニコ生で配信で活躍していた超有名な人たちが参入してきてて、求められるハードルが非常に高くなっている。
それと同じことがバーチャルワールドでも、起こってしまいそう、いや、もうなっているんじゃないか? という気がしているんです。少し前まではワールド制作をフィーチャーして活動してる人も少なかったから僕の表現で許されていたけど、今はもうそんなこともないというか…。
メジャーがある一方で、僕たちは個人でやっているわけだから「個人の表現」というのを突き詰めれば良いわけですけど、結構そのスピードが速いなぁと。
コロナ以降、現実での音楽ライブ空間が失われた影響もあって、この3ヶ月でバーチャル空間に対する世間の見解がすごい変わったと思うんですよ。それに伴って求められるバーチャルワールドのクオリティも上がってくる。
『Fortnite』で映画が上映されたりとか、音楽以外でも様々なエンターテインメントがバーチャルに移っていくってのが一般化してきてると感じてます。 ──ここまで聞いていると、ミソシタさんはバーチャルの一般化について否定的な意見を持っていうように感じます。
ミソシタ いや否定的では全くなくて。そうなってきたら、それに対してパロディじゃないですけど、抜け道を探してやるっていうのがいつもの自分のパターンではあるので(笑)。
キヌ ひねることでまた新しいパターンが出てくるっていう楽しみはありますよね。
だけど、太刀打ちできなくなって、セミプロでこれから食っていこうみたいなドリームが成り立ちにくくなってしまうと悲しい。割り切ってやるには楽しいけど、そこで勝ち抜いていこうってのがすごく大変になる。
その中間層が抜け落ちてしまうってなったらすごく怖いです。
人々の欲求とか認識の変化する速度よりも速く企業が参入してると思うんですけど、お客さんがついていけなくて、思ったより稼げないじゃん!ってなったら一斉に企業がいなくなって、誰もいなくなってしまう──なんて最悪のパターンもあるかもしれませんよね。
良くも悪くも、今年は企業がたくさん参入してくると思う。それは楽しみではあります。