『シン・ゴジラ』の大きな影響 現実感とファンタジー
——個人的にジェットジャガーが戦闘中にダンスをしてるあたりで、『ゴジラ S.P』の方向性がある意味で見えたという気がしたんですが、過去のゴジラ作品からすると、なかなか珍しいコミカルさで。 円城塔 どこまでのリアリティを設定するか。『シン・ゴジラ』の影響はすごく大きかったです。僕らの作品でも『シン・ゴジラ』くらい、政府の対応とかをちゃんと描かねばならんのではないか、という話は割とあったんです。でも、そのへんは監督の高橋敦史さんが「誰ができるの?」と(笑)。スタッフに政治機構に詳しい人がいなかった。——『シン・ゴジラ』のどのあたりを参考にしたり、影響があったのでしょうか。
円城塔 参考というか──どうしても影響されるっていうことですね。あそこまでちゃんとドラマとして展開されていると。
どうしても「ゴジラ」シリーズって怪獣と関係のないドラマが走っていたりするじゃないですか。人間とゴジラってスケールが全く違うから、全然関係ないドラマが走らざるを得ない。それが『シン・ゴジラ』ではあそこまで人間ドラマをやり切れているのはすごいなあと。
リアリティレベルの設定として、あれぐらいやられてしまうと、後続は当然意識せざるを得ない。それで、非常事態宣言発令のための手続きをつい考えたくなるんですよ(笑)。
その辺をどう扱うかっていうところで、本当に調べるのが好きな人がやるとああなると。リアリティレベルをあそこまで高く持っていけたことで、今までゴジラを観ていなかった層の取り込みに成功しているのが『シン・ゴジラ』で、教訓として大きかったです。
——そんな『シン・ゴジラ』と比較すると、『ゴジラ S.P』のリアリティラインは印象深いですね。怪獣が出てきたときに逃げるよりも人々が写メを撮っていたり。登場人物たちのシリアスさがどことなく薄い分、リアルともファンタジーともつかない不思議な印象です。
円城塔 でも、本当の現実はもっと陳腐だと思うんです。大騒ぎのなかで市長があいさつをして、「ちょっと怪獣を倒しましょうか!」って言っているほうが、日本の現状としては意外と近いのではないでしょうか。
——『ゴジラ S.P』ではあれだけ街が壊されていても、死者が一度も描かれていないのが特徴的だなとも思いました。
円城塔 僕が人を殺すのが下手だからという説もあるんですが(笑)。やっぱりコメディ調で物語が進んでいるし、お茶の間のテレビ放送でラドンが人を食いちらかしていいのか。
怪獣が出てきて、あれだけの災害になっている時点で勿論被害は出るわけですよ。それをどれくらい描くかという問題ですね。
円城塔とアニメーションの関わり そもそもなぜゴジラを?
——円城さんのインタビューでは、あまりアニメや漫画などのサブカルチャーについての原体験って語られていないですよね。実際、小説以外ではどんなものを観てきたのでしょうか。円城塔 僕は1972年生まれなので、『機動戦士ガンダム』を観て、『スターウォーズ』、『ドラゴンクエスト』、『ファイナルファンタジー』と一通り。中学生のころに『キン肉マン』が流行っていて──そんな感じで、本当に一般的ですよ。
その辺の世代はだいたいそれらの作品がベースになってるんです。そこまでしつこく観ていたわけではないですけど、みんなまあまあわかるんです(笑)。当時はみんなが観ていたから。今よりも特定の作品をみんなが観ていた度合いが高いんじゃないでしょうか。
映画もそうですけど、ぼくはアニメを特に強くやりたいと思ったことはないんです。『屍者の帝国』の小説を書きましたけど、映画にはまったく触っていなくて。本当に何も触らないと言っていたんですが、「いや、パンフレットに一言くらい……!」と言われてそこだけ書いたんです。いくらなんでもということで。
——一方で、これまでも円城さんは『スペース☆ダンディ』の11話にゲストクリエイターとして参加されていますよね。
円城塔 そのときの脈絡は、思い出そうとしても思い出せない……。
——すみません、少し思い出していただけますか(笑)。
円城塔 いや、本当に特に何もなかったんたんじゃないかな。SF作家から誰か呼んでみようかくらいの感じで、「きっとやれるよ」みたいなノリの(笑)。
小説は書いたことがあるけど、ぜんぜんシナリオなんて書いたことがなくて。脚本家の知り合いもいないですし。今考えてもなんで依頼が来たのかわからない。
——当時同作の絵コンテを担当していた、『ゴジラ S.P』監督の高橋さんとそこで知り合ったのかなと思っていたのですが。
円城塔 いや、ぜんぜん今回が初なんです(笑)。だって今回、ぼくと高橋さんとはじめて会ったときに「『スペース☆ダンディ』で絵コンテ書きましたよ」って言われて、やっとわかったくらいなんですよ。当時といえば、監督の渡辺信一郎さんにシナリオを送って終わりだったので。
——では、どんな経緯で今回参加されたのでしょうか。
円城塔 お話が来た時に、高橋さんがゴジラをやるならある程度きちんと科学考証を入れたいということで、僕を呼んでSF設定の話を広げるということになったと聴いています。
ある時、ボンズ(「ゴジラ S.P」の制作スタジオ)社長の南雅彦さんから電話がかかってきて、「『ゴジラ』、いかがですか?」と。「まあ嗜む程度に……」みたいなところからスタートしました。
でもアニメでやるとは思っていないし。で、ちょっと面白そうかな? と思って、詳しくお話を聞くために東京に行くと、もう企画が始まっているんです。あの瞬間に電話を切らないと、まあ、やることになる(笑)。
——(笑)。小説と比べてアニメの仕事は楽しいとかありませんか?
円城塔 まあ楽しいのは楽しい……どうでしょうね。たまには人間、違ったことをしたほうがいい。実際、小説ばっかりは辛いでしょう。
まあアニメは集団作業なので、それに関して面白いなあと。でも集団作業が苦手なので小説を書いている所もあるのでなんともですね。
——変な質問ですけど、円城さんは『ゴジラ S.P』で推しキャラはいますか?
円城塔 誰が一番好きかって話ですよね……。僕は今回、声の収録にも立ち会っているんですが、改めて印象的だったのは「声優さんはすごいな」ということです。特にペロ2(cv.久野美咲)の感動が大きかったですね。 円城塔 アニメーションはどうしても、書き言葉や絵だけでは持たない数秒があるんですよね。ストーリー、音楽でも支えきれない場面があって、そんな時に声優さんが頑張ってくれていたんだと。「なんかわかんないけどもったぞ!」という感動がありました。特にペロ2は何度も危機を救っていました。
2件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:4539)
(笑)がたくさんあって楽しそうなインタビュー。読んでてても笑った。円城塔さんの、笑いの裏に冷めや真面目さが同居してる感覚を感じ取りました。
匿名ハッコウくん(ID:4491)
読み応えありすぎる。インタビュアーが円城さんの作品読んでるからこその深み