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『ゴジラ S.P』円城塔インタビュー 実験と笑い、ポップで新たなゴジラの誕生

『ゴジラ S.P』円城塔インタビュー 実験と笑い、ポップで新たなゴジラの誕生

『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』

POPなポイントを3行で

  • 『ゴジラ S.P』はいかにして生まれたか
  • 脚本やSF考証を担当する円城塔にインタビュー
  • 実験とユーモア溢れる、新感覚のゴジラ
ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』(以下『ゴジラ S.P』)が放送前から話題になったのは、まさかの円城塔さんが脚本に参加したことが大きいだろう。

円城さんは、小説や日本語の構造を書き換える作品を生み出してきた。その実験的な作風がSFシーンから純文学の領域においてまで評価され、これまでに芥川賞や日本SF大賞など数々の賞を受賞してきた。

そんな円城さんが「ゴジラ」シリーズに関わったらどうなるんだろう……? 抽象アニメーションみたいな「ゴジラ」になるのではないか……? 筆者だけではなく、放映前には、多くの人にそんな思いが去来していたと思う。
BiSH / in case.../『ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』オープニング
しかし、いざ『ゴジラ S.P』が放映されると、ゴジラの世界観を書き換えるようなことはなく、むしろ堅実で、同時に新しい世界観が描かれていた。それよりも、ジェットジャガーの登場やペロ2のように、意外なくらいユーモラスな描写が多いところが気にかかった。

もしかして、「言語の既成概念を書き換える作家」みたいに円城さんを捉えるのは間違っていたのではないか。よくよく円城さんのこれまでの発言も振り返ると、自身の実験的な小説を評するのに「ホラ話」や「笑い」なんて言葉で語っていたりする。

実験のモチベーションには、ちょっと小説でふざけてみたり、笑わせたいところがあるんじゃないか。今回は、円城さんに『ゴジラ S.P』についてお話を聞くとともに、小説での実験と笑いの関係についてもうかがってみた。

取材・文:葛西祝 編集:わいがちゃんよねや

目次

『メッセージ』であり『パルプ・フィクション』な新しいゴジラ

『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』キービジュアル

——円城さんは作風や実績から、すごく堅いイメージで評価されることが多いと思うんですけど、過去の発言を見ると「わりと笑いのつもりで小説を書いている」みたいに言ってるんですよね。

円城塔 そうですね。いっつも「みんな真面目だなあ」って思いますよ(笑)。『ゴジラ S.P』は色々検討の末、コメディ調に展開しているんですけどね。

——円城さんが「ゴジラ」シリーズを手掛けると聞くと、ハードなSFのイメージがあると思うんです。でも実際の放映を見ると、円城さんの笑いの感覚みたいなものが感じられたんです。大真面目なゴジラにし過ぎないようにするといいますか。

円城塔 まあでも、多くは高橋敦史監督の趣味ですよ。物語のテンポにせよ、リアリティラインをどの辺にするかの設定にせよ、最終的に監督が決めています。

——改めて、今回アニメの脚本をワンクール担当するのは、普段の小説執筆と比べていかがでしたか。表現媒体の違いもあり、いろんな制約があったと思うのですが。

円城塔 制約は大きいですね。そもそも集団作業なので。まず監督に構想があって、具体的なオーダーがある。現実とかなり近いところから、次第にエスカレートさせていこう、とか。その上で、パズルのピースがはまるようにしていきたい、と。

高橋監督からSF的なオチなり、ノリなりを入れたいという条件を寄せられて、「それならこう言う設定はどうですか?」と提案していくというのが基本でしたね。

——なるほど。制作サイドからの要望に対して、つじつま合わせをするような役割でしょうか。

円城塔さん 取材はリモートで行われた。

円城塔 よく言えばそうですね。最初の打ち合わせから2回目くらいで、高橋さんは「『メッセージ』みたいにしたいんだよ!」と言っていて(笑)。

——テッド・チャンの『あなたの人生の物語』を原作にした映画ですね。

円城塔 そう言うんですけど、ふつうに考えたら「ゴジラ」は『メッセージ』にはならないじゃないですか。

——放射光線を吐く怪獣を言語SFに。かなり難しそうです。

円城塔 それで「さすがに『メッセージ』にはならないですよ……!」みたいなところからスタートして、喧々諤々しているうちに「じゃあそういう方向で考えますか」と。……つじつまや細部を詰めるとかではないかもしれませんね(笑)。

——『ゴジラ S.P』でいうと、不思議なインド民謡の使い方あたりに、ちょっとその片鱗はあるかもしれないですね。

円城塔 高橋さんが言っていたのは「『パルプ・フィクション』みたいにしたいんだよね」と。そういうパズル的な要素を組み合わせたいというので。

——放射光線を吐く怪獣をジョン・トラボルタに。それもかなり難しそうです。

円城塔 「さすがに『パルプ・フィクション』にはならないですよ」みたいなところからスタートして(笑)。

——そもそも高橋監督からリファレンスされた映画が『ゴジラ』からほど遠いところにあったんですね。

円城塔 『メッセージ』の感じと『パルプ・フィクション』のいくつかの話が複合的に絡み合いながら、一応ひとつのところに行きつく形ですね。

そして当然、ゴジラについてですね。「ゴジラ」という存在自体にもある程度、科学考証が必要なんですけど、「卵は生むのか?」とか「あの息はなんだ?」とか「ゴジラザウルスが放射線を浴びたという設定はどうするのか?」みたいな部分を考えています。

13話をゴジラだけで押し切るのつらそうなので、他の怪獣にも出演願うわけですが「その怪獣は群れなのか? 群れでもいいけど、その生息地は人工衛星からは見えないのか? そもそもどこから来るのか」とか。

——そういった疑問点を解消していくように設定したんですね。

円城塔 あれですよ。コナン・ドイルの『失われた世界』ならいいんです。南米に高地があってそこに恐竜がいるみたいな。

戦前くらいの時代設定であれば、それでもギリギリ許されるけど、そうではない。現実的に、現代ではある程度把握されている地球という舞台の全体を考えたときにどうするか。怪獣の群れが出てきたとなると、じゃあどこから出てきたんだとなる。地球であれば海の中か、あるいは宇宙かのどっちかしかない。

海から姿を現すラドン

円城塔 宇宙は宇宙でフィクションで描くとなると危険だから(笑)──海の中から出てきますと。もちろん、それも無理があるんだけど、そこしかないからしょうがないわけです。ラドンでいうと、海の中では鳥の形態のわけがないから、たぶん海から出るときに姿が変わるんですよ。

そういう流れで話を考えていく。でも考えていけば考えていくほど、普通の物質で再現するなんて無理だから、なんらかの新しい物質を考えることになって……。という感じで、SFの考証ってそういうものですね。「ここがこうなって、こうなっているはず」と連鎖的に繋げていく。

——なるほど。

円城塔 それが『メッセージ』になり、パズルが組み合わさって13話でオチれば、依頼通りになります。

円城塔にとってのゴジラと、SFを考えるということ

ゴジラの姿はまだハッキリとは描かれていない

——円城さんはゴジラをどのように解釈していますか。「ゴジラ」シリーズでは、ゴジラというキャラクターを原子力技術のメタファーとして観るような評が少なくないです。『シン・ゴジラ』は東日本大震災だ、という向きも強くありました。でも『ゴジラ S.P』ではゴジラは放射能によって生まれたという設定を使ってないですよね。

円城塔 初代は「水爆にすみかを追われた」んですけどね。ゴジラとはなによりもまず、「わからないもの」ではないでしょうか? とにかくわからないものなので、いろいろ考える余地のある対象です。何かのメタファーは後からついてくるはずで……いくら考えてもわからないものです。ちょっと大きすぎるし、1匹しかいないし。1匹しかいない時点で、生物としてかなり込み入るんですね。

——リアルに考証すると引っかかる所ですよね。

円城塔 なんだかんだ言ってゴジラも長いですよね。1954年からやっていて、もう70年近くずっと命脈を保っている。アイコンとしては完全に浸透して、世に存在していて、「これが存在しているというのは、どういうことなんだろう」とか、そういうことから考えていったんですよ。

——円城さん自身は今回のゴジラに何らかのテーマを仮託したい思いはありませんか。

円城塔 仮託はしないでいこうと。考えられるところまで考えれば、メタファーは勝手についてくるはず。それは、ゴジラとはなんなのかという解釈の話でもあるし、もっと即物的に何で構成されてできているのかとか、そういうレベルで。

G細胞とかでもいいんですけど──そう言っちゃうと「まあG細胞だな」って話でもあるんですが(笑)。ゴジラとはなにかをもう少し考えることができるのではないかと。

ゴジラだと思われる、謎の巨大白骨

——「ゴジラ」シリーズはそういった部分を曖昧にしているところもあるから、メタファーとして見やすいところもあったのかもしれませんね。

円城塔 もちろん『ゴジラ S.P』も適当なところは適当です。というのは、アニメーションだから。よく観ればシーンによって怪獣の大きさだって違っているわけです。

素材を考えると、実際に分子式を書いてみるとか、単純に体重を計算してみるとか、そういう話ではなくて。捉え方として「そういう生き物がいる以上、どういう性質を持った分子があるはずだ」という考え方ですね。

そういうところが全面に出せれば、と僕は思いました。それはSFっぽいといえばSFっぽい(笑)。

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん

(笑)がたくさんあって楽しそうなインタビュー。読んでてても笑った。円城塔さんの、笑いの裏に冷めや真面目さが同居してる感覚を感じ取りました。

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん

読み応えありすぎる。インタビュアーが円城さんの作品読んでるからこその深み

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