「ボカロは“陽キャ”と接続した」Sou×Chinozo対談 歌い手とボカロPが語る新時代

伸びすぎると気まずい? 歌い手とボカロPの関係性

──ここからは、歌い手とボカロPの関係の変化についてうかがえればと思います。昔は視聴者から、「歌ってみたが原曲より伸びるのは良くない」といった声もありました。その頃と比べると、もう少し互いの界隈に対して優しい世界になってきていると感じています。

Sou 基本の関係性は変わってないと思います。ボカロPさんが曲を出して、僕らが歌わせていただいて、結果として原曲の知名度も上がって、お互いWin-Winになれればいいよね、という。

どちらかというとボカロPさんたちが、歌い手のことを受け入れてくれるようになったのかなと思ってます。もちろん人によるけど、昔はボカロPが、たぶんあんまり歌い手を好きじゃなかったような……(笑)
Chinozo 確かにつくり手ってこだわりの強い人が多いから、「この歌い回しはこうでないといけない」と思うこともあるんですよ。

だからカバーされたときに、自分の意図と違うと「ちゃんと聴いてるのかな?」って感じてしまうのかもしれないですね。僕はそういう歌い回しもカバーと捉えて、いいなって思ってしまう方なんですけど。

Sou やっぱりつくる側は曲に対するこだわりが、歌う側には歌い方にこだわりがあっただろうし。それが徐々に、お互い丸くなっていったのかな。

Chinozo 僕は昔のことはちょっとわからないけど、歌ってみたって、めっちゃ良い文化だと思ってます。今はほとんどのボカロPがそうなんじゃないかな。

最近はボカロも随分肉声に近づけられるようになりましたけど、やっぱり基本の声が機械的なので、まだ世間では受け入れ難い部分もある。無意識に聴くぶんには、人の歌声の方が受け入れやすいと思うんですよ。
Sou うんうん。

Chinozo 歌い手さんが歌ってくれることでその壁を越えて、ボカロだけじゃ届かないところまで届けられる。そういった意味でも、歌ってみたはすごく良いものだと思ってますし、それこそSouさんが言ったように、本当にWin-Winの関係になっている良い時代だなと思うんです。

歌ってみたがあることで、ボカロ曲の認知度が上がってるのは間違いないですし、「いつもありがとうございます!」と思ってます。

──曲と歌い手さんの相性ががっつりハマって、ドカンと伸びるケースもありますね。

Sou そうなったときはちょっと、歌い手サイドは気まずく思ってたりします……。

Chinozo そうなんだ(笑)。

Sou そりゃあそうですよ! 今までのボカロPと歌い手って実はまったく別の界隈で。お互い接することがなかったんです。

そんな中で「ただ歌ってるだけで、(再生回数で)本家を超えやがって」みたいなコメントが来たりする。そうすると「(ボカロPも)もしかしてそう思ってるのかな?」って少し不安になるんですよね。でも最近は、その誤解が解けつつあると思います。

ルーツは古のアプリ「ニコルソン」

──Souさんは2013年初投稿ですが、視聴者側から投稿者側へシフトしたきっかけは、何だったんでしょうか?

Sou シフトしたというより、もともと僕は「ニコルソン」(※)という古(いにしえ)の音声アプリで活動してたんですよ。今で言う「nana」みたいなものです。で、ニコルソンのサービスが終了するときに、仲間たちがどんどんニコニコに移動していて、僕もその流れで移ったんですよね。 ※ニコルソン:ドワンゴが展開していたスマートフォン向け音声コミュニケーションアプリ。2013年5月に終了。

Chinozo へ~、そんなのがあったんだ。

Sou  同じくらいの時期に、「こえ部」(※)から移動してきた人たちもいて。こえ部はニコルソンと違ってちゃんと音源をmixして投稿するサイトだったので、技術力もクオリティも高いんですよね。それで「こえ部から来た奴ら、やべぇ」って焦って(笑)。僕が自分でmixをしはじめたのは、その影響もあります。

※こえ部:koebuが運営していた音声専門のコミュニティサイト。2016年9月にサービス終了。

──Chinozoさんは、いつ頃からニコニコ動画を見られてたんでしょうか?

Chinozo 「みくみくにしてあげる♪」(2007年)あたりから見てたんですけど、当時はボカロよりも、アニメ関連の動画を見てたんですよね。大きな声では言えませんけど、いろいろなMAD動画を……。
Sou ちゃんと当時のニコニコを楽しんでる人だ(笑)。でもやっぱり最初はそんな感じでしたよねニコニコって。面白動画サイトみたいな。

──おもしろフラッシュ倉庫の延長みたいな感覚で、楽しんでる人もいましたよね。その後Chinozoさんがボカロシーンに戻ってきたのは?

Chinozo 2018年、ボカロPとして活動をはじめる直前くらいに、また聴き出しました。だから、その間が抜けてるんですよね。

ハチ(米津玄師)さんの全盛期ぐらいまではリアルタイムでよく聞いてたんですけど、たとえばトーマさんが出てきたり、Orangestarさんが人気になっていった頃は追えてなくて。後からさかのぼって聴いてました。

Sou じゃあカゲプロ(カゲロウプロジェクト)とかHoneyWorksとかも?

Chinozo その辺りのボカロシーンも、後から知ったんだよね。

──戻ってくる時期はバラバラでも、Chinozoさんと同じくらいのタイミングで一度離れたボカロPさんは結構いらっしゃると思います。

Sou ボカロシーンって、歌い手の方が歴代の曲知ってるかもしれないですね。ずっと歌ったりしてるから。

Chinozo うんうん。絶対そうだと思います。僕はみきとPさんの「僕は初音ミクとキスをした」と、はるまきごはんさんの最初のアルバムが大好きでずっと聴いてました。ボカロの流行りとかは全然わからなかったんですけど。

目に見える数字がモチベーションを左右する――今のニコニコ動画に思うこと

──最近の歌い手さんはYouTubeだけに投稿する人も増えていますが、Souさんは変わらずニコニコ動画にも投稿しています。

Sou 正直再生数はYouTubeの方が伸びるし、「YouTubeだけにしようかな」と思った時期もあったんですけど、ニコニコは自分にとって“はじまりの場所”みたいな感覚もあって。

あとニコニコへの投稿を辞めちゃうと、ニコニコが好きで見てくれてた人がいなくなっちゃう気がするんですよ。NicoBoxで聴きたいって人も結構いるし。僕はTwitter ID(@Nico_nico_Sou)にも「ニコニコ」が刻まれてるんですけど、今後も変えるつもりはないですね
Chinozo アツい……! YouTubeとニコニコ、異なる2つの視聴者層に聴いてもらう感覚ですよね。僕もニコニコではそんな伸びてなかったのに、YouTubeでぶわぁって伸びたので、視聴者層の違いは感じてます。

Sou 正直な話、ニコニコがYouTubeの再生数を越すことはほぼないと思うんですよ。そもそも比べるべきものでもないと思うし。ただ越さないにしても、もうちょっと盛り上がる方法はあるのかなと思っていて……。

──ぜひ、ニコニコ動画への想いもざっくばらんにお話しください。

Sou そうですね……いくつかあるんですけど、中でも「とりあえずマイリスト」の件は大きいと思ってます。2020年に、「あとで見る」に名前が変わって、ここの登録数がマイリスト数に加算されなくなったんですよね(外部リンク)。

そのぶんマイリスト数が減るので、久しぶりに来た人からしたら、「ニコニコ見てる人ってあんまり多くないのかな」みたいな雰囲気を感じちゃうと思うんですよ。

──目に見える部分の数字の規模感は、投稿する側のモチベーションだけでなく、見る側の熱量にも影響する、と。

Sou でもニコニコにできて、YouTubeではできないこともあって。僕自身、コメント見るときは、YouTubeよりもニコニコの方をメインで見てます。持ってる強みをどんどん伸ばしていったらいいんじゃないかなとは思いますね。

Chinozo 「殿堂入り」(10万再生)とか「伝説入り」(100万再生)とかのタグもニコニコ独自ですもんね。つくり手からするとモチベーションになっていると思います。

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