文藝春秋社がnote社の第三者割当増資を引き受け、出資を行った形となる。出資額は非公表。
提携によって両社で共同コミュニティの創出や各種イベントの共催などを行い、出版文化の未来を担う人材を育成。書き手と読者をつなげる機会を増やすことが目的だという。
また、両社社員の知識や技術習得を目的とした、社員交流も行われるという。戦前より続く老舗出版社と近年目覚ましい発展を遂げたプラットフォームの協業に注目が集まっている。
クリエイタープラットフォーム「note」の躍進
noteは、テキストや写真をメインとしたコンテンツプラットフォーム。2014年4月にリリース。ユーザーがブログのような形式で自由に記事を投稿することができる。
優れたUIによって記事コンテンツの投稿数を伸ばし続け、2019年1月には月間アクティブユーザー数が1000万を突破(外部リンク)。2020年2月5日より正式公開されたサークル機能も話題となり、オンラインサロンの運営用途としても活用されている。
日本発のCGMとして近年に類を見ない成長を遂げているサービスだといえる。
note社運営メディア「cakes」には度重なる批判も
一方で、note社は2012年よりWebメディア「cakes」を運営(noteの急成長によって2020年4月に社名を株式会社ピースオブケイクからnote株式会社に変更)。こちらはプラットフォームではなく、編集部機能を有したコンテンツ配信サイトとして、デジタルコンテンツの企画・制作・配信がされているが、近年、度重なる批判・炎上にさらされている。
批判の主たる内容は編集者に対する倫理観・矜持・コンテンツの取り扱い方などに向けられており、これを受けて2020年11月27日に編集部の体制変更を発表。編集長の交代も行われた(外部リンク)。cakes編集部が主催したコンテストの受賞をきっかけに連載準備を進めていた方に、多大なる心理的ご負担をおかけした件で多数批判の声を頂戴しています。ひとえに、編集部からのコミュニケーションに未熟な点があったことに起因しています。改めて、深くお詫び申しあげます。
— cakes(ケイクス) (@cakes_PR) December 10, 2020
今回の文藝春秋社との業務提携では両社社員の知識や技術習得も目的に挙げられている。cakesの今後にも注目したい。
デジタル化に注力する文藝春秋
2019年11月に月刊『文藝春秋』はデジタル定期購読サービスを開始。そのパートナーにnote社を選択し、「文藝春秋digital」がリリースされた。同メディアではnoteで人気のあるクリエイターを「文藝春秋」本誌の書き手に迎えるなど、様々なコラボレーションが行われてきた。
「文藝春秋digital」だけでなく同社の運営する「文春オンライン」は紙媒体で長年培われた取材・報道力を活かし、数あるWeb媒体の中でも高い影響力を有し、デジタル化に余念がないことをうかがわせる。
『文藝春秋』は小説家・ジャーナリストの菊池寛さんが1923年に私財を投じて創刊。クリエイター発の同人誌的な起源を持ちながらも、日本の出版界にとって重要な総合誌として長い歴史を歩んできた。
文藝春秋社社長の中部嘉人さんは今回の業務提携について「noteは全てのクリエイターのためのプラットフォームとして誕生したと聞いています。その成り立ちは、菊池寛が創刊した雑誌「文藝春秋」にきわめて似ています。書き手の存在なくして出版文化は成り立ちません」とコメント。
noteへの強い共感を示している。
ユーザー主導で自由に膨大なコンテンツが配信されるプラットフォームと、恣意的・人為的にマーケティングを行ってコンテンツを企画する旧来の編集機能の食い合わせは元来相性は良くない。1)クリエイターの発掘と育成
文藝春秋社の編集者とnoteディレクターらが定期的に情報交換を行い、出版文化の未来を担う有望な人材の発掘と育成を行います。また、note上でデジタル文芸賞・新人賞その他のコンテストを共同で実施することも目指します。
2)新たなコミュニティの創出やイベントでの協業
両社のネットワークや技術および知見を持ちより、クリエイターと読者・視聴者・観客等が相互に交流する新たなコミュニティを構築したり、イベントを共同開催します。
3)社員交流の実施
文藝春秋社がデジタル面における技術・知識を習得し、note社が書籍や雑誌の編集技術を習得することを目的として、両社でそれぞれの社員が勤務する「社員交流」を実施します。
4)新規事業に向けての展開
両社は、民間企業や公的機関に対しての有償サービスの提供など新規事業のための意見交換を行います。 株式会社文藝春秋の発表より
一方で長く続く出版不況において大手各社がDX(デジタルトランスフォーメーション)に乗り出しており、今回の業務提携もその大きな流れの一つと言える。
出版とITの関わり合い
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