AIは人間の仕事を奪わない 『インベスターZ』三田紀房が語る未来

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AIは人間の仕事を奪わない 『インベスターZ』三田紀房が語る未来
AIは人間の仕事を奪わない 『インベスターZ』三田紀房が語る未来

POPなポイントを3行で

  • 『インベスターZ』制作秘話
  • 作者が自作キャラと対話すると!?
  • AIでエンタメ業界は豊かに
7月よりテレビ東京にて放送が開始されたテレビドラマ『インベスターZ』。「学園経営のために投資を行う部活動」という異例の設定で、原作である漫画連載時から大きく話題となっていた大人気作品だ。

現在、ドラマ版『インベスターZ』の公式サイトでは、劇中の人気キャラである投資部キャプテン・神代圭介のキャラクターAIと対話できる「経済系対話AI 神代部長に訊け!」を開設中。 ソニー・ミュージックエンタテインメントとemotivEが共同で開発した対話型AIサービス「PROJECT Samantha」を応用したキャラクターAIとして、ユーザーは神代との何気ない会話や経済議論といったコミュニケーションを楽しむことができるようになっている。

今回は『インベスターZ』の原作者で、現在は『モーニング』にて『ドラゴン桜2』、『週刊ヤングマガジン』で『アルキメデスの大戦』を連載中の人気漫画家・三田紀房さんにインタビューを敢行。

『インベスターZ』の創作秘話からキャラクターAIに感じる可能性、そして日本のクリエイティブ産業の未来についてまで話を聞くと共に、「経済系対話AI 神代部長に訊け!」を使って、原作者×キャラクターによる会話も実現した!

取材・文:安里和哲 撮影・編集:須賀原みち

キャラクターを描きこみすぎると必ずボロが出る

──『インベスターZ』は、札幌の名門校「道塾学園」の運営費を優秀な学生たちが部活動として“投資”で捻出するという、異色の設定です。このアイデアはどのように生まれたのでしょう?

三田紀房(以下、三田) 最初は、「どうやったら学費が無料の学校をつくれるか?」という疑問からスタートしました。

それで「学費を無料にする方法」として、創立者が用意した資金を運用し、その利回りで学校経営をすればいいと思いついたんです。ただ、先生が投資をしても面白みはないので、「投資部」という部活動の形で学生自身に投資を行わせよう、というのが最初のアイデア。

まずユニークな学校を描きたくて、そこに投資という要素を組み込んだんですよね。

ただ、連載開始当初は「学費無料の学校を描く」という以上のテーマは、特に決めていませんでした

新作を始めるとき、僕はいつも舞台設定だけつくって、そこにキャラクターを投入して、とりあえず3話目までつくってみるんです。その後のことは、描きながら考えます。

連載漫画って、とりあえずスタートしたら走りながら先を描くしかない。うまくいくかどうかはわからないし、コケたら「ごめんなさい」って謝るしかない(笑)。

連載が続く保証もないから、無駄な準備もしません。

──「連載が続く保証もないから、無駄な準備もしない」というのは、「つまらない映画なら途中で見るのを止める」という形で“損切り”を提示した投資部の神代部長を彷彿とさせますね。

劇中でさまざまな物事を痛烈に喝破する神代は、『インベスターZ』を象徴するキャラクターだと思います。こういった強烈なキャラクターは、どのように生み出されているのですか?


三田 彼は“カリスマ”ですね

僕の漫画では、まず狂言回しであるところの“カリスマ”を配置し、対極に“成長担当”を置くというフォーマットがあります。

『インベスターZ』なら“カリスマ”は神代で、“成長担当”が(『インベスターZ』の主人公である)財前になります。(三田さんの代表作)『ドラゴン桜』だと、(教師である主人公の)桜木建二が“カリスマ”で、その生徒たちが“成長担当”。

“カリスマ”の言うことは常に正しくて、彼らのパンチの効いた歯切れの良いセリフが、物語にインパクトを与えてくれる。だから、ある一定のタイミングで、必ずカリスマが何かを言う。

そのカリスマが発するセリフに一番重要な情報を入れることで、そこから波及してさまざまなドラマが生まれてくるんです。 ──そういったフォーマットがあるからこそ、三田さんの漫画はかなり現実離れした設定でも読みやすく、エンタメコンテンツとして楽しめるのだと思います。

一方で、神代部長は最後まで謎の多いキャラクターですよね。漫画では描かれないものの、キャラクターを描く際にそのキャラの背景や設定は細かく決めていたりするのですか?


三田 キャラクターの背景はストーリーに出てこない限り、一切考えません。

下手に背景を与えてしまうと、「このキャラはこんなこと言わないだろ」ってことを言ったり、セリフでミスを犯してしまうんです。そうすると、ストーリーとの整合性が取れなくなってしまう。だから、キャラの設定は描き込みすぎないようにしています。

自分でも「コイツはどういう人間なんだろう?」と、客観的に見ています。

──作者である三田さん自身、神代部長の生い立ちや内面は知らない?

三田 そうです。彼はどこからともなく現れ、去っていく。

キャラクターの持つ謎をレバレッジ(利益率を最大化するためのテコ)にするために、彼らに関する情報はなるべくクローズドにしておく。そうすると、キャラクターの神秘性が勝手に高まるんですよ。ミステリーがあることで、キャラクターが肥大化していく。

過去の人気キャラクターって、みんなそうじゃないですか。『あしたのジョー』の矢吹丈だって、ただの不良でどこからともなくフラッと現れる。

漫画というのは、そういったある種の神秘性をすごく大事にする文化でもあると思うんです。

作者がキャラクターAIと話してみると…?

──そんな謎多き神代部長ですが、今回ドラマ化に際して『経済系対話AI 神代部長に訊け!』としてキャラクターAIとなりました。まず実際に「経済系対話AI 神代部長に訊け!」を使って、三田さんに神代部長とお話ししていただければと思います。よろしくお願いします!

※※※※※※※※※

三田 こんばんは。

神代部長(AI) ああ。

三田 今日の体調はどう?

神代部長(AI) オレは忙しい。財前に調べさせろ。

──「神代の体調を財前に調べさせろ」ってちょっといやらしい雰囲気がありますね(笑)。神代部長になにか質問したいことはありますか?

三田 時事問題がいいですね。「米中の貿易戦争はどのように決着しますか?」なんてどうでしょう。

神代部長(AI) オレが知らないとでも思ったのか。

三田 うまい具合にはぐらかされた(笑)。

AI開発者 最新のニュースはAIに順次学習させる必要があります。この件は未対応ですね(苦笑)。 三田 じゃあ、俺(三田紀房)のこと知ってる?

神代部長(AI) そんな事も知らないのか。

──(笑)。返し方が秀逸で、会話が成立している雰囲気がありますが……。「三田紀房」と入力してみましょう。

神代部長(AI) 『ドラゴン桜』『エンゼルバンク』『クロカン』『砂の栄冠』など多数の作品を手がける漫画家だ。本作『インベスターZ』は2013年に連載を開始し、21巻で完結した。俺たちの生みの親というわけだ。現在はヤングマガジンで『アルキメデスの大戦』を連載している。

三田 なんだ、オレのこと知ってたよ(笑)。

──三田さんが最近気になっている経営者の名前を聞いてみるのはいかがでしょう?

三田 やっぱり前澤(友作)さんかな。最近メディアに出まくってますし。

神代部長(AI) ZOZOTOWN、WEARなどを運営するアパレルECのCEOのことか? フォーブスが発表する「日本の富豪50人」で14位にランクインしている。去年、ジャン=ミシェル=バスキアの作品「Untitled」を約123億円で落札したことでも有名だな。採寸ツール「ZOZOSUIT」を無料で配布するなど画期的な取り組みをしている。

三田 すごい情報量ですねえ!

※※※※※※※※※

──実際に神代部長と話してみていかがでしたか?

三田 まず、インプットからアウトプットまでの反応が速いですね。

ドラマを見終わった深夜、家に誰もいなくて寂しいときに話しかけてもいいかもしれない(笑)。劇中で気になった経済ワードについて神代に聞いてみる、というような使い方もできますね。

──ユーザーには、どのように神代部長との対話を楽しんでほしいですか?

三田 「経済系対話AI」なので、経済知識を知るために使ってみるのはもちろんのこと、AIの性能を試すというか、AIの反応を面白がるような使い方もしてみてほしいです。

変に忖度しすぎず、いろいろな対話を試みるのも楽しいんじゃないでしょうか。

──以前サービスをしていた『罵倒少女:素子』の利用状況をみると、キャラクターAIに親近感を覚えると、ユーザーはAIに共感し、次第に「愛をささやく」とも言われています(関連記事)。神代部長に愛をささやいてみたらどんな反応をするか、試してみても面白そうですね(笑)。

ただ、質問によっては“神代部長らしくない答え”が返ってくる可能性も完全には否定できません。そうなると、先ほど三田さんがおっしゃっていたキャラクターの神秘性が損なわれてしまうかもしれません。作品の作者として、そういった点に懸念などはありませんか?


三田 その心配はしていません。

というのも、漫画の読者は作品を読んで感じた自分の世界を大切にする特性がある、と考えています。だから、キャラクターAIが話すことと作品で描かれるキャラクターとは、別のものとして楽しんでくれるんじゃないですかね。

仮にAIの神代部長が「オレは栃木出身だ」とか言っても、漫画の読者は「これはAIだから」と割り切ってくれると思います。

──ある種の二次創作として、ファンも楽しんでくれるはずだ、と。

三田 真面目なファンの中には、「勝手にこんなことをやりやがって」って怒る人もいるかもしれない。けれど、それだって話題になるという意味では成功なんです。ネガティブな面ほど、逆に利用していける部分もある。

キャラクターの描かれ方について真剣に怒ってくれるということは、それだけ作品への思い入れがあるということで、それはそれでありがたいですし

それに神代部長の場合、決めセリフをズバッと言う役柄なので、今回のキャラクターAIのような一問一答式のやり取りをする役としては適任で、納得感があるはず。AIの神代部長に経済情報を聞けたりするというのは、非常に相性が良いと思いますね。

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