“個人”を選ぶ理由
配信終了後にはメンバー揃ってKAI-YOUの独自取材にも応じていただいた。技術やインフラの発展で個人制作が可能になったとはいえ、一般的にはまだまだアニメは制作会社で多くの人が関わってがつくるもの。その中で、なぜ個人制作を選ぶのだろうか。
「そもそも個人でやるのが当たり前だった」と語るのは、沼田さんとこむぎこ2000さんだ。
沼田さんは秋元きつねさんへの憧れを口にする。秋元さんは『せがれいじり』などを生み出し、アニメだけでなく音楽など映像作品に関わるほぼすべてを1人で制作していたCG作家だ。
また、自身も共同脚本という立場で参加している『あはれ!名作くん』の新海岳人監督を筆頭に、多くのアニメーション作家からの影響で、作品にまつわるすべてに携わるという意識を強めていったという。
「少人数であるほど作品に対する貢献度が感じられる」
一方、実際にアニメ制作スタジオなどに所属し、多人数でのアニメーション制作の現場も経験するはなぶしさんとヨツベさんは、数多の実践の中でそれぞれ個人クリエイターへの憧れを抱いていったという。
はなぶしさんは東映アニメーションで経験を積み、あらゆる役職をこなした末に自分でもやれるかもしれないと思い立ち個人での制作に挑み始めた。
「少人数であるほど作品に対する貢献度が感じられる」と語るヨツベさんは、動画マン時代は作品に対して自らが参加している感覚が薄かったという。
神風動画でCGを学び、OPなどの短編を少人数のチームで制作する中で、自らの作品への貢献度の高さに基づく充足感を味わえたそうだ。現在、短編に携わることが多いのも、作品の全体に関わることができるというのが大きな理由だという。
個人アニメ作家は食べていけるのか?
アニメーターを取り巻く話題として、どうしても無視することができないのが労働環境に関する問題だ。誰もが知る大手スタジオに就職しても、1作業当たりで計算される報酬ではとても食べていくことができず、業界全体での改善が叫ばれているのはアニメに関心がない人でも知りうる問題だろう。
その中で個人、フリーランスという道がさらに険しく厳しいことは想像に難くない。独立するにしても「能力があることが大前提」と全員が口を揃える。
その上で、自らの見せ方を考えるマーケティング的な能力や、売るべき市場を自ら切り開く力などが必要と、歴戦のクリエイターたちが個人作家として食べていくために必要な能力を語り合う。
実際にアニメ制作で食べることができず、アルバイトを転々とした経験のある沼田さんは、「会社に入った方が安定はしただろう」と身をもって個人制作の厳しさを語る。
それでも個人での制作を続けたのは、そもそも「食えるかどうかではなく、どう生きるか」という生き方の選択だった、とした。
「趣味で制作したほうが純粋性が保てる」と同調したのはこむぎこ2000さん。
最初から食べるための手段として考えるのではなく、自らの好きを磨き上げることで結果的に仕事へ繋がるパターンもあると力説する。こうすれば成功するという絶対的な正解のない世界で、作家性を尖らせていくことがのちの大局へと影響を及ぼしていくのかもしれない。
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1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:3424)
とんでもなくボリューミーな座談会だった。自主制作が売れる市場ができたら、既存の「アニメ」のイメージ変わりそう