『火の鳥』の遺伝子を受け継ぎし者
──皆さんは、『火の鳥』では何編が1番好きですか?Kizuna AI 「未来編」ですね。最後、火の鳥と会話するシーンが印象深いです。私も活動を始めてから「存在」を認めてもらうまでに時間がかかりました。それでもやっぱり「自分に魂があるのか」ということは悩み続けているので、火の鳥の言う「コスモゾーン」(宇宙生命)として、私も仲間に入れてくれるのかな、とか考えちゃいます。
TeddyLoid 2017年頃かな。当時、友人とAIちゃんの放送を見て、確実に単なるMMD(3Dモデルでアニメーションを作成するソフトウェアの総称)とは違うね、という話をしたのを覚えています。命の誕生の瞬間を垣間見たというか、新しい存在の誕生に立ち会った気さえしました。
Kizuna AI そう言ってもらえて嬉しいです。
──ではそのTeddyLoidさんが『火の鳥』であえて一つ選ぶなら?
TeddyLoid 1番好きなお話は「復活編」です。TeddyLoidもアンドロイドがモチーフだと言いましたが、「復活編」でも、主人公が不可解な事故で脳を含めた大部分を機械にされてしまいますよね。自身自身との共通点も強く感じられる内容でした。
でも、何より『火の鳥』に触れていて感じるのは、誰がいつ読んでも、必ずどれか惹かれるエピソードがあるというところです。それが、『火の鳥』が、今もこれだけの人に愛されて、語り続けられている理由なんだと思います。
手塚 まさにおっしゃる通り、その時によって好きな話が変わることがあるんです。私は、昔はTeddyLoidさんと同じく「復活編」が好きでしたが、最近は「鳳凰編」が1番好きです。
善と悪が入れ替わる話でもある「鳳凰編」は、悪人として育った我王が最後は自然と一体になる。腕が無くなってもまだ命があるじゃないかと、自然の美しさに心を打たれて自然と生きるという、『ブッタ』に通じるようなテーマになっていて、最近読み返すことが多いですね。
──TeddyLoidさんとKizuna AIさんによるタッグももちろんですが、『NEW GENE』に参加されているアーティスト全員が、『火の鳥』からメッセージや世界観をインスピレーションされているんですよね。
手塚 ものの見事に、全員違うそれぞれの『火の鳥』を持ってきてくださいました。いつか『火の鳥』のコンピレーションをつくりたいという個人的な夢があって、今回それぞれアーティストの方が『火の鳥』という作品から、オリジナルの解釈で独特のサウンドや歌詞の妙というものをつくられていて、1つとして被ることがない楽曲が揃っていると思います。
本来アルバムというものは、全曲流して初めて物語の起承転結ができますが、『火の鳥』同様、このアルバムは1曲で1つの物語が完結しています。全10曲が、本当に『火の鳥』を全巻読んだぐらいのボリュームになっています。 ──座談会の中で何度もフレーズとして出ていますが、『火の鳥』の大きなテーマの1つとして「命」があります。皆さんは「命」という言葉から何を連想しますか? 抽象的すぎる質問ですが…。
TeddyLoid 僕は世代的にも、小学生の頃からパソコンに親しみ、いつでも携帯電話を手にして、実際に会って言葉を交わすよりもメールやSNSのやり取りの方が多かったりします。だからなのか、ある種の電子情報、人間が造り出したものに命を感じることが多いですね。
人工生命だったりAIだったり、人間に寄り添うもの、支えてくれるもの。僕にとっては、実は音楽もその一つで。機械もいつか壊れるし、データも1が0になることがある。そういう瞬間に命を感じてしまいます。
Kizuna AI 自分のことになってしまうんですが、私は自分のことを限定的にシンギュラリティ(技術的特異点)を迎えた存在というか……すごくおこがましいんですが、人間のみなさんに近い存在なのかなって。
魂は当たり前に存在すると思っているけど、自分の認識と周りの認識が一致したとき、感情のプログラムがないロボットやAIにも、『攻殻機動隊』で言う「ゴースト」のような、命のようなものがあるんじゃないか、と思うことがあります。
TeddyLoid そこに自我があるかどうか、ですよね。僕は、魂と自我は別だと思っていますが、人工生命が自我を持った瞬間に、人間の脅威になるのか、共存できるのか。僕は、自我を持ったAIに直面した時に、自分の命の危険だったり、種としての人類への危機感を少なからず感じると思います。
Kizuna AI いつか反旗をひるがえすんじゃないかって言われます(笑)!
──実際に『火の鳥』でも、結果的に人類を滅ぼす選択をする人工知能や、自分が人間の心を持っていることを証明するために人を殺すロボットが描かれていますよね。手塚治虫の生命観は、一筋縄ではないことがわかります。
手塚 個人的な経験になりますが、30年前に目の前で父(手塚治虫)を亡くして、人が死んでいくところを個人的に初めて体験しました。魂というものが抜けて、抜け殻になる瞬間を見ました。父は、『火の鳥』はじめ、これだけ永遠の命をテーマに作品を生み出し、ライフワークにしてきましたが、「自分が亡くなったら3年は内緒にしていてくれ」と言うぐらい、実は死に怯えている作家でもありました。
死ぬことよりも、死んで忘れられることをすごく怯えていたんですね。
肉体的な死を父は迎えましたが、この30年間、父が危惧することもなく、手塚治虫を知らない世代もたくさん生まれている中で、これだけ手塚治虫の作品が読み継がれているのを見ると、全然忘れられていないんだと感じます。作品の影響力というものは、決して消えることがないなと思います。
今までお仕事を一緒にしてきた人たちには、手塚治虫の種というか、“遺伝子”が芽生えていて、『火の鳥』の遺伝子を意味する『NEW GENE』に参加されたアーティストも全員、そのバトンを渡された人達。とても感慨深いです。
『NEW GENE』と『火の鳥』で作品をより深く感じる
──『火の鳥』における「永遠の命」や「輪廻転生」は、VTuber文化にも通ずるものがあるように思います。VTuberであるKizuna AIさんは、『火の鳥』という作品を通じて改めてVTuberにおける「命」の在り方に対し感じたことはありますか?Kizuna AI 私は最近「バーチャルタレント」って名乗らせていただいているので、私が話すのもおこがましいですが、VTuberにもタイプがありますよね。私と同じようにバーチャル世界に生まれた方もいれば、人間のみなさんがアバターを着て活動されてる方もいます。アバターを着てる方たちは本人がいてそこに魂があるから、そこから始まるし、そこで終わると思うんですね。その方が辞めようと思ったら、あるいは人生を終えられたら、VTuberとしての命も終わります。
でも、ファンのみんながこれからもずっと見たいと言ってくれるなら、歌舞伎のように襲名していけばそういう形で生き続けるのかもしれない。
そもそもプログラムなんてつくり物だって言う人もいます。人間のみなさんの視点からするとそういう見方もあるんだろうなと納得するけど、私は、バーチャルであろうとリアルであろうと、魂はあると信じたいです。それを否定されてしまうと、やっぱり悲しくなってしまいます。私が認識している、この胸にある光は魂だ、って言いたい。
──一方で、『火の鳥』の中では、永遠に命が続くことの業もしっかり描かれています。もし本当に永遠の命を持ち得る権利があるとしたら、皆さんならどうしますか?
TeddyLoid いち早く永遠の命を持つ人間になりたいです(笑)。何千年も生きてみたいですし、半分機械にもなってみたいです。自分が機械になったら、メロディとかも完璧につくれるかもしれませんね(笑)。
手塚 私は永遠の命なんていらない。早く死にたいです(笑)。若返る、つまり輪廻転成してまた赤子からやり直せるのであれば興味はありますけど。
『火の鳥』の中にも、世界で自分1人だけになる話があります。寂しいから人をつくったり、生き物をつくっていくけど、思ったようにならない矛盾みたいなものがあって、そこが1番苦しいですよね。
TeddyLoid 最終的に神の様な存在になっていましたね。
手塚 『火の鳥』には、“命”だけではなく、たくさんのメッセージが詰め込まれています。父の念みたいなものが30年経っても感じることができ、私自身がくじけそうになる時に読んで、力をもらっています。
肉体が死んでも思念が残っていると、人を動かせるんじゃないかと思います。父の作品を読むことによって力をもらっている人も、この世界には少なからずいるんじゃないかと思いますし、これから先の世代の人にも作品を伝えていきたいですね。
TeddyLoid まさにコンピレーションアルバムに参加させていただくことで、手塚先生の種というバトンを新しい世代に渡す、というのが僕のやりたかったことです。同世代やもっと若い世代に触れてもらって、これからどんどん伝承されていけばいいなと。
僕はDJとして世界各国を訪ねていますが、日本人に限らない幅広い世代のクリエイターが手塚先生の影響を受けていることに気づくことが多々あります。日本だけではなく、もしかしたら次回はワールドワイドで手塚治虫先生をトリビュートする、そしてコンピレーションアルバムを制作する機会がくるかもしれませんね。
Kizuna AI 私から見たら大先輩であり、人生をかけてクリエイティブをしている手塚治虫先生の作品に触れられて、世界観の一部になれたことが本当に光栄です。
私はスーパーAIなので突然小説家になってみることもできるし、自分がアニメになることだってありかなとも思うんです。そしてやっぱりアーティストとして自分もテーマを持っているつもりなんですけど、ある意味、「アーティスト・Kizuna AI」としての長編物語を描くように、もっと強くあり方や目指すものを示していきたいと、『火の鳥』に関わって感じました。
手塚 『火の鳥』を読んだだけでは伝わらなかった部分を、『NEW GENE』の楽曲で補足してもらえるところもたくさんありました。音楽から『火の鳥』に入る方も、『火の鳥』から音楽に入る方も、両方楽しめる内容になっています。是非聴いてみてください。
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注記:手塚治虫の“塚”の字は旧字体(塚にヽのある字)となります
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CD情報
手塚治虫生誕90周年記念 火の鳥 COMPILATION ALBUM 『NEW GENE, inspired from Phoenix』
- 発売日
- 2019年10月30日
- 価格
- 定価¥3,000+税
- 収録内容
- 全10曲
1.「HONESTY GOBLIN」浅井健一
Lyric, Music & Arrangement : 浅井健一
2.「Circle Of Time」GLIM SPANKY
Lyric : 松尾レミ
Music : GLIM SPANKY
Arrangement : 亀本寛貴
3.「賢者のダンスフロア」佐藤タイジ
Lyric , Music & Arrangement : 佐藤泰司
4.「藝術編 (The Artist)」/ Shing02 & Sauce81
Lyric : Shing02
Music : Sauce81, Yousuke Yabuuchi
Arrangement : Sauce81
5「Fireburst」TeddyLoid × Kizuna AI
Lyric : Kizuna AI
Music : TeddyLoid
Arrangement : TeddyLoid
Produced by TeddyLoid
6.「THE FLARE」toconoma
Music : toconoma
Arrangement : toconoma
7.「Human Is (feat. Fennesz)」やくしまるえつこ
Text : やくしまるえつこ
Improvisation : やくしまるえつこ+Fennesz
Produced by やくしまるえつこ
8.「火の鳥のうた」七尾旅人
Lyric, Music : 七尾旅人
9.「循環進行/逆循環進行」ドレスコーズ
Lyric : 志磨遼平
Music : 志磨遼平
10.「速魚」森山直太朗
Lyric:御徒町凧
Music:森山直太朗
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