8月9日から12日(日)にかけて東京ビッグサイトで開催されている「コミックマーケット96」(C96)。例年およそ50万人が訪れる同人誌即売会は今回、従来とは勝手が異なる。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックの影響に伴い、会場の一部変更および2箇所開催、会期が4日間、リストバンドを使った一般参加の有料化と、大きな変化を見せている。
開催から2日を経て、それぞれに対する参加者の反応はおおむね肯定的。ネット上でも、特にスペース内のゆとりや新設された南展示棟、青海展示棟の空調の効きを評価する声を目にする。
一方、こうした初づくしのコミケを、運営側はどのように捉えているのか。コミックマーケット準備会で共同代表をつとめる市川孝一さんに、運営としても未体験となったC96と、今年冬開催の「C97」、来年GW開催の「C98」を含めた今後について話を聞いた。
※インタビューは2日目、8月10日に実施
市川 初の4日間開催については現状2日目ということもあり、今日が終わってようやく半分なので、最終的に4日間を終えてみないことには何とも言えません。これから前人未到の4日目も控えています。
とはいえ、準備会スタッフも長丁場を乗り切るため、休む時間をなるべく増やしたりということを心がけてくれています。これまであまり行ってきませんでしたが、今回は事前に公式サイトでスタッフ募集をかけ人員を増やして、3300人体制で運営しています。
──青海展示棟と西・南展示棟という2つの会場での開催は現状どうですか?
市川 2箇所開催はおおむねうまくいっていると思います。ただ、距離が離れているため、お互いの会場の状況すべてをきちんと把握するのが難しいといった面はあります。
ですので、電話やメール、LINEなどを使いながら、効率的かつ正確な情報伝達に努めつつ、できるだけ多くのスタッフに両方の会場の様子を見てもらうようにしています。
──暑さとも関連してきますが、2つの新たな会場ということで、熱中症など救護や緊急の対応でも新たに考えられた部分が多いと思います。
市川 どのように会場を使うか、物資の移動や情報の伝達の仕組みをどう構築するかは、事前に何度も話し合ってきました。その中で救護体制も構築してきました。
──スペースとしては、今回から新たに使用する青海展示棟や南展示棟に対して、参加者からは「余裕がある」「移動がスムーズ」といった声も上がっています。
市川 南展示棟が大きいというのは確かにそうですね。また西と南を結ぶ通路、そして西・南展示棟と青海展示棟を結ぶ道もあるので、これまで東展示棟のガレリアに集中していた来場者が分散されたという面もあるかもしれません。
──新しい南と青海で言うと「空調が整っていて快適」という声も聞きますね。
市川 新しい建物なので空調がしっかり効いています。かと言って、西がまったく効いてないかというとそうではなく、何年か前に工事も入って改修も行われています。
そういう意味では、今回はこれまで危惧されていたような「会場内が暑くて仕方ない」という状況は改善されていると思います。ここは会場側が努力した部分です。
市川 そもそもの背景として、東展示棟が使えず4日間開催になったことで、会場スペースがこれまでの約75%まで減少する、収入が減る、さらにピーク時の20万人レベルという来場が入りきれない可能性がある、という事実があります。
そういった問題を解決・制御するために、リストバンドを用いた有料化を導入しました。半年ほど前から情報発信を続ける中で、比較的、参加者の方々には受け入れてもらえたのかなという実感です。 ──C96で導入した有料化は2020年GW(ゴールデンウィーク)のC98まで続きます。その後の予定は決まっているのでしょうか?
市川 「できれば以前のかたちに戻したい」というのが基本路線です。でも現時点では、まだどうなるかわかりません。C96はもちろん、C97、C98を終えての状況を見てみないことには、決められないというのが正直なところです。
特にC98は初めてのGW開催です。従来の夏から前倒しすることで、スタッフの宿泊費なども値上がる可能性もあるなどの変化を考えていくと、最終的な判断をくだせるのはまだ先ですね。
そういった懸念点がクリアになれば、以前のかたちに戻すかもしれませんし、もしそれが難しいようであれば、「申し訳ない」と頭を下げながらC99までは有料でいくかもしれません。
──世の中的に言うと、2020年の東京オリンピック・パラリンピック以降のコミケの形はまだ未定ということですか?
市川 そうですね。と言うのも、C99になると東展示棟が復活するので、東京ビッグサイトは西・南の各1〜4と東の1〜8で全部で16ホールになります。
さらに会議棟もありますので、それらを借りた場合に「全部使いきれるのか?」という別の角度からの問題も出てきます。でももし全部借りなかったときに、残ったホールに異なるイベントが入ると、会場の動線の形成や把握など、様々な新たな問題も発生してしまう。
「それなら全部借りて、何か新しいことをやったほうがいいのではないか?」──その場合、もしかすると赤字になってしまうかもしれない。それならリストバンドは残したほうがいい、という考え方もあると思います。そこは今の段階ではわからないですね。
カタログの値段も増税で値上がって、カタログ離れが進むかもしれないですし、「それなら別の方法を考えたほうがいい?」「でもカタログも読んでもらいたい」などなど、まだまだ考えなくてはいけないことが多いので、回を重ねるごとにひとつひとつクリアしていくとしか言えません。
市川 一番は同人誌が盛り上がっていくことが大切で、そのためにはやっぱりサークルから新刊が出ることが必要だと思います。でも、2020年は東京オリンピック・パラリンピックに伴い、GWにC98は開催しますが、夏を中心に同人誌即売会の数が大きく減少してしまいます。
同人誌即売会が減少することで、サークルさんの新刊が減ってしまうことがあると考え、「DOUJIN JAPAN 2020」ではプロジェクト共通の企画として「新刊カード」をスタートしています。
これは、サークルがプロジェクトに参加する印刷会社で同人誌などを印刷した場合にプレゼントされるもので、集めた枚数や企画の内容に応じて、特典の授与や優遇施策を考えています。
そうすることで、いつもより新刊を多く発表していただけるかもしれません。 ──新刊の発行の減少が、そのまま同人誌自体の盛り下がりにも直結するということですね。
市川 新刊数が減っただけで「同人誌も落ち込んじゃったのかな」と思われることもあると思いますし、そうならないための施策として進めていきたいと思います。
季節を感じるという意味でも、夏コミは夏で暑い、冬コミは冬で寒い、そういった名物・風物詩のような要素が欠けると少し寂しくなってしまうかもしれません。それでも「新刊カード」企画をはじめ、DOUJIN JAPANに全力で取り組むことで、2020年冬のC99に盛り下がることなくつなげていきたいです。その次にはC100も控えていますしね。
──今後を見据えた動きという点では、コミケットとしては世界中の同人誌即売会系イベントとの連携も深めていますよね。
市川 IOEA(国際オタクイベント協会)とは、理事としてコミケットも参加していますし、一緒に海外でセミナーを開いたりしています。海外のイベントに行って、各国のサークルの状況を見つつ「今何が流行っているのか」「どう運営しているのか」といった情報交換をしています。同人誌を世界に対して発信していくのも、コミケットの役割の1つだと思います。
──以前にお話をうかがったときにも、海外からのコミケへの参加者が増えているということでした。特に多いのはどの国・地域なんでしょうか?
市川 一番多いのはアジアですね。特に香港、上海、台湾、シンガポールがすごく多いです。アメリカやフランス、ドイツ、イタリア、スペインも結構多いですね。
コミケに来る来ないに関わらず、各国に現地のイベントに参加するサークルが存在しています。イベントによっても異なりますが、アメリカで100、ブラジルで400、中国では数千まで、その数は僕たちが想像している以上にどんどん増えているので、そんな人たちがコミケに来てくれるようになったらうれしいです。
──最後に、今後また新しい変化を迎えるコミケに対して一言お願いいたします。
市川 まずは今後もコミケットをしっかり続けていくことが大切です。その中で変化していくこともあるだろうし、原点回帰することもあるでしょう。それでもやはり続けていくことが重要で、どんな変化があったとしても、「同人誌即売会」というものに、きちんと地に足をつけて運営していくのが、僕らの理念であり使命だと思っています。
仮に、一度でもコミケットが開催できなかったら、それだけで僕らだけでなく、同人誌全体が大きな打撃を受ける。そうならないためにまずは継続です。そして多々ある表現を受け入れ、発表できる場であり続けることが、コミケに未来にもつながっていくのではないでしょうか。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックの影響に伴い、会場の一部変更および2箇所開催、会期が4日間、リストバンドを使った一般参加の有料化と、大きな変化を見せている。
開催から2日を経て、それぞれに対する参加者の反応はおおむね肯定的。ネット上でも、特にスペース内のゆとりや新設された南展示棟、青海展示棟の空調の効きを評価する声を目にする。
一方、こうした初づくしのコミケを、運営側はどのように捉えているのか。コミックマーケット準備会で共同代表をつとめる市川孝一さんに、運営としても未体験となったC96と、今年冬開催の「C97」、来年GW開催の「C98」を含めた今後について話を聞いた。
※インタビューは2日目、8月10日に実施
史上初の4日間、2会場での開催
──初めてのことが多い今回のコミケですが、各要素について現時点での印象を教えてください。市川 初の4日間開催については現状2日目ということもあり、今日が終わってようやく半分なので、最終的に4日間を終えてみないことには何とも言えません。これから前人未到の4日目も控えています。
とはいえ、準備会スタッフも長丁場を乗り切るため、休む時間をなるべく増やしたりということを心がけてくれています。これまであまり行ってきませんでしたが、今回は事前に公式サイトでスタッフ募集をかけ人員を増やして、3300人体制で運営しています。
──青海展示棟と西・南展示棟という2つの会場での開催は現状どうですか?
市川 2箇所開催はおおむねうまくいっていると思います。ただ、距離が離れているため、お互いの会場の状況すべてをきちんと把握するのが難しいといった面はあります。
ですので、電話やメール、LINEなどを使いながら、効率的かつ正確な情報伝達に努めつつ、できるだけ多くのスタッフに両方の会場の様子を見てもらうようにしています。
──暑さとも関連してきますが、2つの新たな会場ということで、熱中症など救護や緊急の対応でも新たに考えられた部分が多いと思います。
市川 どのように会場を使うか、物資の移動や情報の伝達の仕組みをどう構築するかは、事前に何度も話し合ってきました。その中で救護体制も構築してきました。
──スペースとしては、今回から新たに使用する青海展示棟や南展示棟に対して、参加者からは「余裕がある」「移動がスムーズ」といった声も上がっています。
市川 南展示棟が大きいというのは確かにそうですね。また西と南を結ぶ通路、そして西・南展示棟と青海展示棟を結ぶ道もあるので、これまで東展示棟のガレリアに集中していた来場者が分散されたという面もあるかもしれません。
──新しい南と青海で言うと「空調が整っていて快適」という声も聞きますね。
市川 新しい建物なので空調がしっかり効いています。かと言って、西がまったく効いてないかというとそうではなく、何年か前に工事も入って改修も行われています。
そういう意味では、今回はこれまで危惧されていたような「会場内が暑くて仕方ない」という状況は改善されていると思います。ここは会場側が努力した部分です。
リストバンドでの有料化、2020年以降は?
──事前の注目という意味では、4日間開催によるリストバンドを使った有料化導入も大きかったと思います。実際に来場者に話を聞くと、肯定的な方々が多かった印象です。準備会としてはどのように受け止められているのでしょうか?市川 そもそもの背景として、東展示棟が使えず4日間開催になったことで、会場スペースがこれまでの約75%まで減少する、収入が減る、さらにピーク時の20万人レベルという来場が入りきれない可能性がある、という事実があります。
そういった問題を解決・制御するために、リストバンドを用いた有料化を導入しました。半年ほど前から情報発信を続ける中で、比較的、参加者の方々には受け入れてもらえたのかなという実感です。 ──C96で導入した有料化は2020年GW(ゴールデンウィーク)のC98まで続きます。その後の予定は決まっているのでしょうか?
市川 「できれば以前のかたちに戻したい」というのが基本路線です。でも現時点では、まだどうなるかわかりません。C96はもちろん、C97、C98を終えての状況を見てみないことには、決められないというのが正直なところです。
特にC98は初めてのGW開催です。従来の夏から前倒しすることで、スタッフの宿泊費なども値上がる可能性もあるなどの変化を考えていくと、最終的な判断をくだせるのはまだ先ですね。
そういった懸念点がクリアになれば、以前のかたちに戻すかもしれませんし、もしそれが難しいようであれば、「申し訳ない」と頭を下げながらC99までは有料でいくかもしれません。
──世の中的に言うと、2020年の東京オリンピック・パラリンピック以降のコミケの形はまだ未定ということですか?
市川 そうですね。と言うのも、C99になると東展示棟が復活するので、東京ビッグサイトは西・南の各1〜4と東の1〜8で全部で16ホールになります。
さらに会議棟もありますので、それらを借りた場合に「全部使いきれるのか?」という別の角度からの問題も出てきます。でももし全部借りなかったときに、残ったホールに異なるイベントが入ると、会場の動線の形成や把握など、様々な新たな問題も発生してしまう。
「それなら全部借りて、何か新しいことをやったほうがいいのではないか?」──その場合、もしかすると赤字になってしまうかもしれない。それならリストバンドは残したほうがいい、という考え方もあると思います。そこは今の段階ではわからないですね。
カタログの値段も増税で値上がって、カタログ離れが進むかもしれないですし、「それなら別の方法を考えたほうがいい?」「でもカタログも読んでもらいたい」などなど、まだまだ考えなくてはいけないことが多いので、回を重ねるごとにひとつひとつクリアしていくとしか言えません。
同人誌即売会を未来に向け盛り上げるために
──一方で、コミケも含めた同人誌即売会全体の企画として、コミックマーケット準備会も幹事団体として参加する「DOUJIN JAPAN 2020」も本格的にスタートしました。市川 一番は同人誌が盛り上がっていくことが大切で、そのためにはやっぱりサークルから新刊が出ることが必要だと思います。でも、2020年は東京オリンピック・パラリンピックに伴い、GWにC98は開催しますが、夏を中心に同人誌即売会の数が大きく減少してしまいます。
同人誌即売会が減少することで、サークルさんの新刊が減ってしまうことがあると考え、「DOUJIN JAPAN 2020」ではプロジェクト共通の企画として「新刊カード」をスタートしています。
これは、サークルがプロジェクトに参加する印刷会社で同人誌などを印刷した場合にプレゼントされるもので、集めた枚数や企画の内容に応じて、特典の授与や優遇施策を考えています。
そうすることで、いつもより新刊を多く発表していただけるかもしれません。 ──新刊の発行の減少が、そのまま同人誌自体の盛り下がりにも直結するということですね。
市川 新刊数が減っただけで「同人誌も落ち込んじゃったのかな」と思われることもあると思いますし、そうならないための施策として進めていきたいと思います。
季節を感じるという意味でも、夏コミは夏で暑い、冬コミは冬で寒い、そういった名物・風物詩のような要素が欠けると少し寂しくなってしまうかもしれません。それでも「新刊カード」企画をはじめ、DOUJIN JAPANに全力で取り組むことで、2020年冬のC99に盛り下がることなくつなげていきたいです。その次にはC100も控えていますしね。
──今後を見据えた動きという点では、コミケットとしては世界中の同人誌即売会系イベントとの連携も深めていますよね。
市川 IOEA(国際オタクイベント協会)とは、理事としてコミケットも参加していますし、一緒に海外でセミナーを開いたりしています。海外のイベントに行って、各国のサークルの状況を見つつ「今何が流行っているのか」「どう運営しているのか」といった情報交換をしています。同人誌を世界に対して発信していくのも、コミケットの役割の1つだと思います。
──以前にお話をうかがったときにも、海外からのコミケへの参加者が増えているということでした。特に多いのはどの国・地域なんでしょうか?
市川 一番多いのはアジアですね。特に香港、上海、台湾、シンガポールがすごく多いです。アメリカやフランス、ドイツ、イタリア、スペインも結構多いですね。
コミケに来る来ないに関わらず、各国に現地のイベントに参加するサークルが存在しています。イベントによっても異なりますが、アメリカで100、ブラジルで400、中国では数千まで、その数は僕たちが想像している以上にどんどん増えているので、そんな人たちがコミケに来てくれるようになったらうれしいです。
──最後に、今後また新しい変化を迎えるコミケに対して一言お願いいたします。
市川 まずは今後もコミケットをしっかり続けていくことが大切です。その中で変化していくこともあるだろうし、原点回帰することもあるでしょう。それでもやはり続けていくことが重要で、どんな変化があったとしても、「同人誌即売会」というものに、きちんと地に足をつけて運営していくのが、僕らの理念であり使命だと思っています。
仮に、一度でもコミケットが開催できなかったら、それだけで僕らだけでなく、同人誌全体が大きな打撃を受ける。そうならないためにまずは継続です。そして多々ある表現を受け入れ、発表できる場であり続けることが、コミケに未来にもつながっていくのではないでしょうか。
参加者が感じるコミケ
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イベント情報
コミックマーケット96
- 期間
- 2019年8月9日(金)〜12日(月・祝)
- 場所
- 東京ビッグサイト(西・南展示棟:サークル / 青海展示棟:企業ブース)
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