東宝×オレンジが描く「雨と戯れ」 アニメ『そばへ』で魅せた3D表現の先端

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東宝×オレンジが描く「雨と戯れ」 アニメ『そばへ』で魅せた3D表現の先端
東宝×オレンジが描く「雨と戯れ」 アニメ『そばへ』で魅せた3D表現の先端

ショートアニメ『そばへ』対談

アニメでCMを制作することは、ここ数年で珍しいことではなくなってきた。その中でもひとつの大きなトレンドとして、既存作品とのタイアップではなく、CMのために新規でオリジナルアニメーションを制作するケースが増えている。

アニメを見る層が拡大し、老若男女にアプローチできるコンテンツになったことに加え、YouTubeやTwitterなどで情報拡散をする上で、アニメはバズをつくりやすく、特に若者に向けて反響が出しやすいと認識されはじめたことが要因だろう。

そういった流れの中で、丸井グループが3月に制作したアニメ『そばへ』が話題を呼んでいる。
ショートアニメーション『そばへ』
TVアニメ『宝石の国』でタッグを組んだ、東宝とアニメスタジオ・オレンジによるオリジナルアニメーションは、雨の中、キャラクターがのびのびと走り回る鮮やかな姿と、背景の美しさとが相まって非常に印象的な作品だ。

作品自体の印象強さに加え、具体的な商品・サービス用のプロモーションムービーではなく、丸井グループのビジョン「インクルージョン」をテーマとした作品であることも注目を集めた理由のひとつだ。インクルージョンとは近年、ダイバーシティと並んでビジネスシーンでよく聞く言葉だ。直訳すると、包括や内包という意味になる。

この先進的なテーマを題材とした企画がどのように生まれ、なぜこのような作品になったのか、『そばへ』のプロデューサーである2人、東宝・武井克弘さんとオレンジ・和氣澄賢さんに話を聞いた。

取材・文:中山英樹 取材・編集:山口若葉 写真:大島彩

テーマ「インクルージョン」をどう盛り込むか

『そばへ』のデザインワークスを手にとりながら作品を振り返る武井さん

──ショートアニメ『そばへ』では、制作にあたってアート集もつくられているんですね。TVアニメや劇場版とも異なる形態でありながら、こうしたアート集を用意するのは珍しいと思いますが、当初から考えられていたのでしょうか?

武井 つくることが決まっていたわけではないですが、つくれたら良いよねという話は当初からありました。以前、オレンジさんとお仕事をしたTVアニメ『宝石の国』でもコンセプトアート集を制作していたので。今回の『そばへ』も含め、オレンジさんのライブラリとして形に残せて、こうしてお届けできたことは感慨深いです。

──まずは『そばへ』がどのように立ち上がったのか、きっかけを教えてください。

武井 最初にマルイさんが企業PR用のショートアニメを制作されたいということで、各社に声をかけコンペを実施することを聞き、僕が立候補して、オレンジさんにお声がけをする形で企画を提案しました。

──作品のテーマ「インクルージョン」は最初から提示されていたのでしょうか?

武井 はい。「インクルージョン」という単語をどう咀嚼して、映像に落とし込むかが本作の焦点になったのではないかと思います。

テーマを聞いた当初は、直接的にジェンダーや人種といった多様性を内包した世界観を映像化することかなと思ったのですが、マルイさんとやりとりする中で、どうもそういうことではないと気づきまして。

深掘りしていくと、ストーリーの中に「インクルージョン」という単語が含む意味合いをエッセンスとしてどう盛り込んでいくのかが重要だったので、それならもっと深く作品について考える必要があるな、と。

──そこで作品の方向性をどうするかも含め、和氣さんに相談されたんですね。

和氣 そうですね。

武井 和氣さんとは、日頃よく話をする間柄だったこともあり、今回の作品づくりについても、気軽に相談させてもらいました(笑)。

「次はこういうことがやりたいよね」といった話をお互いにいつもしていたので、今回のマルイさんの案件は非常に自由度が高く、この機会に一緒に作品を、と考えました。

──和氣さんは、武井さんから本作の話を聞いたときの印象はいかがでしたか?

和氣澄賢さん

和氣 今まで短編のアニメーションにそこまで取り組んだことがなかったので、非常にやりがいがあると感じたのが最初の印象です。

とはいえ、僕自身は「インクルージョン」という単語に馴染みがなく、そもそもの意味を調べることからはじめたこともあり、手探り感はありました。そこも含めて、新しいことに取り組めたので楽しかったです。

映像としての新しさ やりがいを見いだせる題材、雨

──作品自体の大まかな物語はおふたりで決められたのでしょうか?

武井 いえ、話の内容は石井俊匡監督にも加わっていただき完成させていきました。3人それぞれがアイデアをひとつ以上持ち寄って、その中で「これだ」というものに絞って、マルイさんに提案させていただきました。

和氣 僕自身の話になりますが、TVアニメ『僕だけがいない街』で第2話のコンテ・演出を石井さんが担当されていて、その回が個人的に印象に残っていました。

幸いにもその後、石井さんと何度か会う機会があり、「いつかお仕事でご一緒しましょう」と話をしていた関係で、今回僕から声をかけました。

──雨や傘というアイデアはどなたから出たのでしょうか。

武井 和氣さんです。石井監督は、おもちゃというアイデアを出されていて、僕は肉まん、あとキツネのお話を作品イメージとして挙げていました。と言っても、何のことかさっぱり分からないかと思いますが(笑)。

作品内で様々な表現で登場する傘と雨

──それぞれの題材でどういった物語だったのか、非常に興味があるのですが、その中でも雨が題材として選ばれたのは、どういった理由でしょうか?

武井 3DCGという表現技法が前提にある中で、映像としての新しさ・やりがいを考えると適切な題材が雨なのではないか、ということでまとまりました。

和氣 自分が以前、スタジオ地図で映画『おおかみこどもの雨と雪』に関わったとき、ピーター・スピアの『雨、あめ』という絵本に触れて、この美しい雨の表現を実現しようという思いが強くありました。

今回オレンジという3DCGメインのスタジオで、同じく雨の表現にアプローチすることで、また違った美しさを表現できるんじゃないかと思ったんです。

コンセプトアートが作品に幅を生み出す

──雨という題材も決まり、作品の大枠も決まった。ほかのスタッフはどういった形で参加されていったのでしょうか?

武井 石井監督の次に依頼したのがコンセプトアートの長砂賀洋さんです。

──長砂さんのコンセプトアートという役職が特徴的ですよね。日本ではTVアニメでもあまり見かけませんが、こうした役職を設けた理由は何でしょうか?

和氣 長砂さんも、石井さん同様、前々から「何かの作品でご一緒したいですね」という話をしていて、今回は作品としての幅を決めていただきたいと思ってお願いしました。 ──「作品の幅」ですか?

和氣 順を追って制作していくと、関わるスタッフだったりスケジュールだったりで、アニメってどうしても「だいたいこれくらいの作品になる」という表現の幅が決まってしまう部分があるんです。

キャラクターや物語、設定が固まると映像としての振れ幅に上限が設定されてしまうこともあって。ですので今回はそういった各要素が固まりきるよりも前の段階で、長砂さんにコンセプトアートという形で「この作品でここまで表現をしましょう!」と決めて、作品として目指すべき方向を明確化してもらいました。

──なるほど! そのほかのスタッフはどのような経緯で?

武井 キャラクターデザインの秦綾子さんは、石井監督自身が声をかけてくれました。

和氣 もともと『未来のミライ』のときに、おふたりが隣の席だったとのこともあり、監督自身「秦さんのキャラクターは魅力的で、いつか一緒にまた仕事をしたい」と思っていたようです。

──秦さんも、石井監督同様、3Dでの制作にはあまり携わられていなかった印象なのですが、キャラクターデザインにあたってどういったやりとりがあったのでしょうか?

和氣 キャラクターデザインについては、3Dのことは気にせず描いていただきました。むしろいただいたデザインに対して、僕ら3Dサイドがどうやってその魅力的なキャラクターを表現できるかが肝でした。

秦さんの描かれるようなテイストのキャラクターを、オレンジではあまり3Dで描いてきたことがなかったので、スタジオとして新しい引き出しをつくる意味でも貴重な作品になったと思います。

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