なぜ課金して「いいね」買う? インスタのインフルエンサー裏事情

なぜ課金して「いいね」買う? インスタのインフルエンサー裏事情
なぜ課金して「いいね」買う? インスタのインフルエンサー裏事情
SNSの「いいね!」や「フォロワー数」ってアカウントの戦闘力みたいなものだ。数値が高ければ強いし、かっこいい。ざっくりとそんなことを思っていたら、「あんなの誰でも“買える”から当てにしすぎないほうがいいよ」と教わった。

いきなり話は逸れるけど、今回KAI-YOU.netが特集している「インターネット卍ジェニック」の副題は「一億総ワンチャン時代」だ。

何者でもない自分でも何かになれるかもしれない期待感と、新世代のネットヒーローたちがお金や仕事を得ていることも、まさに“ワンチャン”の名にふさわしい。 閑話休題。いわゆる影響力の高い人を指す“インフルエンサー”をはじめとして、Instagram、YouTube、FacebookといったSNSを基盤にした「お金や仕事」が増えているらしい。

そして、「お金や仕事」の裏側にも、戦闘力たる「いいね!」や「フォロワー」の数が影響している(はずだ)。

でも、数値を買えてしまうとしたら、本当に正しいインフルエンサーばかりじゃないのかもしれない。そして「お金や仕事」を彼らに回している大人たちは何を考えているんだろうか。

そんなわけで、今回は実際にインフルエンサーと仕事をする人や、芸能人でもプロでもない個人が写真を売ることができるサービスを手がけている人に話を聞いてみた。名も無き個人がビジネス的なパワーを持つ意味では「一億総ワンチャン時代」にうってつけなのだけど……果たしてその実態は?

とりあえず「いいね!」を買ってみよう

誰でも“買える”というので、試しにInstagramの「いいね!」を買ってみることにした。

Yahoo!で「インスタ いいね 購入」と検索したら、すぐにたくさんのサービスが表示される。あやしいサービスにクレジットカード情報を渡すのは気が引けたので、iPhoneのアプリから課金で買えるものを選んでみた。

表向きは「ハッシュタグが簡単に付けられる」という触れ込みのアプリだったけれど、起動してみるとすぐに“Get Followers Likes for Instagram”とグイグイ来る。 Instgramのアカウントでログインして、自分の投稿一覧から「いいね!」を増やしたい写真を選ぶ。ちなみに今回、買う前の「いいね!」数は13だった。

このアプリでは50いいね!を得るために100コイン払わなくてはいけず、100コインは120円で売られている。アプリ内課金でサクッとコインを買って、50いいね!をオーダー。なんだかLINEでスタンプ買うみたいな気軽さだ。 すると、決済が終わって1分も経たないうちに10いいね!が増え、30分もしないうちに50いいね!が増えた。マジであっさりだった。 どんな人がいいね!したのか見てみたら、みんな外国人だったけれど、一人ひとりは写真もちゃんと投稿していて変に怪しい感じもしない。オーダーが入ると依頼が飛んで、彼らがぽちぽちっとするアルバイトなんだろうか。 僕のInstagramの写真はだいたい10〜15いいね!が付くから、この投稿だけ特別多く見える。もし、たまたま訪れた人が数字だけを見たら絶対に勘違いするはずだ。

買ったときから2週間ほど経っているけれど、付いた「いいね!」が消える様子もない。

#夏 でした。どうしようもなく。赤い三角コーン好き。 #sundays #blue

Kento Hasegawaさん(@hasex)がシェアした投稿 -

ちなみに、今回はいいね!を買ってみたけれど、フォロワーもコインを詰めば同じように買える。

言うまでもないが、いずれも利用規約に抵触している可能性もあるので読者のみなさんにはオススメしません。

ぶっちゃけ、なんでフォロワー買いたくなっちゃうの?

フォロワーの多いインフルエンサーの投稿は、多くの人の目に触れるという意味で広告価値も高い。

そんなふうに捉える「インフルエンサーマーケティング」は、アメリカを前例に日本にもその波を広げている。ただ、こんなに簡単にフォロワーが買えるとなると、果たしてそれらを信じていいものだろうか。

「結論から言うと、実際にフォロワーを買っている子もいます」

今回は、インフルエンサーを起用した企業のプロモーションを仕掛けていたことがあるAさんが、匿名での協力を条件としてインタビューに応じてくれた。

単刀直入にいって、なぜ一部のインフルエンサーはフォロワーを買うのだろうか? その理由はギャランティ(謝礼)にあった。

Aさんによれば、「(プロモーションへの)ギャランティは基本的にフォロワー数に応じた価格になるからです。また、フォロワー数が多いほうが案件をもらえる数も単純に増えていきます。2017年現在ではInstagramなら20000フォロワー以上が案件の増えやすくなるラインです」とのこと。

そのため、もう少しで20000フォロワーに届く……という人が、最後のひと押しでフォロワー購入に走る傾向があるという。もっともこれは、単純な数値しか見ずにキャスティングする側の安易な考えにも、少なからぬ責任がある話といえそうだ。

ただ、インフルエンサーのキャスティングでは、主に「フォロワー数」と「エンゲージメント率(いいね!数をフォロワー数で割った率)」といった情報をはじめ、その個人の好きなブランドやテイスト、趣味、キャラクター、ライフスタイル、直近の仕事実績、専門的な知識などを総合的に見て決めていくという。

「インフルエンサーマーケティング」って効果あるの?

あやふやな数値で成り立つインフルエンサーマーケティングは、そもそも広告として効果があるのだろうか? Aさんは「継続的に、正しい形で、戦略的に投資すれば中長期的に効果が大きくなる」と言う。

たとえば、あるコスメブランドでは2年間かけてインフルエンサーに投資。新商品の発売ごとにInstagramでインフルエンサーを起用した結果、採用後1年が過ぎたあたりから販売数が大きく伸びていったという。

“おしゃれな子たちが使っているブランド”と知ってもらえたことで、選ばれる商品になりやすい現象が生まれた」とAさん。インフルエンサーも何度も仕事をするうちにブランドと仲良くなり、使い方の提案や組み合わせなども慣れていき、お互いに良い関係が築けたそうだ。

一方で、インフルエンサーに片っ端から商品をばらまいているような広告主も一部にはいる。しかし、それを指摘したり揶揄したりするのは業界人を始めとした一部の界隈であり、実際にばらまかれた商品に関する投稿を見て購入する人も少なくないそうだ。

とはいえ、売れればいいのかといえば、ちょっともやもやした気持ちも残る。

本筋とは逸れるけど、もっと言えば、本来は広告であることを伏せたまま投稿する「ステマ(ステルスマーケティング)」も未だに数多く横行している。人によれば一発で見抜けるが、やはりこちらも広告としての効果は高いようだ。

ウェブメディアにおいてもステマが業界全体で議論され、ここ数年で強い自浄作用が働いていった。それを考えれば、なり振りかまわない宣伝手法がSNSというプラットフォームにおいても長く続くかは、疑問だ。

やはり、Aさんの言うように「継続的に、正しい形で、戦略的に」がインフルエンサーマーケティングとしても、より良い形として望ましいように思う。

フォロワー数じゃない「ワンチャン」はありえるの?

では、数値を多く持つインフルエンサーでなければ「お金や仕事」にありつくことはできないのだろうか?

Instagramの投稿が10いいね!しか付かない僕には「一億総ワンチャン時代」が遠のくように思えてきた……が、どうやら、そればかりでもないらしい。

Aさんは「2017年からは投稿の“質”が注目されている」と言う。そのヒントを掴む次なる鍵が“インスタ映え”だ。ついにこのワードをテレビでも見るようになったし、今年の夏祭りはインスタ映えする「電球ソーダ」がめちゃくちゃ売れていたのを目にした人もいるだろう。

この状況を追い風にビジネスを展開するのが、個人による写真販売サービスのSnapmartだ。 公式サイトでも“インスタ映え”を打ち出すSnapmartでは、写真の売り買いができる「マーケットプレイス」のほか、フォトコンテスト、商品サンプリング、人気インスタグラマーに撮影を依頼できる「ブツ撮り出張サービス」などを手がけている。

今回は運営するスナップマート株式会社の江藤美帆代表取締役社長がメールでのインタビューに応じてくれた。

サービスが始まって半年が過ぎた頃、江藤さんは『素人の写真がプロの20倍以上の値段で売れる理由』というnote(外部リンク)を書いて、それも物議を醸したりしたが……実際に江藤さんの言う「素人革命」は起き続けているのだろうか?

Instagramをはじめる企業が増えるほど、“映える写真”が求められる

Snapmartの売り上げは「7月以降は前月比、約2倍のペース」で伸びているという。

なかでも商品サンプリングをしてフォトコンテストができる「アンバサダー」と、人気インスタグラマーに商品撮影を依頼できる「ブツ撮りサービス」が今年の4月頃から活況だ。

写真の主な買い手はメーカー、メディア、ブロガーなどで、従来の写真販売サービスを利用してきたユーザー(デザイナーやクリエイターなど)「ではない層」から求められている。(ちなみに今回の記事TOPの写真もSnapmartで買ったものだ)

なによりもInstagramを運用する企業が増えるにつれ、“インスタ映え”する写真のニーズが高まっている。

商品写真を一般ユーザーに撮影してもらう「アンバサダー」は、想像以上に集まる写真のクオリティが高いことから、コスメやアパレル、インテリア用品など女性向け商材を扱うメーカーからは重宝されているようだ。

「アンバサダー」で集められた、富士フイルムの化粧品「アスタリフト」の写真たち

江藤さんは「自分たちでは映える写真が撮れない、あるいはプロに頼んでも思ったようなものが出てこない、という悩みは想像以上に多いらしい」と印象を話す。

SNSとの親和性が高い写真が多いため、広告業界からのニーズも大きい。「フォトコンテストを活用して写真を100枚単位で購入し、ウェブ広告のA/Bテスト(複数の広告で反応を見て、効果が高いものに絞り込んでいくテスト)に使っている広告代理店も何社かあります」と江藤さん。なるほど、その集め方は賢い活用法に感じる。

いいね!数は、もはやアテにならない?

プロが最新機材で撮った写真よりも、素人がスマホで写した一枚がInstagramでは効果的……言い換えれば「いいね!」を集められる期待が持てる画像にこそ価値が付くなか、Snapmartはどれほど個人の“ワンチャン”をサポートしているのだろうか。

江藤さんによれば、マーケットプレイス、フォトコンテスト、ブツ撮り代行サービスを全て合わせて「月20万円以上を稼いでいる方もいます」とのこと。写真だけなら「8月は3万円ほど売り上げた方も」いるそうだ。それだけ聞くと、プロカメラマンの仕事を脅かすほどではないという印象だが、副収入としてはありがたい額でもある。

マーケットプレイスに集まる写真。こちらは、メディア、ブロガー、アフィリエイターなどから支持され、風景をはじめとした自然写真がよく売れる。

Snapmartでは日頃からInstagramで「映える写真を撮る人」のスカウトも進めている。着目点は、あくまで投稿する写真の“質”だそう。

「読者モデル寄りのインフルエンサーなど、若い女性にはフォロワーを買っている人も思った以上に多いなと感じています。SNSではコンテンツが命なので、内容が良い人は自然にフォロワーが増えていくはずですから、基本的にはスカウトでも質を見ます。Snapmartが協力しているインスタグラマーさんには、フォロワーを買っているような人はほぼいないと思っています」と江藤さんは言う。

ちなみに、フォロワーを買っている人を見抜く方法を聞いてみると「いいね!数だけでなく、コメントの付き方や内容を見ますね。フォロワーを買っている人はコメント欄が生きていません。今はいいね!も買えるので、写真単位のいいね!数は、もはやアテにはなりません」と教えてくれた。

(そうそう、いいね!があっさり買えたのは、この記事でもわかりましたものね……)

「一億総ワンチャン時代」をこれからも続けていくために

どうやらAさん、そして江藤さんから共通して出た「投稿の“質”」が、次なるキーワードになりそうだ。

さらに、あなたがインフルエンサーを目指したいのであれば、「いいね!やフォロワーを買っている」なんて疑わしき判定をされないように、コンテンツの質とともに「コメント欄」にも気を払う必要が出てきた。ファンからしても気に入った写真があれば、積極的にコメントを残してあげるのがいいのかもしれない。

そう思うと、2017年からのSNSを舞台にした「一億総ワンチャン時代」では、単なる数値よりもコメントの投稿率、あるいは投稿をきっかけにしたファンの参加率といった、「スマホの先にいる個人の顔が見えること」にさらなる注目が集まっていくのだろう。

ただ、前述のAさんは、フォロワーを買うインフルエンサーのことも、決して一遍どおりに「悪」とはいえないと話してくれた。僕もそれを聞いて頷くところがあった。

Aさん フォロワーを買う人について、個人的には善とも悪とも思っていません。フォロワーが多いというのは「顔が可愛い」「話が面白い」と同じように「ポジティブな個性」となっていますから、広告主を含めた起用する側、彼らを見るフォロワー側がどう判断するかが大事ではないでしょうか。

最近はフォロワー買いがバレた途端に、一気に炎上して非難されることが多くあるように感じています。でも、非難する人たちも不正がわかる前は、その人が言っていることを鵜呑みにしているし、楽しんでコンテンツを見ていることも多い。

それなのに、(数字としての説得力とは関係なく)楽しい、素敵だと思った自分の気持ちや過去の発言は棚に上げて、不正があった瞬間に親の仇のごとく非難するのはどうなのだろう……と思っています。

たしかにズルもできるけれど、そのぶん可能性がたくさんあるのが今のインターネットだと思うんです。それならもっと楽しむべきだし、ちょっとした自分の発言や相手に届ける言葉は、リアルで言ったり伝えたりするのとなんら変わりはない。

もっと「インターネットはリアルの延長線上である」という意識をたくさんの人が持ってくれればいいのにな、と感じています。

まぁ……Aさんは延長線上と言うけれど、リアルはたいていクソみたいなことが多い。ネットのように自分の魅力を装ったり、他の誰かみたいになれたりしないし、せいぜいセルフィーで写真を盛ったりするくらいしかできない。

ネットではめちゃくちゃ影響力があっても、リアルではほんとうに「ただの人」ということだって全然ある。顔出しをしていないTwitterアカウントの人なんかは特にそうだろう。

いいね!を数百円で買ったり、実際の暮らしとは関係ない映える写真を撮ったり、ネットでは影響力や魅力をやすやすと装える。でも、どうにもならないリアルよりも、ネットはずっと「ワンチャン」を目指しやすいっていうのは、僕は結構いいことだと思った。

誰にでも与えられたそのチャンスをみんなで活かすためには、Aさんの言うように「リアルの延長線上」としての関係を築きながら、ネットらしい振る舞いをしていけるバランス感覚が必要なんだろう。それができれば一億総ワンチャン時代はまだまだ続けられる。きっと。

特集「インターネット卍ジェニック 〜一億総ワンチャン時代〜」


KAI-YOU.netが送る特集第2弾「インターネット・ジェニック 〜一億総ワンチャン時代〜」を、およそ一ヶ月にわたって更新。

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:1297)

記事はやや好意的にしめられてるが、要するに、お金、しかも小銭で手軽にマウント取れる時代を心から楽しめるかどうか