登場から来年で25周年を迎えるトレーディングカードゲーム『Magic: The Gathering』。
これまでKAI-YOUでは、市川ユウキさん、藤田剛史さんという2人のプレイヤーに取材を行い、プロプレイヤーという立場の責任や思想を聞いた。
今回は、『Magic: The Gathering』プロプレイヤー界で、日本でNo.1のイケメンプレイヤーと称される、Team Cygamesの山本賢太郎さんと、ロックバンド・オワリカラのフロントマンで『Magic』復帰勢として日々ドラフトに勤しむタカハシヒョウリさんの対談をお届けする。
『Magic』を復帰したてで、いま一番楽しい時期のタカハシさんと、「このゲーム、きつい」とGP神戸の大会合間の取材中に本音を語った山本賢太郎さん。
なぜ彼らは『Magic: The Gathering』を続けているのか? その理由に迫る。
取材・文:タカハシヒョウリ 編集:米村智水
山本 そうです。同世代ですね!
タカハシ 実は僕の周りの人たちも「そういえばむかし『Magic』やってたなぁ」という感じで復帰する人が結構多いんです。それで同世代の人にインタビューができたらいいなぁと思いまして。
山本 確かに僕らが中学生高校生ぐらいに、凄い流行ってましたよね。
タカハシ ちなみに山本さんが『Magic』をはじめたのはいつ頃なんですか?
山本 俺は中学校2、3年か──ちょっと思い出せないんですけど元々は『遊戯王OCG デュエルモンスターズ』をプレイしてたんです。そこで弟が、こっちの方が面白いからこっちをやろうよって持ってきたのが『Magic』だったんです。
タカハシ あ、弟さんからなんですね。『Magic』って上の人から教わることのほうが多いイメージなんで、意外です。
山本 確かに。弟がどこから持ってきたのか分からないけど、それでめちゃくちゃハマって、『遊戯王』よりも全然面白いなぁと思って、そこからずっとやっていますね僕は。
タカハシ 空白期間はない?
山本 トーナメントというか、こういうグランプリとかプロツアーのような競技性の高い大会に行かなかった時期はあるんですけど、それでも周りの友達とドラフトとかは欠かさずやっていました。だから引退みたいな時期はいままで一度もないんです。
タカハシ そんな長く続けているんですね。中高生の時ならまだしも、僕らの世代だと遊んでいる人が周りにいないって人も多いと思うんです。山本さんの周りには割といたんですか?
山本 元々『遊戯王』を友達とやってたから、僕がみんなにこれやろうよ! と言って巻き込んでいきましたね。最初はみんなやってくれたんですけど、1年経たないうちに俺だけになっちゃって、そこからはショップ行ってましたね(笑)
僕は池袋が近かったので、たくさんある池袋のショップに通って仲間を見つけて。そこから人脈ができた感じです。
タカハシ グランプリとかにガンガン参加するようになったのはいつぐらいからですか?
山本 20歳超えてからですね。
タカハシ 大昔なんですけど、僕は高校生ぐらいの時に一回出たことがあるんです。横浜であったんですよ(グランプリ横浜 03)。
ブロック構築っていう、狭いエキスパンション内の構築戦だったんですけど、金もないのに参加費だけなんとか調達して、デッキとかもありのままというか手持ちだけで組んで一回でました(笑)。
単純に優勝したから収入は増えてるけど、レベル的には上がってない……。というか下がってるんでむしろ……。
*1 プラチナ
プロツアー・ポイントを獲得しているプレイヤーに特典を用意する制度「プロプレイヤーズ・クラブ」トップ階級。プラチナ、ゴールド、シルバーの順に階級が高く、グランプリやプロツアー参加の際に様々な特典や報酬を受けることができる。強い。
タカハシ でも、実際に優勝している。他のプレイヤーに対して自分がどの部分だったら勝ってるという感覚はあったりしますか?
山本 他の仕事はしていないので、他のプレイヤーに比べても俺は時間が取れることかなあ。
タカハシ 山本さんは謙遜すると思うんですが、イケメンプレイヤーってよく言われていますよね。『Magic』って女性人口がすごく少ないので、アイドル的な立ち位置で、何かきっかけをつくれることもあると思うんです。
山本 それはただただきついっすね(笑)。他の人に頑張ってもらいたいなと、俺は俺だけ勝てればいいと思っていますよ。
なんか表向きには良いことを言っていても、みんな腹の底は、自分だけ勝てればいいと思ってる。特にプロはそういう生き物です。
山本 単純にヨーロッパとかアメリカってレベルが高いんですよ、アジアとかに比べて全然。アジアとか日本って、上の層が渡辺雄也さんとか八十岡翔太さんとか、世界でもトップクラスと言われている、『Magic』を代表するプレイヤーはいるんですけど、その下の中間層があまりいないんです。
プラチナという最高待遇のプレイヤーが世界には何人かいて。その下がゴールドみたいな、2番目の位なんですけど「世界トップクラスではないけどけっこう強い奴ら」があんまりアジアにはいないんです。逆にアメリカとヨーロッパはその辺がゴロゴロしている。だから単純にコストも高いし、期待値が良くないとか。
タカハシ 非常にロジカルで戦略的な考え方ですね。日本人はカードゲーム好きっていう、国民性というかカードゲームが合うっていう精神性みたいなものは感じますか?
山本 それはあると思います。『遊戯王OCG』とかの存在がデカイんじゃないかと。TCGがアニメとか漫画とタイアップして、キャラクタービジネスとしても広く展開していますよね。アメリカやほかの国では、そういうカードゲームがあまりないから。
タカハシ チームで戦績を競うというのは面白いですね。一体感とかも生まれそうで。
『Magic』ってコミュニケーションツールとしても機能すると思うんですよね。むしろ今の『Magic』はそこにもっと可能性があるような気もしています。
現在は勝負事としてのイメージが強いと思うんですけど、もっとリミテッドみたいな遊び方が普及したら、意外とカジュアルな遊びになる可能性があるかなと思っているんです。
山本 そうですね。その可能性は無限大だと思います!
実は僕もリミテッドが一番好きなんです。単純に遊び方として一番面白いと思ってる。最近はあんまり流行ってないみたいなので、もっと大会でも取り入れてほしいなと思っています。
タカハシ カジュアルに遊べますもんね、数千円で。
山本 デッキを組むのって時間的にも金額的にもコストが高いじゃないですか、それに相手もちゃんと同じような強さのデッキ、フォーマットで用意しないといけないとか。ドラフトだったらパックを1000円で買ってその場でやるだけですからね。
タカハシ 今でもドラフトはけっこうやるんですか?
山本 友達とかとはたまにやります。夜とか、友達の家に集まって6人ぐらいで3対3のチーム戦でドラフトをしたりとか、今でもやりますよ。
タカハシ コミュニケーションツールとしての『Magic』みたいな話で──参加ハードルが高い理由の一つとして、プレイマナーが悪い人とあたって離れる人もいると思うんですよね。勝ちたい!って欲がプレイマナーに出ちゃってる人がいる気がしていて。
山本 あー確かに(笑)。
タカハシ 山本さんはプレイマナーが悪い人と当たったとしたら、どうしますか?
山本 ぞんざいな宣言とか適当にされたら、それは腹が立つというか単純に不愉快になりますよね。
でも、適当に宣言とかズボラな感じで対応されても、対戦相手は彼なりに気を使ってるはずだよなあと僕は思っていて。そういう前提があるから、そんなに気にしないかも。けどそういう人がいるから入りづらいというか、新規のプレイヤーがショップに行きづらいっていうのはあるのかもしれないですね。
タカハシ あと、先ほどインタビューさせてくださいとお話しさせてもらったじゃないですか?
その時に山本さんは「終わったら全然大丈夫ですよ」みたいな感じだったじゃないですか。あれって俺からするとすごい。これから試合があって、今も真剣勝負を繰り広げた直後で。
さっき試合を後ろからずっと見てたんですけど、見てるこっちがめちゃくちゃ緊張するぐらい、試合は緊迫してる。でも、山本さんはすごい余裕というか、合間にインタビューとか受けられるものなんですかね? 試合と試合の間っていうのは完全にスイッチが切り変わっているものなんですか? 山本 もう、ずーっと『Magic』というゲームをやり続けてて、大会とかも何百回も出ていますからね。だから日常に直結しているみたいな感覚になってるんですよね。
でも緊張はしますよ、特にフィーチャー・マッチ(*2)での試合とかは、意外とすごい緊張してます(笑) *2 フィーチャー・マッチ
大きなトーナメントで見られる、観客も対戦を閲覧できるように用意された特別席での対戦。その席での対戦模様は生配信されたり、後ほど対戦記録が記事になることもある。その大会で勝ち進んでいるプレイヤーが呼ばれることが多く、プロプレイヤーもその席で対戦することが多い。緊張する。
タカハシ 山本さんの時、すごい人数のギャラリーに囲まれてましたもんね。
山本 そうですね。あれもなんか、最初はすごい緊張してたんですけどちょっと慣れてきましたね。
山本 難しいですね。仕事では間違いなくないけど──ただの遊びでもない、難しい。僕にとって『Magic』は『Magic』でしかない。他にとってかわるような言葉がないんですよね。
タカハシ なるほど。何か違うことやりたいなとか、しばらく辞めたいなみたいに思った時期ってこれまでにありましたか?
山本 いや思いますよ、毎日思ってます。このゲームきついなぁって(笑)。ただ他のことをやってみても、『Magic』ほど面白くないし、すぐにこのゲームのこと考えてしまうんです。だから、もうちょっとやり切れるだけやって、それから他のことをしてみようかなと思ってます。
タカハシ 例えば『Magic』をやってるとき「勝負に勝つ」「良いデッキができる」とかいろんな瞬間があるじゃないですか。一番脳が沸騰する瞬間とうか「ウワー!」となる時はいつですか?
山本 負ける時ですね(笑)。負けると、ものすごく腹が立ってしまう。勝った時って実は嬉しいというか、ほっとするみたいな感覚が近いんです、だから勝利してもそこまで感情は動かないんですけど。負けるとすごい腹立つんで。それが一番感情が動きますね……。
タカハシ それはある意味『Magic』への原動力になっている? 負けず嫌いなところが元々あるんでしょうか?
山本 このゲームだけです、負けず嫌いになるのは本当に。このゲームで負けるのが一番腹立つんで。でも、だからやってるっていうのは確かにありますね。 タカハシ 一方で、運の要素があるゲームじゃないですか。例えば八十岡翔太さんにも聞いたことがあるですけど、運と実力の割合は、何割何割だと思いますか?
山本 参加する大会によってけっこう違うんと思うんですけど──プロツアーとかグランプリとか、もうちょっと下のPPTQ(*3)とかの大会の種類でけっこう違ってくると思っています。下にいけばいくほど、実力と運の割合は実力の方が高くなってくる。
誰でも参加できるグランプリだったら6(実力):4(運)ぐらい。プロツアーとか世界選手権のようにハイレベルなプレイヤーが揃うと、お互いミスんないし、お互いが強い前提で動くので、そうすると運の差がけっこう出てくるかなぁと僕は思ってます。
運の流れとか、意識しないようにしてるんですけど、それでも感じてしまう時はありますね。オカルトじゃないけど、非科学的な”流れ”みたいなのは気にしないようにしても、感じる時はありますよ。
*3 PPTQ
プロツアー予備予選(Preliminary Pro Tour Qualifier)のこと。プロツアー地域予選(RPTQ)への参加権を得るための予選大会。予選の予選。ルール適用度は「競技レベル」となり、競技として『Magic』をプレイする人間にとっては腕試しの場であり、登竜門だといえる。プロツアー参加への第一歩。
タカハシ 明らかに”流れ"が来ない時ってあったりしますよね(笑)。それを断ち切るジンクスみたいなのってあったりします? 意識の切り替え方とか。
山本 ジンクスはないですね。今日はアカンなって思った時に、僕は特に何もしないんで、それが良くないのかもしれない(笑)。その切り替えが上手い人いますよね。プロの中だと市川ユウキくんとか、そういう切り替えがうまそうってイメージです(笑)。
山本 毎日5、6時間ぐらいなので、1日の4分の1とか5分の1ぐらいかな。
タカハシ それは今までのキャリアの中で多いほうなのでしょうか? それともずっとそれぐらいを続けてる?
山本 一時期はもっと多かったですよ。プロになる前はひたすら一日10時間ぐらいやってて、その時が一番『Magic』をやってました。学生の時でも、毎日はやってなかったかな。週末に友達と会って、そこから10時間ぐらいやるイメージ。
タカハシ 逆になんで時間が減ってたんですか?
山本 いまの自分だと、『Magic』だけをやってても伸びしろがあんまないかなと。初心者の頃ってやればやるだけ伸びるんですけど。プロぐらいにいくと、『Magic』をやればやるだけ返ってくるものでは段々なくなってくるというか、上達の幅が減ってくるんですね。だから筋トレとか(笑)、フィジカルな部分を強くした方が勝てると思いますね。実際、『Magic』の大会は長丁場で、体力的にも精神的にもハードですからね。
タカハシ なるほど、それはいいですね(笑)。筋トレしてるんですか?
山本 あんまりしてないっすけど、ちょっとしてます!
タカハシ 例えば『Magic』以外のゲームは遊んだりするんですか?
山本 いや、基本的にはやらないですね。
タカハシ 例えば『Magic』が好きな人って格ゲー好きな人とか、ボードゲーム好きな人とかいるじゃないですか そういう感じではないんですか?
山本 僕は本当に、ゲームはこれしかやらないです。
タカハシ 『Magic』や戦略ゲームってその時々で常に最適なものを選んで、自分を有利にしていくゲームですよね。でも山本さんは、Twitterで「プロの人ってそれを実生活に活かせてない」みたいなことを言ってましたよね。
山本 なんか生きるの下手くそな人多いなっていうのが──単純な率直な感想というか(笑)。もう人間関係とかもそうなんですけど、上手いやり方あるやろみたいな。
タカハシ 世間のカードゲームの印象とも一致する部分かもしれませんね。。ちょっとオタクっぽい人が多いというイメージと近いかも。。
山本 『Magic』が上手い人は、基本的に他のことも上手い。考え方が基本的には有利になろう、有利になろうみたいな考え方で生きているはずなんで、だからもうちょっとうまくいきそうな気がするというか、はたから見ると思うんですけどね。
タカハシ でもカードと人は、また違いますからね。
山本 違うんですよね、頭の中では分かってるんですけど。
タカハシ ご自分も含めておっしゃってましたよね?
山本 僕ももうちょっとやりようはあったやろみたいなことは思いますけどね(笑)。
タカハシ 自分、これめっちゃカードゲーム脳だなぁって思うときってあります?
山本 カードゲーム脳か……まあでも単純にお金ですよね。お金じゃなくてもはっきりとした数字で出るものは。多い方に多い方にって思う。まあそれは誰でもそうか(笑)。
タカハシ アドってことですか(笑)。
でも僕も『Magic』そんなに続けて長くはやってないんですけど、『Magic』をやるようになってからは、食べ物の値段とか、アドの概念がちょっと芽生えてきた感があります(笑)
山本 『Magic』は、すごい面倒くさい──時間や金銭的なコストもかかるし、相手も見つけなきゃいけないんですけど、でもゲームとしてはめちゃめちゃ面白いんです。
今、他のデジタルカードゲームとかから入って、次にもうちょっとなんか、本格的にカードゲームをやりたいなと思った人は、多少のコストを払ってでも参入して欲しいって気持ちはありますね。
タカハシ 色んなゲームがある中で、『Magic』が一番面白いと思う理由ってなんなんでしょうか?
山本 競技性の高さというか、大会がどんどんステップアップしてく感覚。グランプリに最初出て、それに勝ったからプロツアーに呼ばれて、プロツアーで勝てば世界選手権にも出れるみたいな、ステップアップして自分の周りの環境も変わっていくみたいな──そういう環境が整備されて、ちゃんと用意されているのってカードゲームだったら『Magic』くらいなんですよね。 タカハシ 最後、女性プレイヤーに対して何か……。どうにかして増やせないですかね><
山本 それはあの、晴れる屋さんとかに頑張ってもらって……晴れる屋では、レディワンっていう女性限定の大会を開催したりしているんです。女性同士で遊べる大会っていうのも安心感もあるし、すごい面白いと思います。まぁ頑張ってくれっていう、もうちょっと増やしてくれっていう感じですね(笑)
特集の記事の一覧は特設ページから。続々更新していきますので、ご期待下さい。
これまでKAI-YOUでは、市川ユウキさん、藤田剛史さんという2人のプレイヤーに取材を行い、プロプレイヤーという立場の責任や思想を聞いた。
今回は、『Magic: The Gathering』プロプレイヤー界で、日本でNo.1のイケメンプレイヤーと称される、Team Cygamesの山本賢太郎さんと、ロックバンド・オワリカラのフロントマンで『Magic』復帰勢として日々ドラフトに勤しむタカハシヒョウリさんの対談をお届けする。
『Magic』を復帰したてで、いま一番楽しい時期のタカハシさんと、「このゲーム、きつい」とGP神戸の大会合間の取材中に本音を語った山本賢太郎さん。
なぜ彼らは『Magic: The Gathering』を続けているのか? その理由に迫る。
取材・文:タカハシヒョウリ 編集:米村智水
『遊戯王』をやってた友だちを誘ったけどみんな辞めてしまった
タカハシ 僕の世代だと、子供の頃に『Magic』をやってて、最近どうなってんだ?って気になってる人が多いんですよね。僕は1985年生まれなんですけど、山本さんは84年ですよね?山本 そうです。同世代ですね!
タカハシ 実は僕の周りの人たちも「そういえばむかし『Magic』やってたなぁ」という感じで復帰する人が結構多いんです。それで同世代の人にインタビューができたらいいなぁと思いまして。
山本 確かに僕らが中学生高校生ぐらいに、凄い流行ってましたよね。
タカハシ ちなみに山本さんが『Magic』をはじめたのはいつ頃なんですか?
山本 俺は中学校2、3年か──ちょっと思い出せないんですけど元々は『遊戯王OCG デュエルモンスターズ』をプレイしてたんです。そこで弟が、こっちの方が面白いからこっちをやろうよって持ってきたのが『Magic』だったんです。
タカハシ あ、弟さんからなんですね。『Magic』って上の人から教わることのほうが多いイメージなんで、意外です。
山本 確かに。弟がどこから持ってきたのか分からないけど、それでめちゃくちゃハマって、『遊戯王』よりも全然面白いなぁと思って、そこからずっとやっていますね僕は。
タカハシ 空白期間はない?
山本 トーナメントというか、こういうグランプリとかプロツアーのような競技性の高い大会に行かなかった時期はあるんですけど、それでも周りの友達とドラフトとかは欠かさずやっていました。だから引退みたいな時期はいままで一度もないんです。
タカハシ そんな長く続けているんですね。中高生の時ならまだしも、僕らの世代だと遊んでいる人が周りにいないって人も多いと思うんです。山本さんの周りには割といたんですか?
山本 元々『遊戯王』を友達とやってたから、僕がみんなにこれやろうよ! と言って巻き込んでいきましたね。最初はみんなやってくれたんですけど、1年経たないうちに俺だけになっちゃって、そこからはショップ行ってましたね(笑)
僕は池袋が近かったので、たくさんある池袋のショップに通って仲間を見つけて。そこから人脈ができた感じです。
タカハシ グランプリとかにガンガン参加するようになったのはいつぐらいからですか?
山本 20歳超えてからですね。
タカハシ 大昔なんですけど、僕は高校生ぐらいの時に一回出たことがあるんです。横浜であったんですよ(グランプリ横浜 03)。
ブロック構築っていう、狭いエキスパンション内の構築戦だったんですけど、金もないのに参加費だけなんとか調達して、デッキとかもありのままというか手持ちだけで組んで一回でました(笑)。
プロとしての年収が150万円しかない、というリアル
タカハシ 2014年ごろ、「プロとしての年収が150万円ってやばい」みたいなことを山本さんが晴れる屋の記事で書いてたの読んだんですよ。でも、そこから2016年は「グランプリ千葉」で優勝するじゃないですか。ここ数年でスゴいステップアップしたということですよね。 山本 その時は、ガチで年収150万円ぐらいでしたね……。でも、あの時はプラチナ(*1)だったんですよ。今はゴールドなんで、プレイヤーとしてランク自体は下がってしまっているんです。なのでステップアップしたという感じではないですね。単純に優勝したから収入は増えてるけど、レベル的には上がってない……。というか下がってるんでむしろ……。
*1 プラチナ
プロツアー・ポイントを獲得しているプレイヤーに特典を用意する制度「プロプレイヤーズ・クラブ」トップ階級。プラチナ、ゴールド、シルバーの順に階級が高く、グランプリやプロツアー参加の際に様々な特典や報酬を受けることができる。強い。
タカハシ でも、実際に優勝している。他のプレイヤーに対して自分がどの部分だったら勝ってるという感覚はあったりしますか?
山本 他の仕事はしていないので、他のプレイヤーに比べても俺は時間が取れることかなあ。
タカハシ 山本さんは謙遜すると思うんですが、イケメンプレイヤーってよく言われていますよね。『Magic』って女性人口がすごく少ないので、アイドル的な立ち位置で、何かきっかけをつくれることもあると思うんです。
山本 それはただただきついっすね(笑)。他の人に頑張ってもらいたいなと、俺は俺だけ勝てればいいと思っていますよ。
なんか表向きには良いことを言っていても、みんな腹の底は、自分だけ勝てればいいと思ってる。特にプロはそういう生き物です。
日本の特殊なTCG事情とは?
タカハシ なるほど……面白かったのが、グランプリは国内とかアジアしか回りたくないって言ってらっしゃいましたよね。それはどういう理由なんでしょうか?山本 単純にヨーロッパとかアメリカってレベルが高いんですよ、アジアとかに比べて全然。アジアとか日本って、上の層が渡辺雄也さんとか八十岡翔太さんとか、世界でもトップクラスと言われている、『Magic』を代表するプレイヤーはいるんですけど、その下の中間層があまりいないんです。
プラチナという最高待遇のプレイヤーが世界には何人かいて。その下がゴールドみたいな、2番目の位なんですけど「世界トップクラスではないけどけっこう強い奴ら」があんまりアジアにはいないんです。逆にアメリカとヨーロッパはその辺がゴロゴロしている。だから単純にコストも高いし、期待値が良くないとか。
タカハシ 非常にロジカルで戦略的な考え方ですね。日本人はカードゲーム好きっていう、国民性というかカードゲームが合うっていう精神性みたいなものは感じますか?
山本 それはあると思います。『遊戯王OCG』とかの存在がデカイんじゃないかと。TCGがアニメとか漫画とタイアップして、キャラクタービジネスとしても広く展開していますよね。アメリカやほかの国では、そういうカードゲームがあまりないから。
チームの楽しさ、コミュニケーションツールとしての『Magic』
タカハシ Team Cygamesに所属する一人のプレイヤーという顔以外にも、山本さんはMusashiというプロチームをリーダーとして率いていますが、TCGって一人で没頭する文化というイメージも一方ではあります。仲間と協力してプレイすることに重きを置いてるのはどういう感覚ですか? 山本 高校とか、クラスの文化祭みたいなイメージが近いです。他のクラスよりちゃんとしたものをつくろうぜ! みたいな。プロツアーでチームシリーズという仕組みがはじまって。それはチームごとで競うようになって、勝ったらお金がもらえるみたいなシステムなんです。タカハシ チームで戦績を競うというのは面白いですね。一体感とかも生まれそうで。
『Magic』ってコミュニケーションツールとしても機能すると思うんですよね。むしろ今の『Magic』はそこにもっと可能性があるような気もしています。
現在は勝負事としてのイメージが強いと思うんですけど、もっとリミテッドみたいな遊び方が普及したら、意外とカジュアルな遊びになる可能性があるかなと思っているんです。
山本 そうですね。その可能性は無限大だと思います!
実は僕もリミテッドが一番好きなんです。単純に遊び方として一番面白いと思ってる。最近はあんまり流行ってないみたいなので、もっと大会でも取り入れてほしいなと思っています。
タカハシ カジュアルに遊べますもんね、数千円で。
山本 デッキを組むのって時間的にも金額的にもコストが高いじゃないですか、それに相手もちゃんと同じような強さのデッキ、フォーマットで用意しないといけないとか。ドラフトだったらパックを1000円で買ってその場でやるだけですからね。
タカハシ 今でもドラフトはけっこうやるんですか?
山本 友達とかとはたまにやります。夜とか、友達の家に集まって6人ぐらいで3対3のチーム戦でドラフトをしたりとか、今でもやりますよ。
タカハシ コミュニケーションツールとしての『Magic』みたいな話で──参加ハードルが高い理由の一つとして、プレイマナーが悪い人とあたって離れる人もいると思うんですよね。勝ちたい!って欲がプレイマナーに出ちゃってる人がいる気がしていて。
山本 あー確かに(笑)。
タカハシ 山本さんはプレイマナーが悪い人と当たったとしたら、どうしますか?
山本 ぞんざいな宣言とか適当にされたら、それは腹が立つというか単純に不愉快になりますよね。
でも、適当に宣言とかズボラな感じで対応されても、対戦相手は彼なりに気を使ってるはずだよなあと僕は思っていて。そういう前提があるから、そんなに気にしないかも。けどそういう人がいるから入りづらいというか、新規のプレイヤーがショップに行きづらいっていうのはあるのかもしれないですね。
タカハシ あと、先ほどインタビューさせてくださいとお話しさせてもらったじゃないですか?
その時に山本さんは「終わったら全然大丈夫ですよ」みたいな感じだったじゃないですか。あれって俺からするとすごい。これから試合があって、今も真剣勝負を繰り広げた直後で。
さっき試合を後ろからずっと見てたんですけど、見てるこっちがめちゃくちゃ緊張するぐらい、試合は緊迫してる。でも、山本さんはすごい余裕というか、合間にインタビューとか受けられるものなんですかね? 試合と試合の間っていうのは完全にスイッチが切り変わっているものなんですか? 山本 もう、ずーっと『Magic』というゲームをやり続けてて、大会とかも何百回も出ていますからね。だから日常に直結しているみたいな感覚になってるんですよね。
でも緊張はしますよ、特にフィーチャー・マッチ(*2)での試合とかは、意外とすごい緊張してます(笑) *2 フィーチャー・マッチ
大きなトーナメントで見られる、観客も対戦を閲覧できるように用意された特別席での対戦。その席での対戦模様は生配信されたり、後ほど対戦記録が記事になることもある。その大会で勝ち進んでいるプレイヤーが呼ばれることが多く、プロプレイヤーもその席で対戦することが多い。緊張する。
タカハシ 山本さんの時、すごい人数のギャラリーに囲まれてましたもんね。
山本 そうですね。あれもなんか、最初はすごい緊張してたんですけどちょっと慣れてきましたね。
『Magic』は『Magic』だとしか言いようがない
タカハシ さっき「遊び」っていうワードが出ましたが、山本さんにとって『Magic』は遊びの延長という感じですか? それとも仕事?山本 難しいですね。仕事では間違いなくないけど──ただの遊びでもない、難しい。僕にとって『Magic』は『Magic』でしかない。他にとってかわるような言葉がないんですよね。
タカハシ なるほど。何か違うことやりたいなとか、しばらく辞めたいなみたいに思った時期ってこれまでにありましたか?
山本 いや思いますよ、毎日思ってます。このゲームきついなぁって(笑)。ただ他のことをやってみても、『Magic』ほど面白くないし、すぐにこのゲームのこと考えてしまうんです。だから、もうちょっとやり切れるだけやって、それから他のことをしてみようかなと思ってます。
タカハシ 例えば『Magic』をやってるとき「勝負に勝つ」「良いデッキができる」とかいろんな瞬間があるじゃないですか。一番脳が沸騰する瞬間とうか「ウワー!」となる時はいつですか?
山本 負ける時ですね(笑)。負けると、ものすごく腹が立ってしまう。勝った時って実は嬉しいというか、ほっとするみたいな感覚が近いんです、だから勝利してもそこまで感情は動かないんですけど。負けるとすごい腹立つんで。それが一番感情が動きますね……。
タカハシ それはある意味『Magic』への原動力になっている? 負けず嫌いなところが元々あるんでしょうか?
山本 このゲームだけです、負けず嫌いになるのは本当に。このゲームで負けるのが一番腹立つんで。でも、だからやってるっていうのは確かにありますね。 タカハシ 一方で、運の要素があるゲームじゃないですか。例えば八十岡翔太さんにも聞いたことがあるですけど、運と実力の割合は、何割何割だと思いますか?
山本 参加する大会によってけっこう違うんと思うんですけど──プロツアーとかグランプリとか、もうちょっと下のPPTQ(*3)とかの大会の種類でけっこう違ってくると思っています。下にいけばいくほど、実力と運の割合は実力の方が高くなってくる。
誰でも参加できるグランプリだったら6(実力):4(運)ぐらい。プロツアーとか世界選手権のようにハイレベルなプレイヤーが揃うと、お互いミスんないし、お互いが強い前提で動くので、そうすると運の差がけっこう出てくるかなぁと僕は思ってます。
運の流れとか、意識しないようにしてるんですけど、それでも感じてしまう時はありますね。オカルトじゃないけど、非科学的な”流れ”みたいなのは気にしないようにしても、感じる時はありますよ。
*3 PPTQ
プロツアー予備予選(Preliminary Pro Tour Qualifier)のこと。プロツアー地域予選(RPTQ)への参加権を得るための予選大会。予選の予選。ルール適用度は「競技レベル」となり、競技として『Magic』をプレイする人間にとっては腕試しの場であり、登竜門だといえる。プロツアー参加への第一歩。
タカハシ 明らかに”流れ"が来ない時ってあったりしますよね(笑)。それを断ち切るジンクスみたいなのってあったりします? 意識の切り替え方とか。
山本 ジンクスはないですね。今日はアカンなって思った時に、僕は特に何もしないんで、それが良くないのかもしれない(笑)。その切り替えが上手い人いますよね。プロの中だと市川ユウキくんとか、そういう切り替えがうまそうってイメージです(笑)。
『Magic』は日常生活にも影響を与える?
タカハシ ちなみに今生活の中で、『Magic』をやってる時間ってどれくらいですか?山本 毎日5、6時間ぐらいなので、1日の4分の1とか5分の1ぐらいかな。
タカハシ それは今までのキャリアの中で多いほうなのでしょうか? それともずっとそれぐらいを続けてる?
山本 一時期はもっと多かったですよ。プロになる前はひたすら一日10時間ぐらいやってて、その時が一番『Magic』をやってました。学生の時でも、毎日はやってなかったかな。週末に友達と会って、そこから10時間ぐらいやるイメージ。
タカハシ 逆になんで時間が減ってたんですか?
山本 いまの自分だと、『Magic』だけをやってても伸びしろがあんまないかなと。初心者の頃ってやればやるだけ伸びるんですけど。プロぐらいにいくと、『Magic』をやればやるだけ返ってくるものでは段々なくなってくるというか、上達の幅が減ってくるんですね。だから筋トレとか(笑)、フィジカルな部分を強くした方が勝てると思いますね。実際、『Magic』の大会は長丁場で、体力的にも精神的にもハードですからね。
タカハシ なるほど、それはいいですね(笑)。筋トレしてるんですか?
山本 あんまりしてないっすけど、ちょっとしてます!
タカハシ 例えば『Magic』以外のゲームは遊んだりするんですか?
山本 いや、基本的にはやらないですね。
タカハシ 例えば『Magic』が好きな人って格ゲー好きな人とか、ボードゲーム好きな人とかいるじゃないですか そういう感じではないんですか?
山本 僕は本当に、ゲームはこれしかやらないです。
タカハシ 『Magic』や戦略ゲームってその時々で常に最適なものを選んで、自分を有利にしていくゲームですよね。でも山本さんは、Twitterで「プロの人ってそれを実生活に活かせてない」みたいなことを言ってましたよね。
山本 なんか生きるの下手くそな人多いなっていうのが──単純な率直な感想というか(笑)。もう人間関係とかもそうなんですけど、上手いやり方あるやろみたいな。
タカハシ 世間のカードゲームの印象とも一致する部分かもしれませんね。。ちょっとオタクっぽい人が多いというイメージと近いかも。。
山本 『Magic』が上手い人は、基本的に他のことも上手い。考え方が基本的には有利になろう、有利になろうみたいな考え方で生きているはずなんで、だからもうちょっとうまくいきそうな気がするというか、はたから見ると思うんですけどね。
タカハシ でもカードと人は、また違いますからね。
山本 違うんですよね、頭の中では分かってるんですけど。
タカハシ ご自分も含めておっしゃってましたよね?
山本 僕ももうちょっとやりようはあったやろみたいなことは思いますけどね(笑)。
タカハシ 自分、これめっちゃカードゲーム脳だなぁって思うときってあります?
山本 カードゲーム脳か……まあでも単純にお金ですよね。お金じゃなくてもはっきりとした数字で出るものは。多い方に多い方にって思う。まあそれは誰でもそうか(笑)。
タカハシ アドってことですか(笑)。
でも僕も『Magic』そんなに続けて長くはやってないんですけど、『Magic』をやるようになってからは、食べ物の値段とか、アドの概念がちょっと芽生えてきた感があります(笑)
数あるゲームの中で、どうして『Magic: The Gathering』なのか?
タカハシ 今はすごい若い人っていうのは『Magic』に参入してくる人っていうのは割と少ないと思うんです。世代としては20代後半〜30代前半とかが多いかなと。。『Magic』をやったことないけど、『Magic』に興味がある人に、その面白さを伝えるとしたらどういう風に伝えますか?山本 『Magic』は、すごい面倒くさい──時間や金銭的なコストもかかるし、相手も見つけなきゃいけないんですけど、でもゲームとしてはめちゃめちゃ面白いんです。
今、他のデジタルカードゲームとかから入って、次にもうちょっとなんか、本格的にカードゲームをやりたいなと思った人は、多少のコストを払ってでも参入して欲しいって気持ちはありますね。
タカハシ 色んなゲームがある中で、『Magic』が一番面白いと思う理由ってなんなんでしょうか?
山本 競技性の高さというか、大会がどんどんステップアップしてく感覚。グランプリに最初出て、それに勝ったからプロツアーに呼ばれて、プロツアーで勝てば世界選手権にも出れるみたいな、ステップアップして自分の周りの環境も変わっていくみたいな──そういう環境が整備されて、ちゃんと用意されているのってカードゲームだったら『Magic』くらいなんですよね。 タカハシ 最後、女性プレイヤーに対して何か……。どうにかして増やせないですかね><
山本 それはあの、晴れる屋さんとかに頑張ってもらって……晴れる屋では、レディワンっていう女性限定の大会を開催したりしているんです。女性同士で遊べる大会っていうのも安心感もあるし、すごい面白いと思います。まぁ頑張ってくれっていう、もうちょっと増やしてくれっていう感じですね(笑)
特集「人生を変えるカードゲームの魔力」
KAI-YOU.netが送る特集第一弾「人生を変えるカードゲームの魔力」では、様々な切り口から記事を更新予定です。特集の記事の一覧は特設ページから。続々更新していきますので、ご期待下さい。
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