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連載 | #2 はるしにゃんの幾原邦彦論──運命とメンヘラと永遠と

はるしにゃんの幾原邦彦論 Vol.2 ウテナと革命の精神分析にゃん

はるしにゃんの幾原邦彦論 Vol.2 ウテナと革命の精神分析にゃん
私、はるしにゃんによる幾原邦彦を論じる原稿の連載第2回目では、『少女革命ウテナ』を取り上げる。

幾原邦彦が原案・監督をつとめた最初の作品でもある『ウテナ』は、1997年に放送され、いまなおカルト的な人気を誇り、アニメ史的にも重要な位置付けとされている。

ここでは、友情と恋愛をモチーフに「永遠の不可能性」を扱った『ウテナ』において、どのように革命が成就されたのか、その物語構造から2回にわけてひも解いていく。

連載記事

Vol.1 少女的理想と現実の狭間にゃん

永遠を欲望することで駆動する物語

「StarChild:少女革命ウテナ | BD-BOX」公式ページより

『ウテナ』は、王子様に(なりたいと)憧れる女性の主人公が、ヒロインを賭けて、ある閉鎖的な学園で繰り広げられる決闘ゲームに身を投じる様を描いている。

ひと言で言えば、主人公・天上ウテナとヒロイン・姫宮アンシーの「友情」を巡る関係性、桐生冬芽や西園寺莢一といった「決闘者=デュエリスト」たちとウテナの戦い、そして鳳暁生という「男性」=「零落した王子様」を巡る物語である。

デュエルを行う生徒会メンバーは語る。

卵の殻を破らねば、雛鳥は生まれずに死んでいく。我らが雛で、卵は世界だ。世界の殻を破らねば、我らは生まれずに死んでいく。世界の殻を破壊せよ、世界を革命するために! 1話「薔薇の花嫁」桐生冬芽のセリフより

これは、しばしば指摘されるように、独作家ヘルマン・ヘッセの『デミアン』からの援用である。

鳥は卵の中から抜け出ようともがく。卵は世界である。生まれ出んと欲するものは、一つの世界を破壊せねばならない。 ヘルマン・ヘッセ『デミアン』

ヘルマン・ヘッセ『デミアン』

精神医学的にはヘッセは、ユング派の分析心理学に大きな影響を受けている。分析心理学とは、精神分析の祖であるフロイトの弟子であったカール・グスタフ・ユングが創始した学問。簡単に言うと、人間には、個人的な無意識のみならず元型と呼ばれる普遍的イメージの倉庫のような普遍的無意識(集合的無意識)があると想定するものである。またその分析が求める最終的な過程が「個性化」、すなわち一種の自己実現である。

また、サブカルチャー史的には、ヘッセは日本において、24年組と呼ばれる竹宮惠子や萩尾望都といった少女漫画家に多大な影響を与え、彼女らがのちに「ショタ(少年愛もの)」や「BL(ボーイズ・ラブ)」と命名されるジャンルを準備したとされる。

さて、作中で、決闘を仕組んだ黒幕である「世界の果て」から届いた手紙によれば、この決闘ゲームの勝者は、姫宮アンシーを手に入れるとともに、何らかの形で「永遠」なるものを手に入れることができるという。

つまり、この物語は、「永遠」という、「幻想」にも似た、あるいは多くの場合幻想でしかないものを「欲望」することによって駆動する物語だ。

各人がそれぞれの思惑による欲望を胸にバトルを行い、それに勝ち抜いた者だけが何かを獲得する。これは、評論家・宇野常寛が、生き残りを賭けて各人の正義がぶつかる『DEATH NOTE』などに象徴的な「バトルロワイヤル系」と呼んだ潮流の先駆かもしれない。
【次のページ】ウテナの転覆性、永遠という幻想
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