ドラマ『御上先生』は“自己責任”の社会にあらがう 現代に必要な真のエリートとは?

ドラマ『御上先生』は“自己責任”の社会にあらがう 現代に必要な真のエリートとは?
ドラマ『御上先生』は“自己責任”の社会にあらがう 現代に必要な真のエリートとは?

日曜劇場『御上先生』/画像はドラマ公式Xより

TBS系列で放送中の日曜劇場『御上先生(みかみせんせい)』が毎週見逃せない。

官僚派遣制度により文科省から私立高校に赴任した御上孝と生徒たちの物語であるが、毎回、現実に横たわる問題が次々と出てきて、そこに説得力があるのだ。

今回はいよいよ迎える最終回に向けて、ドラマ『御上先生』が描いてきた複雑なテーマ──御上や生徒たちが直面する問題が、いかに社会や政治と接続し、作品として何を訴えようとしているのか──を整理したい。

劇中で何度も繰り返される「パーソナル・イズ・ポリティカル=個人的なことは政治的なことである」というメッセージの意味を、各エピソードを交えながら紐解いていく。

文:西森路代

『御上先生』はどんなドラマなのか?

『御上先生』の脚本を担当するのは、演劇界に主軸を置き、映画『新聞記者』で、第43回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した詩森ろばさん。プロデュースを、『アンチヒーロー』(2024年)、『VIVANT』(2023年)、『マイファミリー』(2022年)、『ドラゴン桜』(2021年)などの飯田和孝さんが務め、演出を宮崎陽平さんらが担当している。

1話のストーリーは、官僚派遣制度によって、私立高校である隣徳学院に御上孝(松坂桃李さん)が赴任したところから始まるが、御上の出向と同じ日、国家公務員採用総合職試験の会場で殺人事件が起こる……。

一方、隣徳学院の3年2組の担任となった御上は、生徒の一人である神崎拓斗(奥平大兼さん)がつくった校内新聞で、御上が天下りの斡旋をしたために学校に左遷されたと報じられてしまう。神崎は過去にも、教師同士の不倫を報じ、女性の冴島悠子(常盤貴子さん)だけが教師を辞めるという事態に発展していたのだった。

物語の中心人物の一人となる隣徳学院3年2組の生徒・神崎拓斗(奥平大兼さん)※左/画像はドラマ公式Xより

隣徳学院の生徒たちは、ほとんどの生徒が東大を目指していて、いわばエリートだが、御上は、社会的地位や収入のある人間がエリートなのではなく、それはしばしばネット上で揶揄される「上級国民」予備軍に過ぎないと指摘する。

そんなことを生徒たち、そして視聴者に対してはっきりと言うドラマが今まであっただろうかと、見ていて驚かされた。

御上のほかに登場するキャラクターも謎が多く魅力的だ。御上のクラスの副担任である是枝文香吉岡里帆さん)は、ドラマの『金八先生』に憧れ教師になった人物だ。真面目で教育に対しても理想を持って取り組んでいるが、厳しい親の反対にあい、隣徳学院ならば……ということで、親のコネで赴任してきたという背景がある。

御上から“スローロリス(可愛い顔をして毒を持つ猿)のように戦え”と言われる是枝文香(吉岡里帆さん)/画像はドラマ公式Xより

御上への助言役としても活躍する富永蒼(蒔田彩珠さん)/画像はドラマ公式Xより

そして毎回物語に関わってきて、いわば「回し役」のような性質を持っているのが、生徒のひとり、富永蒼(蒔田彩珠さん)だ。富永はゲームセンターで格闘ゲームをしていたところで御上と出くわし、ときおり御上と話をしている仲である。御上に一番忌憚なく思ったことを言える存在で、しかもそれが的を射ていて、御上にとっても救いとなっているのではないだろうか。

縦と横に走る、『御上先生』の複雑なテーマ

大筋としては、『御上先生』は、教師と生徒が共鳴しあいながら前に進んでいく学園ドラマだが、そのほかにもたくさんのテーマがちりばめられた作品である。

ひとつには、御上の所属している文科省には、たくさんの思惑がうずまいているということがある。特に、御上と同期の槙野恭介岡田将生さん)は、次期事務次官と噂される塚田幸村(及川光博さん)と共謀して、御上が天下りの斡旋をしたという無実の罪を着せて、隣徳学院に事実上の左遷をさせたのだった。

御上と同期の槙野恭介(岡田将生さん)と次期事務次官と噂される塚田幸村(及川光博さん)/画像はドラマ公式Xより

しかし、塚田の言いなりで汚れ仕事ばかりさせられているのに、いつ自分が塚田から切られるかわからない槙野も、徐々に葛藤を抱え始めている。後輩である津吹隼人(櫻井海音さん)は、今は槙野についているが、御上のことを慕っている部分もあった。

そんな津吹が、槙野と焼肉ばかり食べていて、しかも激務も関係しているのだろう、入院してしまうところは涙を誘うし、そこで彼の身体を気遣う槙野に、人間的な心があることも見て取れた。

赴任した御上が、文科省の槙野と津吹隼人(櫻井海音さん)と偶然遭遇する場面も/画像はドラマ公式Xより

・官僚試験での殺人事件の犯人、隣徳学院との因果

御上が隣徳学院に赴任したその日、官僚試験の会場では、殺人事件が起こっている。しかもその犯人は、隣徳学院の元教師・冴島悠子の娘である真山弓弦堀田真由さん)だった。冴島の不倫を新聞部の神崎が報じたことも事件に関係があり、御上や神崎も、犯人の真山の元に接見に通うのだった。

・御上の兄の死 保険の先生との関係

御上には兄がいたが、22年前、学校の放送室で声明文を読み、そこで自死を選択したという過去があった。彼は、中学から高校にあがるときの試験で、発達障がいであるという理由を元に進学できなかった生徒がいたことに抗議する、署名運動を行なっていた。

そのことについて、御上は「兄は歪な世界に合わせることができずに死んだ」と語っているし、御上が神崎や真山を放っておけないのは、彼らが兄に似ているからである。

実は、御上の兄と隣徳学院の養護教諭である一色真由美(臼田あさ美さん)は同級生で恋人関係にあり、一色は彼の死に立ち会っていた。彼女が御上に、「うちの学校に来て闇を暴いて」と助けを求めたことから、御上は動いているのだった。

御上の過去などが明かされる4話〜6話ダイジェスト

・学校内の権力構造と、政治家との癒着

隣徳学院の理事長である古代真秀(北村一輝さん)は、生徒にもフランクに接しているが、実は文科省の塚田や、永田町ともつながりがあった。

また、溝端完(迫田孝也さん)は、御上の担当する学年の主任だが、国家公務員試験に落ちた経歴があり、御上を煙たくも思っていて、しかも永田町の面々と密談するなど裏で動いていたりもする。

ドラマでは、このようにエリートを輩出する有名私立校と永田町との癒着も、モチーフとして描かれている。

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