「パーソナル・イズ・ポリティカル」を象徴する、隣徳学院の生徒たちが直面する問題
ほかにも毎回、高校の中で生徒たちが出くわす様々な問題についても描かれる。
・報道の本質を問う、神崎のエピソード
1話や2話では、神崎が校内新聞で報じたニュースが関わる殺人事件に関連して、報道の是非がクラスで議論される。
神崎は、「日本には記者クラブがあり、警察や国会で公式に発表された情報を元に、各社は横並びの記事をつくっている」ことを指摘。御上はそれを聞いて、「我が国の報道の自由は、G7の中で圧倒的最下位」であり、変えるべきシステムだと語る。
高校生の新聞報道の話ではあるが、子ども扱いせずに、報道とは何かを問うエピソードになっている。
神崎ら生徒と議論や対話を重ねていく御上/画像はドラマ公式サイトより
・教科書検定の是非と、ディベートの重要性
3話では、東雲温(上坂樹里さん)の父親をめぐるエピソードが描かれる。東雲の父は小学校の教諭であったが、定められた教科書を使わず、独自のテキストで児童に教えていたことが問題となり、学校を辞めてしまっていた。このことを発端に、生徒たちは学園祭で、教科書検定の是非について問う展示をするか否かというディベートを行う。
そんな中、帰国子女の生徒・倉吉由芽(影山優佳さん)は、アメリカでは意見を求められることが多いが、日本では、「言いたいことは、胸にしまっておかないと、空気読めない奴だって嫌われる。この国は本音と建て前の国なんだって思い知らされて、すごく怖くなった」「自分にとって大切なことほど飲み込む癖がついた」と語る。
別のディベートで御上は倉吉に、アメリカで原爆はどのように教えられていたかを尋ねたことをきっかけに、国ごとの教科書で、戦争がどのように描かれるかについてを示すことが重要な項目でもあるという議論になる。
3年2組の生徒たちは、そのこともふまえて教科書についての展示を行うことになるが、その展示を官僚や大臣が見ることになるのだった。
6話、7話では、現在の日本でも問題となっている「生理の貧困」や「ヤングケアラー」が取り上げられる。発端は、御上の教え子である椎葉春乃(吉柳咲良さん)がドラッグストアで生理用ナプキンを万引きしたことにあった。
彼女は、和菓子屋を営む祖父と二人暮らしで、その祖父が病気になったことから、祖父を介護するヤングケアラーになり、そのため貧困に陥ってしまったという背景が明らかになる。
退学の処分を言い渡されそうになった椎葉のために、生徒たちは、G7の中で3位の日本が、実は相対的貧困率では最下位であることなどを持ち出しながら、ディベートを重ねるのだった。
御上が担任をつとめる3年2組の生徒たち/画像はドラマ公式Xから
・10代の直面する生きづらさが、社会的な問題に直結
このように、縦軸としては、学園と永田町の癒着や、その背景に官僚の人事権などがあることを描き、また横軸として、学生たち日本の10代が直面する生きづらさが、社会的な問題に直結していることを描く。
それはまさに、御上が何度も言う「パーソナル・イズ・ポリティカル=個人的なことは政治的なことである」という考え方を体現している。生徒一人の抱える問題は、クラスの皆で議論されるべきもので、誰に関しても他人事ではないということが、毎回のドラマで示されるのだ。
シニカルで、笑えるし考えさせられる 金八先生や半沢直樹を思わせる場面も
こうした重いテーマに真摯に取り込んでいる本作だが、ときおり笑わせながら考えさせられる、クリティカルな表現も用いられる。
本作は、TBSで放送されている学園ドラマであるが、教師の御上や是枝は、ドラマ『金八先生』(※作中では巧妙にタイトルが伏せられている)に憧れている。
熱血教師が教師の理想像であることが、教育現場が変わらない一因だと御上は指摘する/画像はドラマ公式サイトより
一方で、そこで描かれた熱血教師が、日本の教師の理想像になってしまい、同ドラマの放送から何十年も経っているのにもかかわらず、教育現場が変わっていないことが指摘される。御上は、学校も官僚も前例主義であり、今はそれをバージョンアップするのではなく、リビルドしないといけないと語る。
また、クラスの有志が、高校生ビジネスプロジェクトコンクールに参加するエピソードでは、生徒たちはプレゼンで「金融マン同士で『倍返し』(※)しあってる場合ではありません。学校も金融ドラマも僕たちに本当の意味を教えてはくれない」と語るシーンもある。
過去のTBSドラマを持ち出しながら、今は、理想論でおためごかしの物語をつくっている場合ではない、という切迫した状況を訴えているようにも感じられる。
※TBSの日曜劇場で放送された金融ドラマ『半沢直樹』で主人公が言い放ったセリフ

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