「Webtoonは創作性が足りない」読者調査から観る、縦読み漫画の課題とファン層の乖離

「マンガ大賞」でトップ20圏外になるWebtoon

こうした調査結果は、Webtoonヘビーユーザーである筆者の主観としては、矛盾するようだが意外性と納得感が共存するデータだった。

というのも、読者投票によって順位が決まる「次にくるマンガ大賞 2024」において、コミックス部門の大賞を獲ったのは『週刊少年ジャンプ』で連載中の『カグラバチ』、Webマンガ部門の大賞を獲ったのは「少年ジャンプ+」で連載中の『ふつうの軽音部』。

いずれもジャンプブランドの作品だった。

一方で、LINEマンガ内で1億PVを突破したことが明かされている『神血の救世主』は、「次にくるマンガ大賞 2024」にノミネートはしているものの最終的な結果ではトップ20にも入っていない。

もちろん、読者投票に参加するほど熱心な読者と、今回のアンケートに参加した層には乖離があったと考えられる。

Webtoonは既存の漫画ファン以外に広がっている

一方で、日本のWebtoon市場においては、2022年ごろから、SNSを中心としたファンダムコミュニティの盛り上がりが、既存の漫画文化と比べて弱いと指摘されていた。

筆者の個人的な観測範囲においても、Webtoon作品はpixivやXに投稿されるファンアートの数が、日本の漫画と比べて少ないという体感がある。

LINEマンガにはアプリ内にコメント欄があるため、ある程度は盛り上がりを可視化できるが、ピッコマにはコメント欄も無い。

筆者が知りうる限り、日本で最も活発にピッコマ作品について意見交換が行われているのは、5chと競合であるLINEのオープンチャットだ

それにもかかわらず、MMD研究所による利用者への調査では、全年代においてピッコマやLINEマンガの方が優位に立っている。

「Webtoonは既存の漫画文化のファンとは違う層に広がっている」というのもよく言われる話ではあるが、それがデータとしても実証されたと言えるだろう。

課金傾向から見るレコメンドの重要性

MMD研究所の調査では、国産Webtoon(日本人作家)が増えたか否かや、作品の購入経験、支払総額に関するアンケートが行われている。

国産Webtoonの増加については、「増えたと思う」が16.4%、「やや増えたと思う」が40.2%と、約6割が増加を体感している。

Webtoonの購入経験については、59.8%が課金したことがあると回答。

金額については、「1000円~2000円未満」が21%と最も多く、「500円~1000円未満」が17.2%、「2000円~3000円未満」が11.3%と続く。

年齢別の課金額

課金のきっかけについては「アプリ上で表示される広告で見た作品が気になったから」が24.7%とトップに。

各種グッズ展開やコンビニ商品とのコラボ、メディアミックスに加え、書店での物理的な接触など多数の経路を持つ日本の作品と違い、Webtoonの流通は掲載プラットフォームに依存しているのが現状だ

何年も前からWebtoonを原作とするアニメが放送され、グッズ展開もされるなど、徐々にメディアミックスの経路も広がってきている。直近では『俺だけレベルアップな件』のように大々的に展開される作品も登場した。

それでも、日本国内における大手漫画誌の作品の展開規模と比べると、まだまだ発展途上だと言える。

課金を使用と思ったきっかけ

Webtoonのブランド力改善へ 創作性の成熟が鍵

そういった状況では、作品の創作性よりもレコメンドに載りやすいよう、アルゴリズムをハックするような作品が増えてしまうのは仕方ないだろう。

ビジネスの原理としては、売り上げを最大化する方向性は間違ったものではない。

一方で、Webtoonというジャンル自体の発展のためには、その盛り上がりを象徴するようなスター作品の登場が待ち望まれてもいる。

2022年に行われたカンファレンス「IMART」では、『俺だけレベルアップな件』などを手がけたレッドセブンの代表・李ヒョンソクさんから、「Webtoon業界全体が作家の育成に力を入れるべきだ」という提言もあった。

筆者自身も、読者として作品を探す中で、ジャンルの流行に乗りながらも独自の色を出そうとしている作品や、荒削りながらも強い作家性を持っている作品に出会うことがある。

しかし、長い時間をかけて一つのテーマを突き詰めていく作品は「いいね」を稼ぎづらく、アルゴリズムでは評価されづらい。

毎週フルカラーで描かれるWebtoonは制作費もかさみやすいため、途中でスタッフが交代し路線が変わってしまったり、翻訳のクオリティが低下したりと、作品の持ち味が薄れてしまうケースも多い。

今後、Webtoon業界全体で創作性を重視する傾向が強まるのであれば、業界を横断するアワードの創設など、創作性を評価する場の整備が求められていくだろう。

【調査概要】
「2024年WEBTOON(ウェブトゥーン)利用者に関する調査」
調査期間:2024年9月19日~9月22日
有効回答:<予備調査>15,000人 ※人口構成比に合わせて回収<本調査>311人
調査方法:インターネット調査
調査対象:<予備調査>15歳~69歳の男女<本調査>WEBTOON閲覧経験者
設問数 :<予備調査>12問<本調査>3問

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