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  • 2023.12.31

韓国イセドルや桐生ココが切り拓いてきた、VTuberグローバル化の鍵とは?

韓国イセドルや桐生ココが切り拓いてきた、VTuberグローバル化の鍵とは?

クリエイター

この記事の制作者たち

インターネットは国境や文化を超えて、すべてを繋げてくれるネットワークだと期待されてきた。

2023年、国やプラットフォーム、SNSごとの区分は強くなりつつある。この情報環境の変化は、VTuber(バーチャルYouTuber)にとっても無関係ではない。

2023年のVTuberシーンの振り返りでは、前編の記事に引き続き世界の動向を振り返る。

世界の潮流や事例を紐解きながら、未来の展望に触れていく。

目次

  1. VTuber流行から5年 「セカンドキャリア」という選択肢
  2. “匂わせ”という手法──ぺぺちにVShojo、VTuberたちの卒業ケース
  3. WACTORの世界的炎上に見る、グローバル化の難しさ
  4. 2次元の“肉体”という制約 デジタル・フィジカルの増加
  5. リアルとバーチャルを行き来するVTuber&IRLのスタイルも様々
  6. VTuberとバーチャルヒューマンのあやふやな関係性
  7. 海外でも進む、企業や地方のVTuber活用
  8. ゲームメイカーやアニメのVTuberデビューも続々
  9. 「美少女無罪」に「ロリ神」──TikTokで巻き起こった事件と炎上の波及
  10. ついにショート動画に力を入れ始めたYouTubeが縦動画も開始
  11. 捨てる神あれば拾う神あり──Twitchの韓国撤退とその後
  12. 混迷を極めるプラットフォーム、規制の進むインターネット
  13. 桐生ココや異世界アイドルが切り拓いた道──グローバルだけどローカル

VTuber流行から5年 「セカンドキャリア」という選択肢

VTuberの流行は2018年から始まり、今年で5年目だ。この5年という数字は、人によっては次のキャリアを考えるタイミングにもなる。VTuberの卒業は毎年のようにおこなわれているが、嫌でも年月の流れを感じさせる卒業があった。

にじさんじ1期生の勇気ちひろさんは、ANYCOLORに社名変更する前の「いちから」時代からグループを支えてきた立役者の一人だ。卒業が発表されると、普段は卒業に関してポストしないユーザーがコメントするなど、その影響の大きさがうかがえた。

勇気さんのポストには「自分の中でのやりたかったことを目指して頑張っていきます」と、新しい挑戦に取り組みたい意思が見られた。

VTuberが卒業する理由は様々だ。その1つは、ある程度VTuberとして知られるようになり、その中でのやりたいことを実現させて、次のステップに進もうという「セカンドキャリア」だろう。

ただしVTuberの場合、それまでのキャリアを公に打ち明けることができないため、他の職種と「セカンドキャリア」の意味合いは異なる。ではなぜ、VTuberを演じてきた中の人は実績を公表しないのか。

いちファンに過ぎない筆者も、詳しい内部事情はわかっていない。ただ、権利関係の問題から「卒業」という形をとって、そのキャリアを引き継がないという話もある。

VTuberは一般的なYouTuberと違い、VTuberのキャラクターデザインなどの権利を会社が保有している場合が多く、デビューやその後の活動には様々な関係者や技術が関わっている。

そのため、VTuberの名前1つとっても、そこには知名度という付加価値がついてくる。もし企業側が権利を有している場合、中の人が実績としてVTuber名を出すことは一種のライセンスビジネスにも近く、タダで名前を貸すことは(人としての義はどちらにあるかはわからないが)ビジネス的には得をしない行為とも言えるのだ(この辺りは個別の契約内容次第ではある)。

そんな中、2023年の事例としては、少なくとも対外的にはトラブルになることなく綺麗に独立できたのが、周防パトラさんである。

周防パトラさんは主にASMRで実績を積み上げてきたVTuberだ。前々から独立するという考えはあって会社に相談し、最終的に独立するに当たって全ての権利を買い取ることになったと動画で語られている。そのため、32年ローンが35年に伸びたという。それが事実ならやはり権利の買い取りはそこまで安くないということになるだろう。

周防パトラさんの独立報告

また、この件をきっかけに実は権利を買い取って活動を続けていたとポストするVTuberもいた。

VTuberの権利が単に金額の問題だけであれば、話はシンプルだ。しかし紆余曲折の末、所属事務所ごと企業を渡り歩いて、契約条件も変わって泣く泣く卒業という選択をしなければいけないケースもないとは言えないだろう。

“匂わせ”という手法──ぺぺちにVShojo、VTuberたちの卒業ケース

さて、様々な事情で卒業を選択したVTuberが、セカンドキャリアとして再びVTuberを選んだときに、そうしたビジネス的な事情に可能な限り抗った結果として前世の“匂わせ”という手法が生まれた。

今年、ニンニクのような強烈な匂わせをしたのは、アーリオ オーリオ エ ペペロンチーノ(ぺぺち)さんだ。

ソニーミュージックよりデビューしたぺぺちさんの匂わせは、"元四天王"という単語をWebメディアだけでなく宣伝トラックにも使い、元四天王を知っているファンに拡散されることになった。

アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ初配信

もう一つ、VTuberのセカンドキャリアとして度々話題になるのが、英語圏を代表するVTuberエージェンシー・VShojoだ。

VShojoは元有名VTuberとしてキャリアを積んでいたksonさんや​飴宮なずな​さんを引き入れたことで、日本でも話題になったエージェンシーである。

そのVShojoが、別のエージェンシーで1番の売れっ子だったVTuberを、卒業してから2ヶ月ほどでVShojo入りさせたことで界隈を驚かせた。

【📛DEBUT 初配信】Henya the Genius 【VShojo】

一部では卒業前にプレイしたゲームのせいで炎上に巻き込まれたからだと言われているが、エージェンシーとは何ヶ月も前から相談して決めていたと卒業動画では語られている。これは単に筆者の予想なのだが、卒業したVTuberはもともと海外人気が強く、海外サポートのしやすい企業としてVShojoを選んだ可能性もある。

ただし、日本からすると海外の受け皿として有効なVShojoだが、海外からの視点では話は変わってくる。なぜなら2023年は、VeibaeさんとSilverさん、NyannersさんがVShojoから脱退しているからだ。

Veibaeさんは脱退した理由として「i left cuz new contracts didnt make any financial sense to me 😤(新しい契約は経済的に意味がなかった)」と述べている。VeibaeさんとSilverさんは加入組で、もともと個人でなんでもできるからこその脱退だと考えられる。

Nyannersさんの独立の理由は、新しいチャレンジだ。

VTuberとしてはVShojo発足がデビューとなったNyannersさんだが、VShojoの「タレントファースト」というコンセプト通り、IPはNyannersさんが保持し続けている点は注目だ。

WACTORの世界的炎上に見る、グローバル化の難しさ

どんどんグローバル化を目指すVTuber企業が増える中、その難しさを象徴する事例として紹介しておかなければいけないことがある。

それは前編でも少し触れた、WACTORという日本発のVTuberエージェンシーだ。元々ラテンアメリカで成長していたWACTORが、とある事件をきっかけに、VTuberエージェンシーをまともにできなくなるまでに陥ってしまったのだ。

WACTORはもともとタレントやファンとのいざこざの絶えない事務所でもあった。それでも最初は、「まあ国際的にやっていればそれぐらいのトラブルはあるか」程度のレベルではあった。

しかし度重なるトラブルが不信感の種になり、タレントが事務所外で個別に活動するという事態に発展することになった。この事務所とタレント、そしてファンをも巻き込んだドロドロのいさかいは1年近く続くことになる

WACTORのタレント事業にトドメを指すことになったのは、元所属タレントの個人情報をホームページなどに公開したことだ。この行動はファンもしくは反転アンチ全員を敵に回し、ホームページは連日ダウン、Discordは荒れて誹謗中傷が飛び交う目も当てられない状況になった。

この事件は、英語圏でVTuberのトラブルを専門に発信するアカウントに度々取り扱われることになり、全く関係のないVTuber事務所で何かトラブルがあると、WACTORを例としてあげるくらいにミームとして定着してしまった

最終的に会社とタレントやファンとの関係は改善されず、タレントは立て続けに離反。事務所は何度か運営体制を変えようと試みたが、タレントが数名だけになり、ホームページからはタレント紹介ページがなくなるまでの事態に陥った。

事件について誰が悪いかを論じるつもりはない。着目したいのは、この事件で起きた様々なトラブルの内訳にある。それは、日本発のVTuber事業のグローバル化を考える上での重要な議題にもなるからだ。

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