セッションには、アニメや漫画の制作を行う企業の代表などが登壇。急速に変化する業界で何が起きているのか知見を共有した。例えば、アニメ『チェンソーマン』で注目されるスタジオ・MAPPAの担当者による基調講演も実施されている。
本稿では、Webtoonを扱うニュースサイト「Webtoon INISIGHHT」の編集長兼、同媒体を運営するフームの代表取締役・福井美行さんがモデレーターをつとめたセッション「早くも危機を迎える日本のウェブトゥーン制作」の内容をレポートする。
目次
- 1. 李ヒョンソク、芝辻幹也、岩本炯沢、3人の登壇者について
- 2. 「comico」と『ReLIFE』から始まった日本のWebtoon業界
- 3. 『俺レべ』のレッドセブン代表が語る国内の現状
- 4. 「相当ハードルが高い」試行錯誤するフーモアの見解
- 5. スタジオ形式の課題は「クオリティを担保する主体の不在」
- 6. 「スタジオは乱立しているが…」編プロ代表が見据える未来
- 7. Webtoonはビジネスか、文化か
- 8. 「ビジネスの打ち出し方より次のスター作品をつくるべき」
- 9. センス? 経験? Webtoon業界で成功するために必要な人材
- 10. Webtoonの発展に必要なのは日本漫画からの脱却
- 11. 集英社が漫画業界の帝王である理由
李ヒョンソク、芝辻幹也、岩本炯沢、3人の登壇者について
セッションには、『俺だけレベルアップな件』など多数のヒット作を手掛けるレッドセブンの代表取締役・李ヒョンソクさん、漫画・Webtoonの制作を行うフーモアの代表取締役社長・芝辻幹也さん、編集プロダクション・シャインパートナーズと制作スタジオStudio TooNの代表取締役・岩本炯沢さんらWebtoonに携わる3人が登壇。業界が迎えた危機や課題はなんなのか。Webtoonと漫画の違いについても意見を交わされた。
「comico」と『ReLIFE』から始まった日本のWebtoon業界
福井美行さん
日本のWebtoonの原点として、国内初のWebtoonプラットフォーム「comico」とヒット漫画『ReLIFE』があったことに触れ、その後しばらく続いた停滞期の中で登場したのが「待てば無料」のビジネスモデルを持った「ピッコマ」であり、日本ではWebtoonの代表作として知られる『俺だけレベルアップな件』だったと振り返った。
そして「ピッコマ」や「LINEマンガ」が牽引する現在のWebtoon業界では、ファンタジー作品が需要と供給の多くを占めていることに言及。レッドセブンなどのヒットメーカーはすさまじい売り上げを出しているものの、その陰にはWebtoonに参入してみたものの思うような収益をあげられていない作品が多くあり、それこそが「早くも訪れた危機」なのだと提起した。
『俺レべ』のレッドセブン代表が語る国内の現状
李ヒョンソクさん
まず李ヒョンソクさんは、韓国でも日本でもWebtoonの市場は成長しており「危機は起きていない」との立場を表明。
コロナ禍での電子書籍バブルの収束、さらに海賊版の影響による電子書籍の売り上げが停滞する中、むしろWebtoonは売上を伸ばしていると述べ、「危機に陥っているのは市場分析が足りない状態で参入してきた一部に限っての話」だと厳しい意見を示した。
そもそも、Webtoonは出版を前提にしていないため、文字組みや彩色指定といった編集作業が存在せず、いわゆる編集者に相当する役割はIPや作品を管理するプロデューサーと呼ばれていると話す。
『週刊ヤングマガジン』で漫画原作者としてデビューし、2013年にはcomicoの運営に参加。長きにわたって2つの業界を経験している点から、Webtoon文化やその制作体制への誤解が生じている原因を、日本独自の漫画雑誌というシステムが関係していると語る。
李ヒョンソクさんが原作者をつとめた作品『軍バリ!』/画像はAmazonから
ビジネスとしてIPの制作に注力し、海外進出したのも日本に「comico」が到来した2013年頃であり、ブームと呼ばれる現在でも成立から20年ほどしか経っていない新しい文化であると説明。
上記のように、日本の漫画とWebtoonは、その歴史、人材からビジネスとしてのマネタイズ方法まで別物だ。それを認識できていないことが、一部の企業が危機を迎えてしまっている原因だと分析した。
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