花譜×ボカロP ツミキ初対談──音楽的同位体「可不」がシンカさせた才能

可不の仮歌で花譜が歌う「他のシンガーでは得られない高揚感」

──ツミキさんは楽曲制作において、可不から影響を受けている部分はありますか?

ツミキ かなりあると思いますね。例えば、仮歌は提供先からオーダーがないかぎり、基本的に全部ボカロで付けているんですが、最近は可不を使うことがほとんどなんです。

@2.3.k.i 『ビビデバ』のつくりかた @星街すいせい(本物) さんに楽曲提供させて頂きました『ビビデバ』の楽曲メイキング的なやつです MVもスーパークールなので是非 #ビビデバ #DTM #星街すいせい #ツミキ #Vtuber #ボカロP #ボカロ ♬ オリジナル楽曲 - ツミキ/tsumiki

ツミキ 仮歌をつくる際、それまではブレスを意識してなかったんですけど、可不の場合、CeVIO AIの仕様で自動で挿入されるようになっていて。自然とブレスの気持ちよさを、何となく感じるようになったんです。

自動で挿入されたブレスを元にして「ここはもっとブレス利かせたいな」とか、伴奏をブレイク(=楽器の演奏を一斉に止めて休符にすること)にしたりとか。アレンジ面でも大きな影響を受けてます。

僕の中では、CeVIO AI「音楽的同位体 可不(KAFU)」を使うようになってから、音楽的な側面で変化があったという意識がありますね。

──ちなみに、今回の新曲「チューイン・ディスコ」の仮歌も可不だったのでしょうか?

ツミキ (花譜さんを見て)そうでしたよね?

花譜 そうでした!

──仮歌が可不の場合、花譜さん側は何か受け取り方に違いはありますか?

花譜 可不ちゃんが仮歌を歌ってくれると、どう歌えばいいか考えやすいかな。「可不ちゃんがこう歌っているから、ここはちょっとこうしたらより可愛くなるだろうな」「よりノリが良くなるだろうな」みたいな。

自分の声に似ているから、ここからどう変えたら良くなるのか、どうすると自分のイメージに近づくかっていうのがすぐ分かるんです。

花譜さんは過去に「フォニイ」でデュエットしたことも

ツミキ でも、可不を使って仮歌を書いた側としては、花譜さんが「チューイン・ディスコ」を歌ったら全然別物になった印象もあって。

なんというか、体温が乗っかって返ってきたというか。全く違ったものにはなってないはずなのに、思ってなかった良さが出てきましたね。

花譜 わ!

ツミキ 普通、楽曲提供するときに、その提供先のシンガーの声を使った歌声合成ソフトを使って仮歌をつくる経験ってほぼないと思うんですよ。それがすごく新鮮というか、他のシンガーさんでは得られない高揚感があって

やっぱりノート(=音符)には表れない、声のヨレみたいなところに、ものすごく体温が感じられて。わざとつくったものじゃない、自然に歌って自然に外れたものって、僕はすごい好きなんですよ。

もちろん、音楽的同位体の可不も、花譜さんのノイズとかブレスの息遣いとかを再現してつくられてるとは思うんですけど、アトランダム(=無作為)な感じとかはやっぱり人間じゃないと出せない部分だと思います。

花譜 うわー、良かった。嬉しい……。

ツミキ デジタル制御で調整できないテクニックとかは違いがすごくわかりやすくて。「可不と花譜さんでは全然違うんやな」って改めて思いました。面白かったです。

花譜 やっぱり、音楽的同位体の可不ちゃんが世に出てから、「自分が歌うときに一番大事なことってなんだろう」とか、「何が私らしさなんだろう」とか考えるようになって。

もしかしたら、可不ちゃんと私の歌が同じように聴こえることだってあるかもしれない。けどその上で、自分を自分たらしめるのは、「自分がそこに何を思ってこういう歌い方にしたのか」とか、「こういう感情を込めたのか」とか、そこにあるんじゃないかと思って。

なので、昔は自分が思うままに歌っていたんですが、今はどういう風に歌ったらどういう雰囲気に聴こえるのか、感情のイメージみたいなものを、どうやって声で表現すればいいんだろうか、1回考える時間を挟むようになりました。

感覚的なんですが、漠然としてあったイメージを整理して、自分の中にあるものをいつでも取り出せるように意識しています。

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