「ベタ問は常に出題されるべきか?」鶴崎修功は問う
鶴崎修功 現在の競技クイズ大会は、最初にペーパークイズをやって、その上位通過者が壇上で早押しクイズをして、優勝を決めるシステムが大半を占めています。
ただ、ペーパークイズに強いことと早押しクイズに強いことは決してイコールではない。さらに、早押しクイズのフェーズになってもラウンドごとに必要とされる正解数が異なるなど、競技として統一したルールにはなっていなかったりします。
野球に例えると、1回戦は9回まであるのに、2回戦から5回までになるのっておかしいですよね。一定の統一したルールを繰り返して勝者を決めるのが筋だろうと。
そのため「Megalomania Tokyo」では、一貫してナナマル サンバツ(7問正解で勝ち抜け、3問誤答で失格)を採用しています。
鶴崎修功 これまでの競技クイズ大会のルールが不統一だったのは、運営の都合上そうせざるを得ない面が大きかったのだと思います。
それを解消するために「Megalomania Tokyo」では「Hayaoshi」を導入し、たくさんのPCとイヤホンを使って複数の試合を同時進行することを可能にしました。
──これまではアナログで大会を開催する以上、会場スペースや人員・時間が限られているなどの理由で、足切り的なペーパーテストなどを設けたり、ルールをラウンドごとに変更したりせざるを得なかったわけですね。
鶴崎修功 そうです。さらに言うと、早押しクイズを競技として成立させるためには、大会に使われる問題からも変える必要があると考えています。
クイズ界では、ある大会で良い問題が出題されると、別の大会でも同じ問題が出ることがあります。こうした「問題の再生産」はそれ自体が悪いことではありませんが、その“良い問題”が過剰なほど出題される傾向にあるんです。
いわゆるベタ問という概念で、昔であれば「Q:『なぜ山に登るのか』という質問に、『そこに山があるから』と答えたことでも知られる有名な登山家は?」「A:ジョージ・マロリー」が有名ですね。
ただ、「じゃあこの問題って、さまざまな大会で出題されるべきクイズなのだろうか?」とも思うんです。仮にクイズ大会で700問出題されるとしたら、つまりその大会では700個の概念しか聞くことができません。その1/700を常にジョージ・マロリーに使うのはおかしいんじゃないの、と。
鶴崎修功 よく考えれば、みんな知ってるべき事柄でもまだクイズ界で問題にされていない概念というのはたくさんあります。僕たちは、そういった“クイズになり得る概念”を掘っていく不断の努力をし続けなければならない、と感じていました。
なので、「Megalomania Tokyo」では、なるべく過去問を参照せずに、新しい問題を出すことを心がけています。これまでクイズ界には登場していないけど、みんなが知っていて嬉しいことをクイズにしたい。
それをみんなで正解しようとするのが競技クイズとしてふさわしい姿だと、個人的には思っています。
鶴崎修功 もちろん、クイズ界は、コミュニケーション的な側面が重要で、楽しければいいというカジュアルなスタンスの人もいます。それもまた一つの立場です。だけど、僕はまだ競技としての競技クイズを信じているし、夢を持っています。
だから、そんな夢を実現しようと挑戦しているのが「Megalomania Tokyo」なんです。
徳久倫康 競技クイズで不統一なルールが採用されるようになった背景は複雑なのですが……一番大きく影響しているのは、競技クイズ大会自体が、もともとTV番組の模倣から始まっているという歴史的経緯です。
TVのクイズ番組はエンターテインメントショーなので、1回戦と2回戦でルールが違ったり、すごく変なルールで理不尽なことが起こってもおかしくない。
クイズ大会でも、バラエティ番組っぽい要素が強いものもあれば、競技性を志向するものもあるのですが、後者の中でも、いまだにテレビの影響は色濃く残っています。例えば、日本最大級の学生競技クイズ大会「abc/EQIDEN」でも、昔のTV番組から持ってきたアップダウン(※)というルールがありますからね。
(※)アップダウン:正解するとポイントがもらえ、規定されたポイントに達すると勝ち抜け。誤答すると0ポイントに戻されるというルール。クイズ番組『アップダウンクイズ』が由来。
徳久倫康 これまでのクイズ界は、TVのクイズ番組から競技っぽいエッセンスを抽出して文化をつくってきました。一方で、最近はクイズ人口が拡大したことで、いろんな人が独自のイベントを開いたり、電子書籍として問題集を出す人も増えたりしています。
そうすると、既存のルールや制度、常識を問い直す人も出てきて、クイズ大会や問題の多様性も生まれ始めている。既存のクイズ大会と完全に発想を変えて運営している「Megalomania Tokyo」のように、さまざまな尺度でクイズを楽しむ試みが現れてくれる状況は、僕としてもとても嬉しいです。
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鶴崎修功
クイズプレイヤー・エンジニア
1995年生まれ。東京大学大学院数理科学研究科博士課程修了。2016年からQuizKnockに加入し、現在はYouTube動画への出演のほか、ゲーム・アプリ開発も行う。『ネプリーグ』『Qさま!!』など多数のテレビ番組でも活躍しており、2023年3月に卒業した『東大王』では約3年にわたり東大王チームの主将を務めた。趣味・特技はクイズ、競技プログラミング、ゲーム。
徳久倫康
クイズプレイヤー・広報
1988年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業後、批評家の東浩紀が創業した出版社・ゲンロンに勤務。2022年よりQuizKnockを運営する株式会社batonに入社し、メディア事業部のゼネラルマネージャーを務める。趣味のクイズではオープン大会で通算100勝以上を達成するなど、トッププレイヤーとして活躍している。共著に『クイズ用語辞典』(朝日新聞出版)。
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