はるまきごはん、10年のボカロP活動の集大成 煮ル果実も駆けつけた120分の銀河鉄道

描かれてきた少女たちの物語、そして「ゼロトーキング」

続いて披露されたのは、世界観と登場人物が共通する連作「約束」「彗星になれたなら」「再会」の3曲。

収録アルバム『ふたりの』で描かれた、2人の少女・ナナとリリをめぐるストーリーが、ナレーションをつとめたバーチャルシンガー・ヰ世界情緒さんのしっとりした声によって朗読される。

朗読の場面ではステージに登場した「メルティさん」

とある惑星で幼少期に邂逅した2人が、離れ離れになったまま長い時が経ってしまう。しかし、世界が終末を迎える最期の時に再会を果たす、という切ないストーリーだ。

一連の3曲は、スローなアコースティックアレンジで演奏。はるまきごはんさんが情感たっぷりに歌唱した。

続いても連作。内気な少女・みかげの人間関係を表現した「第三の心臓」「蛍はいなかった」「仮定した夏」をパフォーマンス。楽曲を収録したアルバム『幻影EP-Envy Phantom-』で描かれたストーリーが展開された。

「第三の心臓」

「第三の心臓」は、やや変則的に演奏の途中で終了。挿し込まれたエテルのストーリーパートによると、「第三の心臓」の世界は銀河間鉄道の21号車だったようだ。

エテルはカナリアが心配になり10号車に引き返そうとするのだが、車掌から非情にも「元の車両に戻ることはできない」と告げられる。

「元の車両に戻ることはできない」と告げられたエテル

エテルが22号車の扉を開くのに合わせて、次の曲「蛍はいなかった」へ。はるまきごはんさんの楽曲のなかでは珍しく、現実の世界を舞台に展開する、爽やかなストーリーが印象的な一曲だ。それまでの暗めの曲から一気にムードが切り替わる解放感があった。

「蛍はいなかった」

連作の3曲目「仮定した夏」は、YouTubeやニコニコ動画に投稿されていないアルバムのみの収録曲。前回のワンマンライブ「幻影LV」でも投影されたリリックビデオに合わせて演奏された。

アルバム『幻影』収録曲の後は、2023年に発表された大ヒット曲「ゼロトーキング」。はるまきごはんさんの真骨頂ともいえる、2人の少女(大令嬢とドロシィ)の別離と通じ合いが、MVでは時にコミカルな描写を交えながら描かれている。

「ゼロトーキング」

重厚なビートにベース、キャラクターの心情に合わせて変化するアレンジやメロディが大音量で会場に広がる。この曲のみ、はるまきごはんさんと初音ミクのデュエット。人間とVOCALOIDが交互に歌うパートはとてもエモーショナルで、観客の心と身体を揺さぶった。

MC一切なし「ハンドメイドギンガ」の物語はクライマックスへ

ライブは終盤、合間で展開されてきたエテルの物語もクライマックス。自分を呼ぶ乗客のいる24号車の前まで来たエテル。しかし、エテルは何かを恐れて扉を開けることができない。それは真実を知ることへの恐怖のようにも見えた。

「知ることが怖いの?」──誰かから声をかけられたエテルが振り向くと、発表されたばかりの最新曲「僕は可憐な少女にはなれない」の演奏がスタートした。

「僕は可憐な少女にはなれない」

この曲について、はるまきごはんさんは「っと初音ミクと共に作品をつくっていますが、10年の節目のこの曲だけは、彼女の力を借りずに一人でつくると決めていました」と述べている。

誰かを主人公にした楽曲ではなく、はるまきごはんさんが初めて自身について語る曲ということだろうか。MVでは一貫して少女を描いてきたはるまきごはんさんが、痛切に焦がれつつも決して少女になれないもどかしさを歌う曲でもある。

「僕は可憐な少女にはなれない」

最後のフレーズ「僕は少しだけ少女になった」は、10年間のこれまでの積み重ねを経たからこそ言える言葉だった。

歌い終わるとともに、エテルのストーリーが再開。扉を開けたエテルを待っていたのは、元々いた車両に置いてきたはずのカナリア。

扉を開けた先でエテルはカナリアと再会する

エテルが置いてきたはずのカナリア

エテルはカナリアに「またね」と別れを告げて走り出す。彼女が恐れたのはカナリアとの別れだったのかもしれない。

真っ白な空間が色づき、エテルの前に雄大な景色が広がる。目的地である「ハンドメイドギンガ」にたどり着くことができたのだ。大円団のような盛り上がりに、観客からは大きな拍手が起こった。

目的地へとたどり着いたエテル

続くエピローグでは、この日のライブ演奏で登場したはるまきごはんさんの楽曲のキャラクターが集結。彼女たちに勇気づけられながら、エテルは目的地に到着した。まさにエテルは、はるまきごはんさんの楽曲に支えられてきたファンの象徴でもあるのだろう。

アニメーションで描かれたエテルのストーリーの終了をもって、「ハンドメイドギンガ」も完結。MCらしいMCは一切なし、はるまきごはんさんがつくり上げた、まるで映画やミュージカルを観ているかのような濃密な時間は、この瞬間に終幕を迎えた。

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札幌市出身のミュージシャン、イラストレーター、アニメーター。作詞作曲編曲、イラスト、映像、アニメーション制作まで、全てのクリエイションを手がける。VOCALOID、自身歌唱によるMVで描かれる物語を軸に、本人がコンセプトからパッケージイラスト・デザインまで手掛けるアルバムや、オリジナルアニメを駆使したライブ、グッズ制作、個展などを展開、最新作「幻影シリーズ」では、ゲームアプリや漫画も手掛けている。2019年よりアニメ制作チーム・スタジオごはんを立ち上げ、アシスタントと共にアニメーション制作を行っている。スープカレーが好き。

1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:9872)

ライブ良かったです。とても素敵なレポートでした。