ファンタジーとリアルの間 猫たちの絶妙なキャラクターデザイン
『ラーメン赤猫』の物語の大筋は、働く猫たちの人間模様ならぬ猫模様と日常、そしてラーメン赤猫に来店する常連さんとのやり取りです。
迷惑客とのトラブルや新キャラクターの登場などいろいろとイベントはありますが、なだらかに続く猫たちの毎日をゆっくり楽しむ類の漫画です。構成としてはシンプル。
なので大事なのが「みんなの日常がもっと続いてほしい!」と読者に思わせる、魅力的なキャラクターたちです(以前紹介した『姫様“拷問”の時間です』もそうでした)。その点で『ラーメン赤猫』は強い。
まず絶妙なキャラクターデザイン。デザイン的にはリアルな猫に近すぎず遠すぎない絶妙な加減のデフォルメです。これが良い。
ファンタジーとリアルのちょうどいい間を行く『ラーメン赤猫』のテイストにピッタリなデザインだと思います。
二足歩行する姿は人間っぽさを感じさせますが、かといって動作は人間ではなく猫のそれです。四足歩行したり、ブラッシングされて気持ちよさそ〜にしてる姿はまんま猫です。
怒ると「シャー!」と鳴いて牙を剥くし、ネギやチョコレートは食べられないし、喉をゴロゴロと鳴らすし、猫じゃらしの誘惑には抗いがたい。
人語を解し働いているのですが、本質的には猫なのです。そう、みんな可愛いのです。最高。
六者六様、バラバラな個性が助け合う
そんな猫のキャラクターとして序盤から登場するのは以下の5匹です。
まず茶トラ猫の文蔵(ぶんぞう)。店長で寡黙なラーメン職人。客とのトラブルが起きた時には真っ先に矢面に立つ漢。
ハチワレ猫の佐々木は事務全般、レジ、接客を担当。物腰柔らかい人格者で、謎の人脈を持つラーメン赤猫の敏腕経営者。
黒猫のサブはサイドメニューや盛り付け担当。マイペースなムードメーカーで食欲旺盛。凄腕ゲーマーという一面も。
白猫のハナは、あざと可愛く、丁寧かつフランクな応対で人気の接客スペシャリスト。身内には厳しく優しい姉御肌。
心優しい虎のクリシュナは製麺担当。怖がりで人見知りだけどここ一番で頼りになる。縁の下の力持ちタイプ。
最後に人間のキャラクターとして読者目線を担う珠子。作中では猫たちのブラッシング、皿洗い、製麺のサポートを担当。店頭に立つ時は黒子衣装に猫耳をつけます(逆に目立つ)。
ちなみに、前職がブラック企業で傷心気味だった彼女が、猫たちに認められて心の平穏を得る展開はちょっと泣けます。
また、かつては野良猫として必死に生きていたり、動物園のパフォーマーとして伸び悩んでいたりと、猫たちにもみんな忘れられない過去があり、そこを乗り越えて居場所を見つけたことが明かされていきます。泣きます。
心に美味しい『ラーメン赤猫』の味わい
そんなキャラクターたちが特技を生かし、互いに助け合いながら全員で真摯に仕事に向き合う姿はお仕事漫画としても秀逸です。
その魅力がよくわかるのは、炎天下の日に赤ちゃんを連れた母親を、休憩中の店に招いてもてなす21話でしょう。
21話は、接客第一を掲げるラーメン赤猫のホスピタリティに溢れた内容である一方、いつでも同じようなサービスを提供できるわけではないとスタッフ同士で議論する締めになっており、ただの良い話では終わらない深みあるものになっています。
『ラーメン赤猫』にはそうした人情味と仕事の難しさを交えたエピソードが多く、なんとも心地よい読後感がある作品です。それこそ美味しいラーメンを食べ終わった後のような、ほんのり幸せな気分と素敵なものをいただいたという充実感で心が満腹になるのです。
心に美味しいこの妙味、ぜひ味わってみてください。
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連載
テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。
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