短尺動画プラットフォーム・TikTokと多国籍音楽企業・Universal Music Group(ユニバーサル ミュージック グループ)の契約更新が決裂し、現地時間1月31日に終了した。
それを受け、ユニバーサル ミュージック所属アーティストの楽曲が、続々とTikTokで使用不可能になっている。
国内アーティストに限っただけでも、執筆時点でAdoさん、Mrs. GREEN APPLE、ずっと真夜中でいいのに。、藤井風さんらの楽曲をTikTokで検索してもヒットせず、当該楽曲を使用した過去動画はミュートされている状態だ。
この記事では、今回の契約更新の決裂は、アーティストたちにどのような影響を与えるかを考えてみたい。
バイラルヒットの震源地 音楽シーンに絶大な影響力を持つTikTok
いまや、バイラルヒットの震源地として、音楽における流行の発信源のひとつとなったTikTok。
こと情報化した現代の音楽シーンにおいて、運営会社のByteDanceも自負している(外部リンク)ように、TikTokは絶大な影響力を誇っている。
ユーザーが、ある楽曲をBGMに動画を作成しTikTokに投稿。レコメンドなどによってその動画を観た別のユーザーが、その楽曲を使用した動画を作成し投稿……と、ねずみ算式に楽曲が拡散。
その勢いが、YouTubeや各種音楽ストリーミングサービスの再生回数にも反映され、XやInstagramなど他のSNSでも話題になる。結果として、SpotifyやAppleなどのバイラルチャートにランクインし、さらなる耳目を集める。
前述したAdoさんや藤井風さんのみならず、YOASOBI、優里さん、imaseさん、新しい学校のリーダーズ、Tani Yuukiさんなど、TikTokでのバイラルヒットを経て今日の人気を獲得したアーティストの名前を挙げればキリがない。
タイアップといった旧来のプロモーション手段とは異なる、ヒットするための勝ち筋として、TikTokは現代の音楽シーンのエコシステムに組み込まれている。
ユニバーサルミュージック所属アーティストの空席は誰が埋める?
ユニバーサル ミュージックは1月30日に発表した声明で、TikTokに「アーティストとソングライターへの適切な報酬」「AIの有害な影響からの人間のアーティストを守ること」「TikTokユーザーのオンライン上の安全性」について対処するよう求めたと説明。
にもかかわらず、TikTokがプラットフォームの力を使い、弱い立場のアーティストやソングライター、ファンを軽視した取引を認めさせようとしてきたと批判した。
対して、TikTok側は「ユニバーサル ミュージック グループがアーティストやソングライターの利益よりも自分たちの欲望を優先したことは悲しく、残念です」と反論。
他のすべてのレーベルや音楽出版社とは、「アーティストファーストの契約を結べた」と説明している。
食い違う両者の主張の是非について論じることはさておき、注目したいのは、今回の契約更新の決裂によって、ユニバーサル ミュージックは「TikTok発のバイラルヒット」という勝ち筋を失ってしまったという点だ。
両社の関係が改善しない限り、ユニバーサル ミュージックの所属アーティストたちは今後、TikTok発のバイラルヒットができなくなってしまった。ユニバーサル ミュージックが世界最大級の音楽企業とはいえ、これはあまりにも大きすぎるハンディキャップだ。
逆に言えば、他のレーベルや音楽出版社、あるいはインディペンデントのアーティストにとっては、大きなチャンスが訪れている。
ユニバーサル ミュージック所属アーティストの空席を埋め、次の「TikTok発のバイラルヒット」の切符を手にする、そのチャンスが。
次世代のポップスターが生まれる契機に?
コロナ禍の際、CDショップの営業自粛の影響でメジャーレーベルからのリリースが延期され、その結果「夜に駆ける」という当時まだ無名だったYOASOBIの楽曲が、ヒットチャートにランクインしたことがあった(外部リンク)。
「夜に駆ける」はその後、Billboard JAPANの年間チャート「HOT 100 of the Year 2020」で1位を獲得。そしてそのYOASOBIが現在、日本を代表するアーティストの一組に数えられていることは、もはや疑いようもないことだろう。
今回のTikTokとユニバーサル ミュージック グループの契約決裂も、次世代のポップスターを生み出す契機になるのかもしれない。
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