「Oral」はBjörkさんが『Homogenic』(1997)と『Vespertine』(2001)の間につくった曲を用いて、Sega Bodegaさんと共同制作したと言われている。
MVのディレクターはバルセロナ出身のアーティスト・Carlota Guerreroさん。
MVの冒頭において、「Oral」の収益は鮭のオープンペン養殖(※)に抗議するアイスランドの非営利団体を支援するために募金されると伝えられている。
björk ft. rosalía「oral」MVより
※参考 An Introduction to Open-Pen Sea Cage Aquaculture(外部リンク)BjörkとRosalíaは「Oral」の権利から生じる収益を、アイスランドのオープンペン養殖と闘う非営利団体AEGISに寄付されます。
レコード会社もそれに同意しました。
募金は野生を害し、魚を変形させ、サケの遺伝子と生存にリスクをもたらす大型養殖場の開発を中止させるために行動する抗議者たちの法律費用を援助するために使われます。
直ちに行動が必要です。MV冒頭及びBjörk公式サイトのページより(外部リンク)
「Oral」MVレビュー:アクロバティックな決闘を鑑賞する
白色を媒介して、二つの場所が交差する。二人が戦う空間を中心に撮影され、それに真っ白な別の場所で修道士のような被り物で共に歌う様子がインサートされる構造だ。
björk ft. rosalía「oral」MVより
大きなキーワードがいくつも飛び交うが、とりあえず「戦闘・訓練」にだけ注目しようと思う。
二人が相対する様子は武術的であり、舞踊的でもある。バースの間には交互にアクロバティックな躍動がなされて、サビに入って本格的な手合いが行われる。
björk ft. rosalía「oral」MVより
MVであるが、オーディオを音楽トラックだけの、無菌な状態にはあえてしなかったのだ。すなわち「暴力」を振るう行為がビデオの中心にあることを表す装置となっている。
二人のアクロバットアクションはそれ自体が見どころだ。(専門的には分からないが)アクション自体に身体的な鍛錬や技術を要するものに思える。
サビの終わりから2番目のバースの間に高まるオーケストラに合わせ、Rosalíaさんが倒れたBjörkさんの脚を掴んで引き起こす場面は、これが“共闘”であることを根拠づける場面として印象に残った。
剣を向ける先の転換:「こちら」に語るメッセージ
björk ft. rosalía「oral」MVより
しかしここで最も衝撃的な転換が起こる。視線は急にこちらへ向かうのだ。
björk ft. rosalía「oral」MVより
暴力を鑑賞する側から突然その対象になった途端、困惑する。そこにいずれかの意味を見出せる。
①敵は遠いカメラの向こう側ではなく、視聴しているあなたの現実にある。もしくは、あなた自身が闘争される対象である。
②暴力は他人の問題ではなく、あなたにも訪れる。もしくは、あなたも共に闘うための「訓練」に参加せよ。
BjörkさんとRosalíaさんについて
本曲の主人公、BjörkさんとRosalíaさんはそれぞれ、アイスランドとスペインを代表するアーティストである。Björkさんは1965年生まれのアイスランドのベテラン歌手/プロデューサー。電子音楽からクラシックにまで至る幅広いジャンルを扱うアートポップ・アーティストとして、アヴァンギャルドな表現を突き詰めることで独自な領域を繰り広げている。
Rosalíaさんは1992年生まれのスペインのポップ歌手。フラメンコを現代風ダンスポップに際解釈した『EL MAL QUERER』(2018)や、先鋭化したラテンダンスを世界に広めてK-POPなどにも影響を及ぼした『MOTOMAMI』(2022)のような作品で知られる。
各自の分野に及ぼす影響力が、国籍と世代を異にする非英米圏出身ポップスターたちの集いに注目が集まる理由だ。
その影響力を利用して社会的な問題意識を促すことも、大衆音楽の役目の一つであるだろう。
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連載
大衆音楽は「音」だけで定義されません。特にMV(ミュージックビデオ)はレコードに準ずるほどの大きな影響力を及ばせてきました。 ラジオからテレビにポップの主導権が渡ってからビデオはさらに重要な位置を占め、21世紀に入ると動画配信サービスがその座を受け継ぎました。 今ではK-POPやボーカロイド、Vシンガーなどのジャンルにおいては特にMVが最重要に近い位置を占めており、それ以外の音楽分野でもより重要視されるべきビデオがたくさん存在します。 この連載では主に話題の新曲を対象に、定期的にMVに焦点に当ててレビューする連載を提案したいと思います。
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