富士葵のワンマンライブ「Aria」レポート 完全独立、駆け抜けた6年の軌跡

季節はもう冬 ミルクティーも飲みたくなるバラードパートへ

MCでは「晴れ女すごくない?」とちょっとドヤ顔。オーディエンスからは「よっ晴れ女」とよいしょが聞こえた。

そして「この季節はホットのミルクティーがおいしい季節だよね」と曲振り。富士葵さんが自ら作詞・作曲した「ミルクティ」を歌い出す。

この楽曲は富士葵さんが活動を始めた2017年の冬に制作を開始し、2019年冬まで長らく公開されていなかった楽曲。富士葵さんの中でも数少ない、季節を思わせる楽曲だ。冬を感じさせる曲調と富士葵さんの繊細で透き通った声に暖かさを感じつつ、外の寒さをも想像させてくれる。背景映像では無人駅風のホームが映し出され、夜空には星が輝いたり、夕焼けになるなど綺麗な風景を見せてくれた。

続いての「雨降るスノードーム」では、夕焼けから次第に天気が変わり、曇りになり、そして雨模様に。ラスサビでは雪が降り、ステージ上はさながら様々な天気を表現できる「スノードームのよう」だった。配信コメントでも先ほどのMCや現地の空の情景を思わせる歌詞もあり、「今日の為の曲じゃん」とこの選曲に好反応の様子だった。 曲が終わると叙情的な流れとは打って変わり、アップテンポなメロディーが流れ出す。

8分19秒」のパフォーマンスが始まった。先ほど雪が降っていたステージ上はそれを溶かすように、赤色へと変わる。「8分19秒」とは、光速で地球から太陽まで行きつくためにかかる時間のことだ。光やその時間を揶揄するように、自己批判的な歌詞が次々に通り過ぎる。

オーディエンスはじっくり聞く様子から一変して、勢いよくサイリウムを振り、間では「おい! おい! おい!」と歓声をあげて応援する様子が見えた。

そして、サビの終わりではそうした自己批判の対象である「僕」からの決別を宣言するように「甘き死よ来たれ」とかっこよく歌い上げる。おそらくこの歌詞の元ネタであろう『新世紀エヴァンゲリオン』には同名の挿入歌があるが、「It all returns to nothing(無へと還ろう)」という歌詞がいくつもある。完全独立する富士葵さんには、さらに扉の先の先まで駆け抜けていただきたいものだ。

そしてライブはフィナーレへ 新曲「くじら」の衝撃

ここで富士葵さんは再び衣装チェンジ。シンビジウムのライブ衣装に。 「みんなありがとう」と登場するも、小さく「はぁ………」と息をつく様子にオーディエンスも少し笑いがこぼれる。ここまでほぼノンストップで歌唱とMCを繰り返してきた富士葵さんの体力に驚かされる。

こうしたVTuberのライブでは「体力が持たないから」などの理由でライブ上で録画を流すVTuberも少なくない。しかしリアルタイムでコミュニケーションをとったり、ポーズをとって歌い始める様子から、富士葵さんの今回のライブは決して録画ではなく、ステージに実在し、一生懸命歌っていることが確信できた。だからこそ、その様子には感謝と、一息「はぁ………」とついてしまったことに、ファンたちも笑みがこぼれてしまったのだろうと思う。

富士葵さんは「どうせ寂しくなっちゃうから、先に言っておくね」「どうせ、みんなはこの後、今来たばっかりと言います」「楽しい時間はあっという間でありまして………」とライブが終わる宣言をする前に伏線を張り始めた(観客は暖かく反応する)。

「これからも全部が全部楽しいことばかりかというと、多分、そうじゃないと思います」と少しネガティブな様子を見せつつも、「葵の中の思い出は、全部楽しいことばっかりです!」と会場に指を指しながら「いつも必ずこうやってみんなが居ます! ありがとう!」とファンに感謝した。

そして、富士葵さんが活動の上で大切にしているという言葉──「愛する心」「思いやる気持ち」「一期一会」と、最後に「よっしゃ行くぞー!」をオーディエンスと共に叫び、ライブはいよいよラスト2曲へ。新曲「くじら」を披露した。

会場は重厚なパーカッションが轟き、富士葵さんの澄んだボーカルがその音から突き抜けるように響く。音の表現に筆者も圧倒されてしまい、ただただ「スゲー」と小さく何度もつぶやいた。

楽曲は富士葵さんの楽曲ではあまり見られない、ラップと英語が多く取り入れられている。新たな挑戦へと向かう彼女たちの姿勢が垣間見れた。

次のイントロが流れ始め、「最後の曲です! まだまだ盛り上がっていくよ! もっともっと!」と富士葵さんが煽る。ラストは「Bouquet」の明るいメロディーが新曲「くじら」とガラッと変わった空気を醸し出す。

間奏では、富士葵さんが手を会場に振り、オーディエンスもそれに応えるようにサイリウムを振る。「見えているからね」と伝えているような気がした。「すぐに比べられる世界で最後に笑うのは誰でしょう」「最後に笑うべきは私でしょう」と少し強気な歌詞ながら、明るい曲調もあって、会場は大盛況。

花束を意味する「Bouquet」に似合い、途中背景ではキクノジョーさんが曲のリズムに合わせながらクラップ。そのクラップに合わせて手からたくさんの花びらを出し、背景も合わせて華々しいラストとなった。

手から花を出すキクノジョーさん(筆者撮影)

息の合った(?)アンコール

会場は富士葵さんの素晴らしいパフォーマンスに拍手喝采。

少し拍手がまばらになるころ、ひとりのオーディエンスが大きくアンコールを叫びはじめた。他のオーディエンスもこの声を頼りに、次第に一斉に息が合っていく。

こうしたアンコールは、大体は途中でまばらになってしまうものだが、最後までほぼバラバラにならず、富士葵さんが再登場するまで続いた。素晴らしい団結力だ。

ちなみに、こうした声はしっかりと配信にも乗っていて、他のVTuberのライブであると会場のアンビエンスを拾わないことも多い中、しっかりと富士葵さんへの声援を拾うためか、PAさんが準備をしていたと思われる。素晴らしい配慮だ。

再び登場した富士葵さん(筆者撮影)

さて、再登場した富士葵さんはライブ衣装に着替えており、「アンコールありがとうー!」と「はじまりの音」を披露。「はじまりの音」は富士葵さんのメジャーデビューシングルの表題曲。アンコールはそんな華々しい曲から始まった。

楽曲はパワフルな歌声に、デビュー間もない頃の初々しい歌詞が胸に響く。会場ではこれまでCGを中心とした演出がされていたが、スポットなどライティングアレンジが本編とは大きく変わり、アンコールならではの演出も。富士葵さんはステージ上で観客の煽りを適度に入れて、この6年のキャリアを堂々と感じさせる。

このセットリストにオーディエンスも大興奮。ジャンプし、大きく手を振る。途中ブラスバンドでみられるようなパーカッションが入るのだが、このパーカッションに合わせてファンがサイリウムを振っていたのも印象的だった。野球ではメガホンなどを振るのが普通だが、ここはライブ会場。サイリウムが応援のためのメガホンだ。そして、そのサイリウムは富士葵さんに必ず見えていることだろう。

曲を終えると富士葵さんは「ありがとうございました! 最高だ!」と喜びを表し、そこに「おいおいおい」とゲーム『メタルギア』のような無線画面でキクノジョーさんが登場。

スネーク、カロリーメイトはそんなにうまいのか?」とあの名言をつぶやいたが、富士葵さんは分からなかった様子だった。

周波数が011.7と、日付になっている(筆者撮影)

ここでキクノジョーさんが登場したことで、各チケットサイトや配信プラットフォーム「SPWN」で出演者表記が「富士葵、ちょこっとキクノジョー」になっていることについて解説。

どうやら、少しだけキクノジョーさんが出るという意味で「ちょこっと」を付けたようだったが、意図せずこのような形になってしまったようだった。

独立する時期に富士葵さんとキクノジョーさんのパソコンが3台も壊れるハプニングに見舞われたエピソードも披露。「タイミングというか……みんなで一緒に1回、リセットされたんだなって物理的にもわかった日でした」とライブを振り返った。

また、キクノジョーさんによると、彼が生まれた9月の2023年の運勢はこれから下降気味になり、富士葵さんの生まれた6月は平穏になるそう。

これを話すキクノジョーさんに対して富士葵さんは「なんでそんな嫌なこというの…門出に……(苦笑)」「ちょっとマイナスじゃない!? それ!?」と困惑しながらも突っ込みをいれていた。 キクノジョーさんは「そんなようわからん運勢やら、運命やら。あんなもん話術ですからね。全部ひっくり返してね、今ここにいるみんなの分もまとめて僕らがプラスしていくとおもうんで、よろしくお願いします!」と少し不可思議/wonderboyや『VIRTUAFREAK』ラストナイトのコーサカさんのMCを彷彿とさせる宣言をしていた。

そして、ここでお知らせとして新アルバム『THINK YOUR WORLD』が当日21時から配信されることが発表された。ここで運勢下降気味のキクノジョーさんは「ズンッ」と富士葵さんに魔界に返還されてしまった。
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1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:9403)

現地でライブ参加しました!
その時の感動が蘇ってくる素敵な記事でした。
これからも葵ちゃんのこと応援していきます!

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