連載 | #296 ポップな動画を紹介してみた

JAXA職員が本気でラップしたらこうなった「こんなに面白い研究者たちがいる」

「研究者の良いイメージをつくっていけたら」

「楽しいことばっかやってこうぜー!」MVカット

KAI-YOU.netでは今回、MVを企画し若手研究者にインタビュー。JAXA宇宙科学研究所(ISAS)の久保勇貴さんと深井稜汰さんに、企画の経緯や研究所内での反応、動画に込めた思いを聞いた。

──動画を企画・制作された理由を教えてください。

久保勇貴 この2年間、JAXA宇宙科学研究所(ISAS)の若手職員・学生たちで、面白い広報企画を提案してきた流れでの発案です。毎年一般のお客さんを招いてきたJAXA相模原キャンパス特別公開というイベントがコロナ禍で中止となり、それでもオンラインで面白いことをやろうと意気込んで始まった企画でした。

2020年・2021年は、RADWIMPS「前前前世」の替え歌である「探探探査」やBUMP OF CHICKEN「天体観測」を「天体観測のプロがパロディしてみた」という企画などを行い、通常の広報ではなかなか届きにくい層・世代へアプローチを試みてきました。

その流れで、2022年は「ラップをやったら面白いのではないか」と僕が思いつきで提案したのがきっかけです。当初はフリースタイルラップバトルなども考えていましたが、進めていくうちにJAXAを紹介するラップ楽曲をつくるという形で話が弾んで今に至ります。

「宇宙ってなんかすごいけど、自分とは関係ない世界の話だよね」と思っている多くの方に、「こんなに面白い人たちが面白いことをやってるよ!」というメッセージを届けたいというのが、根底にある制作理由・動機です。

深井稜汰 結果的に、メッセージがよりダイレクトに届く形になったと思います! ギュッと短くまとまったのも良かったですね。

──企画を主導したのは若手有志の方々とのことですが、企画を発表した際の研究所内の反応はどのようなものだったのでしょうか?

久保勇貴 「また若手の実行委員連中が変なことをやっているな」という反応ではありましたが、多くのプロジェクトの方から好意的に参加してもらえました。

中には、「私は恥ずかしいので若い人で大いに盛り上がってください……」と遠慮する先生方もいらっしゃいましたが、それでも企画自体を止めようとする人が誰もいなかったのは非常にやりやすかったです。

このあたりは、JAXA宇宙科学研究所ならではの気風だと思います。これまで2年間の実績から、きっと悪いものにはならないはずという信頼を得ていたのも大きいと思うので、今までの実行委員メンバーにも感謝しています。

深井稜汰 その場で初めて曲を聴いてもらうことが多かったですが、みんな「良い曲!」と言ってくれました。デモ音源がダサかったらみんなも乗ってくれなかったと思うので、プレゼンが大事でしたね。

──動画には総勢何名の方々が関わられているのでしょうか? またどういった部署の研究者の方々なのでしょうか?

久保勇貴 中心的な制作陣は5名程度の小規模でしたが、映像出演の方を合わせると60名、関わってくださった広報や実行委員メンバーを含めると80名以上かと思います。

JAXA相模原キャンパスに勤務する教育職/一般職の職員および学生のみなさんが協力してくださいました。 ──SNS上では音楽面について、サンプリングやフローなどを評価する声もあります。楽曲を制作した方は、どのような方なのでしょうか?

久保勇貴 作曲に関しては、主に深井が担当しています。サビのメロディは僕が散歩中にふと思いついた案を、3人で練り直しました。

作詞は主に深井と木村(※ISASラッパーズのもう1人のメンバー)と僕の3人で分担しました。3人とも、JAXA宇宙科学研究所の若手研究者で、ヒップホップ好きなイカしたメンバーです。

深井稜汰 制作は無料の音楽制作ソフトウェアを用いて行っています。もともとは1人で音楽をつくって遊んでいましたが、2021年度の特別公開企画「宇宙研ピクトグラム」で本家を真似たBGMをつくったところから音楽制作担当になり、今回の「ぼよよん行進曲」や所々で入るBGMなども1人でつくっています。

やり始めれば楽しいのですが、締め切りが重なると大変なのは研究と同じです。

──楽曲を制作した方は普段からラップやヒップホップを聴いていらっしゃるのでしょうか?

久保勇貴 小学生の頃、ORANGE RANGEが大好きでした。ラップの歌詞を頑張って覚えては、教室やカラオケなどでよく披露していたので、その頃から韻を踏む気持ちよさが身体に染みついていったように思います。

高校ではバンドをやっていたのでロックに傾きましたが、最近になってtofubeatsさんやRIP SLYMEも好きになりました。オンライン飲み会をしながら、メインボーカル3人ともtofubeatsさんの「水星」やRIP SLYMEが好きだという話で盛り上がったので、今回の楽曲にはそれらのオマージュをふんだんに取り込んでいます。

深井稜汰 3人はほぼ同世代なので「子どもの頃流行っていたラップ」でみんな意気投合しましたね!(木村さんは中学生の頃カラオケで友達とRIP SLYMEごっこをしていたそうです)。

これまで3人で音楽の話をしていたわけではなかったのに、「あの曲みたいなイメージ」と言うとすぐ伝わる感じが楽しかったです。僕はKOHHさんやBAD HOPのようなトラップ系のラップが好きなので、第2弾があればぜひやってみたいです。 ──リリックではJAXAならではのワードが随所に使われています。歌詞を考える際に意識したこと、楽曲制作で意識したことを教えてください。

久保勇貴 ライムの気持ちよさ、楽曲のオシャレさは強く意識しました。歌詞の内容自体は宇宙探査プロジェクト固有の専門用語を使うので、どうしても一般の方には伝わりにくいのですが、楽曲として気持ちよければそれだけで多くの人に聞いてもらえると思ったからです。

そこからさらに「この歌詞ってどういう意味だろう?」と興味を持ってJAXAのプロジェクトを知ってもらえれば、新しい宇宙ファンを生む良い流れになると思いました。

内輪ネタのような形にするのは簡単なのですが、それでは従来からの宇宙ファンの方にしか興味を持ってもらえないので、そこをいかに克服するかをつくり始めの段階から意識していました

深井稜汰 宇宙に関する単語でラップをつくることは全然イメージできていませんでしたが、つくり出したら意外と良いフレーズがたくさん出てきました(笑)。

簡単なデモ音源でラップした瞬間からもう良かったので、ヒップホップというパッケージの強さを感じました。また、今回は僕らのほかにも何人かゲストラッパーが出てきます。賑やかで多様な雰囲気をお伝えできるよう、歌詞もラップする人に合わせて工夫しています。

──「JAXA」「ISAS」といったワードから連想されるイメージとは、いい意味で非常にギャップのある映像・音楽だと思います。今回の動画を通じて発信したいことなどがありましたら教えてください。

久保勇貴 動画内に散りばめた小ネタ含め、「こんなことやったら面白いんじゃない?」という思いつきから、「じゃあどうやったらできるだろう?」というステップで少しずつ前進してきました。

実は宇宙科学研究所という研究所自体が、戦後に糸川英夫先生を中心として「日本も欧米に負けず宇宙探査をやりたい」「じゃあどうやったらできるだろう?」というマインドで一歩ずつ実績を積み上げてきた研究所なので、そういう気風が今でも自然に根付いているのだと思います。

研究者というと堅いイメージかもしれませんが、実は非常に好奇心旺盛で、どこまでも自分のこだわりを貫ける人の集まりなのだと思っています。こういった遊び心のある企画から、研究者の良いイメージをつくっていけたらいいなと思います。若い世代が中心になって、「JAXA」のイメージをさらに良いものにしていきたいです。
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