ゲーム好きならピンとくる、最後の踏ん張りどきにかけたくなるようなラスボスとの対戦を味わえるBGMだ。
音楽を手がけたのは『FINAL FANTASY XV』や『モンスターハンター』、『Devil May Cry』など数々のゲーム音楽で知られる、ユニークノート代表の柴田徹也さん。第一線で活躍するプロによって本格的な楽曲に仕上がっている。
『ラスボスとの対戦を味わうBGM』に登場するCGモデルは、専門学校HAL東京のCMや『シン・エヴァンゲリオン劇場版』にも携わるクリエイター・吉武薫さんのキャラクター。彼の自主制作CGアニメ『プロメシアン・ナイト』の登場人物だ。
今回は柴田さん、吉武さんに加え、プロデューサー/ディレクターをつとめたKASSEN/WACHAJACKの史耕さんによる座談会を実施。企画や自主制作のCGモデルが使われた経緯、さらに「ラスボス」というテーマを表現するための映像・音楽それぞれへのアプローチなどを語ってもらった。
【画像】「ラスボスとの対戦を味わうBGM」秘蔵資料(21枚) 取材・文:照沼健太 編集:都築陵佑
目次
最近のゲームに“ラスボス”はいない?
史耕 僕は現在、3DCGや手描きアニメーション表現を中心とした映像制作を軸にフリーランスとして活動しつつ、時にKASSEN/WACHAJACK社と協力してプロデューサー/ディレクターを担当しています。今回NURO 光さんの「ラスボスとの対戦を味わえるBGM」の映像制作の相談を受け、ゲームのイメージが強いCGアニメをつくることになりました。 史耕 でも、新規でモデリングして一から世界観をつくりあげるのはハードルが高い。
そこで、以前から親交があった吉武さんに協力をお願いしました。吉武さんは自主制作プロジェクト「ROLL Project」を制作しており、作品内の登場人物としてキャラクターをすでに持っていたので。
そもそも、広告企画と自主制作を絡めるのはなかなか難しいとは思うのですが、もし実現できたら「期間や予算を超えた素晴らしい企画になるのではないか」と。 吉武薫 そのお話をいただいたとき、僕もちょうど自分の作風が最近のゲームに近いんじゃないかと感じていたんですよね。
僕は自主制作として『プロメシアン・ナイト』というCGアニメを制作していて、その予告編をYouTubeやTwitterで公開しているのですが、それが中国の大手動画サイトに転載されてかなり再生されていまして。
そこで、すでにデザインされていた『プロメシアン・ナイト』のCGモデルや企画の内容は変えずに、サンプルをつくってお渡ししました。それが関係者の方々からも好評だったこともあり、そのまま制作させていただくことになりました。 ──「ラスボスとの戦闘」というオーダーを受け、本格的な制作に入る際、まずどのように映像のイメージをつくっていきましたか?
吉武薫 柴田さんが過去に音楽を手がけられた作品をはじめ、様々なゲームに目を通して「ラスボス」のイメージを探りました。
その結果「実は最近のゲームにラスボスは存在しない」という結論に行きつきました。
──最近のゲームにはラスボスは存在しない?
吉武薫 最近のスマホゲームやオンラインゲームって、「シーズン1」「シーズン2」とアップデートを重ねてお客さんに長く遊んでもらうスタイルが主流なので、ラスボスを倒して終わる作品は少ないんですよ。
柴田徹也 そうですよね。それはゲーム音楽をつくっていても感じます。
吉武薫 逆に言えば、「ラスボス」と聞いてみんながイメージするものは、ある程度過去作品に集約されていることになります。 吉武薫 そこで、パッと見て言葉で説明せずとも「ラスボス」だと伝わるビジュアルとは何だろう? と考え、ドラゴンのデザインを採用してブラッシュアップを重ねました。
今回、主人公やボスを筆頭に、『プロメシアン・ナイト』のキャラクターと世界観を基本的に使わせてもらっています。
──ゲームのラスボス戦といえば、「主人公パーティーと対峙するラスボス」のような複数で立ち向かうパターンもあると思います。今回NURO 光のキャラクター・ニャーロはいますが、パーティーバトルにしなかった理由はありますか? 吉武薫 基本的には「コンセプトをシンプルに伝える」ことを重視しています。あまり要素を増やしすぎると、対決感が揺らいでしまうと思いました。
今回、カメラが固定されているということもあり、キャラクターがより大きく見えた方がいいのも理由にありますね。
また、作業用BGMは仕事や課題に取り組むとき、一人で集中するために聴くのが基本だと思うので、パーティーがいると自己投影しにくい気もしました。
史耕 最近のRPGだと、『NieR:Automata』や『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のように、一人で冒険してストーリーを厚く描く作品を想像しながらつくっていますね。
今回、映像制作チームでは「ゲームらしさとは何なのか?」という観点から話し合いました。
──その話し合いでは具体的にどんなエピソードがありましたか?
史耕 コンセプト的にも「ゲームらしさ」は命題だと考え、万人にウケるUIをつくることになりました。
いろんなゲームのユーザーが「これはゲームだ」とわかり、なおかつ「おもしろそうだな」と感じられるようなものを目指しました。 吉武薫 そのためにも「UIに日本語を使うのはやめよう」って話をしましたね。昔のゲームには「たたかう」「必殺技」のようなコマンドが表示されていましたが、最近は海外ゲームの影響もあって、言葉よりアイコンで伝えることが重視されています。
音楽と映像のハーモニーを楽しんでもらうためにも、UIを目立たせすぎないよう日本語を使わない方向で調整しました。
柴田徹也 映像を観させてもらって、僕が知っているゲームよりもさらに新しいゲームという印象を受けました。これは実際にゲームにしたら本当に面白そうだと思いましたね。
吉武薫 今流行っているゲームのトレンド的な部分も要素として取り入れつつ、画面としての密度には自分がこれまで関わってきた作品で培ったエッセンスを加えていったので、「新しい」という印象を持たれたのは嬉しいですね。
──また、配色としては、ティール(青緑)&オレンジのような映画的なルックに仕上げられていますよね。 吉武薫 僕が洋画や海外ゲームを好きなのもありますが、最近のゲームは大人のユーザーも多いので、大人の鑑賞に耐えうる質の高い印象を与えられるカラーグレーディングを意識しました。
また、作業用BGMということで全画面表示を前提とせず、ディスプレイの端でも印象に残るような、迫力が感じられる強めの色味にしています。
──主人公とラスボスとのカラーリングが近く、何か因縁のようなものも感じました。
吉武薫 そうですね。ゲームだったらプレイして30時間くらい経った終盤の画を想定していたので、グレーディング的には似通わせて、物語性や前後の文脈を感じられるように構成させてもらいました。
史耕 そもそも、一枚絵で挑戦できるというのが嬉しかったですね。ワンカットにとことんこだわることができたので。
ラスボス戦のBGMは遅い? 強さを音楽で表現する方法
──続いて音楽の話に移りたいと思います。柴田さんは今回の企画にどのような経緯で参加されたのでしょうか? 柴田徹也 僕はこれまでに『FINAL FANTASY XV』『モンスターハンター』や 『Devil May Cry』シリーズなどの音楽を手がけてきたのですが、吉武さんのキャラクターに合う音楽をつくる作家を探す中でご指名をいただいたようです。 史耕 まさかこんな本格的な方に音楽をつけてもらえるとは! という感じでした。吉武薫 自主制作から上がってきた人間としては、柴田さんのような第一線で活躍されているプロに音楽をつけていただけたのは本当にありがたいことです。
この案件が僕らの自主制作のマイルストーンになったというか、「このクオリティーを目指さなければいけない」と、基準をさらに高めていただいたと感じています。
──「ラスボスとの対戦を味わえるBGMということで、柴田さんが参考にした作品やイメージはありましたか?
柴田徹也 「FF」など、過去に手がけたゲームを参考にはしましたが、それとはまた違う世界観なのであまり他の作品を見過ぎないようにはしました。クリエイターとしては似て非なるものをつくりたいので。
そもそも、今回は「ゲーム音楽」ではなく「映像につける音楽」という意識があったんです。 ──ゲーム音楽と映像につける音楽、その違いとは?
柴田徹也 実は両者は大きく違っていて、ゲームBGMは、プレイヤーに対してそこが危険なのか、大丈夫なのかといった「状況を伝える」役割を持っているんです。
それに対して、映像につける音楽では「(視聴者)にどのように期待してほしいか」を表現する必要があります。
──映像にどのように期待してほしいか?
柴田徹也 わりと昔からある手法ですが、ゲームのラスボス戦では曲がだんだん遅くなったりするんですよ。
遅い音楽の方が、本当に強い敵という感じがして怖いんです。でも、映像につける音楽の場合、だんだん速くならないと期待できなくて気持ち悪い。僕がこれまで関わった作品では「FF」も含め、そうした点は意識していますね。 ──なるほど。その他にも「こうすればラスボス感が出る」みたいなロジックやテクニックはあるのでしょうか?
柴田徹也 一番ベタでわかりやすいのは、コーラス(合唱)を入れることですよね(笑)。
一同 (笑)。
柴田徹也 人の声が持つ力ってすごいので、「なんかやばい」っていう不安と、「倒せるかも」っていう期待の両方が入ってくるんですよ。
楽器だけだと無機質というか、もちろん敵の強さは表現できるんですが、それだけだと「負けるかも」「倒せないかも」という不安も生まれてしまう。
その他にも、ザコ敵・中ボス・大ボスと段階を経るごとに楽器を変化させるのも有効ですね。ザコ敵はすごいテンポの速い曲、中ボスは逆にゆっくりな曲で、ラスボスはゆっくりだけど威圧感があってコーラスが入っているみたいな。
──今回の作業用BGMやゲームBGMは、ループさせる前提で作・編曲することになると思います。音楽の流れの中で盛り上がりを演出するのとループとして成立させるのを両立する上で、どのような工夫をされていますか?
柴田徹也 要素を詰め込みすぎないことですね。曲の速さやループの長さにもよるんですけど。
例えば、ゆっくりとしたテンポで短いループの曲に要素を詰め込みすぎると、「さっきも聴いたな」ってフレーズが何回も出てきて飽きてしまいます。
でもサラッと聞けてもつまらないんですよね。今回の曲では、そのちょうど中間を取るように、ある程度の音楽的な展開を入れています。
吉武薫 「壮大さをフォローしてくれている」と感じました。ラスボス戦を意識させる=物語の終盤を意識させるということなのですが、映像制作側からするとそれはすごく難しいんですよ。
画面に写る範囲しか見せられないですし、今回は1枚絵で固定されてしまうので、世界観的な厚みを描くことは非常に困難です。
でも、柴田さんの音楽を聴いて「3日徹夜でプレイして、やっとここに行き着いた」ぐらいの気持ちにさせてもらえました(笑)。それは映像では補えないところだと思っていたので、とてもありがたかったです。
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吉武薫
自主制作プロジェクト・ROLL project代表。CGアニメーション制作およびディレクションを行う。
商業CGアニメなどの演出やコンテの仕事をする傍ら、本格的な個人フィルムのアニメ『プロメシアン・ナイト』を制作中。
史耕
WACHAJACK/KASSEN、その他スタジオやチームで活動するディレクター、プロデューサー。
面白い人たちと良いものをつくることが大好きです!
柴田徹也
関西大学法学部卒。
幼少よりピアノを始め、高校からロック・ジャズを学ぶ。
大学卒業後に株式会社カプコンにサウンドとして入社。
2009年に作曲家の青木佳乃と共に音楽制作会社のユニークノートを設立。
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