インディーゲーム開発者必読『サバイバルガイド』著者が語る“耳の痛い話”

インディーゲーム開発者必読『サバイバルガイド』著者が語る“耳の痛い話”
インディーゲーム開発者必読『サバイバルガイド』著者が語る“耳の痛い話”

一條貴彰さんによる『インディーゲーム・サバイバルガイド』/Amazon商品ページ

POPなポイントを3行で

  • 『インディーゲーム・サバイバルガイド』
  • 著者・一條貴彰が語るゲーム開発の知見
  • 注目インディーゲームやオススメ書籍も
近年急速な盛り上がりを見せるインディーゲーム。日本でもゲームプラットフォーム・SteamEpic Games Store、スマートフォン向けではApp StoreGoogle Playなど、数多のインディーゲームが販売され広く遊ばれている。

そんなインディーゲーム開発の中を生き抜く知恵を網羅した、実践的な書籍インディーゲーム・サバイバルガイド』。著者は営業職から転身し、現在はインディーゲーム開発者として活躍する一條貴彰さんだ。

個人ゲーム作家として、2016年に『Back in 1995』を配信、現在は『デモリッション ロボッツ K.K.』を開発中。加えて、インディーゲーム開発者を支援する「iGi indie Game incubator」のアドバイザーや、開発者向け情報サイト「IndieGamesJp.dev」の運営も行っている。

『アンリアルライフ』『果てのマキナ』『カニノケンカ』といったインディーゲーム開発者同士の対談を収録し、ゲームを「完成させる」「知ってもらう」「配信する」「開発を継続する」という4つのテーマからアプローチした本書について、著者である一條さんにメールインタビューを実施。インディーゲームを開発する上で必要な知見を聞いた。

取材・文:おざきこうし 編集:恩田雄多

目次

ゲーム開発者にとって耳が痛い話ばかりの一冊

『インディーゲーム・サバイバルガイド』より

──『インディーゲーム・サバイバルガイド』の主題であるゲーム開発における「めんどくさいこと」は、ゲームをつくりはじめたばかりの開発者にとって耳が痛い話であるように感じました。

一條貴彰 たしかに耳が痛い話ばかり……というか、それ1冊でできているような本ですね。

──特に若手の開発者が軽視しそうなこと、気をつけてほしいことは何でしょうか?

一條貴彰 若い開発者が軽視するとは思っていないのですが、気をつけなければいけないこととして「Web上の情報は信頼できる情報源かどうかを見極める」ことを、常に念頭に置いてほしいです。

現代は検索上位に質の低い情報がヒットしてしまう時代。インディーゲームも盛り上がっているテーマですから、そこに目をつけて、情報が薄いブログを連発したり、実務経験がないのに専門家のように振る舞ったり、誹謗中傷が含まれるような発信をする人も残念ながら出てきました。

ですので、若い開発者のみなさんは、何かWeb上の情報を参照する際にはいきなり鵜呑みにせず、その発信者の背景や過去の言動を調べて信頼性を確かめてほしいと思っています。

一番確実なのはゲームエンジンやツールの公式ウェブサイトやYouTubeチャンネルを見ること。Unityなら「Unity Learning Materials」(外部リンク)、Unreal Engineなら「Unreal Online Learning」(外部リンク)がオススメです。

── 一條さんは過去、ゲーム開発ツール会社に営業職で勤務されていました。営業職からインディーゲーム開発者への転身のきっかけは何だったんでしょうか?

一條貴彰 ゲームエンジン(ゲーム開発ツール)である「Unity」との出会いがきっかけです。学生時代にも一度、ゲーム開発をしようと思ってプログラミングを勉強していたのですが、挫折してしまいました。

そこで就職するタイミングで「自分はゲームをつくれないけれど、ゲームをつくる人の支えになることで日本のゲーム産業に貢献しよう」という考えから、ツール会社の営業職となりました。

仕事自体は非常にやりがいがあって、自分の性格にも合っていたのですが、2013年頃にUnityと出会い、このツールをしっかり学べば自分でもゲームがつくれるという手応えを感じました。

──そこから開発にのめり込んでいったと。

一條貴彰 最初は仕事のためにいろいろ調べていただけだったのですが、徐々にゲーム開発が楽しくなってしまって……。一時期は会社の近くに自習室を借りて、就業後にそこでゲーム開発をして終電で帰る、という二重生活をしていました。

当時はまずシンプルなスマホゲームをつくって、その後150円のミニゲームをPlayStation Vita向けにリリースしました。そして『Back in 1995』の反響の大きさを見て、会社を辞めて独立しました。
Back in 1995 - Official Trailer | PS4, PS Vita
一條貴彰 今はUnityやUnreal Engineなどを活用して、誰でも自分でゲームをつくりはじめられる時代です。1~3年勉強すれば世の中に出せる作品もつくれるはずです。

営業職だった自分が代表作を持てるまでにこぎつけたのは、こうしたゲームエンジンの発展によるものが大きかったですね。

──営業職経験の中でインディーゲーム開発にも役立ったことはありますか?

一條貴彰 一番役立ったのは、その会社の中で学んだゲーム産業の知見です。

「パブリッシャー」と「デベロッパー」という関係、ゲーム開発における技術的な側面とビジネス的な側面、日本のゲーム産業ならではの良さと難しさについてを学び、これらはインディーゲームの開発活動において大きく役に立ちました。

特に「CEDEC」というゲーム開発社向けカンファレンスで、現場で活躍する技術者による知見と参加者との交流から学んだことがとても大きかったです。

インディーゲーム開発者といえど、App Storeや家庭用ゲーム機の販売会社(プラットフォーマー)で配信することになりますから、ゲーム産業の一員です。規模の差はあれど、共通点はたくさんあります。

それと地味ですが「ビジネスメールの書き方」「打ち合わせ調整とスケジュール管理」「契約書の下読み」といった、日常の基本的な業務も身につけておいてよかったと思いますね。

インディーゲーム開発と職業選択

『インディーゲーム・サバイバルガイド』より

──『インディーゲーム・サバイバルガイド』でも、「就職をおすすめ」「無計画に仕事を辞めてはならない」など、現実的な選択を重視するよう諭す内容が特徴的です。

一條貴彰 現実的な話に重きを置いたのは、まだ自作ゲームへの反響が小さい段階なのに、無謀にも仕事を辞めて、一発当てようとして失敗している人が今までたくさんいたかもしれない、という危機感からです。

再就職できるならばそれに越したことありませんが、そう甘くないのが現実です。想像ですが、金銭面で首が回らなくなった結果、世の中に怨念を言い続けるようになったり、家庭が荒れたり情報サロン屋みたいになったり……。そういう悲劇を避けたいという気持ちで、冒頭に書かせてもらいました。

とはいえ就職はしなくても、プレスリリースやビジネスマナーといったものは、本書やその他のガイド本を読めばある程度身につきます。でも、当然ながら言語化しにくい知見もあります。

──具体的にはどういったことなのでしょうか?

一條貴彰 例えばこれからインディーゲーム開発を行うことを念頭に社会に出る人は、会社の業務のうち自分のキャリアに何が活かせるかを意識しながら仕事にあたっていくといいのかなと思っています。

また、今後副業したり独立したりでインディーゲーム開発をはじめる考えがあるのならば、とにかく余暇の時間をできるだけ使ってゲームをつくることをオススメします。

インディーゲーム開発においては、あなたのゲームをつくってくれる人はそうそういません。開発ツールはなんでもいいので、1日でも早くひとりでゲームをつくれる技術を身につけることが大切ですね。

── 一條さんは副業としてゲーム開発ツール事業を支援されています。本書でも、期間の長いインディーゲーム開発を継続するために副業の重要性を述べられていましたが、一條さんはゲーム開発との兼ね合いの中で、副業とどのように向き合ってきましたか?

一條貴彰 私の場合は、副業とゲーム開発に必要な技術の習得をうまくオーバーラップさせることでバランスを取っています。

私の会社(株式会社ヘッドハイ)では、ゲーム開発ツールの支援事業を行っています。これは、私が開発ツールの営業職であったことのスキルと知見を活かしたものです。

開発しているゲームにパートナー先のツールを導入して実際のユーザーとして使いつつ、蓄積した知見をフィードバックしたり、ドキュメント化してWebに公開したり、ノウハウをもとにゲーム開発者向けのセミナー登壇を行うなどの活動を行なっています。

これはゲーム開発ツールの営業職経験がある私ならではなところがあって、あまり再現性がない話なので書籍の中には入れませんでした。サラリーマン時代に勤めていた会社(CRI・ミドルウェア)とは、今でもインディーゲームに関する仕事で協力し合っています。

『インディーゲーム・サバイバルガイド』より

──一般の方に向けた副業としては、どういったアドバイスがありますか?

一條貴彰 インディーゲームを開発しながら副業される人に向けては、人によりますが、やはり「ゲーム開発」が重ならないようにするといいかも……とは思います。ゲームの知見を活かしながらゲーム以外の仕事をするがいいのではないかと個人的には考えています。

例えばビジネス向けXR事業の背景制作であるとか、自動車向けシミュレーション用システムの一部を制作するといった副業です。

やはりゲーム開発の受託を請けてしまうとリソースがそればかりになり、単に受託をやる会社(またはフリーランス)としてずっと過ごしてしまう可能性もあるのかなと。繰り返しになりますが、これは当人の性格によって異なります。受託開発とインディーゲーム開発を交互にこなす器用な開発者さんもいます。

──ちなみに独立に向いている方の特徴は何でしょうか?

一條貴彰 独立に向いているのは、まず何より「つくりたいゲーム」のビジョンがはっきりしていて、すでに自分でつくりはじめている人です。

今世の中にないゲームや、あるけど個人的にもっとこうしたいと思う点があるテーマ、しばらく世に出ていないジャンルなど、他のゲームと明確な差別化されているゲームプロジェクトの構想がある人が向いています。

ただ漫然と「インディーゲーム開発者として独立して成功したい」ではかなり難しい。そして、毎日ゲームエンジンやコードエディタに向き合って作業できるかどうか、といったことも大切です。

──必要なスキルを持っているかどうか以上に大切ということですね。

一條貴彰 スキルの良し悪しやゲームデザインの知見などは関係なく、継続して開発ができる忍耐力が大切です。

ですので、独立を考える場合は、まずは連休を潰してひとりで極小のゲームをつくってみて、継続が実現可能であるかどうかを確かめてみてほしいです。

その上で欲を言えば、一定の締切に間に合うように成果物がまとめられると望ましい。

展示会、コンテスト、ストアのチェック、ビデオの制作など、インディーゲームのリリースには様々な締切があります。ベストな内容でなくても、期日までにまとめられる人であると理想的です。これは私もあまり達成できていないので、あくまで理想論ですが……。

英語学習はインディーゲーム開発者に必要?

──日本だけでなく世界に発信できる点もインディーゲームの強みだと思いました。世界中で100万ダウンロードを突破した『くまのレストラン』のDaigoさんも、本書の対談で英語学習を強く勧められていました。開発者が英語を習得するメリットについて教えてください。
『くまのレストラン』トレーラー
一條貴彰 個人的には「英語を習得する」必要はそこまでないと思っています。Daigoさんは海外での就業経験もあり、キャリアとして海外向けの発信をより主体的に行いたいと考えてのことだと思うので、同じ志向のある人は英語学習をしたほうがいいでしょう。

そうでないなら、最低限のビジネス英語の読み書きと、自分のゲームプロジェクトをパブリッシャーにプレゼンテーションする「ピッチ」資料だけしっかり英語化できていれば、あとは機械翻訳でもある程度コミュニケーションできます。

──その場合、英語や英文に対してはどのような点を意識すればいいのでしょうか?

一條貴彰 どちらかといえば、機械翻訳で英語の技術ドキュメントを読んだり、メールをやり取りしたりすることへの抵抗感だけ克服できればいいかなと。

言語の壁は今がまさに過渡期で、あと5~10年もすれば自動翻訳が本格的にビジネスのやり取りでも使えるようになるはず。

そのとき優先されるのは語学よりも、ゲームそのもののクオリティの向上とプレゼン訓練パブリッシャーや関係各社とやり取りするための知見です。そうしたところを、本書を通じて知ってもらえればと思っています。

『インディーゲーム・サバイバルガイド』より

──世界に向けて自身のゲームを広めるにあたり、語学以外で難しかったことを教えて下さい。

一條貴彰 前作『Back in 1995』はかなりニッチなゲームだったので、どのくらいのプレイヤーが楽しんでくれるか不明だった点が悩みでした。

幸いなことに、ゲームの制作発表時(2015年)は「PS1レトロポリゴン」というテーマは新しいものだったため、大手のゲームメディアに多数取り上げてもらえました。しかし、ニュースになってから実際に発売されるまで1年ほどかかってしまったため、当初は販売数が伸び悩みました

その後、Newニンテンドー3DS版の制作や、PS4・Xbox One・Nintendo Switchといった多機種への展開をきっかけにじわじわと売り上げを伸ばすことができました。そういった反響がお金になるまでには時間がかかったので、その間貯金や副業をしていなかったらと思うと少し怖いですね。

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書籍情報

インディーゲーム・サバイバルガイド

価格
2,948円(税込み)
仕様
A5、336ページ
著者
一條 貴彰
編集
村下 昇平
カバーデザイン
イノウエ
出版
技術評論社
執筆協力
yuta、葛西 祝、秦 亮彦
監修
PLAYISM (株式会社アクティブゲーミングメディア)

■『インディーゲーム・サバイバルガイド』目次

第1章:誰でもゲームを全世界へ販売できる時代
インディーゲーム——ゲーム文化の新たな発信チャネル
ゲーム作りをどうはじめて、どう続けていくのか
つくったゲームをたくさんの人に遊んでもらうために
対談:みずからのスタイルを貫くための個人制作ゲーム——「アンリアルライフ」hako生活×「果てのマキナ」おづみかん

第2章:ゲームを「完成させる」ために必要なこと
破綻しないためのプロジェクト管理
工数を見誤りがちな実装
快適に遊んでもらうための機能
デバッグとリファクタリング
完成の極意
対談:独立から家庭用ゲーム機展開へ、その道のりと苦闘——「カニノケンカ」ぬっそ×「ジラフとアンニカ」斉藤敦士

第3章:ゲームを「知ってもらう」ために必要なこと
宣伝活動の意味
宣伝素材の制作
公式サイトの制作
デモ版や体験版の開発
プレスリリースの作成と配信
そのほかの宣伝活動
インタビュー:Unityがインディーゲーム開発者に支持される理由
対談:スマートフォンゲームの生存戦略——「TapTripTown」いたのくまんぼう×「くまのレストラン」Daigo

第4章:ゲームを「配信する」ために必要なこと
税金・販売計画・契約・法律
スマートフォンでの配信
PC/家庭用ゲーム機での配信
インタビュー:Epic Games Japanが推進するクリエイター支援
対談:小規模チームによるゲーム開発の現場から——「グノーシア」川勝徹×「ALTER EGO」大野真樹

第5章:ゲーム開発を「継続する」ために必要なこと
ゲームイベントへの出展・展示
SNSの活用
ファン活動の促進
ゲームのアップデートとエンドコンテンツの用意
継続的なセールの実施
ゲームの売上以外で活動資金を得る
ゲーム作りの継続
対談:日本のインディーが海外へつながる「場」をつくる——「asobu」チャオ・ゼン&アン・フェレロ

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