KOHHのプロデューサーが、音楽を辞めてホテルを経営する理由

「自然は好きだけどめんどくさいことはしたくない」人に

自然は好きだけどめんどくさいことはしたくないっていう、都会人特有の自然やアウトドアへの“コンプレックス”を解消するというのが裏テーマでもあります」

普通、キャンプであればWi-Fiなんてもちろん飛んでないし、汚れた共同トイレで我慢しないといけない。

THEATER 1は、そうしたアウトドアにはつきものながら一般には敬遠されがちな要素を一つ一つ解消している。

「もともとアウトドア好きじゃない人間である僕のわがままを全部解消したから、都会の人にも需要があるのかもしれない」

標高600mのこの場所には水道がない。そのため、沢から引っ張ってきてろ過した天然水を使っている。

ノルウェーには、北欧の特徴的な針葉樹が茂る山に、まるでホテルが生えたような施設が数多く存在する。

高橋氏は「ランドスケープホテルというジャンルを日本でやりたい」と話す。

「でも日本の山にそのまま持ってきても合わない。逆にノルウェーのランドスケープホテルは、テクノロジーが皆無。だから、THEATER 1にはテクノロジーや日本の伝統的な技法を両方取り入れています」

大半の建築家があまりこだわらないという空調システム。気温だけでは足りず、湿度と風流。そして、きれいな空気。「その4つが揃った時に人は一番快適に感じるんですよ。ここでは、それを徹底してます」

KOHHのプロデュースにおいても、海外の先行事例を学び、国外で注目を集めることで日本に逆輸入的に話題を広めた嗅覚は、ホテル業においても発揮されている。

「輸入っていう意識はないんです。やっぱり地元っていうか、東京が好きなんで離れたくないだけというのはあります。東京を拠点に、面白いものを取り入れていったら、自然に、海外の文化や意匠を参考にしていたというか」

THEATER 1という実験的試み

このTHEATER 1は、高橋氏がオーナーながら、「318」としてのこれまでのキャリアを利用したプロモーションはほとんど行われていない。

今回も「高橋良」への取材のため、音楽プロデューサーの「318」という表記を避けてほしいと強く言われていた。

音楽ではない文脈で、新しい人気の施設として予約が埋まっている。

「今、キャンセル待ちの人が500組くらい(笑)。常に満室じゃないと、採算はとれないですね。

じゃあすぐ『THEATER 2つくりました』ってやればいいんですけど、それは僕の中ではあんまりかっこよくないんですよ。待っている人には申し訳ないけど、もう一つつくるにしてもじっくりやりたい」

すべては勉強、すべては実験。彼の行動は、そんな考えが下敷きになっている。

「あっち側にも一つ土地を持ってて」と、向こうの山々を指差しながら言う。

THEATER 1のすぐ近くにはスタッフの居住するコテージもある。そこも、こだわり抜いた廃材を利用して改築中だ。 その裏手、階段を上って雑木林をかきわけていくと、絵に描いたような古民家が佇んでいた。

「ここも買わないかって話がきてます。こないだまで猿が住み着いてましたよ(笑)」

実験には失敗がつきものだ。もともとあった建物をリフォームする形でこのTHEATER 1は生まれた。

しかし、高橋氏は「正直全然(今の施設に)満足してない」とぶっちゃける。

「いきなり新築でやると絶対に失敗するから、まずは改築という形をとったんです。そこで、試したい建築技法を全部試した。けど、細かいところでもっとこうしたいというのは沢山ある」

いわく「床材の幅が100ミリじゃなくて90ミリになってる」とか、日差しが強くて後付けで設置したタープとか、宿泊客のニーズに応える形でしぶしぶ外に設置したテントとか。

「実際に改築してかなり勉強になったので、5年以内には一回全部壊して新築にする予定です。日本の和モダン趣味的な、中途半端な古民家改修はダサい。中国くらい、古民家をアートやテクノロジーと融合させるくらいのことをやります」

「嘘をつかないと10億なんて稼げない」

やりたいことは明確にあって、こだわりも強い。それだけに、ビジネスに大きく舵を切ることもしたくない。

「年間で10億を稼ごうとしたら、物事を誇張して話したりとかも含めて、ちょっと嘘をつかないと稼げないんです。でも、それをしないで生きる方が気持ちいい。

僕はどっちの稼ぎ方もしたことがあるからわかるんですけど、『何の仕事してますか?』って言われた時に堂々と『これをしてます』と言えるのは、やっぱり嘘のない仕事なんです

彼の華々しいキャリアを思えば、その言葉には説得力がある。

「THEATER 1だって、提供しているものを考えたら一晩8万円でも安い。一部でもてはやされてるグランピングなんて、初期投資もそれほどかからないから儲かるでしょう。

良いものを相場より少しでも安く提供して、サービスもきっちり、従業員にも多めに給与を出すとことをやっていると、商売って儲らない。でもちゃんとしたものをつくってそれが流行っていれば、食っていく分には十分。すごく気分はいいんですよね」

晴れ晴れとした表情で言う。

では、なぜ音楽業から離れることに決めたのか。KOHHと交わした約束とは何なのか?

KAI-YOU Premiumでは、そのヒップホップとの深い関わりに始まるそのキャリアを紐解きながら、彼のこれまでの半生と、プロデューサーとしての理論を紐解いていく。

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