連載 | #5 アニメーションズ・ブリッジ

『イヴの時間』から『アイうた』へ 吉浦康裕が提示したAI表現と劇場アニメの臨界点

少女たちのダンスが世界を救う『時守たちのラストダンス』

そんな『アイうた』とともに読んでいただきたいのが、三萩せんやの『時守たちのラストダンス』(河出書房新社)である。

高知県から上京してきた少女、小湊伊純は高校に入学する。そこで遭遇したのは、どこかで見たことも喋ったこともある少女たち。日岡蒼、友立小夏、大道あさひ、都久井沙紀……彼女たちも互いのことを知っているものの、「初めまして」という状況に困惑するもいつのまにか友人になっていた。ひょんなことから5人はダンス大会に挑戦することになるのだが、その裏では生徒会長によって世界が消滅しかねない陰謀が進行。それを阻止する鍵がダンスにあるようで……?

三萩せんやは2015年に『神様のいる書店』(KADOKAWA)でデビューした作家。同時にGA文庫や角川スニーカー文庫でも著書を刊行している一般文芸とライトノベルをまたにかけて活躍する作家のひとりだ。本作『時守たちのラストダンス』には、原作として東映アニメーションの著作権表記となる東堂いづみがクレジットされている。

東映アニメーションが絡んでいるということはノベライズなのか、というと半分正しい。本作は2016年に公開されたオリジナルアニメ映画『ポッピンQ』の正統続編で、ストーリー展開は完全なる新規であるからだ。もちろん、本稿で紹介するからには『ポッピンQ』未見の人でも楽しく読める作品であることは保証する。

アニメにはない小説ならではの十人十色の読後感

本作の軸は、ダンスによって少女たちが世界を救うことにある。「少年少女が物語を牽引し、世界を揺るがす大事件を解決する」のがオリジナル映画の鉄則だが、本作も少女たちがダンスというギミックを用いて、世界を揺るがす大事件を解決するのが肝。ここはオリジナル映画が原作故、小説という媒体であっても展開を踏襲している部分であろう。

しかしアニメでないことによって心理描写(モノローグ)が多く、各キャラクターの掘り下げが行われていることが本作の魅力。地の文から想像する、読者のイメージに委ねられている部分も多く(ダンスシーンはアニメならばその画が正当になってしまうが、小説ならばそのようなことはない)、十人十色の読後感が味わえるのではないだろうか。

ちなみに本作には同位体というドッペルゲンガー的SFギミックも登場するのだが、それもオリジナル映画特有のオモシロ設定。そこがラストシーンに大きく関わっていく。読み終わった後、「いったいどういうことなの!?」と興味を抱いた人はぜひ『ポッピンQ』本編もご覧いただきたい。また、スピンオフ的作品『七夕の夜におかえり』(河出書房新社)も刊行されているので、こちらもお勧めしたい。

そろそろ年の瀬、師走ということもあり忙しい人も多いこの頃。しかし、どうにか時間を捻出していただき『アイうた』を劇場で、『時守たちのラストダンス』を書店で触れていただき、オリジナル映画特有の疾走感とダイナミックな構成に酔いしれてほしい。

※記事初出時、一部表記に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。

©吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

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作品情報

アイの歌声を聴かせて

原作・脚本・監督
吉浦康裕
共同脚本
大河内一楼
キャラクター原案
紀伊カンナ
総作画監督・キャラクターデザイン
島村秀一
メカデザイン
明貴美加
プロップデザイン
吉垣 誠 伊東葉子
色彩設定
店橋真弓
美術監督
金子雄司〈青写真〉
撮影監督
大河内喜夫
音響監督
岩浪美和
音楽
高橋 諒
作詞
松井洋平
アニメーション制作
J.C.STAFF
配給
松竹
土屋太鳳
キャスト
土屋太鳳 福原 遥 工藤阿須加 興津和幸 小松未可子 日野 聡
大原さやか 浜田賢二 津田健次郎 咲妃みゆ カズレーザー(メイプル超合金)

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連載

アニメーションズ・ブリッジ

毎クールごとに膨大な量が放送されるアニメ。漫画やライトノベルを原作としたもの、もしくは原作なしのオリジナルと、そこには新たな作品・表現との出会いが待っている。 連載「アニメーションズ・ブリッジ」では、数々の作品の中から、アニメライター兼ライトノベルライターである筆者が、アニメ・ラノベ etc.を橋渡しする作品をピックアップ。 「このアニメが好きならこの原作も」、そして「こんな面白い新作もある」と、1つの作品をきっかけにまだ見ぬ名作への架け橋をつくり出していく。

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