和月伸宏インタビュー 『るろうに剣心 最終章』に至る、実写と漫画が歩んだ10年

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アメコミファン・和月伸宏の考えるヒーロー像

──ちなみに、原作の剣心と実写映画の剣心の違いはどういう部分にあるとお考えですか?

和月 実写の剣心の方が心が強いですね。大友監督の解釈だと思います。特に今回の『最終章』を見て、よりそう感じました。

──心の強さといえば、ヒーローの象徴の1つです。和月さんはアメコミのファンとしても有名で、ご自身でも様々なヒーローを描かれてきて、『北海道編』では地獄を経験した者が善悪を問わず「猛者」と呼ばれています。ヒーローとヴィラン(敵)を隔てるものは何だとお考えですか?

和月 究極に言えば、人を助けるか否かだと思います。どんなきれい事やお題目を並べても、人を傷つけたり殺したりしてしまえば、それはヒーローとは呼べないのではないでしょうか。

悪役であっても人を助けた瞬間はヒーローだし、主役であっても人を苦しめて殺してしまったら、それはヒーローではなくなってしまう。「救民済世」の精神を持てるか否かが、ヒーローの条件だと考えています。これは原作を連載していく中で、考えながらたどり着いた感覚ですね。

──連載しながらという意味では、ご自身が考える少年漫画の主人公像への影響もあったということでしょうか?

和月 僕の持論ですが、少年漫画の主人公は「王様(キング)型」と「騎士(ナイト)型」に分かれるんです。王様型は、「王になる」「頂点に立つ」「一番強くなる」といったような高みを目指すタイプ。対して騎士型は、自分の信念やお姫様を護るタイプです。剣心は騎士型ですね。

この2つに共通するのは、「人を助ける」こと。たとえば『ONE PIECE』のルフィは王様型のキャラクターだと思いますが、いろいろな島々に行って苦しんでいる人々を助けるじゃないですか。やはり、人助けの精神はヒーローに必須だと思います。

『るろ剣』連載時とはあまりに異質で面白い作品

『るろうに剣心 最終章 The Final』

──せっかくの機会ですので、原作漫画についてもお聞きしたいです。連載開始時、剣心の年齢設定に苦労されたとうかがいました。どうしても30歳オーバーになるところを、「少年誌の主人公だから」という理由で28歳に落ち着いたと。

和月 幕末に根っこを持っているキャラクターが、明治10年を舞台に活躍するとなったときに、年齢計算すると30歳オーバーじゃないと厳しいんじゃないかと考えたんですよね。

見てくれは優男だけど、実際は30歳を越えているという設定を当時の担当編集さん──『バクマン。』の編集長のモデルになった佐々木尚さんに話したときに、それだと難しいと言われて。

そこでギリギリ30歳にいかない28歳にしたんです。いま思えば、佐々木さんは『シティーハンター』も担当していたんですよ……。

──そういえば……

和月 そう! 冴羽獠って何歳だよ! 自称は20代かもしれないけど、実際は30代なんじゃないのか!? という(笑)。

でも、当時は今のように「(少年漫画を)大人も読む」にはまだちょっと早い時代でしたから、佐々木さんの判断は正しかったと思います。

──そうした少年漫画の慣習のようなものは、近年変わってきたとお考えですか?

和月 流行り廃りは変わってきたように思いますね。『るろうに剣心』あたりから主人公が基本的には殺さないという流れになって、ルフィもナルトもそうですよね。

それ以前は主人公も敵も殺す選択をするという流れがあり、極まりすぎて『ドラゴンボール』で「生き返らせる」という案が生まれたように感じています。

ただ、「死ぬ」展開は盛り上がるけど、数が増えることで珍しくなくなってしまったんじゃないかと。そこで「殺さない」が生まれ、今度は『進撃の巨人』あたりからバンバン死ぬ方向に転換していった。今は『呪術廻戦』や『鬼滅の刃』など、「死ぬ世界」が克明に描かれている気はしますね。

『鬼滅の刃』1巻/画像はAmazonから

──その理由はどういった点にあると考えていますか?

和月 たとえば東日本大震災を経験していることもあるでしょうし、世の流れに応じて変わってきた印象があります。「不殺」といってもそれだけでは済まないよ、と読者も感じて、求めはじめた傾向はあると思います。

あとはやはり、読者の年齢が上がったこと。今は10代よりも少し上が中心となって、その上も下も読むように変わりました。少年漫画を少年少女が読むのではなく、「少年漫画を読みたい人」が読むようになったんです。

──なるほど! 非常にしっくりきます。

和月 そういった意味での広がりはありますよね。だからこそ、シリアスな話を描けるようになった。10代の子がどれくらい『チェンソーマン』を理解して、楽しめているかは未知数ですしね。

あの作品は大人だからこそ楽しめる点が多いとも思いますし、自分が『週刊少年ジャンプ』で連載していたときと比べると、あまりにも異質、でもすごく面白い作品ですよね。

『チェンソーマン』1巻/Amazonより

和月 よく「この作品が流れを変えた」と言われますが、個人的にはそうは思わないんです。あくまでも時代の流れや、世の流行り廃りがあって変わってゆくものであって、誰かがこの作品を描いたから変わった、ということはあまりないのではないかと考えています。

作者は「読者が読みたいもの」を探りながら、その上に自分の描きたいものを乗せていくもの。その切磋琢磨の中で、数々の名作が生まれてきたわけです。

連載終了直後の実写化はたち消えになっていた

『るろうに剣心 最終章 The Final』

──『るろうに剣心』がここまで長い間愛される理由について、和月さんはどう考えていますか?

和月 こういうのって、自分ではあんまりわからないもんですね(笑)。ただ言えるのは、人って1つのものだけ好きになることはないと思うんです。

『ONE PIECE』も『ドラゴンボール』も『BLEACH』も『NARUTO-ナルト-』も『銀魂』などなどがある中でこの作品を愛してくださっているのは、オンリーワンの要素があるのかな? とは思っています。好きな人が多いタイトルには、やっぱりそこにしかない魅力や楽しさがあるわけですから。

そう考えると、『るろうに剣心』は超能力や神通力、妖怪や鬼が出るわけではなく、あくまで人間同士の戦いを描いた、少年漫画をギリギリ時代劇という範疇に収めた作品だったんです。

そういった作品として、初めて初版100万部に到達したコミックスだとは聞いているので、『るろうに剣心』の世界観自体に魅力を感じて下さった方が、そこをオンリーワンだと思ってくれたのではないでしょうか。

もちろんオンリーワンなだけではダメで、みんなが楽しめる王道の要素も必要です。両方が揃っていた結果、お陰様で『るろうに剣心』は皆様に愛されるタイトルになっていけたのかなと感じています。

──だからこそ、その後の作品への影響も大きいのだと思います。先ほどお話に出た『呪術廻戦』の作者・芥見下々さんが公式ファンブックで、キャラクターをデザインする際に「何度描いても『志々雄じゃねぇか‼』ってなって途中で諦めた」と語っていました。

『呪術廻戦 公式ファンブック』/画像はAmazonから

和月 そうなんだ(笑)。初めて聞いたのですが、嬉しいですね。

僕自身も影響を受けやすい方ですし、「もし影響を受けてくれたら嬉しいな」くらいのスタンスですね。やっぱり、好きだから影響を受けるわけなので、もし自分の作品からインスパイアされたものがあれば、単純にありがたいです。

みんな、大なり小なり見てきた作品の影響は受けるものだと思います。「完全にオリジナルの物をつくる!」という方もいますが実際そうはいかないので。

自分が何かしら影響を与えて、次の世代の作家さんがまたその次の世代に影響を与えて、そうやって少しずつ紡いでいけたら素敵ですよね。

『るろうに剣心 最終章 The Final』

──最後に、約10年の歩みを終える映画「るろうに剣心」シリーズについての想いをお聞かせください。

和月 本当に感謝です。実は連載終了直後に実写化のお話をいただいたものの、すぐ立ち消えになってしまっていたことがあって

今回の実写シリーズ1作目は、連載終了から10年経っていましたし、改めてお話をいただけただけでもすごく嬉しくて「贅沢を言っちゃいけない」「ちゃんと収益が出るといいな」くらいの気持ちでした。

ただ、やるからにはちゃんとしたいから、先ほどお話ししたように脚本も何回も読ませていただき、意見を伝えました。それがまさか10年近く続くとは! 実は『るろうに剣心』のメディアミックスの中で、ラストまで描いてもらえたのは初めてなんですよ。だからこそ、感謝の気持ちしかないですね。

©和月伸宏/集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会

名作をディープに楽しむ

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作品情報

るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning

公開
4月23日(金)『るろうに剣心 最終章 The Final』
6月4日(金)『るろうに剣心 最終章 The Beginning』
配給
ワーナー・ブラザース映画
出演
佐藤健
武井 咲 新田真剣佑
青木崇高 蒼井 優 伊勢谷友介
土屋太鳳/三浦涼介 音尾琢真 鶴見辰吾 中原丈雄/北村一輝
有村架純 江口洋介
監督
大友啓史
原作
和月伸宏「るろうに剣心−明治剣客浪漫譚-」(集英社ジャンプ コミックス刊)
製作
映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
制作プロダクション・配給
ワーナー・ブラザース映画

関連キーフレーズ

SYO

映画ライター/編集者

1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。映画作品の推薦コメント・劇場パンフレットの寄稿や、トークイベント・映画情報番組への出演も行う。カフェ巡りと猫をこよなく愛する。
Twitter(@SyoCinema)

1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:4437)

和月先生の想いを大友監督に託して頂きありがとうございます!
るろうに剣心は佐藤健さんでという原作者と映画関係者の意見があったから映画は完成したと思います。

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