原作者の要望を超越した大友監督のエンタメ力
──実写シリーズの最後ということで、脚本段階で和月さんが要望を出されたところはあったのでしょうか?和月 最終章に関してはなかったですね。僕は基本的には「餅は餅屋」だと思っていて、アニメはアニメの人、映画は映画の人に任せるというスタンスなのですが、「餅屋です」と言っておきながら餅を売っていない人がどこの世界にもいるんです(苦笑)。
そういうことがあるので、ちゃんと餅を売っている人だとわかるまでは口を出すというのが自分のポリシーです。そのため、1作目のときはいろいろ言わせていただき、シナリオは十数稿までもらいました。
おかげさまですごく評判となり、2作目・3作目は、基本的にはある程度出来上がったシナリオを見せていただいて意見を伝えるという形です。2・3作目に関しては、2のラストで剣心が海に落ちた後の話だけ「これはやめてほしい」とお伝えしました。 ──当時の具体的な要望を教えていただいてもいいでしょうか?
和月 最初にいただいたシナリオだと、浜に打ち上げられた剣心をたまたま近くにいた漁師さんが助けて、その後剣心の師である比古清十郎のところに向かうという流れでした。ただ、剣心を助けた漁師さんがその後、宿敵・志々雄の一派に殺されてしまう筋書きだったんです。
それをやってしまうと、「剣心に関わったことで死んでしまう」ことになり、作劇上の不殺(ころさず)が壊れてしまう。
剣心はその場にいない設定だったから、不殺の範疇外という見方もできるんだけど、やっぱり根幹のテーマとストーリーが崩れてしまうんです。そのため「これだけは絶対に変えてほしい」とお伝えしました。 和月 そして、出来上がったものを見たら、剣心が浜に打ち上げられたところに比古清十郎が現れて終了、しかも比古清十郎役は福山雅治さん!……と、ものすごくおいしいところで終わるわけです。
素直に「うわ……すごい!」と。僕の要望を踏まえたうえで、さらにエンターテインメントを重ねてきて、やっぱり大友監督は職人でありながらエンターテイナーでもあると感じました。あれは本当にブラボーでした。
──『最終章 The Final』でいうと、ヒロイン・薫が師範代をつとめる神谷活心流の「活心」がより掘り下げられていると感じました。今お話しいただいた「不殺」と同様に大切なテーマかと思います。
和月 表裏一体の概念だと思いますね。光の方から見たら活人剣、陰の方から見たら不殺、つまり薫側から見るか、剣心側から見るかといった方向性の違いでもあります。
週刊連載はライブで描いているようなものなので、なかなかじっくりテーマを振り返ることができない部分もあったのですが、今回の『最終章』を見て、本作の敵となる雪代縁も「活心」「不殺」に巻き込まれていくんだな、と改めて感じましたね。
実写映画があったから『るろ剣』続編は生まれた
──現在連載中の『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚・北海道編-』も非常に面白いのですが、実写映画からの影響もあるのでしょうか?和月 はっきり言ってしまうと、実写映画がなければ『北海道編』はやっていませんでした。実写映画がスタート時点で連載終了から10年経っていますから、自分の中では完結した作品だったわけです。それが、実写映画化によってもう一度見つめ直すことになり、当時描けなかった少年漫画のテーマを描けるんじゃないかと。
『るろうに剣心』のラストで、剣心は死ぬまで不殺の剣をふるい続けるという答えを出しました。それが人斬りの人生への結論であり決着はついた──ということにしましたが、その部分を紐解いていくと「剣心はそう遠くないうちに死んでしまう」ことが見えてくる。ただそれを描いてしまうと少年漫画じゃないだろう、ということであのラストになったんです。
ですが、実写映画に関わっていく中で、異なる結論があるんじゃないのか、剣心が死なずに不殺を完遂させる結論はないのかと考えはじめ、『北海道編』が生まれました。「当時描けなかった本当のラストを描く」がテーマなので、やっぱり実写映画がなければ生まれていないんですよね。
──まさに運命的ですね。ここからは『るろうに剣心』のコアなお話についても教えてください。まずはキャラクターデザインですが、原作コミックス21巻では、巴のキャラクターデザインに苦労したと吐露されていました。『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイのようになってしまうと。 和月 ああ……(苦笑)。巴に関しては、改めて自分でも読み返してみて「わからない」「ミステリアス」が一番の魅力なのかなという結論にたどり着きました。作中では、剣心の回想として巴が描かれていますよね。つまり、あくまで剣心から見た巴であって、本当の彼女は誰にもわからないんです。
「本質的にわからない存在である」ことは、綾波レイにも言えるかもしれません。綾波も、当時としては非常にわからないキャラクターで、何者なのかわからないし感情も見えないし出生もわからない。だからこそ知りたくなるキャラクターでしたよね。巴も、そういった面で影響を受けています。
巴を演じた有村架純さんも、絶妙な「わからない」演技をしていました。1か所だけ、弟の縁が訪ねてくるシーンで姉としての素顔を見せるのですが、そこだけは彼女の目が違うんです。ぜひ注目していただきたいポイントです。
──縁を演じた新田真剣佑さんも素晴らしかったですよね。 和月 「見ていただければわかる」というくらい、肉体の説得力がすごいですよね(笑)。あそこまで甘いマスクであの筋肉の方は、そういない。一目見たら「あ、縁だ」とわかりますもんね。
──低い重心から繰り出される「倭刀術(わとうじゅつ)」の再現度も素晴らしかったです。
和月 本当に「そこまで!?」というところまでやってくれるんですよね(笑)。
剣心と縁の最終決戦の撮影中に陣中見舞いに行ったのですが、新田さんは本番前に腕立て伏せをして、パンプアップした状態で臨んでいました。そういった点から見ても、やはり尋常じゃないレベルで役と向き合ってくれていました。
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作品情報
るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning
- 公開
- 4月23日(金)『るろうに剣心 最終章 The Final』
- 6月4日(金)『るろうに剣心 最終章 The Beginning』
- 配給
- ワーナー・ブラザース映画
- 出演
- 佐藤健
- 武井 咲 新田真剣佑
- 青木崇高 蒼井 優 伊勢谷友介
- 土屋太鳳/三浦涼介 音尾琢真 鶴見辰吾 中原丈雄/北村一輝
- 有村架純 江口洋介
- 監督
- 大友啓史
- 原作
- 和月伸宏「るろうに剣心−明治剣客浪漫譚-」(集英社ジャンプ コミックス刊)
- 製作
- 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
- 制作プロダクション・配給
- ワーナー・ブラザース映画
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SYO
映画ライター/編集者
1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。映画作品の推薦コメント・劇場パンフレットの寄稿や、トークイベント・映画情報番組への出演も行う。カフェ巡りと猫をこよなく愛する。
Twitter(@SyoCinema)
1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:4437)
和月先生の想いを大友監督に託して頂きありがとうございます!
るろうに剣心は佐藤健さんでという原作者と映画関係者の意見があったから映画は完成したと思います。