公開中の映画『るろうに剣心 最終章 The Final』。和月伸宏さんの人気コミックを佐藤健さん主演&大友啓史監督で実写映画化した大ヒットシリーズ「るろうに剣心」の完結編2部作の第1弾である。人気の映画シリーズの最終章ということもあり、楽しみにしていた人も多いだろう。
迫力のあるアクションが大きな魅力となっている「るろ剣」だが、漫画に登場する技や流派は現実に存在したのだろうか?
今回は、日本の古武術に詳しい日本甲冑合戦之会およびガチ甲冑合戦の代表・横山雅始さんに「るろうに剣心のモデルとなった流派は?」「奥義とは実際どういうものだったのか?」といった話を、前編・後編にわたって聞いていく。
取材・文:まいしろ 編集:日野綾
横山 そうですね。アニメも実写映画も観ていますよ。
──良かったです! では、まずは「るろうに剣心」の主人公・緋村剣心が使う飛天御剣流(ひてんみつるぎりゅう)という技についてお聞きできますか?
横山 「抜刀」を使うということなので、九州の薩摩の剣術の流派の1つがモデルになっていると思います。その流派は「抜き」という抜刀術を持っていて、「幕末の実戦剣術」と呼ばれていた流派ですね。
──難しい流派だったのでしょうか?
横山 どうでしょうね。ほかの流派だと実戦までに1〜2年ぐらいかかりますが、その剣術は3ヶ月ぐらい訓練すれば一応実戦に出られるんです。
その流派は「速習速戦」の流派で、「上から斬り下ろす技」と「下から抜く技」の2つだけを、嫌になるぐらい練習します。なので、ほかの剣術に比べて実戦に出られるのが早いんですね。
ただ、本格的に極めようとすると、この流派も10年ほどはかかります。奥の深さはほかの流派に劣らないと言えますね。
──徹底的に実戦向きの流派なんですね。強さについてはどうでしょうか?
横山 抜きは一撃必殺の技と言われていて、新選組にも「薩摩の初撃はかわせ」と言われていたほどでした。
薩摩の実戦剣術の抜刀のやり方は独特で、抜刀するときの刃の向きがほかの流派とは違いました。鯉口を回して陣太刀のように刃を下にして、真下から真上に斬り上げる。それが相手の意表をつくので勝ちやすかったというのもあります。
横山 まずないですね。「剣術を心得ている敵が3人いたら、無傷では帰れない」と言われています。
たくさんの人と戦う場合、剣術の腕ではなくて「どれだけ作戦がうまく立てられるか」が大事です。
──具体的にはどういう作戦があるのでしょうか?
横山 基本的に「1対1の繰り返し」に持っていくようにします。敵が2人いたら、片方との距離をつめて先に倒し、もう1人が攻撃してくるまでに時間を稼ぐようにします。 横山 自分の場合は、まずは目線を下に落として敵の足元を見ています。そうして、敵がどこに何人いるのか、どこに動こうとしているのか、一番近い敵は誰なのかを把握します。
それから、自分から攻めるとスキをつくってしまうので、絶対自分からは攻めません。相手が攻めようとした瞬間に、カウンターで返します。そうして倒した敵を背中に置いて、そのままほかの相手を攻める、という戦い方をしていますね。 ──想像以上に実践的なお話ですね……! そういった1対多数の実戦で「抜刀」は本当に使えるのでしょうか?
横山 これは微妙な問題で、1人倒すとほかの人が用心するので、抜刀は仕掛けにくくなります。なので「初撃は抜刀、残りは剣術」で戦うのがよいのではないでしょうか。
──抜刀は使うタイミングが限られるんですね。
横山 ただ、相手が「抜刀」という技を知らなければ、どういう状況でも使えますよ。 そもそも、こういった日本の武術の9割以上は、平和な江戸時代にできました。
最初の頃は、どこの流派も自分の技術をほかに漏らさず「秘伝」や「奥義」をつくっていました。 ──「秘伝」や「奥義」って本当に存在するんですね。
横山 そうですね。武術というのは現代的にいうと基本的に、初段・二段・三段……と積み上がっていって、だんだんと難しい技を習います。
で、それの最高峰にあるのが「奥義」。これができるようになったら十分な実力がついたということになります。
ただ、奥義ができないと勝てないわけではありません。間合いを取る、技を見切るといった、最初に習う基本の技が身についていれば、実は勝つことはできるんですね。
──武術がやりたくなってくるお話ですね。「奥義を教えてもらうための条件」などもあったのでしょうか?
横山 昔はわりとそういうことにこだわっていて、昭和の時代まではありました。「技を教える前に面接をして人柄を見る」という流派もありました。
──武術の世界にも面接があるんですね。仮に、奥義をほかに漏らしてしまった場合はどうなってしまうのでしょうか?
横山 破門になります。これは今でも伝統として続けている流派はありますね。「奥義をSNSに投稿したら破門」「奥義を動画で録画したら破門」という流派はあります。 ──剣術の流派も時代に合わせてアップデートされているんですね。飛天御剣流のように「師匠を倒さないと奥義を教えない」といったルールもあるのでしょうか?
横山 飛天御剣流は極端ですが、「師匠のこの技に勝てたら昇段させる」というのは今でもあります。
横山 江戸時代だと結構あったようですね。巻物に「政治で動くな」「お金で動くな」と書かれていることがあります。
ただ、結局それはタテマエで、流派にはそれぞれ(政治的な)スポンサーがいたんですね。そして「そのスポンサー以外に自分の流派を使われると都合が悪いから」という裏事情がありました。
ほかにも「お金で動くな」と教えていた流派が、お金を払った人に免状をあげていたという記録もあります。なので「自由の剣」に近い思想を持っていた流派は多いですが、実際にその思想を守っていたかどうかはわかりません。 ──江戸時代の侍たちも人間だったということすね。思想の話でもうひとつ、緋村剣心は「不殺(ころさず)」という信念を持っているのですが、人を殺さないよう戦うのと、気にせず戦うのではどちらが難しいのでしょうか?
横山 「不殺」の方が断然、難しいですね。「不殺」というのは相手の倍以上の実力がないとできないことなんですよ。
「不殺」は日本的な考え方で、たとえば柔術などは「相手を殺さず、関節をおさえこんで捕まえる」という技を元にしています。ただこれは苦労するし、リスクも大きいんですね。
相手が素人ならともかく、なんらかの武術をやっている人を「不殺」で捕まえるのはかなりの実力がないと難しいと思います。
──剣心は「不殺」のために逆刃刀という人を斬れない刀を使っていますが、これは実際使われている武器なのでしょうか?
横山 実際に使われていますね。ただ刀の峰はすごく弱いので、実戦ではすぐに折れてしまうと思います。
──剣心のように「不殺」の信念をもとに、逆刃刀で戦うのは実際には難しいということでしょうか?
横山 ほとんど反っていない刀、江戸時代の最初の頃に使われていた「寛文新刀」のような刀であれば戦えるかもしれません。
刀は普通1.5cmぐらい反っているんですが、寛文新刀は反りがほとんどありません。抜刀しやすいかどうかは別にして、比較的折れにくいと思うので、寛文新刀の逆刃刀なら戦えるかもしれないですね。 ──なるほど! 剣術の世界が想像以上に奥深く、おもしろい話がたくさん聞けました。ありがとうございました!
明日公開の後編では、「剣心の技で実際にできそうな技」や「剣心と雪代縁とが実際に戦った場合の勝者」について、武術のプロの言葉から紐解いていく。
迫力のあるアクションが大きな魅力となっている「るろ剣」だが、漫画に登場する技や流派は現実に存在したのだろうか?
今回は、日本の古武術に詳しい日本甲冑合戦之会およびガチ甲冑合戦の代表・横山雅始さんに「るろうに剣心のモデルとなった流派は?」「奥義とは実際どういうものだったのか?」といった話を、前編・後編にわたって聞いていく。
取材・文:まいしろ 編集:日野綾
剣心の「飛天御剣流」にはモデルがある
──横山さん自身も「るろうに剣心」のファンとおうかがいしていますが……。横山 そうですね。アニメも実写映画も観ていますよ。
──良かったです! では、まずは「るろうに剣心」の主人公・緋村剣心が使う飛天御剣流(ひてんみつるぎりゅう)という技についてお聞きできますか?
横山 「抜刀」を使うということなので、九州の薩摩の剣術の流派の1つがモデルになっていると思います。その流派は「抜き」という抜刀術を持っていて、「幕末の実戦剣術」と呼ばれていた流派ですね。
──難しい流派だったのでしょうか?
横山 どうでしょうね。ほかの流派だと実戦までに1〜2年ぐらいかかりますが、その剣術は3ヶ月ぐらい訓練すれば一応実戦に出られるんです。
その流派は「速習速戦」の流派で、「上から斬り下ろす技」と「下から抜く技」の2つだけを、嫌になるぐらい練習します。なので、ほかの剣術に比べて実戦に出られるのが早いんですね。
ただ、本格的に極めようとすると、この流派も10年ほどはかかります。奥の深さはほかの流派に劣らないと言えますね。
──徹底的に実戦向きの流派なんですね。強さについてはどうでしょうか?
横山 抜きは一撃必殺の技と言われていて、新選組にも「薩摩の初撃はかわせ」と言われていたほどでした。
薩摩の実戦剣術の抜刀のやり方は独特で、抜刀するときの刃の向きがほかの流派とは違いました。鯉口を回して陣太刀のように刃を下にして、真下から真上に斬り上げる。それが相手の意表をつくので勝ちやすかったというのもあります。
剣術の「奥義」をSNSに投稿すると破門になる
──飛天御剣流は「1対多数」に強い技とされていますが、実際「1対多数」に強い剣術というのはあるのでしょうか?横山 まずないですね。「剣術を心得ている敵が3人いたら、無傷では帰れない」と言われています。
たくさんの人と戦う場合、剣術の腕ではなくて「どれだけ作戦がうまく立てられるか」が大事です。
──具体的にはどういう作戦があるのでしょうか?
横山 基本的に「1対1の繰り返し」に持っていくようにします。敵が2人いたら、片方との距離をつめて先に倒し、もう1人が攻撃してくるまでに時間を稼ぐようにします。 横山 自分の場合は、まずは目線を下に落として敵の足元を見ています。そうして、敵がどこに何人いるのか、どこに動こうとしているのか、一番近い敵は誰なのかを把握します。
それから、自分から攻めるとスキをつくってしまうので、絶対自分からは攻めません。相手が攻めようとした瞬間に、カウンターで返します。そうして倒した敵を背中に置いて、そのままほかの相手を攻める、という戦い方をしていますね。 ──想像以上に実践的なお話ですね……! そういった1対多数の実戦で「抜刀」は本当に使えるのでしょうか?
横山 これは微妙な問題で、1人倒すとほかの人が用心するので、抜刀は仕掛けにくくなります。なので「初撃は抜刀、残りは剣術」で戦うのがよいのではないでしょうか。
──抜刀は使うタイミングが限られるんですね。
横山 ただ、相手が「抜刀」という技を知らなければ、どういう状況でも使えますよ。 そもそも、こういった日本の武術の9割以上は、平和な江戸時代にできました。
最初の頃は、どこの流派も自分の技術をほかに漏らさず「秘伝」や「奥義」をつくっていました。 ──「秘伝」や「奥義」って本当に存在するんですね。
横山 そうですね。武術というのは現代的にいうと基本的に、初段・二段・三段……と積み上がっていって、だんだんと難しい技を習います。
で、それの最高峰にあるのが「奥義」。これができるようになったら十分な実力がついたということになります。
ただ、奥義ができないと勝てないわけではありません。間合いを取る、技を見切るといった、最初に習う基本の技が身についていれば、実は勝つことはできるんですね。
──武術がやりたくなってくるお話ですね。「奥義を教えてもらうための条件」などもあったのでしょうか?
横山 昔はわりとそういうことにこだわっていて、昭和の時代まではありました。「技を教える前に面接をして人柄を見る」という流派もありました。
──武術の世界にも面接があるんですね。仮に、奥義をほかに漏らしてしまった場合はどうなってしまうのでしょうか?
横山 破門になります。これは今でも伝統として続けている流派はありますね。「奥義をSNSに投稿したら破門」「奥義を動画で録画したら破門」という流派はあります。 ──剣術の流派も時代に合わせてアップデートされているんですね。飛天御剣流のように「師匠を倒さないと奥義を教えない」といったルールもあるのでしょうか?
横山 飛天御剣流は極端ですが、「師匠のこの技に勝てたら昇段させる」というのは今でもあります。
「不殺」の誓いは実際かなり難しい
──飛天御剣流は「いかなる派閥や組織、権力にも属さない自由の剣」であるべきという考え方を持っているのですが、これは実際にもあったのでしょうか?横山 江戸時代だと結構あったようですね。巻物に「政治で動くな」「お金で動くな」と書かれていることがあります。
ただ、結局それはタテマエで、流派にはそれぞれ(政治的な)スポンサーがいたんですね。そして「そのスポンサー以外に自分の流派を使われると都合が悪いから」という裏事情がありました。
ほかにも「お金で動くな」と教えていた流派が、お金を払った人に免状をあげていたという記録もあります。なので「自由の剣」に近い思想を持っていた流派は多いですが、実際にその思想を守っていたかどうかはわかりません。 ──江戸時代の侍たちも人間だったということすね。思想の話でもうひとつ、緋村剣心は「不殺(ころさず)」という信念を持っているのですが、人を殺さないよう戦うのと、気にせず戦うのではどちらが難しいのでしょうか?
横山 「不殺」の方が断然、難しいですね。「不殺」というのは相手の倍以上の実力がないとできないことなんですよ。
「不殺」は日本的な考え方で、たとえば柔術などは「相手を殺さず、関節をおさえこんで捕まえる」という技を元にしています。ただこれは苦労するし、リスクも大きいんですね。
相手が素人ならともかく、なんらかの武術をやっている人を「不殺」で捕まえるのはかなりの実力がないと難しいと思います。
──剣心は「不殺」のために逆刃刀という人を斬れない刀を使っていますが、これは実際使われている武器なのでしょうか?
横山 実際に使われていますね。ただ刀の峰はすごく弱いので、実戦ではすぐに折れてしまうと思います。
──剣心のように「不殺」の信念をもとに、逆刃刀で戦うのは実際には難しいということでしょうか?
横山 ほとんど反っていない刀、江戸時代の最初の頃に使われていた「寛文新刀」のような刀であれば戦えるかもしれません。
刀は普通1.5cmぐらい反っているんですが、寛文新刀は反りがほとんどありません。抜刀しやすいかどうかは別にして、比較的折れにくいと思うので、寛文新刀の逆刃刀なら戦えるかもしれないですね。 ──なるほど! 剣術の世界が想像以上に奥深く、おもしろい話がたくさん聞けました。ありがとうございました!
明日公開の後編では、「剣心の技で実際にできそうな技」や「剣心と雪代縁とが実際に戦った場合の勝者」について、武術のプロの言葉から紐解いていく。
後編はこちら
©和月伸宏/集英社 ©2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会「るろ剣」原作者インタビューもよければ
この記事どう思う?
横山雅始
日本甲冑合戦之会/ガチ甲冑合戦 代表
日本甲冑合戦之会/ガチ甲冑合戦
総合実戦護身術功朗法
Essence of Samurai battle, 戦国の武術の技を解説・ガチ甲冑合戦
まいしろ
エンタメ分析家
社会の荒波から逃げ回ってる意識低めのエンタメ系マーケターです。音楽の分析記事・エンタメ業界のことをよく書きます。
Twitter:https://twitter.com/_maishilo_
note:https://note.mu/maishilo
1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:4470)
殺陣の基本は北辰一刀流の宗家が監修していると思いますが、一対多数の剣術は新選組の沖田総司、近藤勇らが使っていた天然理心流があります。
この剣術は今も実在します。
師範になるまでに10年以上かかります。
天然理心流は実戦式の剣術で2人1組で稽古をし間合いなども習いながら練習をします。
現在この流派を正しく継承しているのは館長の大塚篤氏のみになります。
他に天然理心流を名乗っている方たちは、ほぼ偽物です。
マニアが集まってしまう為、稽古場所はシークレットになっています。