中国アニメ『羅小黒戦記』から浮かぶ人間の業 『ぽんぽこ』『もののけ姫』との共通点

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中国アニメ『羅小黒戦記』から浮かぶ人間の業 『ぽんぽこ』『もののけ姫』との共通点
中国アニメ『羅小黒戦記』から浮かぶ人間の業 『ぽんぽこ』『もののけ姫』との共通点

『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』

POPなポイントを3行で

  • 中国発の話題作『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』
  • ジブリ作品との共通点や描かれるものの違い
  • 人間による自然開発と抵抗する者たち
羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』。

花澤香菜や宮野真守、櫻井孝宏など人気声優が出演し、2020年11月の公開直後から話題を呼んだ中国発の長編アニメーション映画だ。
『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』本予告
映画を見た人からは、スタジオジブリ作品である『平成狸合戦ぽんぽこ』『もののけ姫』との共通点が指摘する声が相次いだ。

本稿では、スタジオジブリ2作品と『羅小黒戦記』に共通して描かれているテーマを引き合いに、そこから見えてくる作品に込められたメッセージを考察していく。

文:安藤エヌ
※本レビューにはアニメ映画『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』のネタバレが含まれます。

リピーター続出の中国発劇場アニメ『羅小黒戦記』

『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』

『羅小黒戦記』は中国の動画サイト・bilibiliに投稿されたWebアニメをもとに制作された長編アニメーション映画。中国の漫画家/アニメ監督であるMTJJ氏がWebアニメのときから監督をつとめている。

本国で上映されたのち、2019年9月より日本でも中国語音声字幕版が公開。上映館は限られていたものの、魅力的なキャラクターたちやハイクオリティなアニメーションが口コミで広がり、話題になった。

その後、2020年11月7日に前述の人気声優が多数出演した日本語吹き替え版『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』として公開。一気にファン層を広げ、リピーターも続出するほどの人気を集めている。

黒猫の妖精・小黒(シャオヘイ)

主人公は、妖精と人間が共存する世界で故郷の森を追われさまよう黒猫の小黒(シャオヘイ)。

物語の鍵を握るのが、人間でありながら妖精の立場に力を貸す無限(ムゲン)と、自分たちの生きる自然を破壊した人間を憎み故郷を奪い返そうとする妖精・風息(フーシー)だ。

人間でありながら妖精たちの集う館に所属する執行人・無限(ムゲン)

植物を操る妖精。心の奥底には譲ることのできない思いを秘めている風息(フーシー)

彼らとの出会いや交流を通して、幼い小黒の心の成長と選択の余地をのぞかせ、異なる2つの立場の共存を描いている。

監督のMTJJ氏は中国メディアのインタビューで、日本のアニメーションからの影響を指摘されており(外部リンク)、実際、Webアニメ版には、スタジオジブリ作品『ハウルの動く城』のハウルのようなキャラクターが登場するなど、その影響を彷彿とさせる。
《羅小黑戰記》CAT.1

自然界の存在「妖精」が抱く人への思い

『羅小黒戦記』『平成狸合戦ぽんぽこ』『もののけ姫』──まずは、3つの作品における「自然を破壊する人間」に対する「自然界の存在」の反応について考えてみたい。

『羅小黒戦記』においては、人間による自然破壊の被害を被っているのは妖精たちだ。

作中には「館」という妖精たちの組織・コミュニティが存在し、妖精たちは人間たちと共存している反面、妖精だと気づかれてはならないというルールがある。

妖精を庇護する「館」/画像は『羅小黒戦記』公式Twitterより

館に所属する妖精/画像は『羅小黒戦記』公式Twitterより

このルールに従っている妖精たちが大半だと思われるが、映画に登場するキーパーソンである風息はルールに抵抗し、失った故郷を取り戻すため人間とは共存できないという意思をあらわにする。

共存している妖精たちの中にも人間のことが好きな妖精もいれば嫌いな妖精もいる。それぞれの思いに従って生きようとしており、あくまで個人同士として、自由な考えを抱いている。

また、映画から400年前の世界を描いた公式スピンオフ漫画『藍渓鎮』では、妖精であり、藍渓という町を築き戦火で住処を失った者たちを住まわせている老君(ロウグン)というキャラクターが登場する。

老君(ロウグン)/画像は『羅小黒戦記』公式Weiboより

彼は、妖精・人間・動物と、どの生命に対しても優劣を付けず接し、それが自身の考え方であるとも主張している。

『藍渓鎮』の時代から『羅小黒戦記』の時代に至るまで、妖精の中では「人間は自身らと同じ立場であり、本来ならば共存しあえる」という考えが息づいているようだ。

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作品情報

羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来

原作・監督
MTJJ
プロデューサー
叢芳氷、馬文卓
副監督
顧傑
脚本
MTJJ、彭可欣、風息神涙
作画監督
馮志爽、李根、周達炜、程暁榕、鄭立剛
美術監督
潘婧
撮影監督
梁爽
3D監督
周冠旭
音響監督
皇貞季
音楽
孫玉鏡
制作会社
北京寒木春華動画技術有限公司
<日本語吹替版>
音響監督
岩浪美和
音響制作
グロービジョン
配給
アニプレックス、チームジョイ
キャスト
シャオヘイ
花澤香菜
ムゲン
宮野真守
フーシー
櫻井孝宏

<イントロダクション>
◆『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』
中国漫画家、アニメ監督のMTJJ及び寒木春華(HMCH)スタジオが制作したアニメ作品。2011年3月17日から動画サイトで
公開した後人気が上昇し続け、中国アニメを代表する作品まで成長。劇場版が制作され、中国国内での興行収入は3.15億 人民元(約49億円)。日本国内では上映直後から高い評価を得ており、拡大公開されることとなった。

◆MTJJ(アニメ監督・漫画家)
『羅小黒戦記』の原作となるWEB版フラッシュアニメの作者。原作となるWEBフラッシュアニメはその後WEBコミック化されるが、
その際の作者も同じくMTJJ。原作WEBアニメは現在bilibiliはじめ中国各配信サイトで配信されており、
bilibiliにおける総配信視聴数は28話計で2.3億。

◆北京寒木春華動画技術有限公司
上記MTJJが代表を務める北京のアニメ制作会社。前身はMTJJが創設した「羅小黒戦記工作室」で、設立は2012年。原作となるWEBアニメおよび本作『羅小黒戦記』含め羅小黒シリーズの著作権を保持。

<ストーリー>
人間たちの自然破壊により、多くの妖精たちが居場所を失っていた。
森が開発され、居場所を失った黒猫の妖精シャオヘイ。
そこに手を差し伸べたのは同じ妖精のフーシーだった。
フーシーはシャオヘイを仲間に加え、住処である人里から遠く離れた島へと案内する。
その島に、人間でありながら最強の執行人ムゲンが現れる。
フーシーたちの不穏な動きを察知し、捕えにきたのだ。
戦いの中、シャオヘイはムゲンに捕まってしまう。
なんとか逃れたフーシーたちはシャオヘイの奪還を誓い、かねてから計画していた「ある作戦」を始める。
一方、ムゲンはシャオヘイとともに、人と共存する妖精たちが暮らす会館を目指す。
シャオヘイは、新たな居場所を見つけることができるのか。
そして、人と妖精の未来は、果たして――

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安藤エヌ

ライター

20代のフリーライター。日本大学芸術学部文芸学科卒。音楽、マンガ、映画など主にエンタメ分野で執筆活動中。直近では「ROCK'IN ON JAPAN 2020年7月号」にてシンガーソングライター・あいみょんのコラムを寄稿。過去に同メディアのWebでもコラムを執筆しているほか、様々なエンタメメディアに記事を寄稿している。「今」触れられるカルチャーについて、新たな価値観と現代に生きる視点で文章を書くことを得意とする。

Twitter:@7th_finger

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