人間に戦いを挑む『ぽんぽこ』『もののけ姫』
人間たちへ戦いを挑む乙事主/『もののけ姫』より
特に『平成狸合戦ぽんぽこ』ではタヌキたちが集会を開き、人間たちを追い払うための作戦について議論を交わす。
タヌキたちの集会/『平成狸合戦ぽんぽこ』より
『平成狸合戦ぽんぽこ』と『羅小黒戦記』には、共通して「近代的な自然開発」と「人間社会に溶け込み暮らすタヌキ・妖精」という描写が存在する。
これらは、それぞれの作品に描かれた「自然界側が人間の開発に抵抗する」という行動に大儀を与えている。
「神と崇める自然を破壊する人間」という共通点
開発でタヌキの住処が奪われる描写/『平成狸合戦ぽんぽこ』より
両作が公開された1990年代はバブル景気が終焉を迎えた一方で、環境問題のグローバル化が進んだ時期でもある。
1992年には、当時国連に加盟していたほぼすべての約180カ国が参加した「地球サミット」(環境と開発に関する国際会議)が開催されている。
『羅小黒戦記』においても、劇中で舞台となる龍游という街は実際の都市だ。嘉興や中国のシリコンバレーとも呼ばれる杭州市と同じ浙江省に位置し、経済成長の渦中にある。
同時に、飛躍的な経済成長を遂げている中国は、地球温暖化の原因であるCO2(二酸化炭素)の世界最大の排出国。
2020年9月の国連総会で習近平国家主席が「2060年までにCO2排出量を実質ゼロにする」と演説したことが報じられるなど、世界的な環境問題においてその動向は重要視されている(外部リンク)。
シシ神/『もののけ姫』より
「自然を神と崇めることでその土地の安寧を祈っていた」ことが、『平成狸合戦ぽんぽこ』『羅小黒戦記』では共通して描かれ、『もののけ姫』ではシシ神のいる森は不可侵領域として人々の畏怖の対象として、村を興すための障害となっている描写が見られる。
人間たちは神の住まう森を切り開き、自らの手でコンクリートや鉄筋でつくられた人工物を建設する。そうして自然界の存在の怒りを買い、結果として大いなる自然の猛威に晒されることとなるのだ。
生きる中で人に触れ、人を憎むサンと風息
犬神に育てられたサン/『もののけ姫』より
『もののけ姫』に登場する犬神(山犬)に育てられた娘・サンは、人に捨てられ、山で生きてきた。ゆえに、人間にもなれず獣にもなれない存在だ。森を侵す人間たちに、山犬と共に牙を剥くが、彼女自身は人間である。
『羅小黒戦記』に登場する妖精・風息は、かつて森で暮らしていた頃、人間が侵入してきたことを最初は疎ましく思っていなかった。共に生きるという選択肢を、一時は選ぶことができたのだ。
一時は人間とも交流があった風息/画像は『羅小黒戦記』公式Twitterより
どちらも、人間と関わりながらも人間に敵対する存在だといえる。
物語の結末では、サンはアシタカにより考えを変えられ、人は人の暮らす場で、自身は森で、“共に生きる”という決断を下す。
しかし、風息はサンのように、人間に対しての妥協点があることはわかっていても、それを選ぶことはできなかった。
『羅小黒戦記』の中国版ポスター/画像は『羅小黒戦記』公式Twitterより
サンとフーシー、互いに己の生きる道に人間が関わり、その過程で人間を憎んでしまった者同士。両者の結末の違いを考えてみると、生きる環境の異なる者たちに対し、居場所を侵そうとする人間の業の強さが浮かび上がってくる。
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作品情報
羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来
- 原作・監督
- MTJJ
- プロデューサー
- 叢芳氷、馬文卓
- 副監督
- 顧傑
- 脚本
- MTJJ、彭可欣、風息神涙
- 作画監督
- 馮志爽、李根、周達炜、程暁榕、鄭立剛
- 美術監督
- 潘婧
- 撮影監督
- 梁爽
- 3D監督
- 周冠旭
- 音響監督
- 皇貞季
- 音楽
- 孫玉鏡
- 制作会社
- 北京寒木春華動画技術有限公司
- <日本語吹替版>
- 音響監督
- 岩浪美和
- 音響制作
- グロービジョン
- 配給
- アニプレックス、チームジョイ
- キャスト
- シャオヘイ
- 花澤香菜
- ムゲン
- 宮野真守
- フーシー
- 櫻井孝宏
<イントロダクション>
◆『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』
中国漫画家、アニメ監督のMTJJ及び寒木春華(HMCH)スタジオが制作したアニメ作品。2011年3月17日から動画サイトで
公開した後人気が上昇し続け、中国アニメを代表する作品まで成長。劇場版が制作され、中国国内での興行収入は3.15億 人民元(約49億円)。日本国内では上映直後から高い評価を得ており、拡大公開されることとなった。
◆MTJJ(アニメ監督・漫画家)
『羅小黒戦記』の原作となるWEB版フラッシュアニメの作者。原作となるWEBフラッシュアニメはその後WEBコミック化されるが、
その際の作者も同じくMTJJ。原作WEBアニメは現在bilibiliはじめ中国各配信サイトで配信されており、
bilibiliにおける総配信視聴数は28話計で2.3億。
◆北京寒木春華動画技術有限公司
上記MTJJが代表を務める北京のアニメ制作会社。前身はMTJJが創設した「羅小黒戦記工作室」で、設立は2012年。原作となるWEBアニメおよび本作『羅小黒戦記』含め羅小黒シリーズの著作権を保持。
<ストーリー>
人間たちの自然破壊により、多くの妖精たちが居場所を失っていた。
森が開発され、居場所を失った黒猫の妖精シャオヘイ。
そこに手を差し伸べたのは同じ妖精のフーシーだった。
フーシーはシャオヘイを仲間に加え、住処である人里から遠く離れた島へと案内する。
その島に、人間でありながら最強の執行人ムゲンが現れる。
フーシーたちの不穏な動きを察知し、捕えにきたのだ。
戦いの中、シャオヘイはムゲンに捕まってしまう。
なんとか逃れたフーシーたちはシャオヘイの奪還を誓い、かねてから計画していた「ある作戦」を始める。
一方、ムゲンはシャオヘイとともに、人と共存する妖精たちが暮らす会館を目指す。
シャオヘイは、新たな居場所を見つけることができるのか。
そして、人と妖精の未来は、果たして――
関連リンク
安藤エヌ
ライター
20代のフリーライター。日本大学芸術学部文芸学科卒。音楽、マンガ、映画など主にエンタメ分野で執筆活動中。直近では「ROCK'IN ON JAPAN 2020年7月号」にてシンガーソングライター・あいみょんのコラムを寄稿。過去に同メディアのWebでもコラムを執筆しているほか、様々なエンタメメディアに記事を寄稿している。「今」触れられるカルチャーについて、新たな価値観と現代に生きる視点で文章を書くことを得意とする。
Twitter:@7th_finger
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