中国アニメ『羅小黒戦記』から浮かぶ人間の業 『ぽんぽこ』『もののけ姫』との共通点

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彼・彼女たちが下した異なる「共存」という決断

最後に、それぞれに描かれた「共存」について考えてみたいと思う。

結末として人間と自然の関わり方に変化の兆しが見えたのは『もののけ姫』だ。

ラストで「アシタカは好きだが人間を許すことはできない」と語ったサン/『もののけ姫』より

シシ神の死後、森が新しく息吹を取り戻したのを見た人間たちは、森を侵さないことを決める。そして共に異なる場所で、それぞれ生きていくことを選ぶ。

「共に生きよう」というアシタカのセリフからは「共生」がイメージされるが、実際には別々に同じ世界を生きる「共存」の意味合いが大きい。

『平成狸合戦ぽんぽこ』『羅小黒戦記』は、同じ条件下の環境で共存することはできないと感じた自然界側の存在が、故郷を取り戻すため人間側に訴えかける。

しかし結果は変わらず、『平成狸合戦ぽんぽこ』ではタヌキたちが団結して人間に対抗し、多くの犠牲のもとに「人間に化けて生きる」という選択が残る。

『羅小黒戦記』は風息が仲間の意志を背負う形で具体的な行動を起こし、妖精たちは1から人間側との共存における信頼を築いていかなければならなくなった。

人間社会に溶け込むタヌキたち/『平成狸合戦ぽんぽこ』より

ここから浮かんでくるのは、「共存」とひとくちに言っても、その実現には計り知れない双方の努力が必要であり、すぐに実現するとは限らないという現実だ。

結論が出るものとそうでないもの。それぞれに描かれた「共存」の形が異なることも、こうして比較する上でわかることだといえる。

『羅小黒戦記』は、アニメーション技術もさることながら、母国である中国の現代社会的な側面を巧みに落とし込みリアリティを演出し、メッセージも込められた非常に素晴らしい作品だ。

他作品との比較だけでなく、細かに描き分けられた描写の1つひとつを発見しそこから考察することも、キャラクターを深堀りしていき作品全体を見渡し新たな見解を得られることもできる。

Webアニメから始まりスピンオフ漫画など多数のコンテンツが生まれ、映画は3部作になる予定ということもあり、今後も熱心に応援するファンが作品を支えていくだろう。

現在中国初の作品は年々増加しており、それを輩出する中国のアニメシーンには日本ともまた違った興味深い世界が広がっているので、ぜひ一度楽しんでみていただきたい。
『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』スペシャルトレーラー
©️Beijing HMCH Anime Co.,Ltd
© 1994 畑事務所・Studio Ghibli・NH
© 1997 Studio Ghibli・ND

アニメカルチャーの最前線を読み解く

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作品情報

羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来

原作・監督
MTJJ
プロデューサー
叢芳氷、馬文卓
副監督
顧傑
脚本
MTJJ、彭可欣、風息神涙
作画監督
馮志爽、李根、周達炜、程暁榕、鄭立剛
美術監督
潘婧
撮影監督
梁爽
3D監督
周冠旭
音響監督
皇貞季
音楽
孫玉鏡
制作会社
北京寒木春華動画技術有限公司
<日本語吹替版>
音響監督
岩浪美和
音響制作
グロービジョン
配給
アニプレックス、チームジョイ
キャスト
シャオヘイ
花澤香菜
ムゲン
宮野真守
フーシー
櫻井孝宏

<イントロダクション>
◆『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』
中国漫画家、アニメ監督のMTJJ及び寒木春華(HMCH)スタジオが制作したアニメ作品。2011年3月17日から動画サイトで
公開した後人気が上昇し続け、中国アニメを代表する作品まで成長。劇場版が制作され、中国国内での興行収入は3.15億 人民元(約49億円)。日本国内では上映直後から高い評価を得ており、拡大公開されることとなった。

◆MTJJ(アニメ監督・漫画家)
『羅小黒戦記』の原作となるWEB版フラッシュアニメの作者。原作となるWEBフラッシュアニメはその後WEBコミック化されるが、
その際の作者も同じくMTJJ。原作WEBアニメは現在bilibiliはじめ中国各配信サイトで配信されており、
bilibiliにおける総配信視聴数は28話計で2.3億。

◆北京寒木春華動画技術有限公司
上記MTJJが代表を務める北京のアニメ制作会社。前身はMTJJが創設した「羅小黒戦記工作室」で、設立は2012年。原作となるWEBアニメおよび本作『羅小黒戦記』含め羅小黒シリーズの著作権を保持。

<ストーリー>
人間たちの自然破壊により、多くの妖精たちが居場所を失っていた。
森が開発され、居場所を失った黒猫の妖精シャオヘイ。
そこに手を差し伸べたのは同じ妖精のフーシーだった。
フーシーはシャオヘイを仲間に加え、住処である人里から遠く離れた島へと案内する。
その島に、人間でありながら最強の執行人ムゲンが現れる。
フーシーたちの不穏な動きを察知し、捕えにきたのだ。
戦いの中、シャオヘイはムゲンに捕まってしまう。
なんとか逃れたフーシーたちはシャオヘイの奪還を誓い、かねてから計画していた「ある作戦」を始める。
一方、ムゲンはシャオヘイとともに、人と共存する妖精たちが暮らす会館を目指す。
シャオヘイは、新たな居場所を見つけることができるのか。
そして、人と妖精の未来は、果たして――

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安藤エヌ

ライター

20代のフリーライター。日本大学芸術学部文芸学科卒。音楽、マンガ、映画など主にエンタメ分野で執筆活動中。直近では「ROCK'IN ON JAPAN 2020年7月号」にてシンガーソングライター・あいみょんのコラムを寄稿。過去に同メディアのWebでもコラムを執筆しているほか、様々なエンタメメディアに記事を寄稿している。「今」触れられるカルチャーについて、新たな価値観と現代に生きる視点で文章を書くことを得意とする。

Twitter:@7th_finger

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