天才集団クイズノックインタビュー「教育を言い訳にしたくない」

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知られざる、クイズの懐事情

──クイズノックを立ち上げた理念の一つに、「クイズをつくる人や東大生が安く使われていて、業界内にお金が流れていない」という思いがあったとうかがいました。

伊沢 そうなんです。例えば東大クイ研って、レベルはすごい高いのに作問のバイトで5段階のうちのレベル1とかの簡単な問題を安価でつくらされていた。

しかも、簡単な問題ほどつくるのは難しいんです。多くの人がピンと来るように日常の中から拾ってかなきゃいけないし、当たり前のことをきちんと裏取りするのは実は大変

すぐ消費されるアプリの4択クイズでも、万が一間違っていると制作会社にクレームが来るから、当然書籍などにあたって裏取りをしないといけない。

慣れた人間で、1時間にせいぜい4問。一問250円だとすると、それでなんとか時給1000円。別にそれでスキルがアップするわけでもないし、そもそも東大生の時給として1000円は決して高くもない。つくったクイズは買い切り、しかもつくっても採用されたものしか対価が払われない。

そもそもちゃんとした相場もなくて、特殊な技能を持った人たちがただ労働力として使われているだけでした。クイズをつくる・文章を書くというのは知的労働なわけで、それを評価して、正当な報酬を出してあげたいなという気持ちは、クイズノックとしてはあります。

少なくともクイズノックに関わる人たちに対しては改善できてきていると思います。当時の2倍くらいは出せている。

ほかのYouTuberみたいにどかーんとお金稼いで「YouTubeドリームだぜ」みたいなことはないんですけど、相対的にはいろんな人を幸せにできていると思う。

福良 その通り、これはこれで良い形だと思ってる。

伊沢 「お金が欲しい」というのが一番だったら、クイズノックじゃなくて一般企業に行った方がいいですけどね(笑)。

けど、業界自体に変化が起きているかというと、そこはまだまだですね。世の中には低賃金作問バイトはいまだにあるでしょう。

福良 僕がアルバイトしてた当時から、テレビはまだ、ちゃんとしてた気もする。

伊沢 福良さんは腕が良かったから。作問を始めてすぐにテレビの仕事が入って、テレビの作問会議に出てたくらい。そういう能力が特別あって機会にも恵まれた一握りの人はそこそこもらえてましたけどね。

──クイズ業界は、そもそもどのようなキャッシュフローのもとで業界が回っているのでしょうか?

伊沢 昔は本当に循環も何もなくて、社会からおこぼれをもらってるだけの世界でした。テレビやアプリから作問依頼をうけて、クイズだけで食べているクイズ作家は10人もいなかったですね。

福良 結局、クイズに対して高いお金を払う人がいなかったから。

クイズ作家と言われる人たちはテレビのクイズをつくってる人たちに限られてたんです。

その点クイズノックは、WebやYouTubeである程度広告収入を得られるようにはなったから、多少はクイズで価値をつくっていけてるのかな。

伊沢 今では先鋭的な「SEVEN WONDERS」というクイズ制作会社や、「キュービック」というクイズの商社もあって長く活躍されていますが、社会全体との循環という視点で見るとまだまだな部分は正直ある。

僕らとして、せめてクイズ業界の中にお金を流して、「クイズノックはこれだけ出しているよ」という噂が広まることで、ちゃんと報酬を払わないと人が働いてくれないように価格競争を起こしたかったんですよね。

ただ、お話してきたように、クイズノックはメディア運営でありYouTuberであり、作問の制作会社ではなかったので、競合他社が生まれなかった。それは誤算ではありましたね。

──手広いがゆえに、業界としては異質な存在になってしまっている。

伊沢 僕が本当に尊敬しているクイズプレイヤーの一部は救えたとは思います。ただ、企業になったことによって、「楽しく知識を得られる場をつくる」というクイズノックの理念の方が優先されてます。

今は「クイズノック」の価値を高めていくことで、間接的に影響を与えることを考えている。僕らが発信しているものは「楽しかった」で終われるものだし、その後で記憶に残ったことでちょっとした学びが得られるコンテンツづくりを目指しているので、そういう形で教育として関わる、学びにポジティブになれるような習慣づけ、ループを通じて、社会の無関心をゆるやかに打破していく

だからこそ、「教育」を言い訳にしちゃうと根幹が揺らぐんです。学びと楽しさがあったときに、僕らはエンタメとして必ず楽しさが大きくなきゃいけない。「楽しいし、しかも学べる」というスタイルをどうブラッシュアップするか。それを一番考えています。

福良 「あのクイズノックの?」っていう発言に含まれてるのが良い印象だったらいいなと思っていて。「あっクイズノックで知ってるよ、早押し!」とかいってもらえたりするのが嬉しいよね。

伊沢 そういう意味で、いまだに僕らは現役クイズ選手だし、競技クイズ、アマチュアクイズへのリスペクトは絶対に忘れたくない。僕たちはクイズに育ててもらっているから、業界に貢献したいという気持ちは常にあります。

※記事初出時、『全国高等学校クイズ選手権』を「テレビ朝日」としておりましたが正しくは「日本テレビ」でした。お詫びして訂正いたします

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KAI-YOU Premiumでは、クイズ業界の歴史やその中で果たしていきたい伊沢さん、福良さんの想いなどディープなお話をインタビュー。

知られざる競技クイズの話、そして伊沢さんが思わず「これめっちゃ語っていいですか?」とアクセルを全開にした、今の時代に立派な人間として生きるための「教養」について。

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1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:3801)

はじめまして。楽しく読みました。
少し気になった点があります。
"テレビ朝日の『全国高等学校クイズ選手権』(通称・高校生クイズ)"とありますが、日本テレビではないでしょうか?

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