『映像研』大童澄瞳インタビュー「世界と自分の中に往復するものが構築された」

『映像研』大童澄瞳インタビュー「世界と自分の中に往復するものが構築された」
『映像研』大童澄瞳インタビュー「世界と自分の中に往復するものが構築された」

大童澄瞳

POPなポイントを3行で

  • 『映像研には手を出すな!』原作者 大童澄瞳インタビュー
  • アニメのオリジナリティとは?
  • 「怒り」から変化する大童澄瞳のモチベーション
大童澄瞳さんによる『月刊!スピリッツ』にて連載中の大人気漫画『映像研には手を出すな!』のアニメ版が、NHK総合で毎週日曜日の深夜に放送中だ。

『映像研には手を出すな!』は、自分が考えた「最強の世界」を描きたい浅草みどり、金儲けをするのが好きな金森さやか、カリスマ読者モデルでありながらアニメーターを目指す水崎ツバメの3人の女子高生が、部活「映像研」をつくりアニメーション制作していく青春冒険部活ストーリーだ。

今夏には乃木坂46・齋藤飛鳥さん主演の実写映画も公開が決定しており、すでに制作開始されている。 アニメは『四畳半神話大系』『DEVILMAN crybaby』などで知られるアニメーション監督・湯浅政明さんが監督を務め、湯浅さん率いるサイエンスSARUが制作を手がけている。

原作の世界がもつ“ワンダー”をアニメ表現でさらに押し拡げ、細部までこだわり抜かれたアニメーション演出が放送開始後から爆発的に人気を集めている本作。かつてアニメーションを個人で制作し、今でも一番やりたいことはアニメーションだという原作者の大童さんが、今回のアニメ版の制作にも携わっているというのだから驚きだ。作品本編のEDアニメーションに、大童さん自身がアニメーターとして参加している。
TVアニメ『映像研には手を出すな!』
今回はそんな大童さんにインタビュー。「SF脳」だという彼が“湯浅版”アニメをどう受け止めているのか、圧倒的な知名度と人気を得たいま、かつての「怒り」というモチベーションからどのような変化を感じているのかを聞いた。

執筆:和田拓哉 取材・編集:新見直

「夢が叶った!やったぜ!」

──『映像研には手を出すな!』のアニメ化、おめでとうございます。毎週本当に楽しみに観ています。まずアニメ化について率直な心境をお聞かせください。

大童澄瞳(以下、大童) 『四畳半神話大系』『カイバ』など湯浅監督が手掛けた作品はアニメ化の話が出るずっと前から観ていましたから、アニメーターとしても監督としても尊敬しています。

“あの”湯浅監督が僕の作品をつくってくださる。ファンの方からも「待望」との声をいただいたので、驚きと同時に勝利を確信した、第1印象はそんな感じですね。

──今まで映像の勉強をしてこられてアニメもつくろうとされていた中で、自分の作品で実際に制作に関わることについてはどんな心境ですか?

大童 僕はアニメーターになりたかったので、夢が叶った!やったぜ!と。

ただアニメーターの仕事の大変さも知っているので、真正面からぶつかると自分がやられてしまう。なので美味しいところだけ関わらせていただいたのですが、そこに対する申し訳ない気持ちも半分ですね。

また本職アニメーターの方々に比べると僕自身が未熟なところが確実にあるので、悔しいと思いつつ、もっと上手くなるぞと。

──奮起させられる?

大童 そうですね。久しぶりにアニメーションを書いたので。またやろうという気になりました

──なにがしかの形で?

大童 今まで僕が制作してきた実制作のアニメーションも完結していないので、そっちの続きもつくっていかないとと思っているのでいずれ…。
大童澄瞳の自主制作アニメーション
──大童さんは『映像研』以前、何かの作品を完結させたことがないとおっしゃっていました。『映像研』の原作も絶賛連載中でもちろん未完ですが、放送枠の都合上アニメには必ず“終わり”があります。原作から離れたところで終わりが描かれるということを、どう受け止めているのでしょうか。

大童 そうですね。アニメーションの終わりは、完全な完結ということではないというか。

(『映像研』は)「続く」というヒキを残すより、1話ずつ終わっていく構成でつくっていますが、アニメーションが終わっても続いていく世界を1話1話で見れる。そのさきに広がりがあるという意識の方が強いです。

完璧主義者が考える、アニメと原作のオリジナリティ

──アニメ版『映像研』は、原作がアニメを題材にしていること以外にも、アニメとしての映像的な必然性とオリジナリティがありますよね。だからこそ原作との差分を楽しめるというか。

大童 最初に映像を観たとき、単純に原作者の僕にとっても新しい映像になっているのがすごく印象深かったんです。浅草と水崎と金森が男たちから逃げていくシーンはいろんなパターンで声を収録したんですけど、あそこはどのテイクでも笑ってしまいました(笑)。 ──漫画とアニメで違いの中で一番大きいのは音がつくことですよね。浅草、金森、水崎と癖のある3人を声優のみなさんが演じています。

大童 本当に一流としか言いようがないですよね。声の抑揚、リアルな演技かコミカルな演技なのかのパターン、そうしたところも映像でどうなるか気になっているところではありました。

動画と声優さんが二人羽織のように補い合って演技を完璧に仕上げる。収録に参加したときには本当に感動して、僕はプロだなと感じるあらゆる分野に感動するタイプなんだと改めて実感しました。

──アニ研の上映会では、原作とは異なり浅草みどりが長いセリフで解説をしますよね。アニメーションならではの外連味、ある種のハッタリというか、漫画のリアリティーから少しズラしている印象でした。アニメと漫画のリアリティの水準は異なるとは思うのですが、大童さんはどう捉えていますか?

大童 「まくし立てる」っていうのがやっぱり映像だと強いんですよ。尺に収まればあとは声優さんの滑舌と能力に依存している部分なので。ただ、漫画となると字がどんどん増えて画面を圧迫し始めるので、どこをつまんでいくかという問題がある。そこがやっぱり漫画とアニメーションとの差なんじゃないかなとあのシーンでは思いました。 大童 僕は漫画とアニメーションで別のパターンの世界、異なる要素が見れることをいち視聴者として期待していたんですが、僕は原作者なので当然話の筋にある程度詳しい。だからゼロの状態で見始める人より新鮮な感覚を味わえないだろうなと最初は思っていたんです。そこが唯一損なところだなって。

でもアニメが漫画を更新している部分をとても楽しめました。僕はどちらかというとSF脳なので、SF好きとしてはそのあたりが純粋に楽しいですね。

──アニメは一つのパラレルワールド、別次元のストーリーという意識でしょうか。

大童 そうですね。アニメーションに限らず実写もそういう意識ではいます。映像研の原作も現実とのパラレルワールドをイメージしていたり、あるいは2050年という設定で描いているので、単純に未来の世界の話でもあります。

──「湯浅版映像研」として楽しめるだろうと。

大童 そうですね。湯浅監督の最新作が見れるのであれば!という思いです。

「とにかく口出ししない。でも1聞かれたら100で返す」

──アニメ版を制作するにあたって、湯浅監督やサイエンスSARUとは、原作者としてどのような連携をとったんでしょうか。

大童 「絶対いいものができるはず」という信頼があったので、原作をかなり無視したものでも構わないと思っていました。タイトルさえ『映像研には手を出すな!』であれば、主人公3人が違っていても全然構わないと言うつもりでいたくらいで。

なのでとにかく口出ししないように、ただ何か質問されたら1に対して100で返す。それくらいの気持ちでやろうと思っていました。

──それはすごい。純粋にアニメとして面白いものを観てみたいという思いが前提にあったんですね。

大童 僕は友達が少なくてアニメーションを人と語り合うことがあまりできなかったので、周りと切磋琢磨することができなかったんですけど、僕がアニメーションを制作していた時は基本的に制作現場が好きだったんです。

ただ、原作者が過度に口を出すことで現場の雰囲気が悪くなるというケースは聞いたことがあったので、とにかく湯浅監督やサイエンスSARUには好き勝手にやってもらおうと思っていました。 大童 原作付きの方が金を引っ張ってきやすい部分もあるのかなと思っていたので、信頼できる協力者が揃うのであれば、現場がそのお金を使ってなんでも楽しいことができるから全然かまわんだろうと(笑)。メタ的な視点で『映像研には手を出すな!』になっていれば、それはそれで映像研なのだろうと思っていました。

結果的にはサイエンスSARUさんからオファーがあり、チームの1人に入れてもらえたような、今は一緒につくっている感覚を持っています。

──アニメーターたちに信頼を置いて任せているなかで、アニメを観たときにご自身の構想とバッチリハマっていたと思う点はどこでしょうか。

大童 (アニメ)1話の一番最初で、これから住む街をみどりが車から眺めて、探検をするシーンですね。

ここは漫画では第6話で出てくるんですが、連載準備をしているときは第1話に入れることを想定していたんです。僕の脳は映像をつくる領域しか持っていなかったので「物語の始まりはこのシーンからだろう!」と。アニメーション的にもこのパターンで物語が始まるのはおそらくアリだと思っていました。でも漫画では最終的にはそうしなかったんですね。 アニメ各話の構成についてはお任せしていたので、脚本やコンテが上がってきたタイミングで知ることになるんですけど...

──アニメではまさに、そこから物語が始まった。

大童 そう。もうめちゃくちゃ嬉しかったですね。やっぱり映像だったらこれだよな!みたいな。

漫画では、第1話がキャラクターアップから物語が始まるパターンとして、これはこれで正解だという話は担当さんに言ってもらっていたんですけどね。最初はキャラクターが名前で呼び合って読者に意識させるというやり方があるので。

ただ、僕はある程度抵抗があって…キャラクターが呼び合うのは「おい」とか「お前」が普通じゃないですか。名前ってどうかなと思って色々考えたりしてたんですけど、最終的には浅草と金森が自然な感じで呼び合う描写に落ち着きました。

「怒り」のモチベーションからの変化

──故・ぼくのりりっくのぼうよみ(現たなか)さんとの対談の中で、創作のモチベーションはご自身への怒りだとおっしゃっていましたよね。「バカやろう、ちゃんと描けよ」と。

最近は徐々に薄れてしまっているともおっしゃっていましたが、アニメ化・実写化が決まった中で、その「怒り」は今どういう形になっているのか教えてください。


大童 あの時は、みんなが描かないことに対する怒りもあったんですよね。

──みんなが描かない…?

大童 はい。実制作アニメーションでSFが少ないこととか、あとは単純に自分の不遇な現状に対する怒りとか。もちろんその時未熟だったという簡単な言葉で収めることもできるんですけど。 大童 でもその当時その怒りが全く正当でないものだった訳ではなくて、その当時はそれが真実だったし、今でもそれが嘘だった訳ではない。

だからあの感情は一体なんだったんだろうと考えていますね。なので浅草が果たして怒りを抱えるだろうか、その怒りを描くべきなのだろうか、とか。そういうのは自分の中で興味があることではありますね。

──逆に今のご自身のモチベーションは、また別のところにある?

大童 そうですね。ただ、それが物語を良くすることなのか、良い絵をつくることなのか、あるいは名を残すことなのか。その辺は、今はちょっとわからないんですけどね。

──必ずしも綺麗に整理がつかないままではあるけれども、どこかに抱えるモチベーションや想像力を形にしていくと。

大童 僕は世界に対する自分のリアクションとして、創作を行っていたところがありました。でも今では多くの読者から反応をいただけるようになって、繋がりというか、世界と自分のなかに往復するものが構築されたと思っています。

なので、自分にとってものを描くということが少し変わってきたかもしれないです。クリエイティブなことがやっとでき始めたなと感じています。

──最後に、アニメーション制作に携わった経験が、今後大童さんの原作にどのように生かしていこうと考えているのか教えてください。

大童 アニメーション制作をやって、やっぱり絵が上手くなったなと(笑)。自分がつくって構成したキャラクターの要素で描かれているんだけど、それが自分より数段うまくて洗練されて出てくると、何が違うのか、足りてないのかが見えてきやすいんです。自分がデザインしていないうまい絵だったら「うまいな、ヤベェ」で終わるんですけど。こういうのが本当に原作者であることの利益だなと思います。

ただ、あえて経験を生かさないというか、アニメ化しやすいように描くことだけは絶対に考えないにしようと思いました。

アニメ化されたら嬉しいなとは思っていましたが、(それを意識して)漫画で力を制御はしたくない。そこはずっと貫いて、今後もアニメ化しづらそうなものでも描いていこうと思います。 『映像研』をAmazonでチェックする

(C)2020 大童澄瞳・小学館/「映像研」製作委員会

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