振り返れば常にギャルがいた平成から令和を迎え、その元年が終わろうとするいま。2020年という新たな10年間を前に、1990年代/2000年代/2010年代と時代を彩ってきたギャルを、写真とテキストで振り返る。 書き手は『ケータイ小説的。』(2008年)で、浜崎あゆみさんらギャル文化の象徴とケータイ小説との密接な関係に切り込んだライター・速水健朗さん。
モデルは、ギャル女優として活躍するセクシー女優のAIKAさんと今井夏帆さん。ギャル文化をリアルタイムで経験してきた2人が、各年代のJKギャルを演じる。
第3回目は、AIKAさんと今井夏帆さんが2010年代のギャルを表現。全盛期を経たギャルが、その後どのような変遷をたどり現在に至るのか。次なるギャルの10年を展望していく。
文:速水健朗 モデル:AIKA、今井夏帆 撮影:宇佐美亮 スタイリスト:細谷文乃 編集:恩田雄多
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ギャル全盛期とデフレカルチャー
ギャル文化が最高潮を迎えたのは、おそらく2010年よりも少し前のこと。ティーン誌『Popteen』が最高の部数を達成したのは、益若つばさと『Men’s egg』モデル(当時)の“梅しゃん”こと梅田直樹との結婚が発表された2008年2月号。部数は41万部以上だった。“つーちゃん”こと益若は17歳でデビュー。同誌がギャル寄り全開だった頃の最大のカリスマ読者モデルで、結婚は彼女の登場から5年後、22歳のときのこと。ティーン誌なのに結婚するって、ちょっとした驚きがあった。
早熟、早婚、早産、そして離婚も早めと、人生のイベントを誰よりも先に経験し、刹那的に生き急ぐギャルの生き様に『Popteen』は寄り添ったのだ。
実際に益若は、結婚の翌年には出産。その後、子育て、離婚を経た。人が20代から40代にかけてやることを、彼女は短縮形で駆け抜け、さらにギャルママとしてタレントやモデルの活動を続けたのだ。 ちなみに2010年頃は、益若に続いて、小森純、鈴木奈々、舟山久美子といった『Popteen』の人気モデルたちが、活躍の場所をテレビなどに広げ、テレビタレントとしてお茶の間にギャル的なものを拡張していった時期。『Popteen』は、女の子タレントの登竜門となっていた。
2006年のライブドアショック、その後2008年のリーマンショックというたて続けのダメージにより日本経済は沈滞ムードに襲われた。そもそも、1990年代末から始まった物価の下落=デフレは、日本の経済基盤に大きな打撃を与え続けてもいた。
2010年代も引き続きデフレ不況の時代だが、ギャルは元気だった。この当時のギャルの信条は節約上手。ギャルのリーダーだった益若は、特にしまむら好きを公言していた。 全国に店舗を持つファッションセンターしまむらが、急速に勢いを増したのが2010年頃。ギャルカルチャーはそれまで、SHIBUYA109を中心に、渋谷から同心円状に拡散していく文化だった。しかし2010年代には、全国各地の地方に根付き、むしろ非都市的な存在になっていた(しまむらに都心型店舗は少ない)。
しまむらは値段の安さはもちろん、品数の多さが特徴である。商品は玉石混淆、山のようにある中から、1点か2点でもいいものを探し出すゲーム感覚。同じお金を使っても、センスのあるなしで違いが生じてしまう。
つまり多品種少量生産がしまむらの戦略だった。街角で採取した新しいトレンドを捉え、その特徴を活かした商品をすぐにつくり、素早く店頭に並べる。圧倒的にお金があるほうが有利だったはずのファッション界のルールをしまむらが一変させたのだ。
また、ファッションの低価格化の傾向は、2009年のH&M日本進出を皮切りに流行したファストファッションの潮流ともマッチした。服は安くてもOK。特にブランドには頼らないという風潮がこの時代に完全に定着。モノの価格が下落している中で、それにいち早く適応したのがギャルである。ギャルは日本に生まれた“デフレカルチャー”の代表でもあるのだ。
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関連リンク
AIKA
セクシー女優
1990年8月25日生まれ。ティーパワーズ所属
Twitter:https://twitter.com/AIKA50
Instagram:https://www.instagram.com/aika_honmono/
今井夏帆
セクシー女優
Twitter:https://twitter.com/imai_arrows
速水健朗
編集者・ライター
主な著書に映画やドラマに描かれた東京を論じる『東京β 更新し続ける都市の物語』(筑摩書房)や『フード左翼とフード右翼』(朝日新書)。『バンド臨終図巻』(文春文庫)などがある。佐藤大、大山顕らと結成する団地団にも在籍中。現在、1980年代のバブル時代の文化やドラマについての書籍を執筆中。
Twitter:https://twitter.com/gotanda6
Blog:https://hayamiz.hatenablog.com/
連載
女性における日本特異の文化として、時代の流行とも絡みながら平成の30年間に独自の変遷をたどってきた「ギャル」。 振り返れば常にギャルがいた平成から令和を迎え、その元年が終わろうとするいま。2020年という新たな10年間を前に、1990年代/2000年代/2010年代と時代を彩ってきたギャルを振り返る。 書き手は1973年に生まれ『ケータイ小説的。』(2008年)で浜崎あゆみらギャル文化の象徴とケータイ小説との密接な関係に切り込んだライターの速水健朗。 象徴的なアイテム・制服をまとい各年代のギャルを演じるモデルは、ギャル女優として活躍するセクシー女優のAIKAと今井夏帆というギャル文化をリアルタイムで経験してきた2人。 当時のギャルを取り巻く環境とその中で彼女たちが武装化、部族化、ハードボイルド化していったのか。それぞれが経験してきた(または未体験の)ギャル文化に思いを馳せてほしい。
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