この野﨑まどがヤバい! 天才作家に振り回されてきた編集者たちの本音

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『バビロン』の「死」という概念への向き合い方

──編集の皆さんから見た野﨑まどの作家性についてうかがっていきたいと思います。作品の中では"死"をモチーフにされることが多い印象ですが、なぜだと思われますか?

湯浅 野﨑さんは死を肯定的に捉えたいのかなって感じはします。より正確に言うと、得体が知れないとみんなが思っていることを解き明かしたいという欲求があるのかもしれません。

河北 死に限らず、なにかしら概念的なものに対して疑問を持たれることが多いと思いますね。

『[映]アムリタ』から『2』に連なる大きなテーマは"才能"、『know』は""と“知ること"。そして『バビロン』は""。

さらに言うと次に刊行予定の『タイタン』(講談社『メフィスト』で連載中。今冬発売…予定)のテーマは"仕事"なんですよ。

途中まで読んで「僕はなんのために働いてるんだろう」って思わされてしまいました。

──たしかに『バビロン』でも、曲世愛との禅問答のようなやりとりの中で、善悪について定義しようとする描写が描かれていました。

「正義って何かしら?」正崎検事に問いかける/『バビロン』第2話より

河北 物語には謎が必要で、まどさんはそれを解き明かそうとする人なんだと思います。『バビロン』における死や悪も、あくまで解き明かそうとする謎のひとつ。

高塚 野﨑さんの小説は、概念を覆すものなんですよね。死はその覆したい概念のひとつなんだと思います。

──すごく納得がいきます。その概念の一つである死へのアプローチとして、例えば『バビロン』では自殺の是非を問う内容でもあります。象徴的な人物として、自死の権利を認める「自殺法」を推し進める政治家・齋開化(いつき・かいか)も登場していますよね。

彼がアニメの第3話で「自殺の権利を認めます」と宣言し、ショッキングな集団事件へと発展していく。あくまで思考実験として、皆さんは彼の主張をどう受け止めているのだろうなと。

「正しい判断のもとに、死を許す時代です」と呼びかける齋開化/『バビロン』第3話より

河北 『バビロン』は生と死、善と悪を通じて皆さんの価値観を問いかける物語で、つくり手側の僕らは自殺は良いことだと言いたいわけでは決してないですし、死を賛美しているわけでもないんです。

ですが思考実験としては、死がひとつの選択肢として浮かぶからこそ頑張れることはあるよなと思います。死ぬ気で頑張るとかよく言いますし、死ぬことを選ぶくらいなら逃げた方がいいこともある。

目を覆う集団自殺シーン/『バビロン』第3話より

掘れば掘るほどヤバい野﨑まど

──もう一つ、河北さんが先ほど“才能”とおっしゃっていたように、『バビロン』はじめ野﨑作品にはとてつもない才能や異能を持った人物がしばしば登場します。野﨑さんは才能といったものに思い入れが強いのでしょうか?

高塚 才能も、ひとつの題材として面白いと思ってるのかもしれませんね。

河北 クリエイターに対するリスペクトはすごい強いです。たとえば『バビロン』のコミカライズを描かれている瀧下信英さんにも、才能が発揮しやすいようにと完全に自由にお描きいただいています。

クリエイターも含めて、みんなの才能を信じている方なんじゃないかな。なので、我々も編集者としての才能も試されてるんじゃないかと思うとプレッシャーを感じることはあります…。

高塚 それはありますね。原稿を読んで感想をお伝えするときはものすごくプレッシャーを感じています。「全然読めてないな」とは思われたくないので、緊張感はありますね。 ──自分がその立場だと思ったら、それはめちゃくちゃ緊張しますね。とにかくこだわりが強い方とお見受けしますが、作品そのものだけでなく、見せ方にもこだわりがある方なのでしょうか?

高塚 そうですね。『know』のカバーイラストはシライシユウコさんに描いていただきましたが、ラフの段階から何度もご本人に見てもらいました。

早川書房から刊行する書籍は、カバーに掲載する「あらすじ」も帯に書く要素も、全部見ていただきます。「ここまでは書かないでほしい」というものがあれば削ったりもします。

湯浅 うちが苦労したのは、タイトルですね…。『2』は装丁も含めて本人からのリクエストがとても多かったのですが、営業が特にタイトルについて嫌がりましたね…

なにせ『2』ですからね。タイトルからも装丁からも、何もわからない。単純に検索もしづらいですし、人に説明もできない。営業も書店さんも困っていました…。

河北 よくあのタイトルを通されましたね。

湯浅 どうしても野﨑さんが「これでいきたい」と言ってるんですって、何とか最後には折れてもらいました。あの時は、相当戦いましたね

あと、短編集の「野﨑まど劇場」2巻のタイトル『野﨑まど劇場(笑)』。あれも社内でかなりやり合いましたね…。 ──湯浅さんも相当苦労されているんですね…。

河北 プロモーション案でも、結構いろんな面から無茶振り…もといアドバイスをいただけたりします。

例えば本をプロモーションする時、僕ら編集者はたとえば著名な作家さんに推薦コメントをいただこうと考えるんですが、まどさんは「『バビロン』に推薦コメントをいただくなら政治家の小沢一郎さんじゃないですか?」と仰って。

──確かに面白そうではあります。

河北 結局できませんでした、すいません(笑)。

湯浅 うちの場合は、「KADOKAWA副社長の井上伸一郎に新装版の推薦コメントを頼んでほしい」って言われましたね。社内なのでできなくはないですが……。

高塚 最初に『正解するカド』のノベライズは誰がいいですかとうかがった時「カズオ・イシグロさん」って言われたこともありました。

ノーベル文学賞とる前とはいえ、さすがに……と思っていたら、「ツテはありますよね?」と仰って。そういう問題じゃない。

河北 それでできあがったノベライズが乙野四方字さんの『正解するマド』という超傑作なのもすごいけどね。

次に出る『タイタン』についても色々販売プランを考えてるところなのですが、やがては映像化とかしたいですねと言ったら、「やるならハリウッドでしょうね」と普通に仰るんです。

──壮大なプランです。

高塚 もちろん本としての見せ方にもこだわっていて、この行をページの最初に置きたいからと細かく調整されたり、写真を配置する位置などもすごく考えられていました。

湯浅 めくるとなにかが起こるみたいな仕掛けはうちの作品でもされていたのですが、新装版をつくるにあたっては10年前と文字組が変わっていてそのまま出すことが出来ずに全部直す必要があったので、ものすごく大変でしたね。

河北 仕掛け満載といえば『独創短編シリーズ 野﨑まど劇場』(電撃文庫)。その「まど劇場」の映像化は最高でした(笑)。観てない人は、ぜひ動画をご覧いただきたい。

湯浅 本当は『バビロン』アニメ化の宣伝なのに、なぜかまど劇場の宣伝に使わせてもらってしまいましたね。
野﨑まど劇場「麻雀出エジプト記」

本人も、アニメ『バビロン』の出来に満足

──『HELLO WORLD』には脚本として参加されていますが、『バビロン』の場合は原作者としてどれくらいアニメ制作に関わってらっしゃるのでしょう?

河北 先程の才能の話にも繋がりますが、アニメのスタッフさんたちが一番才能を発揮しやすいようにしてほしいと思っていらっしゃるので、積極的には関与しないようにしています。

脚本は事前に読んで、本人から「こうしてはどうでしょう?」という提案もいただきましたが、原作というマスターピースはすでにあるわけなので、あえて距離は置いているというか。

『バビロン』第2話より

──実際にアニメもご覧になったのでしょうか?

河北 アニメの出来に関しては満足されていて、喜ばれてもいました。二人で最初に打ち合わせしたことを思い出しますね、ようやくここまで来ましたねと仰ってくれて僕は感無量でした。

──普段からアニメは見たりするのでしょうか? そもそもご趣味とかはご存じですか?

河北 アニメも映画もいろんなものを見ているとは思うんですが、具体的にはわからないですね。

高塚 麻雀好きですよね?

湯浅 知らなかった…

河北 打ってる話は聞いたことないよ?

高塚 私もないですが、麻雀漫画に異常に詳しいんですよ。

河北 マニアックな漫画には確かに詳しい。「まど劇場」を見てもらえれば分かると思いますが、そういう知識は作品に活かされているようです。

──幅広いどころではない作風は確かに異質です。

河北 そりゃ幅広いですよ、野﨑まどって三人組ですから

──冗談ですよね…?

世界が早く追い付いてほしい

──僕も野﨑さんのことは以前から存じていますが、世間的な知名度はどうなのでしょう? 皆さんは「野﨑まど」という才能に知名度は追い付いていると思いますか?

河北 全然追い付いてないです。

高塚 新刊を出す度に100万部くらい売れてほしい。

河北 このままじゃまどに置いていかれるばかりなので、世界が早く追い付いてほしいです。

湯浅 置いていかれるといっても、そもそもどこへ向かうのもわからないですが。

──今年は『バビロン』と『HELLO WORLD』の二つのアニメによって大ブレイクする気配も感じられます。

河北 アニメもそうですが、メディアワークス文庫さんから新装版も出ますし、野﨑まど作品への入口がたくさん用意されていますので、どこからでも触れていただけるようにはなっていると思います。

まどさんがようやく陽の目を浴びるタイミングなのかなと思いますが、ファンとしては浴びてほしくない気持ちも少しあります(笑)。

湯浅 メジャーにいってほしくないみたいな(笑)。

高塚 これまでより野﨑さんのお名前が皆さんの目に止まるようにはなっていますよね。『HELLO WORLD』が公開されたことで、全国各地のスクリーンに「脚本・野﨑まど」という文字列が流れてると思うと…泣けます。

──『バビロン』も、ここから盛り上がりがさらに加速していくわけですしね。

湯浅 『バビロン』は原作の良さを活かした、すごい良いとこ取りなアニメという印象でしたので、そこは楽しみですね。

高塚 原作を知っている人も「アニメでどこまでやるんだろう」って気になっているはずで、私もクライマックスが気になっているのは同じです。

原作は現在3巻まで。アニメはどのような結末を迎えるのか/『バビロン』第3話より

湯浅 とにかくもっと売れてほしい気持ちはありますが、かといって売れ線に寄って野﨑まどらしさがなくなっても困ります。

なのでそのバランスをとりたいんですが、そもそもアンコントローラブルな人物なので、我々がどうこうしようというのはおこがましいのかもしれません

まだまだまどに惑わされる

──同じ作家さんの担当が集まるということで貴重なお話が色々うかがえました。最後に、まだ出していないヤバかったエピソードと、この場で改めて野﨑さんに言いたいことがあれば教えていただけますか?

湯浅 ヤバいといえば、野﨑さんが書いてくれた私の似顔絵がありまして… 河北 これはヤバい(笑)。

──野﨑さんが描いたんですか!? 凄い上手い…しかも似てる…。

湯浅 それで思い出したのですが、昔、野﨑さんに何かの絵を描いてくださいといきなり言われて困ったことがありました。

──担当編集に絵を頼むのはなかなか聞かない話ですね。

湯浅 いろんな人にお願いしてるとも仰ってたんですが、なんの絵を頼まれたんだっけな…。「あれ、なんの絵でしたっけ?」って聞いてみたいです。

高塚 文体模写力がヤバかったです。

『ファンタジスタドール イヴ』は太宰治の『人間失格』の文体模写をしているんですが、執筆段階ではもちろんなにも知らされておらず、ただ「人間失格読んでます」としか伝えられていなかったので原稿をいただいて驚きました。

その成果と、アニメの影響もあり『ファンタジスタドール イヴ』には熱心なファンがいらっしゃるようです。

──何を聞いてもヤバい話しか出てきませんね。そして野﨑さんに言いたいことは?

高塚 お伝えしたいことはいつでも一緒です。「原稿がほしい」

河北 原稿がほしいのはきっと皆さんそうなんでしょうけど、「『バビロン』はもう終わりなの?」とかSNSで言われはじめてしまっているので、僕は「4巻目はいつ書きあがりますか?」というのは切実にお聞きしたいですね…アニメ放送前には刊行されている予定だったので…

でも、変なところでマメというか、才能の無駄遣いをする方で。

『バビロン』のアニメ放送に合わせて展開している「#まどがヤバいフェア」でサイン本をプレゼントさせていただくんですが、まどさんは難色を示していたんです。「サインはこれまでにも結構書いているし、そもそも本を持ってるファンにもう一冊サイン本をプレゼントしてどうするの?」と。

でも、手間暇とコストを考えるとサイン本プレゼントがいいんじゃないんですか? と言ったら、昨日送られてきたのがこれです。 高塚 アクリルスタンドだ!

湯浅 時間ないのによくやる…。

河北 そもそも既に出回っているサイン本すらも、普通のサインじゃつまんないからと「死亡届」って判子をご自分でつくってきて押捺しているのに、今回のこれも自費で自主的に制作してくれました。

湯浅 昔、学校の図書委員による校内での小説賞を受賞されましたというお便りへの返事に、真っ白な紙とブラックライトを送っていて、ライトで照らすと読めるような仕掛けを施していたりもしましたし、飛び出す色紙をつくってきたこともありました。

──…幅広い創造性です。

河北 今回、無理矢理まどさんを解読しようとしましたけど、僕ら凡人では、あの人のことはきっとわからないんですよね。野﨑まどの頭のなかは、魑魅魍魎がお花畑でシーソーに乗ってるみたいな混沌っぷりなので、おそらく常人に理解することは不可能です。

湯浅 それは本当にそうですね。あと、ヤバイ話といえば×××××××とか…。

──え?!

河北 それがきっかけで×××××××とか…。

──え!?!? ヤバさについてだいぶうかがったつもりでしたが、どうやらKAI-YOUでも掲載できないヤバすぎるエピソードをまだまだお持ちのようで。正直、この取材を経て、ますます「野﨑まど」がわからなくなりました…。

その半年後、ついに実現した本人インタビュー…!

「野﨑まど」のアクリルスタンド

座談会の最後で言及された「野﨑まど」の自主制作アクリルスタンド。KAI-YOU読者にも特別に、1名限定でプレゼント!

【応募方法】
KAI-YOUのTwitter(@KAI_YOU_ed)と、アニメ『バビロン』のTwitter(@babylon_anime)をフォローした上で、上記のツイートをRTしてください。

【応募期限】
2019年11月7日(木)23:59まで。当選者には11月8日(金)中にTwitterのダイレクトメッセージにてお知らせいたします。
※11月11日(月)までにお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。

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