もしTikTok発信のバズが無ければ、Ava Maxさん、CalBoyさん、Lil Nas Xさんといった若手のアーティスト達の楽曲がビルボードに食い込むことは無かったでしょうし、昨年のDA PUMPのスマッシュ・ヒット曲「U.S.A」も同SNS上での人気に後押しされたことは間違いありません。
この様な背景もあり、レコード会社はこぞってSNS上のインフルエンサー達に自社商品のプロモーション契約を持ち掛けるようになっています。
そんなインフルエンサーの一人が、今年で12歳になるSeth Vangeldrenさんです。雑誌「ローリング・ストーンズ」のインタビューでは、既に複数のレコード会社と10万ドル、日本円にして1千万円規模の契約を結んでいることを明かしています。
今回はそんなSethさんの軌跡を辿りつつ、新時代のバズの作られ方を紹介していきます。
将来の夢は宇宙飛行士
現時点で60万人以上のフォロワーを誇るSethさんのInstagram(外部リンク)ですが、彼が有名になるきっかけとなったのは、彼が10歳の時にたまたま観戦しに行っていたバスケットボールの試合でした。
試合のハーフタイム中に彼が観客席でダンスを披露したところ、会場中が大熱狂。その動画がTwitter上で拡散され、合計で5万回以上もリツイートされました。
その後、最新のヒップホップ・チューンに合わせてダンスする姿がTikTok上で再注目され、現在ではラッパー達から1曲あたり1,000ドルのギャラを受け取って曲のプロモーションを引き受けるなど、ホットなインフルエンサーとして一目を置かれるようになりました。
Rich the Kidさんのライブ・ステージでダンスを披露したり、Alamo、Def Jam、Atlantic Recordsといった超大手レコード会社から契約の話を持ちかけられるなど、その躍進ぶりは留まることを知りません。
ただし、Sethさん自身は、この活動は一時的なものであり、将来の夢は宇宙飛行士になることだと語っています。
バズは本当に自然発生的なものなのか
バズやバイラル・ヒットなどと聞くと、あたかもそれが自然発生的な広がり方をした様な印象を受けますが、それは「口コミで話題」という謳い文句くらい信用のならないものだと業界関係者は語ります。Rostrumレコーズの副社長兼A&RのNicole Plantinさんはこう証言しています。
TikTok、そして日本ではまだ知名度の低いTriller、Dubsmashといったショートムービー共有型のSNSはこういったバイラル・マーケティングの格好の餌場として利用されています。あるアーティストが口コミで人気になっていったとか、アーティスト自身の力だけで人気になったとかいう話を聞くけれども…そんなわけがないのよ。ほとんどの場合が人工的に演出されたものなの。 ーThis 12-Year-Old Makes Six Figures Promoting Rap Songs | Genius News
Trillerでは10k.Caashさん、Da Babyさん、Megan Thee Stallionさんといった新進気鋭のアーティストたちが公式で自身の楽曲の使用を推奨していますし、Tik Tok発のヒット曲と言っても過言ではないLil Nas Xさんの「Old Town Road」は発表前にも関わらず、同サイト上でリークされていました。
売れる為の10ステップ 「Lil Pump Plan」とは
故XXXTENTACIONさん、Lil Pumpさん、そして6ix9ineさんといった売れっ子の若手ラッパー達も、こういったバイラル・マーケティングの手法で勝ち上がってきました。もちろんこういったマーケティングは、形は違えども昔から存在していたものです。Lil Pumpのキャリアを築き上げた二人は、そのマーケティング手法を「Pump Plan」と呼んでいました。ローカルなラッパーやプチ有名人をミーム(ネット上で爆発的に広がっていく「ネタ」のこと)に仕立て上げて、そこから人気を確立させていく10段階のプロセスなんです。その手法の中にはSNSのインフルエンサー・キャンペーン、アーティストのミーム化、Musical.ly(TikTokが買収・統合)でのプッシュ、大手ヒップホップ・メディアWorld Starでのプロモーション、そして「抗争プロジェクト」といって、アーティスト同士の抗争を作為的に演出してネット上での注目を集めるといったものが含まれています。このプログラムを契約前の新人アーティストに提案するそうです。 ーThe Gatekeepers of SoundCloud Rapより(和訳)
ただし、近年ではアーティストが未成年にも関わらず、キャラクター付けとして過度な薬物使用などがクールなものとしてマーケティングされるなど、その手法に疑問の声が上がり始めているのも事実です。
現実と虚構の狭間を楽しむのがヒップホップの醍醐味の一つであるのも確かですが、アーティストの現実がその虚構に飲み込まれてしまうことも、また少なくないのです。
おねがい、おねだり、かみさま、売れる呪文を教えてくれ♪
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