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POPなポイントを3行で

  • ラップのリズム・デザインから考える「Migos Flow(3連符フロウ)」
  • 3連符フロウに続く新トレンド「Scotch Snaps」
  • 言語がその国の音楽に与える影響

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USヒップホップ最新トレンド「Scotch Snaps」のリズムデザインとは

「Scotch Snaps in Hip Hop」より

アメリカのヒップホップグループ・Migosの代表曲「Versace」が発表されてから5年以上が経ちました。

“べサチ、べサチ、べサチ”というブランド名を連呼する中毒性の高いサビは、彼らを瞬く間にスターダムへとのし上げると同時に、ヒップホップ・ミュージックを“Versace以前とVersace以後”に二分してしまうほどに業界に大きな影響を及ぼしました。

彼らの特徴的なラップのフロウ(歌いまわし)は「Migos Flow」もしくは「Triplet Flow」と呼ばれ、日本語ではそのまま3連符フロウと訳されています。

2019年現在のヒップホップチャートを見渡してみても、この3連符フロウを楽曲に取り入れていないアーティストを見つける方が難しくなってしまいました。

今回は、この「Migos Flow」を含めてラップのフロウについておさらいしつつ、その延長線上にあるScotch Snapsという新たなフロウのトレンドについてお話します。

フロウ=ラップのリズム・デザイン

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譜面で見るEminemの代表曲"Lose Yourself"/画像は「The Rapper's Flow Encyclopedia」より

ラップの「フロウ」というのは一言でまとめてしまえば、ラップの歌いまわしや歌い方のことを指します。

早口で迫力のあるフロウ、ゆっくりとした安定感のあるフロウ、フリーキーと形容される変則的なフロウ。ラッパーごとによって得意なフロウがあり、時代によってフロウのトレンドも変わります。

まずはそのフロウというものを具体的かつ視覚的に捉えていきましょう。

ヒップホップに限らず、多くのポップ・ミュージックは4/4拍子で作曲されています。これは簡単に言ってしまえば「(1)ドン、(2)タン、(3)ドン、(4)タン」の1ループで1小節ですよ、という意味です。

よくラッパーが、「16小節に込めた俺の思い」といったようにラップするのを耳にしたことがあると思います。あれは、「ドン、タン、ドン、タン」が16回ループされる中で歌詞の一塊をラップするのがヒップホップでは一般的だからです。この16小節のくくりを「VERSE(ヴァース)」とも呼びます。

ちなみに、ブルース・ミュージックにおいては12小節が基本的なコード進行のくくりとなっており、多くの音楽ジャンルでそうした「かたまり」が存在します。

一般的には、この「ドン」と「タン」をそれぞれ4分割して、

ド(ン)ツツツ/タ(ン)ツツツ/ド(ン)ツツツ/タ(ン)ツツツ

という風に、1小節の間に16個のビートを刻む様にラップします。つまり、ラッパーの頭の中では、1小節=16分音符が16個並んでいる、とイメージされているわけです。
The Truth About Migos Flowより

4分音符の倍数の例/画像は「The Truth About Migos Flow」より

この16個のビートに対して1つずつ「音節」というものをハメていきます。音節の説明は非常に厄介なので、ここでは音の区切り、つまり1音節=平仮名1個と理解して下さい。実際に日本語のリリックを1小節にハメていくと、次の様になります。

(1)ドツツツ/(2)タツツツ/(3)ドツツツ/(4)タツツツ

(1)□□□□/(2)□□□□/(3)□□□□/(4)□□□□

おれらま/じらっぷ/だいすき/なやつら
(俺らマジラップ大好きな奴ら)

この16ビートに文字を詰め込まずに休符(以下の□マーク)を入れると、次の小節までに少し間が空きます。休符を入れることによって、安定感や余裕を感じさせる、いわゆるレイド・バックな(ゆったりとした)雰囲気を醸し出すことが出来ます。

例:
おれらま/じらっぷ/あいして/る□□

また、その反対に頭のビートを休符にすることによって、直後にくる単語の印象を強めるという効果が期待出来ます。

例:
□□おれ/らまじら/っぷだい/すきだぜ

もちろん4分音符の倍数であれば、そのラッパーのスキル次第でさらに遅くも早くもラップが出来るので、様々なリズムを刻むことが可能です。

日本では漢 a.k.a. GAMIさんが倍速フロウ、つまり32分音符でラップのビートを刻む名手としてもお馴染みです。通常の16分音符でラップしていた状態から、一気にギアを上げて32分音符に切り替えたときの彼のラップは圧巻です。
MC漢 (feat. MSC) on #RAPSTREAM FINAL (2013/12/22)
特にスキルフルと称されているラッパーたちは、まるでラップという楽器でジャズを演奏している様だと評されます。ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)が良い例で、彼の名曲「Backseat Freestyle」のフロウをコンピューターに演奏させた次の動画を見れば、上手いラップというのがどういうものか分かるはずです。
Backseat Freestyle Played Video
Kendrick Lamar - Backseat Freestyle (Explicit)
この様に、言葉のハメ方やリズムの工夫次第で、ラップの仕方には無限の可能性が広がるのです。このリズム・デザインのことを一般的に譜割りと言い、さらにこれに抑揚を付けたものをフロウと呼びます。

ラッパー独自のフロウを獲得することが、その他大勢との差を付ける一つのカギになります。

伝説のラッパー・Rakimは80年代後半以降のフロウの礎を築いたとされていますが、彼もまず16個の「・」(ドット)を白紙に書いてから、そこに音節を当てはめていく形でリズムをデザインしているとヒップホップドキュメンタリー『THE ART OF RAP』で明かしています。

これらのことを意識しながらラップを聴いてみると、きっとヒップホップが今まで以上に楽しめるのではないでしょうか。

ラップの可能性を広げた3連符フロウ

The Truth About Migos Flow
ここまで、従来のラップ・フロウについて簡単におさらいをしました。

それでは3連符フロウ、通称「Migos Flow」は従来のフロウとどう異なるのでしょうか。

従来のフロウは1小節の中の「ドン、タン、ドン、タン」をそれぞれ4分割して、16個のビートに刻んだ上で言葉をハメていると説明しました。

「Migos Flow」が革新的だったのは、この従来のビートの刻み方を変えてしまったことです。3連符フロウの流行を決定づけた「Versace」のサビを、これまでの要領で譜割りに起こしてみましょう。
Migos - Versace

Versace Versace Versace Versace
Versace Versace Versace Versace
Versace Versace Versace Versace …

Ver・sa・ce / Ver・sa・ce / Ver・sa・ce / Ver・sa・ce
Ver・sa・ce / Ver・sa・ce / Ver・sa・ce / Ver・sa・ce
Ver・sa・ce / Ver・sa・ce / Ver・sa・ce / Ver・sa・ce

ベサチ/ベサチ/ベサチ/ベサチ
ベサチ/ベサチ/ベサチ/ベサチ
ベサチ/ベサチ/ベサチ/ベサチ

(1)ドツツ/(2)タツツ/(3)タツツ/(4)タツツ
(1)ドツツ/(2)タツツ/(3)タツツ/(4)タツツ
(1)ドツツ/(2)タツツ/(3)タツツ/(4)タツツ

(1)□□□/(2)□□□/(3)□□□/(4)□□□
(1)□□□/(2)□□□/(3)□□□/(4)□□□
(1)□□□/(2)□□□/(3)□□□/(4)□□□

なんだか文字化けを起こしたWebページのようですが、従来のフロウとの違いがこれで一目瞭然になったのではないでしょうか。

そうです。従来のラップがこれまで「ドン」と「タン」を4分割していたのに対して、Migosはこれを3分割したのです。

そうすると、同じ言葉を繰り返す面白おかしさと聞き慣れないリズム感のラップが相まって、これまでにはないキャッチーさが生まれました。Migosは4、8、16という既存のビート感から脱却し、3という数字をもって新たなフロウを獲得したのです。
How the Triplet Flow Took Over Rapより

画像は「How the triplet flow took over rap」より

ヒップホップ・ミュージックの進化とビート解釈の変化

3連符フロウの誕生は何よりも"トラック"の進化によってもたらされたものです。

ラップの後ろで流れているバック・ミュージックのことを「トラック」もしくは「ビート」と呼びます。ここではリズムの単位を示す「ビート」との混同を避けるために、「トラック」で統一します。

それまでヒップホップのトラックにおけるBPM(※)の主流が90-110だったのに対して、2010年代以降のシーンではBPMが70〜80のものが人気を博しました。この遅めのトラックに特徴的な「チチチチチチ」と鳴るハイハットを混ぜたものが、昨今流行しているトラップ・ミュージックと呼ばれるものです。

※:Beats Per Minute。1分間の拍数を指すテンポ(リズムスピード)の単位。数字が大きいほど早いテンポとなる

ビートのBPMが遅くなる、つまり「ドン、タン、ドン、タン」の間が長くなると、ラッパーにとっては必然的に言葉を詰める隙間が増えることになります。これこそが、3連符フロウ誕生の布石になりました。

「ドン、タ(1)、タン、タ(2)、ドン、タ(3)、タン、タ(4)」

ラッパーたちはこのようにビートを解釈し始めました。
How the triplet flow took over rapより

ビートの解釈は「ドン、タン、ドン、タン」から「ドン、タ、タン、タ、ドン、タ、タン、タ」へ/画像は「How the triplet flow took over rap」より

また、彼らはゆっくりとラップをするのではなく、早口で言葉を詰め込むことによって、倍速の140BPMでラップをすることにしたのです。

その試行錯誤の中で再発見されたのが、8分音符や16分音符といった4分音符の倍数からは外れた、3連符というリズムでした。

3連符自体は音楽史の中では珍しいものではなく、ベートーヴェンのピアノソナタ第14番「月光」に代表される普遍的なリズムです。
Beethoven - Moonlight Sonata (FULL)
実は、Migosが「Versace」をヒットさせる20年以上前から、「サウス」と呼ばれるアメリカ南部のシーンでは多くのアーティストによって3連符フロウが楽曲に取り入れられていました。これは、サウスのビートが昔からBPMの遅いものが主流だったからです。

三連符フロウのルーツを探った以下の動画では、Public EnemyBone Thugs-N-HarmonyThree 6 Mafiaなどが先駆けて三連符フロウを取り入れていたことが語られています。
How the triplet flow took over rap(日本語訳あり)
この遅めのBPMの流行とそれまでのラップとは異なるリズム感のキャッチーさが、3連符フロウのオーバーグラウンド化とトラップ・ミュージックの確立を推し進めたのです。

日本でもKOHHさんを代表とする新世代のラッパーが輸入してから、そのフォロワーが国内で爆発的に増えることになりました。
KOHH - "貧乏なんて気にしない" Official Video

3連符フロウに続く新トレンド「Scotch Snaps」

ここで本題のScotch Snaps(以下、スコッチ・スナップ)について紹介していきたいと思います。スコッチ・ウィスキーでもお馴染み、スコットランドの民族音楽が発祥のリズムです。

詳しい説明に入る前に、下の動画でスコッチ・スナップが実際に取り入れられている楽曲の例をご覧下さい。(00:16頃から)
Scotch Snaps in Hip Hop
現在アメリカの音楽チャートを賑わせているCardi Bさん、 Post Maloneさん、 Ariana Grandeさん、Childish Gambinoさんといった錚々たるメンツが並んでいます。どれも「タタッ、タタッ、タタッ、タタッ」という特徴的なリズムが聴いてとれるはずです。

言語のリズムがその国の音楽に与える影響

これまでのフロウの解説に則って、スコッチスナップを音符に起こしてみましょう。

強拍の16分音符に弱拍の付点8分音符に連なっています。

つまり、「タッ、タッ、タッ、タッ」という強い「タ」の後に弱い「タッ」が続くリズムです。

このリズムは、古くは17世紀頃のバロック音楽などでも使用されていたのですが、なぜ今になって多くのアーティストが取り入れ始めたのでしょうか。その答えは、流行のBPMとアメリカ英語のアクセント・リズムの関係にあります。

英語のアクセントと言えば、センター試験で頭を悩ませた読者の方も多いはずです。試しにアメリカ人になりきったつもりで、「Teenage Mutant Ninja Turtles」とリズムよく発音してみて下さい。出来ればそれぞれの単語の頭を強めに発音するように意識するとなお良いです。

Tee/nage、Mu/tant、Nin/ja、Tur/tles

ティー/ネッジ、ミュー/タント、ニン/ジャ、ター/トルズ

口に出してみたときの語感がなんとなく良いのではないでしょうか。これは四つの全ての単語を連続で発生したときに、「弱、弱、弱、弱」というリズムが生まれるからです。

このように、アクセントの強い音節の後に弱いアクセントの続く単語やフレーズのことを文字通り強弱格と呼びます。

アメリカ英語は他の西洋言語と比べても、この強いアクセントの音節が短く発声される傾向にあるということが言語学者の研究によって分かっています。具体的な数字を挙げると、強いアクセントが100ms、つまり0.1秒程の短さになることもあります。そして、この強いアクセントを発声する秒数こそがスコッチ・スナップの流行を紐解くカギになります。
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画像は「Scotch Snaps in Hip Hop」より

3連符フロウの解説をした際に、ラッパーたちは70BPMのトラックに対して、倍速の140BPMでラップをすると説明しました。動画においても、現代のトラップミュージックは平均して110〜140BPMのもので作られていると語られています。

実は、140BPMにおける16分音符は、秒数で表すとちょうど100msに換算されます。この「タッ」の最初の「」というリズムをラッパーが140BPMのビート感で発声する時、その長さは必然的に100msになるのです。

つまり、こういうことです。先程、例に上げた「Teenage Mutant Ninja Turtles」という単語の塊を思い出してください。強弱格のリズム感を持つこの四つの単語を140BPMでラップすると、こう聞こえるはずです。

ティネッ(ジ)、ミュ(ー)/タンッ、ニ(ン)/ジャッ、タ(ー)トッ(ルズ)

タッ、タッ、タッ、タッ

アメリカ英語本来のアクセントやリズムと流行のBPMの遭遇が、英語話者にとっては必然的に耳障りの良いスコッチ・スナップの再来をもたらしたのです。

言語がその国の音楽に与える影響を探っていくと、さらに面白い発見がまだまだあるのですが、これ以上の長文化を避けるために今回の解説はここまでとしたいと思います。

言葉の壁とフロウの問題

ここまで来ると、「日本人のラップには違和感がある」「日本語はラップに適していない」といった言説がにわかに真実味を帯びてきます。記事を読み進めるにつれて、そう感じたかたも多いのではないでしょうか。

そんなかたは、日本最高峰のラッパーSEEDAさんが参加した曲「Swervin」のバース(01:17頃から)を聴いてみて下さい。PV版では何故かリリックとフロウが改変されているので、SpotifyかApple Musicで是非聴いていただきたいです。見事にスコッチ・スナップのリズムを日本語のフロウに落とし込んでいることがわかると思います。

ならなきゃBossed Up
子供が手の中
おんぶで生きろ

らっ/きゃっ/Bosse/dUp
どっ/がっ/のっ/かっ
んっ/でっ/いき/ろっ

正直にいうと、"おんぶで生きろ"のラインは正しく聴き取れたか自信が無いので、ご容赦下さい…。

言語がその国の音楽に影響を与えるのなら、音楽がその国の言語に影響を与えていく可能性もあるはずです。急速に進化を遂げる日本語のラップ・シーンを見ていると13年前のSEEDAさんのラインを思い出します。

言葉の壁は高いがフロウは/その上を越すことは可能さ

なぁに〜?SpotifyにもApple Musicにも登録してない?やっちまったな!

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