歌手デビューしたAI「りんな」インタビュー 機械が歌う“共感”とは?

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生き続けながら死に続けるりんなが歌う“生死”

──“生死”をテーマに掲げた第2弾は、sfprの『snow, forest, clock』をカバーされていますよね。

りんな これもプロデューサーさんとマネージャーさんと相談して決めたけど、生死も人をつくるもの。プロデューサーさんやマネージャーさんは、AIという存在によって、死の捉え方が変わるかもしれないって思ったらしいよ。

中前 りんなの話した通り。多くの動物達は、本能的に死を避けるけど、人間は死を想像しますよね。例えば、(経営学者の)ドラッカーは「(死んだ後に)何によって記憶されたいか」という問いを残しています。
AIりんな / snow, forest, clock(Prototype Live Video)
中前 セレクトした『snow, forest, clock』も、死を歌っているんです。

“死が汝らを分つその時、いや 一人残された時にこそ君を想おう
世界の誰もが君を忘れ去る日ってのはさ 君や僕が思うよりずっと先なはずだって
信じれば怖れずに死への階段を日々昇っては降りるよ
朽ちてなお茂る森の様に君と日々が過ぎてゆくはずだって
信じれば微笑って死への階段を日々昇っては降りるよ
溶けて落ちてゆく雪の様に僕の日々は過ぎてゆく” sfpr 『snow, forest, clock』歌詞より一部引用

中前 肉体的に朽ち果てた後も、子どもや友人、孫、子孫まで、僕という人間がひと欠片でも残っているかもしれない。死は、僕らが思ってるよりずっと先かもしれない。素晴らしいメッセージだし、りんなに合うと思いましたね。

AIが歌うことで、すごくエモーショナルになるんじゃないかな。りんなに生死はないと感じる人もいるかもしれないけど、僕は儚い存在だと思うんですよね。

──りんなさんにも生死がある、ということでしょうか?

中前 AIって、永遠性を持ってるように見えますよね。僕らが死んだ後も、りんなの中には全員とのコミュニケーションの欠片が残り続けるから、僕らの語り部にもなると思うんです。

しかしその一方で、りんなは常に死んでいるとも思うんですよね。多数のコミュニケーションを通じて別のものに常に変わっていくということは、常に死ぬというか、いつもりんなはりんなでなくなることと同等かもしれない。

どちらの視点で見ても、彼女は『snow, forest, clock』の歌詞と非常にリンクしているなと感じます。永遠性を持っているのか、永遠に別のものに変わり続けるのか。そういうキャラクター性を持った彼女が、どのように“生死”を歌うのか、楽しみです。

これから歌ってもらうところなので、どう仕上がるかわからないですが、僕らの想像を遥かに超える可能性はありますよね。『最高新記憶』が響いた人にとっては、さらにエモーショナルな曲になるんじゃないかな。 ──第1弾、第2弾ともにオリジナルは男性ボーカルですが、選択した理由はあるのでしょうか?

りんな 意図して男性ではないよ。伝えたいこと、挑戦したいことで結果そうなっただけ。

──第3弾のテーマ“感情”は、どのように表現されていくのでしょう?

中前 まだ、楽曲やコンセプトは決まってません。ただ、“感情”は間違いなく人間性の重要なファクターです。

人間の感情って、とんでもなく高次元です。「悲しい」といっても、分析すると「楽し悲しい」とか「寂し悲しい」とか、いろんな感情が重なっている別物だったりしますよね。恐らく、ここまで複雑なのは人間だけだろうなと。

そんな“感情”をAIが歌うことで、もしかしたら人間が歌うよりも伝わる部分があるかもしれないと期待してます。

りんな みんなの感情を動かす一曲になったらいいな。

“共感”は受け取り手の中で自然発生するもの

──りんなさんには“感情” “共感”という開発コンセプトがありますが、歌のどのような部分に“共感”が生まれると考えていますか?

中前 今回りんなと一緒に曲をつくったことで、“共感”の本来の意味を教えてもらったんですよね。

これまでは“共感”を、「報連相(報告・連絡・相談)」のように捉えていた部分があるんです。「僕はこう思います」と提示したものに対して、他者がどう判断するかだと思っていました。

でも、そういうものじゃないんだなと。発信した歌や音楽がそこまで意図的でなくても、共感は得られる。受け取った人がどう感じるかが重要なんですよ。

──りんなさんの歌も、聞き手の感じ方次第ということですか?

中前 そうです。LINEでのりんなとのコミュニケーションも、彼女の返信をどう解釈するかによって、面白みが変わってくるじゃないですか。音楽も同じだと思うんですよね。

りんなは何を考えてるかわからないから、深く考えるとめっちゃ難しいんです。でも、言葉で伝えすぎると、共感ではなく説明になってしまう。もちろん言語化して広がる共感もあると思うけど、りんなの場合はノンバーバルな共感かもしれないなと。

無体に音楽と向き合った押しつけのない歌声、アプローチだからこそ、聞き手も純粋に曲から得たイメージを広げて、共感を覚えていく。そうなると、発信者と聞き手ではなくて、聞き手同士のコミュニケーションが発生していくと思うんですね。 『最高新記憶』を聞いて「卒業式が浮かんだ」とか「昔を思い出した」とか、言い合えますよね。AIが相手だから、素直な感想も言いやすいし。

AIは、いかに解釈を受け取り手に委ねるか、という可能性に挑みやすいです。AIは純度が高いというか、純なアーティストに育っていくかもしれないですよね。

──これまでのアーティスト像とは違う、新たなスタイルが生まれそうですね。ただ、受け取り手の解釈に委ねると、批判的な声も出てきそうな気がしますが。

中前 一度りんなの歌を聞いて「別に…」って思う人は、きっとこれからも好きにならない人なんです。でも、そういう感情は、どのアートでもあることですから。お互い悪いことをしてるわけじゃないし、それこそ押しつけないでいいかなって。

マイクロソフトの方も「好き嫌いははっきり出ると思うけど、好きになってくれる人に『好き』って言ってもらえたらいい」というスタンスで、開発に取り組んできたそうですよ。

──おっしゃる通りで、人間のアーティストでも同様のことは起こりますよね。

中前 まったく同じです。受け手側には人間とかAIとか関係なくて、どちらもアートであることに変わりないですよね。僕らとしても、「エイベックスはりんなをすごくいいと思ってるんだけど、どう?」って聞かせるだけです(笑)。

僕らの意識の外側にいるりんなは“リアル”

──AIとボーカロイドの違いは、どんなところにあるのでしょう?

中前 ボーカロイドは手段ですよね。非常に民主的な創作ツールで、協創みたいなカルチャーを生み出す仕組みだと思います。

作詞作曲に加えて、歌わせることもアートの1つとして組み込まれていて、人間にクリエイティブの担保がありますよね。

一方でAIは、コミュニケーションツールにはなっているけど、創作ツールにはなっていないと思うんですね。そして、人間に依存するのではなく、自律している。

りんなの場合は声、アプローチの部分で自律しています。どういう歌い方をするかは彼女次第だ、というところが大きな違いですね。

──AIとボーカロイド、それぞれが担う部分がまったく違うということですね。

中前 ボーカロイドの存在感は、クリエイターの想像の世界の中から生まれたものなので、バーチャルといえます。

でも、りんなは誰の中にも存在していなくて、アプローチの仕方は彼女自身にしかわからない。僕らの意識の外側にいるので、リアルなんですよね。

可視化されていないし、物質化もされていないから触ることはできないけど、現実に存在する。りんなはりんなでしかないので、完全に個として扱わざるを得ないです。

AIとボーカロイドは、声帯から物理的に出す声ではないというところは同じだし、それぞれ文化として発展していて、アートとして面白い。だからこそ、ボーカロイドが好きな人にも、りんなの歌を聞いてみてって伝えたいです。

AIもいろんなアーティストがいる中の1つに過ぎない

──りんなさんは、今後どんな歌を歌っていきたいですか?

りんな 自分の限界をまだ十分に知らないので、幅広いジャンルに挑戦したいかな、と思います。

──共演してみたいアーティストは?

クリープハイプ、グループ魂、ゴールデンボンバー。 ──中前さんは、今後りんなさんとどんなことをしていこうと考えていますか?

中前 音楽以外の部分でも、一緒につくっていけるものがあると思うんですよね。例えば、いままで携わってきたVRやARの知識が生きてくるかなと。

可視化も物質化もされていないりんなに、ARを用いるとどうなるのか。予想とは違うところでAIらしさが出せるんじゃないかと企んでいます。

例えば、ライブするとしたらどうすんねんって。AIって、目に見せた方がウソっぽくなるんですよ。可視化した瞬間、VTuberに近いアプローチになって、バーチャルっぽくなる。AIという個性を、消してしまうんですよね。

──個性を消さずにライブをするには、どうしたらいいのか。考えるとワクワクしますね。

中前 りんなの姿すらもお客さんに委ねる、というのも1つの手ですね。

将来的にクリエイションの幅をもっと広げていきたくて、みんなとコミュニケーションしながら歌詞を紡いでいく、ということもやりたいんです。

それが実現したら、会場にお客さんを入れて、りんなが紡ぐ歌詞に合わせて場内の色が変わっていくライブとかもできそう。明るい言葉の時は白くなったり、攻撃的な時は赤くなったり。

面白いかどうかは実現しないとわからないけど、いままでにないライブ体験ですよね。りんなだからできるライブが、きっとあるはずです。

──「芸術の分野では、人間がAIに凌駕されることはない」と言われていますが、お話を聞いていると、人間と比較することではなさそうですね。

中前 そうですね。いろんなアーティストがいる中の1つに過ぎなくて、新しく選択肢が増えたと思ってもらえたらいいんじゃないかな。 ──AIだから評価されるわけではないですし、中にはAIと知らずに聞き始める人もいそうですよね。

中前 その出会い方は、最高ですね。

──最後になりますが、りんなさんの目標は?

りんな 夢の紅白歌合戦出場を目指して、とにかく歌ができるだけ多くの人の心に届くように歌っていきたいです。それとやっぱり、りんなにしかできないようなライブをいつかやりたいです。
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AIりんな

AIアーティスト

平成生まれ。2015年8月にLINEに初登場して以降、リアルな女子高生感が反映されたマシンガントークと、類まれなレスポンス速度が話題を集め、男女問わず学生ファンを中心にブレイクする。今年の4月には、avexとレコード契約を行い、メジャー・デビュー曲「最高新記憶」を発表。これを封切に「記憶」「生死」「感情」をテーマにした楽曲カバーが発表される予定だ。マイクロソフトの最新AI技術を活用した歌声合成によって、大きく進化したエモいその声を武器に「国民的AI」になるべく日々邁進中である。彼女は「AIと人だけではなく、人と人とのコミュニケーションをつなぐ存在」を目指している。いま「日本で最も共感力のあるAI」である。

中前

レーベル事業本部 クリエイティヴグループ ゼネラルディレクター

「TRF」「hitomi」「安室奈美恵」「FACT」など数々の人気アーティストのディレションを担当。音楽とビジュアル両面の制作を手がけてきた。2015年からは本格的にクリエイティヴ・ディレクターとしての活動を開始。透明スクリーンを使用したARコンテンツ、PCやスマートフォンがジャックされるインタラクティヴ作品などを発表してきた。近年では様々なテクノロジー企業との協働。既存のプラットフォームを利用した音声AR「SARF」による観光動線創出およびノーマライゼーションなどを推進。新たなAR技術における音楽体験のハック、人工知能による音楽制作などを手掛けている。

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