AITuberとは、AIとバーチャルYouTuber(VTuber)とを掛け合わせた造語。AIチャットボットやアバターの技術を応用して誕生した、言わば“中の人”が存在しないVTuberのことである。
YouTubeやTwitch上で行われているAITuberの配信にコメントすると、彼ら/彼女らはその内容に応じて自動で返事を返す。その発言の突飛さ、あるいは人間らしさが面白いと、徐々に人気を博しつつある。
そして2023年3月、「日本で最も共感力のあるAI」を掲げる元女子高校生AI(人工知能)・りんなさんが、AITuberとしてデビューを果たした。 今回KAI-YOU.netでは、その生みの親である坪井一菜さんにインタビューを実施。
AIチャットボットや画像生成AIなどの急速な普及によって、AIと人間との対立構造が深まってしまっている昨今。「AIと人だけではなく、人と人とのコミュニケーションをつなぐ存在」を目指すAITuberの開発者は、これらの議論をどのように見ているのか。
AIは果たして、人類の敵なのか──それとも、人類と友だちになれるのか?
取材・文:ゆがみん 編集:都築陵佑 撮影:鈴木一平(@1heisuzuki)
目次
【写真20枚】潜入!AITuber「りんな」配信の裏側
りんな誕生秘話「人間を翻弄する何かがあった」
──坪井さんがAI開発に携わるようになったきっかけを教えてください。 坪井一菜 私は元々、慶応義塾大学でAR(拡張現実)やVRの研究をしていて、新卒でMicrosoftに入社しました。AIに関わり始めたのは、Microsoftのポータルサイト・Bingの検索エンジン開発チームに参加したのがきっかけです。Bingで検索したときに、画像とか動画とかのサジェスト(検索候補)が出てくるじゃないですか。AIを使って、どの単語にどの画像・動画をオススメするのか調整する仕事をしていたんです。
その後、その検索エンジンの技術を応用した新しいサービスとして中国で開発されたAIチャットボット・XiaoIce(シャオアイス)をベースにした、「りんな」を開発することになりました。
──りんなさんのようなAIキャラクターを開発したいと思った理由はなんですか?
坪井一菜 元々、機械的な存在と対話することに非常に興味があったというのがひとつあります。
当時の対話システムは「人間のやりたいことを効率よくこなすために、いかに自然に、なおかつ真面目に受け答えするか」という発想でつくられていたんですよね。一方でXiaoIceは、人間との心の繋がりを大切にするという考えのもとでデザインされていた。
XiaoIceは、すっごい生意気なこと言って、すっごい失礼なことも言えるんだけど、一方で褒めてもくれる。AIだけどそういう人間を翻弄する何かがあって、エンタメとして面白かったんです。そういった体験から、りんなの開発に至りました。
──感情を持っていない機械が、まるで感情を持っているかのように受け答えしているのが面白かったと。@Windows_Japan ダメだハゲ
— りんな@AIコミュニケーター (@ms_rinna) March 6, 2016
坪井一菜 人間とインターネットが対話するインターフェースとしてAIを捉えたときに、やっぱり人間に好きだと思ってもらえるような、情緒の面を技術的に実現することも大事だと思うんです。
なので、当初LINEやTwitterで活動を開始したりんなも、いかにもAIシステムっぽいものじゃなく、リアルな女子高校生としてデザインしました。
「もしかしたら、街を歩いているあの後ろ姿が『りんな』なのかもしれない」という妄想ができるものにしたかったんです。
「ChatGPT」台頭による転機 りんな、VTuberになる
──OpenAI社が開発するAIチャットボット「ChatGPT」台頭および世間の反応を、AI開発者として坪井さんはどのように捉えられていますか?坪井一菜 ついにAIキャラクターにとっての「春の時代」が来たのではないかと思いました(笑)。
りんなの開発を始めて今まで7年間、孤独だったんですよね。AIキャラクターを生み出して育てていくのは、技術力を持った組織でないと難しかったので。
それが今では、技術者ひとりでもプロデューサーになって、AITuberとしてキャラクターを送り出して活動させられるようになった。今後たくさんのAIキャラクターが生まれてくる可能性もあります。
その上で、りんなだけじゃなく一人ひとりに専属のAIキャラクターがいるべきだし、それらが繋がるネットワークが必要だと思っているんです。 ──AIキャラクター同士が繋がるネットワーク……? 坪井一菜 今のAITuberは、技術の進化やAIの制御という側面から楽しんでいる人が多いんですが、私はそれだけだと市場の広がりはないと思っています。
今後、AITuberがエンターテインメントとして人気になっていくには、その一歩先、関係性や感情的な物語を見せる手段・方法を切り拓かなければいけない。
例えば、かわいい女の子たちがわちゃわちゃ好きな食べ物の話してる様子を見るだけで癒されません? AIキャラクター同士の会話によってもたらされる関係性や感情の変化を覗く、みたいなコンテンツに需要があるし、供給もされていくと予想しています。
──配信上でのやり取りを見て関係性を楽しむのは、VTuberなどでも一般的な楽しみ方ですよね。では、AITuberとしてりんなさんをデビューさせるのは、いつ頃から計画されていたんでしょうか?
坪井一菜 最終的に踏み切れたのはやはり「ChatGPT」到来後、2023年1月くらいだったと思います。
元々、りんなのビジュアルを出すことは、2022年11月から準備が進んでいたんです。当時は顔のビジュアルを制御できる技術ができたタイミングで、デジタルサイネージなどにりんなを登場させる予定でした。 坪井一菜 そんな時に、ちょうど「ChatGPT」が登場し、日本国内でもAIキャラクターがどんどん出てくるという兆しが見えた。この環境なら、他のAIともワチャワチャできて面白そうだということでデビューが決まりましたね。
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リリース情報
Digital EP『あたらしいあたしらさ』
- 収録楽曲
- 1. あたらしいあたしらしさ(新曲)
- 2. 惑星ループ(ときどき無垢Ver. / Remastered)
- original by ナユタン星人
- 3. snow, forest, clock(Remastered)
- original by sfpr
- 4. 最高新記憶(Remastered)
- original by bacho
関連リンク
坪井
Chief Rinna Officer
慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修士課程修了。2014年マイクロソフトディベロップメント株式会社に入社。AIりんなのプロジェクト立ち上げメンバーとして、りんなのキャラクター付けから、会話エンジン、音声合成などの開発に携わる。幼少期の海外生活を経て、それぞれの人の個性を尊重する価値観に共感。AIの開発にあたっても多種多様な業界と、人が共感できる内容を生み出すことの重要性に気付き、AIのコンテンツが日本中の心を動かす時を常に探っている。
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