『身辺整理』収録 「脳漿炸裂ガール」リミックス
一話完結型の音楽
──最近のインターネットについて、なにか思うところはありますか?さつき 普段からかなりインターネットに張り付いているので、色々考えることはありますが……文脈って全然重要視されなくなったなーと思いますね。作者の経歴とかは関係なく、目の前にある作品だけを見て・聴いて判断されることが多い。その良し悪しは置いておいて、取っ付きやすさは確かにあります。
例えば僕、『ゴルゴ13』好きなんですけど、床屋さんとかでパッと1話だけ読んでもおもしろいんですよ。だから同じように、どこから聞いても楽しめる、一話完結型の曲づくりを心がけているんです。
──なるほど、一話完結型。
さつき 決して批判する気持ちはないんですが、今のボーカロイドシーンって、曲よりもボカロPさんにウェイトを置いている気がしているんです。シリーズ化を期待されているというか、いつもの作風と違う曲をつくったら、「なんか違う」みたいに言われたりする。嫌がる人も多いんじゃないかなと。僕は、それはやっぱりインターネット的ではないと思っていて。
「さつき が てんこもり」なんて後で覚えてもらえたらいいな、というぐらいで、まずは動画を見て、曲を聴いて、少しでも興味をもってもらいたいっていうのは強く思っています。
受け手のアバターをイメージ
──『身辺整理』はボーカロイドアルバムになりましたが、これまでに、アイドルグループ・私立恵比寿中学や、アニメ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』のテーマソングなど、ボーカロイド以外のジャンルでも楽曲をつくられてきたと思います。それぞれ作曲時にはどんなことを意識されますか?さつき 人間とボカロの違いということであれば、そこに違いは全くありません。聞かせたい年齢層やファン層は意識して、それに合わせて歌詞や世界観のギミックを調整していくような感覚はあります。でもそれはボーカルとは関係ありません。
──その年齢層・ファン層というのは、どうやってイメージをふくらませるのですか? やはりインターネット?
さつき さすがにTwitterからだけでは、その人の年齢は掴めません。オフラインでないと。
アイドルならライブ、ボカロだったらボーマス(THE VOC@LOiD M@STER)、コミケ(コミックマーケット)辺りにいくと、なんとなくの顔がわかる。そういうところに行くと、僕の中でファンの平均的な“アバター”がなんとなく見えてくるんです。
例えばボカロファンだったら、高1・高2くらいで、クラスとかでそんなに主張の強い方ではなくて、カバンにボカロキャラのキーホルダーをつけるくらいの微妙なバランスで趣味の主張をして共有できる友達を探している。でも、バイトの給料とかお年玉とかで、足繁くボーマスとかには通っていて……そんなちょっと引っ込み思案の奴らの好きそうなものをつくりたいなーと思うんです。
──そんな具体的なところまでイメージできるものなんですね。
さつき いつもそこだけはかなり気にしています。
人を見るのが好き、というのもあります。こういうひねくれたことばかりやっているから友達いないんですけどね。「あだ名つけ」は、有吉弘行さんよりもずっと前からやっていましたよ!
超おもしろいんですよね。学生の頃とか、マックでちょうど交差点を見下ろせる席を陣取って、3時間でも4時間でも、ひたすら人を眺めてはあだ名をつけていました。
そこまで可愛いわけではないんだけど、オシャレを頑張っているような女の子は「友達が読モ」とか、若者の波の中にかっちりスーツを着た中年サラリーマン2人組が歩いてきたら「御社弊社」コンビだなー、とか。
──ははは(笑)。その頃から今に通ずる言葉遊びのセンスを磨かれていたんですね。
さつき 学校の先生にもよく「コピーライターになりなさい」って言われた覚えがありますね。
実際、曲をつくる時も作曲より作詞の方が断然楽しいです。作詞だけだったらいくらでもやりますってぐらい。何せもう曲は二度とつくりたくないので(笑)。
スタッフ (苦笑)
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さつき
作曲家 / DJ
「たのしいおんがく」をコンセプトに、都内やネット上を拠点に活動している作曲家、DJ。深夜アニメからアイドルプロデュース、ボーカロイドから地方コマーシャルまでジャンルの垣根を超えて制作を行っている。アイドル・私立恵比寿中学、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない。』、ゴーゴーカレー店舗コマーシャル等への楽曲提供の他、ニコニコ動画公式番組「ニコラジ」に、やまだひさしと共にレギュラー出演中。
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