MCバトルを流行らせるにはライトノベルしかない
MC正社員 僕はHIPHOPもそうですけど、MCバトルってもっと一般の方にも好きになってもらえる可能性があると信じています。だから元々マンガとかライトノベルと何か一緒にやるべきだとずっと思っていたし、某有名ラップグループのプロデューサーさんも「MCバトルを流行らせる為にはライトノベルしかない」って言っていました。
そんな話をしてる時にこの小説がでてきて、「先にやられた」という悔しい気持ちもあったんですけど、何よりも驚いたのが、この小説を電撃文庫さんが金賞に選んだことですよね(笑)。
真代屋 それは僕もいまだに驚いてます(笑)。電撃文庫さんの読者層に受け入れてもらえるのかなって不安もあって、最初の方は8小節3本勝負みたいなルールも入れて、ガチガチにMCバトルの要素を入れてたんです。
でもそうしてしまうと、MCバトルに馴染みのない人にとっては手に取りづらくなるんじゃないかと思ったんですよ。たとえば某有名テニスマンガって、テニスが題材ですけど、人が吹っ飛んだりとか完全にルール無視じゃないですか。
でもテニスマンガとしてとても面白い。だからこの小説では、ルールがどうこうというよりは、MCバトルの内容を少しまろやかにすることで、ラッパー同士の言葉の知略戦をまずは見て欲しいと思っています。
3人が語るMCバトルの魅力
──真代屋さんは、本作を執筆されるにあたって相当MCバトルやHIPHOPを研究されたと思います。真代屋さんが感じるMCバトルの魅力はなんでしょうか。真代屋 第1巻のあとがきでも少し触れてるんですが、やっぱり韻を踏んだフレーズだからこそ言える言葉があると思います。
それに即興で考えてラップしていて、そこから放たれる言葉は率直な本音でもあると思うんです。それを互いにぶつけ合うということ自体が魅力的ですし、多彩な言葉遊びやチョイスみたいな部分が楽しい。
あとはMCバトルは本音をぶつけ合うので、自分をさらけ出せる場でもあると思うんです。自分をさらけ出すからこそ変われる何かがあると感じていて、「変化」という部分もMCバトルの魅力だと思います。
バトルを終えた後に芽生える何かや変化がある。だからこの小説では、いじめられた過去があって、不良に怯え、嫌う音川くんがMCバトルで変わっていく姿を通して、まずはMCバトルというラップのバトルがあるということ、そして、MCバトルの楽しさや美しさをなるべく多くの人に伝えられたらいいと思っています。
MC正社員 僕は今でこそ大会を主催して、多くのラッパーと話してますけど、僕も主人公の音川くんと同じで最初はラッパーが怖かった。
よく道ばたでサイファーしてる場所を何度も何度も通ってたんですけど、怖いから近づけませんでした。でもずっとラップしてみたいと思ってたし、いざ勇気を出してその輪の中に入ったら、優しくて面白い奴が多かったんです。
この小説の中でも、いかにも不良っぽいキャラクターなんだけど、実は根は良い奴みたいな部分が描かれていて、音川くんに共感できる場面がありましたね。
──DOTAMAさんとMC正社員さんにもお聞きしたいんですけど、お二人もMCバトルに魅了されてバトルに参加されたり、大会を主催されてると思います。現場のMCと大会主催者の視点から見た、MCバトルの魅力はどこにあるのでしょうか。
DOTAMA ラップは本来、アメリカの貧しい地域から生まれた音楽です。ダンスミュージックであると同時に、戦いの音楽でもあります。MCバトルも基本は感情をむき出しにした口喧嘩なので、本当に喧嘩に発展する場合もあります。僕がバトルに出始めた2003年当時は、バトルが終わった後に、裏に連れて行かれることもありました(笑)。
でも今はインターネットが普及したり、HIPHOPにも色んな形ができていて、その文化で生活してる人たちだけが聞いて、参加する音楽じゃなくなってきている。だからMCバトルでも色んなタイプのMCが活躍しています。
駆け出しのラッパーは皆そうだと思いますが、僕が最初バトルに参加したのは、名前を売る事、自分をアピールする事が目的でした。でも、自分でも思っていた以上にMCバトルはエンターテインメントに溢れていて、僕はそこに魅了されて、かれこれ10年くらいMCバトルを続けています。
テレビで放送されてるK-1にも、エンターテインメント性で負けてないと思うし、出場してるMCは互いにテクニックを磨き合っていて、どうやったら面白い攻め方ができるかとか、面白い表現ができるのかとか、常に互いに高め合ってるんですね。
こんな知能的な戦いが見れるのはMCバトルの大きな魅力だと思うし、真代屋さんがおっしゃってるように、バトルを通じてお互いの事を理解しあえて、仲良くなれることもある。そういう部分も魅力だと思います。
MC正社員 MCバトルは同じ展開が絶対になくて、本音をさらけ出してるから何よりもその人の内側が見える。テクニックの競い合いの時もあるし、時には胸ぐらをつかみ合い、殴り合いの喧嘩になることもある。
でもそれは自分の生き様を表現していて、その人が背負ってる背景や人生とか、いろんなものが見えてくるんですよ。そして、その判定を決めるのはそこにいるお客さん。本当に全員参加型のマルチエンターテインメントだと思います。
しかもバトルが終わった後はDOTAMAさんが言ったように、仲間になったりすることもあるし、そこから音源に注目されたりと、MCバトルが個々の活動にもつながっていく。だからもっともっとMCが増えてもいいと思うし、一般の人にも必ず楽しんでもらえるコンテンツになると思います。
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真代屋秀晃
作家
大阪在住。『韻が織り成す召喚魔法 –バスタ・リリッカーズ-』にて第20回電撃小説大賞<金賞>を受賞。2014年2月、同作で電撃文庫よりデビュー。雑誌や書籍などでフリーランスのライターしても活動。いつも家賃の支払いに怯えながら極貧生活を送る。
韻が織り成す召喚魔法 -バスタ・リリッカーズ-特設サイト
DOTAMA
DOTAMA
ラッパー。栃木県出身。「ULTIMATE MC BATTLE」を筆頭に、MCバトルの大会へ多数出場。辛辣ながらユーモアのあるバトルを演出し、高いインパクトを残す。一方で音楽レーベル「術ノ穴」より過去4枚のアルバムを発表。2013年9月には、ラッパー・ハハノシキュウとのコラボアルバム『13月』をリリース。「りんご音楽祭」「ぐるぐる回るfes」など、各地の音楽フェスにも多数出演している。
DOTAMA(@dotamatica)
MC正社員
戦極MCBATTLE代表
MC正社員 a.k.a 吉田圭文。2007年より活動をスタート。戦極MC代表 数々のMC BATTLEを運営。正当派MC BATTLEとしては「戦極MC BATTLE」、 またDisでは無くONE LOVEの精神で女性を口説き合う世界初のMC BTTLE「女性口説きMC BATTLE」など “企画系MCバトル”というジャンルも発案、運営している。 ゲーム画面に取り込まれるMCBATTLE「STREET CYPHER 2」(大月壮プレゼンツ)の主催者も経験。手がけた企画の多くはTV番組、ファッション誌・Ustream等にて多くの注目を浴びている。2014年よりMR.QUIETaka将絢(exRomancrew),アスベスト(戦極MC)等マネージメントも担当。1980年生まれ新潟出身。
戦極MCBATTLE(@sengokumc)
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