MCバトルとライトノベルが生み出す爆発力
──タイトルの長いライトノベルなど、最近は少し変わった作品が増えていますが、その中でもMCバトルを題材にした『韻が織り成す召喚魔法』は、ファンのみならず、HIPHOP関係者の中でも波紋を呼んだと思います。まず最初に、そもそもなぜMCバトルを題材にしようと思ったんですか?真代屋 元々、高校生の頃からHIPHOPの楽曲はよく聞いていたんですが、MCバトルはあんまり見たことがありませんでした。それが数年前、あるステージで見た韻踏合組合さんのフリースタイルがきっかけでMCバトルの存在を知って、それでもたまに見る程度でした。
でもMCバトル自体はずっと頭の中にあって、ある日次回作の構想を練っている時に、自分の家の近くでカップルが口喧嘩をしてたんです。
その様子をしばらく眺めていたら、お互いにもの凄く罵っていて、彼氏の方が喧嘩中に例えを出してたんですよ。詳しくは覚えてないんですが、「俺が飛行機だったら、お前の背中を滑走路にして離陸してやる!」みたいな(笑)。
MC正社員 すごくMCバトル的ですね(笑)。
真代屋 その時にこれで飛行機が実際に具現化されたら面白いなって思ったのが理由の1つですね。
それからは勉強するつもりで、「ULTIMATE MC BATTLE」さんや「戦極MCBATTLE」さんのDVDを見るようになりました。
そこで、それまではMCバトルに対して少し怖いイメージを持っていたんですけど、バトルを終えたあとにMC同士が握手をしたり、ハグをすることがあるじゃないですか? DVDを見るようになってから、そういったMCバトルの美しさに気がついたんです。
だから、ライトノベルでMCバトルの絆のようなものを描けたら、少しは怖いイメージが薄れて、多くの人に受け入れてもらえるんじゃないかと思って、MCバトルを題材にさせていただきました。
作中ではMCバトルを題材にしてるだけじゃなくて、HIPHOPネタも多く取り入れていて、捉え方によっては「イジってる」と感じられてもおかしくない。
もちろん僕にそんなつもりは一切ないんですけど、多少なりとも不安もあって、最初に今回の座談会の話を聞いた時は、とうとう怒られる日がやってきたか、と思いましたね…。 DOTAMA 全然そんなことないですよ。作中にでてくるキャラクターは、MCバトルで戦ってる。戦ってるんだけど、会話をしていて、ちゃんとそこにいる人たちを楽しませてる。
僕たち現場で戦ってるMCも同じで、罵り合ってはいるものの、どう罵ったらお客さんが盛り上がるのかということを考えていて、バトルなんだけどエンターテインメントなんです。罵った上でお客さんを楽しませた方が勝つんですよ。
作中では、最後までそこが忠実なメッセージとして描かれていました。
それに加えて、登場するキャラクターのイラストがすごく可愛いかったり、ラブコメディーのようなギャグ要素も散りばめられていたり、あとは“いかにもラッパー”のようなイカつい不良ばかり出てくるわけではなくて、優等生の女の子と戦う部分があったりして、HIPHOP側に寄り過ぎてないというか、HIPHOPのフィールドとライトノベルのフィールドをつなげよう、という思いが伝わってきました。
──SNSなどでも絶賛の声が多かったですよね。 MC正社員 僕の周りでは、読む前は「なんでそんなに褒めてるの?」ってぼやいてるラッパーがいたんですが、自分のブログでこの作品を叩くために買って読んだら、叩くどころか「思いのほか楽しめてしまった」って言ってましたね(笑)。
真代屋 世間のラッパーに対する一般的なイメージとかけ離れたキャラクター同士がMCバトルをすることで、読者に親近感を持ってもらえるんじゃないかと思って、学園モノにしたということもあります。
でもそこまで言っていただいて非常に恐縮です。DOTAMAさんはいつも笑いながら相手をディスっていらっしゃるので、内心、今日も笑いながらディスられるんじゃないかとヒヤヒヤしてました(笑)。
【次のページ】ラップを文章で表現する難しさ
0件のコメント